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第四章「渇愛の奇魂」
第44話 真面目と鈍いは紙一重
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海斗たちがまたゴミ拾いに戻りしばらくすると、ゴミ袋がいっぱいになって来た。
「なあ、そろそろ袋がいっぱいなんだけど?」
「あ、ほんとだ。それじゃ一度公民館行こう」
「公民館?」
「うん、商店街のすぐ近く。そこに本部があるんだ」
スマートフォンを見てもまだ美波からの連絡はない。海斗ももう少し付き合うことにした。
ゴミ袋を担ぎ、御琴について公民館へ向かう。そこでは夏の空の下、同じようにボランティアに参加していた人々がテントの下でゴミ袋の交換や水分の補給をしていた。
「あれ、静宮先輩?」
「あら、伊薙君?」
そして、テントの中で大人たちに交じって深雪が働いているのに海斗は気づいた。
「先輩も参加していたんですか?」
「ええ、ちょっと事情があって。伊薙君はどうして?」
「商店街で御琴とばったり会って、少し時間があったので手伝っていました」
「そうだったのね。ありがとう、手伝ってくれて」
「先輩はどうしたんです? 住んでいるの違う街ですよね?」
「実はね……」
苦笑しながら深雪はその事情を語った。
「ああ……料理部の取材ですか」
「そうなの。芦達祭に合わせて、うちの学校の特集を出したいんですって」
「『いつもは習い事やボランティア活動に取り組んでいる生徒会長が~』って絵を撮りたかったみたいなんだけど、ちょうど先輩の時間が合う活動がここしかなかったんだって」
「昨日の芝居の時は?」
「昨日は記者の方が都合がつかなくて、取材できなかったそうなの。それで、無理を言ってこちらに参加させてもらったってわけ」
「大変ですね」
よく見れば商店街の人々の姿もある。気温も午後になって上がって来たので若い参加者が増えるのはあちらとしてもありがたかったのかもしれない。
「でもいいなー、あたしも取材されたい」
「ふふ、去年は八重垣さんがその立場だったものね」
「そうなんですよ……」
御琴も去年の夏の大会で一年生とは思えない見事な成績を残している。その為、今年はかなり期待されていたのだが、先日の記録会以降、あまり取材の話は来ていないと言う。
「ほら、この間の水泳部の記録会でまどかが凄いタイム出したじゃない。あれであっちが注目されちゃって」
先日、御琴にも教えられたが、高校の競泳女子で五十メートルを二十五秒台というのは大記録らしい。全国で戦えるどころか上位に食い込むタイムなのだと言う。
「ま、あの時はベストコンディションで挑めなかったあたしが悪いんだし。でも、次は負けないわ」
「その意気よ、八重垣さん」
「任せてください、深雪先輩! 実力で注目を奪い返してあげます!」
不敵な笑みを浮かべ、御琴が燃えていた。心身のコンディションが安定していれば御琴は決して負ける力ではない。むしろまどかを上回っているくらいだ。
「そう言えば先輩、その取材の人ってどこにいるんですか?」
「それが、今日はまだ来ていないのよ。もうそろそろ来るって話なんだけど……」
「すいませーん、ちょっとよろしいですか?」
そんな話をしている三人に、一人の男性が近づいて来た。カメラを持ったその人物は帽子を取り、軽く会釈した。
「私、芦原タイムズの佐田と言います」
「あら、いつもの日野さんじゃないんですね?」
「ああ、日野ならもうすぐ来ると思います。私は別件の取材のため、一足先にお邪魔させてもらいました」
「別件……ですか?」
「ええ、私の担当はスポーツでして。今回、高校女子競泳の特集記事を組むことになったんです。それで、うちの県の注目選手に取材をと」
「はいはーい。ここに水泳部のエースがいまーす!」
「おい、実力で奪い返すんじゃなかったのか」
前言はどこへ行ったのか。ここぞとばかりに猛アピールする御琴に海斗も深雪も苦笑いしてしまった。
「お、じゃあ君が三木まどかさんだね」
「……違います」
だが、無情にも佐田が口にした名前はまどかだった。
「くっ……まどかの取材だったのね」
「ん? ああ、八重垣御琴さんの方か! こりゃ失礼!」
「え?」
「もちろん君にも取材を申し込ませてもらうよ。芦原高校のダブルエースだからね」
「ふ、ふふふふ。そうよね、あたしが忘れられるわけないもんね! うんうん!」
「……ゲンキンだな」
「海斗、うるさいよ」
ジト目で睨んでくる御琴に、海斗はやれやれと肩をすくめた。
「えーっと、確かそっちは生徒会長の静宮深雪さん。で、君は?」
「御琴の幼馴染ですよ」
「じゃあ、君にも話を聞かせてもらおうかな」
「え、俺?」
「うん。君から見て八重垣さんはどんな子だい?」
「そうですね……俺にとって、大切な子です」
「ほぇっ!?」
思わぬ海斗の発言に、御琴は思わず間の抜けた声を出してしまった。
「大切な……ってことは、そういう?」
「え? 小さい子頃からいつも一緒で、俺ともう一人の幼馴染にとって居なくちゃいけない子って意味ですけど?」
「あ、ああ。そういう意味か……選手としてはどうかな?」
「あ、選手としてですか。そうですね……絶対に諦めない気持ちを持ってて、努力を積み重ねている姿を昔から見て来ました。そんな姿は素直にカッコいいって思ってます」
「な、なるほど……ありがとう。参考になったよ」
「はい、お役に立てたならよかったです」
あまりにまっすぐな言葉が返って来たので、佐田も少々驚きを見せていた。インタビューを終えた頃には、御琴が真っ赤になっていた。
「御琴、どうした?」
「……海斗のバカ」
「なんで」
「うーん。真面目なのは美徳なんだけど、もうちょっと言葉を選んだ方がいいかな、伊薙君は」
「そうですか?」
深雪は苦笑する。一年の時から彼を見ているが、彼の真面目さは人に好感を持たれる反面、時として融通が利かない。偏屈と言うわけではないのだが、いいと思ったことは貫こうとする。そのため、こういった時に言葉を飾れないのである意味不器用とも言えた。
「ほんと、生真面目って怖いわね」
「……わかってくれますか、先輩」
そんな、海斗に想いを寄せる存在ではない、一歩引いた彼女の眼から見てこれなのだ。美波や御琴は付き合いが長い分、もっと多くこのようなことに直面しているのだろう。その気苦労を察せずにはいられなかった。
「あら、三木さんも戻ってきたみたいね」
元気な子供たちの声が聞こえて来た。海斗がそちらへ顔を向けると、たくさんの子供たちに囲まれながらこちらへ向かってくるまどかの姿があった。
「今戻りました……あれ、伊薙先輩?」
「やあ三木。お疲れ様」
「お疲れ様です」
体育会系らしく、まどかは背筋を伸ばして頭を下げた。一緒に来た園の子たちは暑いと口にしながらジュースをもらいにテントの中へと向かっていく。
「三木たちもよく参加してるのか?」
「はい。うちの園も地域活動によく参加させてもらっているので。あの、そちらは?」
「芦原タイムズの佐田です。今度、県の競泳選手の特集を組むことになって、それで取材に」
佐田が名刺を出す。彼が記者だと言うことを知り、まどかは目に見えるほどに狼狽し始める。
「しゅ、取材ですか!?」
「はい。三木さんはこれから特に全国でも注目される選手だって編集部も期待してるよ」
「わ、私が……全国で」
「やったじゃない。まどかの念願に一歩近づいたんじゃない?」
「念願?」
「はい……私、注目されるような選手になって、園の子たちの親を捜してあげたいって思ってるんです」
「ほうほう、親を?」
「私の育った、三木きぼう園は経済的な事情で親と離れ離れになった子供が多いんです。そんな子たちが元気にしているってことを、私が注目されることでメディアを通じて知らせてあげたくて」
「なるほど……そうすれば、親御さんも迎えに来てくれるかもしれないってことか」
「はい。一人でも多く、また家族と一緒に暮らせたらって思って」
「そうかそうか。それは私も存分に世間に伝えて行かなくちゃね」
「よろしくお願いします!」
まどかが深々と頭を下げる。その姿を見ていた御琴が何かを思いつく。しかしその時、深雪は彼女がいたずらな笑みを浮かべていたのを見逃さなかった。
「ねえ海斗、せっかくならまどかのことをアピールしてあげたらどうかな?」
「俺が?」
「海斗だって、まどかの応援してあげたいでしょ?」
「お、そうだね。海斗君から見てまどかさんってどんな人かな?」
佐田もいたずら心が芽生えたのか、海斗に尋ねる。まどかはそんなこととは知らず、どんなことを言ってくれるのか少し期待しているようだった。
「そうですね……三木はいいお嫁さんになる子だと思います」
「ほひぇっ!?」
そして、やはり海斗の言葉がまどかを一撃でノックアウトする。
「あれだけたくさんの子供たちのお姉さんとしていつも頑張ってて、それに加えてみんなのために努力するなんて、俺にはできません……尊敬する後輩です」
「あ……あうう……」
まどかは顔から湯気が出るほどに真っ赤になっていた。御琴はそんな様子を見て笑いを必死に堪えていた。
「あははは、なるほど。二人とも海斗君にとっては大切な人だってことはよくわかったよ」
「ええ、俺もこの二人に何かあったら守ってあげたいって思ってます」
「んなっ!?」
「ほえっ!?」
しかし、いたずらの代償として流れ弾が飛んでくるとは彼女も想定していなかったらしい。海斗の発言にまどかと一緒にやられていた。
「ありがとう。とてもいい話が聞けたよ」
「いえ、お役に立てたならよかったです」
そこへもう一人、息を切らせた記者がやってきた。
「はあ……はあ……すいません先輩。道に迷ってて」
「おい、日野……遅いぞ」
「ご、ごめんなさい!」
「まったく。こっちはほとんど終わったぞ。早く会長さんのインタビュー取って来い」
「はい!」
日野と呼ばれた女性記者は深雪の所へさっそく向かっていく。遅刻したことを謝罪し、改めてインタビューを始める。
「ん?」
海斗がポケットから振動を感じた。スマートフォンを見ると、メッセージアプリを通じて美波から買い物が終わったと連絡が来ていた。
「美波の方も買い物終わったみたいだ。そろそろ行ってくる」
「はい、えっと……先輩、ありがとうございました」
「早く行け、このバカ!」
「御琴、何で怒ってるんだよ?」
「うっさい!」
御琴に追い立てられるようにして海斗は公民館を後にした。
デパートに向かって歩きながらふと、海斗は先ほどの記者のことを考える。日野と呼ばれた記者は新人だろうか。佐田に指摘を受けながらも頑張って深雪に取材をしている姿はどこかまどかに似ているような気がした。
「なあ、そろそろ袋がいっぱいなんだけど?」
「あ、ほんとだ。それじゃ一度公民館行こう」
「公民館?」
「うん、商店街のすぐ近く。そこに本部があるんだ」
スマートフォンを見てもまだ美波からの連絡はない。海斗ももう少し付き合うことにした。
ゴミ袋を担ぎ、御琴について公民館へ向かう。そこでは夏の空の下、同じようにボランティアに参加していた人々がテントの下でゴミ袋の交換や水分の補給をしていた。
「あれ、静宮先輩?」
「あら、伊薙君?」
そして、テントの中で大人たちに交じって深雪が働いているのに海斗は気づいた。
「先輩も参加していたんですか?」
「ええ、ちょっと事情があって。伊薙君はどうして?」
「商店街で御琴とばったり会って、少し時間があったので手伝っていました」
「そうだったのね。ありがとう、手伝ってくれて」
「先輩はどうしたんです? 住んでいるの違う街ですよね?」
「実はね……」
苦笑しながら深雪はその事情を語った。
「ああ……料理部の取材ですか」
「そうなの。芦達祭に合わせて、うちの学校の特集を出したいんですって」
「『いつもは習い事やボランティア活動に取り組んでいる生徒会長が~』って絵を撮りたかったみたいなんだけど、ちょうど先輩の時間が合う活動がここしかなかったんだって」
「昨日の芝居の時は?」
「昨日は記者の方が都合がつかなくて、取材できなかったそうなの。それで、無理を言ってこちらに参加させてもらったってわけ」
「大変ですね」
よく見れば商店街の人々の姿もある。気温も午後になって上がって来たので若い参加者が増えるのはあちらとしてもありがたかったのかもしれない。
「でもいいなー、あたしも取材されたい」
「ふふ、去年は八重垣さんがその立場だったものね」
「そうなんですよ……」
御琴も去年の夏の大会で一年生とは思えない見事な成績を残している。その為、今年はかなり期待されていたのだが、先日の記録会以降、あまり取材の話は来ていないと言う。
「ほら、この間の水泳部の記録会でまどかが凄いタイム出したじゃない。あれであっちが注目されちゃって」
先日、御琴にも教えられたが、高校の競泳女子で五十メートルを二十五秒台というのは大記録らしい。全国で戦えるどころか上位に食い込むタイムなのだと言う。
「ま、あの時はベストコンディションで挑めなかったあたしが悪いんだし。でも、次は負けないわ」
「その意気よ、八重垣さん」
「任せてください、深雪先輩! 実力で注目を奪い返してあげます!」
不敵な笑みを浮かべ、御琴が燃えていた。心身のコンディションが安定していれば御琴は決して負ける力ではない。むしろまどかを上回っているくらいだ。
「そう言えば先輩、その取材の人ってどこにいるんですか?」
「それが、今日はまだ来ていないのよ。もうそろそろ来るって話なんだけど……」
「すいませーん、ちょっとよろしいですか?」
そんな話をしている三人に、一人の男性が近づいて来た。カメラを持ったその人物は帽子を取り、軽く会釈した。
「私、芦原タイムズの佐田と言います」
「あら、いつもの日野さんじゃないんですね?」
「ああ、日野ならもうすぐ来ると思います。私は別件の取材のため、一足先にお邪魔させてもらいました」
「別件……ですか?」
「ええ、私の担当はスポーツでして。今回、高校女子競泳の特集記事を組むことになったんです。それで、うちの県の注目選手に取材をと」
「はいはーい。ここに水泳部のエースがいまーす!」
「おい、実力で奪い返すんじゃなかったのか」
前言はどこへ行ったのか。ここぞとばかりに猛アピールする御琴に海斗も深雪も苦笑いしてしまった。
「お、じゃあ君が三木まどかさんだね」
「……違います」
だが、無情にも佐田が口にした名前はまどかだった。
「くっ……まどかの取材だったのね」
「ん? ああ、八重垣御琴さんの方か! こりゃ失礼!」
「え?」
「もちろん君にも取材を申し込ませてもらうよ。芦原高校のダブルエースだからね」
「ふ、ふふふふ。そうよね、あたしが忘れられるわけないもんね! うんうん!」
「……ゲンキンだな」
「海斗、うるさいよ」
ジト目で睨んでくる御琴に、海斗はやれやれと肩をすくめた。
「えーっと、確かそっちは生徒会長の静宮深雪さん。で、君は?」
「御琴の幼馴染ですよ」
「じゃあ、君にも話を聞かせてもらおうかな」
「え、俺?」
「うん。君から見て八重垣さんはどんな子だい?」
「そうですね……俺にとって、大切な子です」
「ほぇっ!?」
思わぬ海斗の発言に、御琴は思わず間の抜けた声を出してしまった。
「大切な……ってことは、そういう?」
「え? 小さい子頃からいつも一緒で、俺ともう一人の幼馴染にとって居なくちゃいけない子って意味ですけど?」
「あ、ああ。そういう意味か……選手としてはどうかな?」
「あ、選手としてですか。そうですね……絶対に諦めない気持ちを持ってて、努力を積み重ねている姿を昔から見て来ました。そんな姿は素直にカッコいいって思ってます」
「な、なるほど……ありがとう。参考になったよ」
「はい、お役に立てたならよかったです」
あまりにまっすぐな言葉が返って来たので、佐田も少々驚きを見せていた。インタビューを終えた頃には、御琴が真っ赤になっていた。
「御琴、どうした?」
「……海斗のバカ」
「なんで」
「うーん。真面目なのは美徳なんだけど、もうちょっと言葉を選んだ方がいいかな、伊薙君は」
「そうですか?」
深雪は苦笑する。一年の時から彼を見ているが、彼の真面目さは人に好感を持たれる反面、時として融通が利かない。偏屈と言うわけではないのだが、いいと思ったことは貫こうとする。そのため、こういった時に言葉を飾れないのである意味不器用とも言えた。
「ほんと、生真面目って怖いわね」
「……わかってくれますか、先輩」
そんな、海斗に想いを寄せる存在ではない、一歩引いた彼女の眼から見てこれなのだ。美波や御琴は付き合いが長い分、もっと多くこのようなことに直面しているのだろう。その気苦労を察せずにはいられなかった。
「あら、三木さんも戻ってきたみたいね」
元気な子供たちの声が聞こえて来た。海斗がそちらへ顔を向けると、たくさんの子供たちに囲まれながらこちらへ向かってくるまどかの姿があった。
「今戻りました……あれ、伊薙先輩?」
「やあ三木。お疲れ様」
「お疲れ様です」
体育会系らしく、まどかは背筋を伸ばして頭を下げた。一緒に来た園の子たちは暑いと口にしながらジュースをもらいにテントの中へと向かっていく。
「三木たちもよく参加してるのか?」
「はい。うちの園も地域活動によく参加させてもらっているので。あの、そちらは?」
「芦原タイムズの佐田です。今度、県の競泳選手の特集を組むことになって、それで取材に」
佐田が名刺を出す。彼が記者だと言うことを知り、まどかは目に見えるほどに狼狽し始める。
「しゅ、取材ですか!?」
「はい。三木さんはこれから特に全国でも注目される選手だって編集部も期待してるよ」
「わ、私が……全国で」
「やったじゃない。まどかの念願に一歩近づいたんじゃない?」
「念願?」
「はい……私、注目されるような選手になって、園の子たちの親を捜してあげたいって思ってるんです」
「ほうほう、親を?」
「私の育った、三木きぼう園は経済的な事情で親と離れ離れになった子供が多いんです。そんな子たちが元気にしているってことを、私が注目されることでメディアを通じて知らせてあげたくて」
「なるほど……そうすれば、親御さんも迎えに来てくれるかもしれないってことか」
「はい。一人でも多く、また家族と一緒に暮らせたらって思って」
「そうかそうか。それは私も存分に世間に伝えて行かなくちゃね」
「よろしくお願いします!」
まどかが深々と頭を下げる。その姿を見ていた御琴が何かを思いつく。しかしその時、深雪は彼女がいたずらな笑みを浮かべていたのを見逃さなかった。
「ねえ海斗、せっかくならまどかのことをアピールしてあげたらどうかな?」
「俺が?」
「海斗だって、まどかの応援してあげたいでしょ?」
「お、そうだね。海斗君から見てまどかさんってどんな人かな?」
佐田もいたずら心が芽生えたのか、海斗に尋ねる。まどかはそんなこととは知らず、どんなことを言ってくれるのか少し期待しているようだった。
「そうですね……三木はいいお嫁さんになる子だと思います」
「ほひぇっ!?」
そして、やはり海斗の言葉がまどかを一撃でノックアウトする。
「あれだけたくさんの子供たちのお姉さんとしていつも頑張ってて、それに加えてみんなのために努力するなんて、俺にはできません……尊敬する後輩です」
「あ……あうう……」
まどかは顔から湯気が出るほどに真っ赤になっていた。御琴はそんな様子を見て笑いを必死に堪えていた。
「あははは、なるほど。二人とも海斗君にとっては大切な人だってことはよくわかったよ」
「ええ、俺もこの二人に何かあったら守ってあげたいって思ってます」
「んなっ!?」
「ほえっ!?」
しかし、いたずらの代償として流れ弾が飛んでくるとは彼女も想定していなかったらしい。海斗の発言にまどかと一緒にやられていた。
「ありがとう。とてもいい話が聞けたよ」
「いえ、お役に立てたならよかったです」
そこへもう一人、息を切らせた記者がやってきた。
「はあ……はあ……すいません先輩。道に迷ってて」
「おい、日野……遅いぞ」
「ご、ごめんなさい!」
「まったく。こっちはほとんど終わったぞ。早く会長さんのインタビュー取って来い」
「はい!」
日野と呼ばれた女性記者は深雪の所へさっそく向かっていく。遅刻したことを謝罪し、改めてインタビューを始める。
「ん?」
海斗がポケットから振動を感じた。スマートフォンを見ると、メッセージアプリを通じて美波から買い物が終わったと連絡が来ていた。
「美波の方も買い物終わったみたいだ。そろそろ行ってくる」
「はい、えっと……先輩、ありがとうございました」
「早く行け、このバカ!」
「御琴、何で怒ってるんだよ?」
「うっさい!」
御琴に追い立てられるようにして海斗は公民館を後にした。
デパートに向かって歩きながらふと、海斗は先ほどの記者のことを考える。日野と呼ばれた記者は新人だろうか。佐田に指摘を受けながらも頑張って深雪に取材をしている姿はどこかまどかに似ているような気がした。
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