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第二章 約束の場所

33秘密の場所

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 悶々とした思いを抱えたまま、メルティアはこれからどうするのかを考える。
 とはいっても、なんとなく答えは出ていた。

 ジークの中にメルティアはいない。

 それがすべてなのだから。


 いつものようにメルティアはザクザクと土を掘り返す。
 土を掘って種を植え、栄養が足りなそうなところには肥料を撒く。たっぷりのお水を注いで……と集中していると、ジークが思い出したようにふと顔を上げた。

「メルティア様。三日後、何か特別な用はありますか?」
「三日後? ないと思うよ。どうしたの?」
「いえ。できたらお休みをいただきたくて」

 メルティアは水をあげる格好のまま、目をまん丸に見開いた。
 止まっていたから予定より多めに水が降り注いでしまって、慌ててきゅっと水を止めた。

 水を止めながら、メルティアは動揺していた。
 ジークからは見えないように隠しながらも、顔には緊張が走る。

 だって、ジークが自ら休みたいと言ったのは、はじめてだったのだ。


 メルティアはぐっと言葉を飲んで、笑顔で振り返る。

「だ、大丈夫だよ。何かあるの?」
「少々用事が」
「わ、わかった。じゃあ三日後はお休みね」
「ありがとうございます」

 『用事』なんて言って誤魔化しているが、なんとなく、メルティアは察していた。

 ジークが休みたいというなんて、よっぽどの用事だ。
 ただの買い物とかではなく、相手がいる約束だ。
 となると、思い当たるのは、また考えていると聞いていた縁談くらいしかない。

 ジークはあの花屋の人が好きなはずなのに、別の人と結婚しようとしている。
 本当に、ジークはそれでいいのだろうか。

 メルティアだったら、やっぱり好きな人と結婚したいと思う。

「あ、あの……ジークは……」
「どうしました?」
「ううん、なんでもない」

 ジークは本当にそれでいいの? と聞いたとしても、いいと答えるに決まっている。
 だって、ジークは頑固だ。

 こうと決めたら梃子でも動かない。

 なんだかメルティアのほうがやきもきしてしまう。

 もっとできることがあるんじゃないの? とか。
 諦められるような想いなの? とか。

 だって、あんなにたくさんのお花を買っていたのに。
 外に出るたび、欠かさず寄るくらいには、大切な想いのはず。

 誰にも言えないジークの想いは、メルティアの部屋に飾られている。
 ひっそりと、こっそりと切なさを宿して、あなたが好きだと主張している。

「……」

 本当に、これでいいのだろうか?


 ジークは、ジークの幸せは、これで手に入るの?



 それから三日後、ジークは朝早くから出かけていった。
 身支度しながら聞き耳を立てていたから確実だ。
 朝早くから出かけて、いったい何時に帰ってくるのかはわからない。

 縁談が何をするところなのかもメルティアはよく知らない。
 本で読んだ知識だと、相手の趣味を聞いたりとか、結婚のための条件を確認したりするのだとか。


 ジークが出かけてしばらくしてから、メルティアはチーを護衛につけてガラスハウスに行く。
 ジークは心配性だけれど、外に行くわけでもないのだから本当は一人でもあまり問題はなかった。


 ガラスハウスに着いたメルティアは、さっそく中を簡単に見て回って、足りないものがないかを確認する。
 ついでに来ていた発注書も確認した。

「ティアナローズの蜜が足りないみたい。いつもよりずいぶん早いね」
「まぁ、あの影響だろうな」
「お花が咲かなかったこと?」
「動物の凶暴性も増してただろうから、それで怪我した奴らも多かったんだろ」
「そうなんだ。……でも、ティアナローズまだ咲いてないよ」

 メルティアはガラスハウスの一番奥に行く。
 ティアナローズを栽培しているエリアだ。
 そこにはまだ蕾のティアナローズがたくさん植えられている。

「お城の花壇のもまだだよね?」
「まだだな」
「待ってもらうしかないかなぁ」

 祈っても拝んでも、咲かないものは咲かない。
 それでもメルティアはじーっとティアナローズを見つめた。

 それを見ていたチーが、大きなため息をついて、やれやれと言いたげに口を開く。

「一応、咲いてるところ知ってるぜ」
「え?! そうなの?」
「まぁな。だけど、ジークがいないのに勝手に出かけていいのかい?」

 メルティアはわずかに瞳を揺らす。
 少し迷ったが、以前の冒険が自信になって小さくうなずいた。

「いいの。ジークにばかり頼ってたらダメだと思うから」
「メルがいいって言うならかまわないけどな」

 そう言って、チーはふよふよ飛びながらガラスハウスを出ていく。
 メルティアはそのあとに着いていった。

 チーは城の裏手側に回り、薔薇の生垣の上をすっと通っていく。メルティアが通れる隙間はない。

「チーくん、わたしそこ通れないよ」
「通れるさ」
「棘が刺さっちゃうよ」
「世話が焼けるなぁ、メル」

 やれやれと肩をすくめたチーがパチンと指を鳴らす。
 すると、薔薇が生きているかのように動き、メルティアが通れるだけの隙間を開けてくれたのだ。

「チーくんすごい!」
「ほら、早くしないと怪しまれるだろ」

 メルティアは慌てて薔薇の間を通る。メルティアが通るとすぐに元の形に戻った。

「ここ、道があったんだね」
「あの薔薇、年中咲いてるからな。気づかないのも無理ない。一応砦のような役割をしてるんだぜ」
「そうだったの?」

 確かにまったく枯れない薔薇だとは思っていた。
 けれどもそれが当たり前すぎて、疑問に思うことすらしなかった。

「こっち、でかい木でわかりにくいけど裏に道がある」
「本当だ。こんな場所あったんだ」
「意図的に隠してるからな」

 チーはそんなことを言ってふよふよと飛んでいく。
 メルティアははぐれないよう必死についていった。

 そしていくつもの植物の障害物を越え、最後に茂みをかき分けると、一面に咲くティアナローズが目に飛び込んできた。

「わぁ、すごい!」

 奥には光をキラキラと反射する美しい湖がある。
 透き通る水面と、一面に咲くピンクの花。
 あんまりにも可愛い光景にメルティアは心を躍らせた。

 そして、その湖の前にぽつんと石碑があるのに気づく。
 そこに続く道には、ティアナローズが生えていない。

「あの石碑、なんだろう?」
「ジークの墓さ」

「え?!」
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