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8話 制裁

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「へへへっ」

 坪井の後ろに立った男は気持ち悪い笑みを浮かべる。

 「肝臓を刺されたら声が出ねえくらい痛えだろ」

 謝る振りをして隠し持ったナイフで、坪井を後ろから刺したのだ。ナイフを持つ手に力を込めてグリグリと捻ると感触に違和感を感じる。手元を見るとナイフが服の上からまるで貫入していないのに気がついた。男はナイフを目の元に持ってきて切っ先を見るとナイフの先端が欠けているのを確認する。

 「どうなってんだよ」
 「お前こそどういうつもりだ」

 男はパニックになって振り向いた坪井の胸をナイフで滅多刺しにするが、硬い感触に跳ね返されてまるで刃が通らない。

 「こんなことが……」

 坪井が動揺する男から難なくナイフを奪うと、板チョコを割るかのように真っ二つにへし折った。

 「服を脱げ」

 坪井は鬼の形相で男に詰め寄る。

 「はいっわかりました」

 男は必死な表情で急いで防具と服を脱いでいった。男が甲冑を脱ぐのに手間取っていると。

 「早く脱げよ」

 坪井は男の鼻にパンチをお見舞いした。鼻の骨が粉砕骨折したのか両方の鼻から鼻血が止めなく滴り落ちる。

 「ず、ずみません……」

 男は鼻を押えながらあせあせと脱いでいく。
 男は脱ぎ始めから3分くらいしてようやく脱ぎ終わり全裸になった。

 「取りあえず土下座しろ」
 「へ、へい」

 男は地面頭をつけて土下座する。

 「頭が高い」

 坪井は土下座した男の頭を踏みつけた。

 「さっきのはどういうつもりだ」
 「どういうとは……」
 「お前の言葉を信じて許してやったのに、背後から刺したことについてだよ」
 「それは、その……、つい出来心というか」

 坪井は踏んでいる足に力を込める。

 「痛い、痛い、あっ頭が潰れる」
 「悪人を信用した俺が馬鹿だった。人間口だけなら何とでも言えるしさ。言葉だけで真意なんかわかるはずもない」

 男から坪井は足を離す。男は安堵したのかほっとした顔をして坪井を見上げる。

 「だから俺がお前に特別お仕置きをしてやるよ」

 男は青ざめた顔をして坪井に再度懇願した。

 「本当にもう二度としませんからお命ばかりはお許し下さい。こう見えて私には家族がいるんです。今はわけあって遠く離れた場所に住んでいるんですがね、私の帰りを心待ちにしている娘が」

 男は首から下げていたペンダントを手に取ると坪井に見せる。坪井はそれを取り上げると、男が娘と嫁らしき女と一緒に写っている絵を確認した。

 「こんなもの今から死ぬ人間には必要ないな」

 坪井はペンダントを炎で包んだ。真っ赤にどろどろに溶けたペンダントだったものが男の目の前に転がる。

 「さあ始めようか」

 坪井は男の体にそっと優しく手を触れた。背中をゆっくりさする。

 「何をしてるんですか?」
 「いいから、いいから」

 困惑する男が突然火に包まれる。

 「ぎゃあああ、熱い」

 男は熱さで地面の上を転がり回る。火を消そうと一生懸命転がるが火は一向に消えない。

 「火が火が」

 狂乱状態の男の火が一瞬で消えた。ぶすぶすとまだ音を立てながらも男はまだ生きていた。いや生かされていた。全身の皮膚は醜く焼けただれた惨たらしい姿に変貌を遂げる。

 「痛い……」
 「助かりたいか?もう一回土下座して謝れば火傷も直して見逃してやる」
 「本当ですか?」
 「嘘はつかない」

 痛みに耐えながらゆっくりと男は土下座する。真っ赤な体が痛々しい。男はおでこを地面に擦りつけてもう一度あの台詞を言った。

 「大変申し訳ありませんでした」
 「わかった」
 「これで許してくれるんですよね?」

 男は希望にすがる目をしながら坪井の目を見る。

 「考えが変わったやっぱり殺す」
 「そ、そんな」
 「俺はお前と同じことをするわけだが」

 希望の光があった目が失望の色へと変わる。男は身体を震わせて逃げようとするが全身火傷の重傷を負っているため体に力が入らない。
 坪井は男がもう一度男の背中に触ると火達磨になった。

 「うわあああああ」

 男は手を大きく振り回しながら走りだした。20mも走らないうちに転んでぴくりとも動かなくなる。どうやら息が絶えたようだ。
 男達が全員退治されたのを見た村人達は一斉に家から出て坪井を取り囲んだ。

 「どこの誰だか知らないがよくやった」
 「あいつらのせいで商売上がったりだったんだ。退治してくれてありがとう」

  村人達は坪井を感謝と称賛で迎えたのであった。坪井は突然のことに驚くが、良い事をしたみたいに嬉しくなった。

  (人から感謝されるのはいつ以来だろう。前の世界だと猟奇殺人鬼だったがこの世界では違う。悪人を退治すれば感謝されるんだ)

  「怪我はない?」

  エミリーが人の輪を割って声をかけた。
 
  「この通り無事さ」
  「そう、それは良かった」

  坪井はケンと呼ばれた村人に近づく。

 「大丈夫ですか?」
 「脅されたとはいえ俺のせいですまない」
 「こっちは全然気にしてないですよ」
 「そう言って貰えると助かるよ」

 一通り村人と会話した後、坪井は村人達と一緒に死体の片付けを始めた。男達から防具と武器を外して広場に積み上げる。中には銀貨を持っている者もいたが有難く頂戴する。

 「それにしても凄いな。どれだけの力があればこんな風に握り潰せるんだ」
 「それだけツボイさんが凄いのさ」

 和気あいあいと死体を広場の真ん中に積んでいく。

 「ツボイさん死体をこんなに積んでどうするんだ?焼くのか?」
 「ああそのつもりだ。みんな離れてて」

 坪井は死体の山に近づくと手をかざす。

 (あの剣はより強いイメージをしろと言った。つまりイメージする炎がより鮮明で強い炎を思い描ければ強大な火が出せるはず)

 坪井は目を閉じて一旦意識を集中する。目を開くと死体の山が巨大な青い炎の中に消えた。物凄い熱気で遠くにいても肌がちりちりする。

 「なんて凄い火なんだ」
 「綺麗」

 村人達は火の姿に魅入ったように動かない。
 男達の死体は火で炙られ一瞬で灰燼と化した。残るは僅かばかりの灰だけである。
 坪井は火を消すと死体があった場所に近づくと結果に満足して満面の笑みを浮かべた。
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