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9話 換金
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坪井がいる村から10km程離れた所にある要塞にて。早馬が要塞内を駆け抜ける。この要塞は先の戦争で建造されたものの結局使われず放棄された経緯がある。それに目をつけた盗賊団がここを根城にして近隣の村々を襲うようになったのは最近のことであった。元からこの地方は辺境で中央の目が届きにくいこともあって、盗賊格好の隠れ家となっている。
外敵の侵入を防ぐために迷路のように入り組んだ要塞内を急ぎ足で駆け抜けると部屋の前に立った。本来この部屋は有事の際に軍団長などが滞在するために作られた部屋である。
「バッツ様よろしいでしょうか?」
「入れ」
「どうした?」
バッツと呼ばれた男は慌てたその男にただならぬ気配を感じていた。
「報告します。ケイン様一同が一人の魔術師によって壊滅しました」
「30人全員もいてか」
「その男は何者なんだ?」
「それはわかりかねますがかなりの手練れだと」
「わかった。もういい下がれ」
「はっ、失礼します」
バッツは驚いた。まさか自分の腹心を含む30人も送って誰一人として帰ってこないとはと。バッツは直参の配下だけで300人を超す大盗の頭だった。息のかかった他の盗賊団にも声をかければ、1000人規模を動員でき最早軍隊と呼んでもいいような規模であった。それだけに今回の件は想定外だった。部下の約10%を消失したのも痛かった。組織力とは数であるとバッツは痛い程知っていたのだ。それに返り討ちにあったとなれば支配している村にも示しがつかずに離反される可能性もある。
「誰かおらぬか?」
「はっここに」
「ミサを呼べ」
「かしこまりました」
しばらくして扉をノックする音が部屋に響く。
「お呼びでしょうか?」
「入れ」
「失礼します」
ミサと呼ばれた女は盗賊団に所属しているにも関わらず、どこにでもいるような普通な顔だちをしていた。
「ケインがやられたのは知っているか」
「それはもうすでにみなの間で噂になっております」
「それなら話は早い。あの村を放置することはできん」
「では、今から襲撃を?」
「いや、そうじゃない。我々が本気を出せばあんな村など容易く壊滅出来るだろうがそれでは魔術師とやらに示しにならない」
「と言いますと?」
「お前に村に潜入して貰いたい。出来るか?」
「バッツ様の命であれば喜んで」
「村に潜入したら魔術師の動向を探れ。もし村を離れるようであれば瞬時に知らせろ」
「わかりました」
ミサはいかにも悪そうな笑みを浮かべて部屋から出ていった。
坪井が村に来て最初の朝を迎えた。坪井は床の上で毛布をかけて寝ていた。
「起きて下さい。朝食の時間です」
「もうそんな時間か」
坪井はゆっくり起き上がると毛布を畳むとテーブルに並んだ朝食を見る。
「ハリソンさんは?」
「もう仕事に出かけました。ツボイさんは今日どうするつもりですか?」
「朝食を食べながら考えるよ」
坪井は椅子に腰かけると食卓に並んだパンを頬張る。硬くて不味いパンでもないよりはマシだと言い聞かせて今日の予定を考える。
「ちょっとエミリー今日暇?」
「私なら午後からなら大丈夫ですが」
「ちょっと村を案内して欲しいんだけど」
「それなら構いませんよ。ツボイさんはなんだって村の英雄ですから」
「村の英雄だなんて大げさな」
朝食の片付けが済むとエミリーは仕事をしに外にでかけてしまった。坪井は昨日ドロップした武器一式があることを思い出して広場に向かう。
広場にはまだ血の跡が残っていた。
(本当に俺の手で悪人を成敗したんだな)
死体を焼却処分にした場所に行くと風に飛ばされたのか灰も僅かにしか残っていなかった。
(防具をそのままにしておくと錆びたりするから運ぶか)
武器と防具を持って広場とエミリーの家を往復するだけで昼になった。朝の残りを平らげるとエミリーに声をかける。
「ちょっと教えて欲しいんだけど」
「はい、なんでしょうか?」
「防具とかを売りたいから手伝って欲しいんだけどいいかな?」
「大丈夫ですよ」
「この村に店とかある?」
「一軒だけあります」
「じゃあ今から行こうか」
坪井とエミリーは防具一式を荷車に乗せると村唯一の店に向けて歩きだした。
「ツボイさん重くないんですの?」
荷車の荷台一杯に積まれた荷物を軽々と引く坪井に対してエミリーが驚く。
「全然重くないよ」
「ツボイさん本当に力が凄いんですね」
「それだけが取り柄だから」
エミリーと談笑しているうちに店についた。坪井は店に入ると店の棚に並んだ見慣れない物品に興奮を隠せない。店の物を物色していると店員が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。本日はどのような用件でしょうか?」
「店の外にあるのを査定して貰いたいんですが出来るでしょうか?」
「はい、喜んで」
店員は店の外にある防具や武器を手に取り品定めすると紙に書いて査定を始める。
「査定が終わりましたらお声をおかけしますのでしばらくお時間頂けないでしょうか?」
「大丈夫ですよ」
坪井は暇つぶしも兼ねてあらためて店の商品を物色する。見慣れない草を手に取るとエミリーが口を開く。
「これは毒消し草ですね。食べると毒が消えるんです」
「じゃあこれは?」
坪井は目の前の変わった形のキノコを手に取ってエミリーに見せる。
「ツボイさん不潔です」
「なんでだよ」
「これはその男性機能を回復させる効能を持ったキノコで……」
効能はなんとなく察したが口ごもるエミリーの顔がかわいいのでつい意地悪になってしまう。
「男性機能とは?」
「もう、ツボイさんわかってて言わないでくださいよ」
「ごめん、ごめん」
「お取り込み中失礼ですがお客様査定が終わりました」
坪井は店員に呼ばれて振り返ると査定内訳を見せて貰った。
防具一式×30 銀貨10枚×30 銀貨300枚
剣×30 銀貨5枚×30 銀貨150枚
槍×10 銀貨5枚×10 銀貨50枚
斧×1 金貨5枚
合計金貨10枚
この世界に来てからまだ日の浅い坪井にはこの内訳が果たして正しいのか分からなかった。
坪井が困惑しているとエミリーが助け舟を出す。
「剣とか防具って今こんな安いのですか?」
「戦争が終わって今はどこもこんな物ですよ。しかもお客様を持ちこまれた武器はどれも量産品で手入れもあまりされておらずボロボロこの値段でも高いくらいです」
「なあエミリー金貨10枚ってどれくらい価値があるんだ?」
「ええと、お父さんの木こりの日当が大体銀貨10枚くらいで外食一回で銀貨1枚と銅貨5枚くらいがです」
(つまり金貨一枚十万円くらいの価値か。30人分売って100万円くらいしかないあいつらしけてるのかよくわからないがまあいいか)
「店員さんこの値段で買い取って下さい」
「かしこまりました」
坪井とエミリーは店を出ると辺りはすっかり夕方になっていた。
「今日の夕飯はこのお金で奮発しよう」
「お父さんも喜びますね」
坪井とエミリーが荷車を押しながら広場までくると人だかりが出来ているのに気がついた。
外敵の侵入を防ぐために迷路のように入り組んだ要塞内を急ぎ足で駆け抜けると部屋の前に立った。本来この部屋は有事の際に軍団長などが滞在するために作られた部屋である。
「バッツ様よろしいでしょうか?」
「入れ」
「どうした?」
バッツと呼ばれた男は慌てたその男にただならぬ気配を感じていた。
「報告します。ケイン様一同が一人の魔術師によって壊滅しました」
「30人全員もいてか」
「その男は何者なんだ?」
「それはわかりかねますがかなりの手練れだと」
「わかった。もういい下がれ」
「はっ、失礼します」
バッツは驚いた。まさか自分の腹心を含む30人も送って誰一人として帰ってこないとはと。バッツは直参の配下だけで300人を超す大盗の頭だった。息のかかった他の盗賊団にも声をかければ、1000人規模を動員でき最早軍隊と呼んでもいいような規模であった。それだけに今回の件は想定外だった。部下の約10%を消失したのも痛かった。組織力とは数であるとバッツは痛い程知っていたのだ。それに返り討ちにあったとなれば支配している村にも示しがつかずに離反される可能性もある。
「誰かおらぬか?」
「はっここに」
「ミサを呼べ」
「かしこまりました」
しばらくして扉をノックする音が部屋に響く。
「お呼びでしょうか?」
「入れ」
「失礼します」
ミサと呼ばれた女は盗賊団に所属しているにも関わらず、どこにでもいるような普通な顔だちをしていた。
「ケインがやられたのは知っているか」
「それはもうすでにみなの間で噂になっております」
「それなら話は早い。あの村を放置することはできん」
「では、今から襲撃を?」
「いや、そうじゃない。我々が本気を出せばあんな村など容易く壊滅出来るだろうがそれでは魔術師とやらに示しにならない」
「と言いますと?」
「お前に村に潜入して貰いたい。出来るか?」
「バッツ様の命であれば喜んで」
「村に潜入したら魔術師の動向を探れ。もし村を離れるようであれば瞬時に知らせろ」
「わかりました」
ミサはいかにも悪そうな笑みを浮かべて部屋から出ていった。
坪井が村に来て最初の朝を迎えた。坪井は床の上で毛布をかけて寝ていた。
「起きて下さい。朝食の時間です」
「もうそんな時間か」
坪井はゆっくり起き上がると毛布を畳むとテーブルに並んだ朝食を見る。
「ハリソンさんは?」
「もう仕事に出かけました。ツボイさんは今日どうするつもりですか?」
「朝食を食べながら考えるよ」
坪井は椅子に腰かけると食卓に並んだパンを頬張る。硬くて不味いパンでもないよりはマシだと言い聞かせて今日の予定を考える。
「ちょっとエミリー今日暇?」
「私なら午後からなら大丈夫ですが」
「ちょっと村を案内して欲しいんだけど」
「それなら構いませんよ。ツボイさんはなんだって村の英雄ですから」
「村の英雄だなんて大げさな」
朝食の片付けが済むとエミリーは仕事をしに外にでかけてしまった。坪井は昨日ドロップした武器一式があることを思い出して広場に向かう。
広場にはまだ血の跡が残っていた。
(本当に俺の手で悪人を成敗したんだな)
死体を焼却処分にした場所に行くと風に飛ばされたのか灰も僅かにしか残っていなかった。
(防具をそのままにしておくと錆びたりするから運ぶか)
武器と防具を持って広場とエミリーの家を往復するだけで昼になった。朝の残りを平らげるとエミリーに声をかける。
「ちょっと教えて欲しいんだけど」
「はい、なんでしょうか?」
「防具とかを売りたいから手伝って欲しいんだけどいいかな?」
「大丈夫ですよ」
「この村に店とかある?」
「一軒だけあります」
「じゃあ今から行こうか」
坪井とエミリーは防具一式を荷車に乗せると村唯一の店に向けて歩きだした。
「ツボイさん重くないんですの?」
荷車の荷台一杯に積まれた荷物を軽々と引く坪井に対してエミリーが驚く。
「全然重くないよ」
「ツボイさん本当に力が凄いんですね」
「それだけが取り柄だから」
エミリーと談笑しているうちに店についた。坪井は店に入ると店の棚に並んだ見慣れない物品に興奮を隠せない。店の物を物色していると店員が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。本日はどのような用件でしょうか?」
「店の外にあるのを査定して貰いたいんですが出来るでしょうか?」
「はい、喜んで」
店員は店の外にある防具や武器を手に取り品定めすると紙に書いて査定を始める。
「査定が終わりましたらお声をおかけしますのでしばらくお時間頂けないでしょうか?」
「大丈夫ですよ」
坪井は暇つぶしも兼ねてあらためて店の商品を物色する。見慣れない草を手に取るとエミリーが口を開く。
「これは毒消し草ですね。食べると毒が消えるんです」
「じゃあこれは?」
坪井は目の前の変わった形のキノコを手に取ってエミリーに見せる。
「ツボイさん不潔です」
「なんでだよ」
「これはその男性機能を回復させる効能を持ったキノコで……」
効能はなんとなく察したが口ごもるエミリーの顔がかわいいのでつい意地悪になってしまう。
「男性機能とは?」
「もう、ツボイさんわかってて言わないでくださいよ」
「ごめん、ごめん」
「お取り込み中失礼ですがお客様査定が終わりました」
坪井は店員に呼ばれて振り返ると査定内訳を見せて貰った。
防具一式×30 銀貨10枚×30 銀貨300枚
剣×30 銀貨5枚×30 銀貨150枚
槍×10 銀貨5枚×10 銀貨50枚
斧×1 金貨5枚
合計金貨10枚
この世界に来てからまだ日の浅い坪井にはこの内訳が果たして正しいのか分からなかった。
坪井が困惑しているとエミリーが助け舟を出す。
「剣とか防具って今こんな安いのですか?」
「戦争が終わって今はどこもこんな物ですよ。しかもお客様を持ちこまれた武器はどれも量産品で手入れもあまりされておらずボロボロこの値段でも高いくらいです」
「なあエミリー金貨10枚ってどれくらい価値があるんだ?」
「ええと、お父さんの木こりの日当が大体銀貨10枚くらいで外食一回で銀貨1枚と銅貨5枚くらいがです」
(つまり金貨一枚十万円くらいの価値か。30人分売って100万円くらいしかないあいつらしけてるのかよくわからないがまあいいか)
「店員さんこの値段で買い取って下さい」
「かしこまりました」
坪井とエミリーは店を出ると辺りはすっかり夕方になっていた。
「今日の夕飯はこのお金で奮発しよう」
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