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鎮守森の妖
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鎮守森は町からバスで30分ぐらい行ったところにある山の麓の森のことです。
鎮守森の奥には小さな神社があるのだが、最近では訪れる人もなくさびれてしまっていました。
瑠偉は夢幻堂の扉を開けると鎮守森の祠の前まで来ました。
なるほど、たしかに妖気が感じられますし、もしもこの妖気をたった1匹の妖怪が纏っているのだとしたら、かなりの大物かもしれません。
「ノエル。これは少しまずいかもしれないね。一度戻って父さんの力を借りることにするよ」
瑠偉は有朋から必ず勝てると確信が持てるとき以外は、妖を祓ってはいけないと散々注意されていますし、相手の力を正確にはかる訓練を受けています。
その瑠偉の判断だと、ノエルとは純粋に力だけなら互角。
ノエルが実戦経験が少ないことを考えれば、瑠偉と2人でも危険かもしれません。
それを聞いたノエルの目はすぅっと細くなり、口元が吊り上がって小さな牙があらわになっています。
ふわりと白い霊気をまとったかと思うと、たちまち大きな白狐の姿に変化しました。
「なにを言っているの。私はお腹が空いているんだよ。この妖気なら半分でもお腹がいっぱいになりそうじゃないか」
瑠偉が止めるまもなくノエルはまっしぐらに祠の中に飛び込んでいきます。
ところが黒い煙のようなものが一瞬にして巨大な鬼の姿をとると、無防備なノエルをぶちのめしてしまいました。
「キャィン」という悲鳴をあげてノエルが吹っ飛び、瞬く間に子ぎつねの姿に戻ってしまいます。
今までノエルは格下の妖としか戦ったことがありません。
瑠偉が危惧した通りノエルにはあまりのも経験値が不足していたのです。
「ノエル!」
瑠偉があわてて駆け寄ると、子ぎつねはぐったりと意識を失っています。
「祓い屋か? わしを祓おうなどとは片腹いたいわ。喰らいつくしてやろう」
妖の攻撃を素早くかわすと、瑠偉はノエルを抱きかかえて夢幻堂の扉を開いてその中に転がり込みました。
「父さん。ノエルがやられた!」
瑠偉の叫びに普段のほほんとしているいる有朋が、トワイライトを呼び出すなり夢幻堂の扉を開いて飛び出していきました。
瑠偉はノエルをそっと横たえて、霊力をゆっくりとノエルの身体に流していきます。
小さな狐の身体は霊力を受けて白く輝きだしました。
子ぎつねは妖の一撃でごっそりと霊力を削り取られていたのです。
あわてるな。
ゆっくりだ。
瑠偉は自分にいいきかせながら、すこしづつノエルを癒していきます。
徐々に霊力はノエルの身体になじんでいき、やがてノエルを覆っていた白い光は消えてしまいました。
ノエルはパチリと目をさますと、飛び起きてすぐさま戦闘態勢を取りました。
低い姿勢で唸っているノエルを安心させるように瑠偉は言いました。
「大丈夫だよ。ここは夢幻堂の結界の中だから安全だよ! あの鬼の妖なら、父さんとトワイライトが相手をしている。落ち着いてゆっくりと休むんだ」
「瑠偉、扉を鎮守の森の祠に繋げて私を連れて行って! このままやられっぱなしはゴメンだよ」
瑠偉は目をランランと光らせて戦闘意欲をたぎらせているノエルを抱えあげると、静かに扉を開きました。
目の前では夢幻堂の主が、地面に陣を描いているところでした。
有朋が地面に描く陣は正確無比で、美しくすら感じてしまう程のものです。
これを有朋は妖の攻撃をひらひらとかわしながら、禹歩といわれる独特の歩き方で地面に描いていきます。
トワイライトが有朋をかばうように妖鬼に攻撃を仕掛けていますが、黒い霧に阻まれてうまく攻撃が届いていません。
瑠偉とノエルの姿を認めた有朋は、にやりと笑うと瑠偉にその陣が良く見えるように緩やかに霊力を陣に流し込みました。
普段なら一瞬で陣を完成させてしまいますから、これはただ瑠偉に教えるためだけの動きです。
陣が霊力をたっぷりとためこんで白い輝きを放ち始めると、夢幻堂の主はたった一言命令を発っしました。
「縛」
そのとたん妖鬼は有朋の陣から飛び出した幾重もの白い霊力でがんじがらめに縛られて、まったく身動きが出来なくなってしまいました。
とどめを刺そうとしていたトワイライトが、ノエルに声をかけます。
「ノエル。約束だ。かっきり半分だけお食べ」
ノエルは瑠偉の腕から喜々として飛び出すと叫びました。
「ごはん!」
妖鬼の喉笛にその小さな牙を突き立てると、至福のような表情でノエルはたっぷりと食事を楽しんだようです。
なぜなら妖鬼の身体がちょうど半分まで縮んでいったからでした。
かっきり半分でノエルは妖鬼の身体から離れて、可愛らしい幼女の姿に戻りました。
「瑠偉。ちゃんとノエル半分こしたよ」
いかにも褒めて、褒めてと言わんばかりに目を輝かせて瑠偉に飛びつきました。
「ノエル、お前って殺されかけたのはもう忘れたのかよ」
瑠偉は苦笑すると、有朋に軽く一礼して幽世の門を開きました。
「さぁ、幽世に戻ってもうにどと現世にこようなどとは思わないことだな。さもなければ夢幻堂の霊獣が今度はお前を喰らいつくしてしまうぞ」
そう瑠偉が諭せば、妖鬼が驚愕したように有朋とトワイライトを見つめました。
「なるほど。これは相手が悪かった。夢幻堂の有朋か。命拾いしたものよのう。二度とは現世には舞い戻らぬとお誓い申そう」
妖鬼は有朋とトワイライトに深々と一礼すると、静かに幽世へと戻っていきました。
有朋は瑠偉の頭に手を乗せると、優しい顔をして満足そうに頷いてみせます。
「まぁ、すぐに逃げだせたなら上等だ。落ちついて行動すればあんな陣なんぞはすぐに描けるようになる。よくやったな」
瑠偉は目を丸くしました。
有朋はいつもこうなのです。
叱られると覚悟していると褒められ、褒められるだろうとどや顔をしていると叱られてしまいます。
でも瑠偉はちょっとだけ、父さんの息子でよかったなぁと思うのでした。
その横でノエルは珍しく考え込んでいます。
負けづ嫌いのノエルは妖を倒すのに有朋とトワイライトの手を借りたことが悔しくてならないのでした。
鎮守森の奥には小さな神社があるのだが、最近では訪れる人もなくさびれてしまっていました。
瑠偉は夢幻堂の扉を開けると鎮守森の祠の前まで来ました。
なるほど、たしかに妖気が感じられますし、もしもこの妖気をたった1匹の妖怪が纏っているのだとしたら、かなりの大物かもしれません。
「ノエル。これは少しまずいかもしれないね。一度戻って父さんの力を借りることにするよ」
瑠偉は有朋から必ず勝てると確信が持てるとき以外は、妖を祓ってはいけないと散々注意されていますし、相手の力を正確にはかる訓練を受けています。
その瑠偉の判断だと、ノエルとは純粋に力だけなら互角。
ノエルが実戦経験が少ないことを考えれば、瑠偉と2人でも危険かもしれません。
それを聞いたノエルの目はすぅっと細くなり、口元が吊り上がって小さな牙があらわになっています。
ふわりと白い霊気をまとったかと思うと、たちまち大きな白狐の姿に変化しました。
「なにを言っているの。私はお腹が空いているんだよ。この妖気なら半分でもお腹がいっぱいになりそうじゃないか」
瑠偉が止めるまもなくノエルはまっしぐらに祠の中に飛び込んでいきます。
ところが黒い煙のようなものが一瞬にして巨大な鬼の姿をとると、無防備なノエルをぶちのめしてしまいました。
「キャィン」という悲鳴をあげてノエルが吹っ飛び、瞬く間に子ぎつねの姿に戻ってしまいます。
今までノエルは格下の妖としか戦ったことがありません。
瑠偉が危惧した通りノエルにはあまりのも経験値が不足していたのです。
「ノエル!」
瑠偉があわてて駆け寄ると、子ぎつねはぐったりと意識を失っています。
「祓い屋か? わしを祓おうなどとは片腹いたいわ。喰らいつくしてやろう」
妖の攻撃を素早くかわすと、瑠偉はノエルを抱きかかえて夢幻堂の扉を開いてその中に転がり込みました。
「父さん。ノエルがやられた!」
瑠偉の叫びに普段のほほんとしているいる有朋が、トワイライトを呼び出すなり夢幻堂の扉を開いて飛び出していきました。
瑠偉はノエルをそっと横たえて、霊力をゆっくりとノエルの身体に流していきます。
小さな狐の身体は霊力を受けて白く輝きだしました。
子ぎつねは妖の一撃でごっそりと霊力を削り取られていたのです。
あわてるな。
ゆっくりだ。
瑠偉は自分にいいきかせながら、すこしづつノエルを癒していきます。
徐々に霊力はノエルの身体になじんでいき、やがてノエルを覆っていた白い光は消えてしまいました。
ノエルはパチリと目をさますと、飛び起きてすぐさま戦闘態勢を取りました。
低い姿勢で唸っているノエルを安心させるように瑠偉は言いました。
「大丈夫だよ。ここは夢幻堂の結界の中だから安全だよ! あの鬼の妖なら、父さんとトワイライトが相手をしている。落ち着いてゆっくりと休むんだ」
「瑠偉、扉を鎮守の森の祠に繋げて私を連れて行って! このままやられっぱなしはゴメンだよ」
瑠偉は目をランランと光らせて戦闘意欲をたぎらせているノエルを抱えあげると、静かに扉を開きました。
目の前では夢幻堂の主が、地面に陣を描いているところでした。
有朋が地面に描く陣は正確無比で、美しくすら感じてしまう程のものです。
これを有朋は妖の攻撃をひらひらとかわしながら、禹歩といわれる独特の歩き方で地面に描いていきます。
トワイライトが有朋をかばうように妖鬼に攻撃を仕掛けていますが、黒い霧に阻まれてうまく攻撃が届いていません。
瑠偉とノエルの姿を認めた有朋は、にやりと笑うと瑠偉にその陣が良く見えるように緩やかに霊力を陣に流し込みました。
普段なら一瞬で陣を完成させてしまいますから、これはただ瑠偉に教えるためだけの動きです。
陣が霊力をたっぷりとためこんで白い輝きを放ち始めると、夢幻堂の主はたった一言命令を発っしました。
「縛」
そのとたん妖鬼は有朋の陣から飛び出した幾重もの白い霊力でがんじがらめに縛られて、まったく身動きが出来なくなってしまいました。
とどめを刺そうとしていたトワイライトが、ノエルに声をかけます。
「ノエル。約束だ。かっきり半分だけお食べ」
ノエルは瑠偉の腕から喜々として飛び出すと叫びました。
「ごはん!」
妖鬼の喉笛にその小さな牙を突き立てると、至福のような表情でノエルはたっぷりと食事を楽しんだようです。
なぜなら妖鬼の身体がちょうど半分まで縮んでいったからでした。
かっきり半分でノエルは妖鬼の身体から離れて、可愛らしい幼女の姿に戻りました。
「瑠偉。ちゃんとノエル半分こしたよ」
いかにも褒めて、褒めてと言わんばかりに目を輝かせて瑠偉に飛びつきました。
「ノエル、お前って殺されかけたのはもう忘れたのかよ」
瑠偉は苦笑すると、有朋に軽く一礼して幽世の門を開きました。
「さぁ、幽世に戻ってもうにどと現世にこようなどとは思わないことだな。さもなければ夢幻堂の霊獣が今度はお前を喰らいつくしてしまうぞ」
そう瑠偉が諭せば、妖鬼が驚愕したように有朋とトワイライトを見つめました。
「なるほど。これは相手が悪かった。夢幻堂の有朋か。命拾いしたものよのう。二度とは現世には舞い戻らぬとお誓い申そう」
妖鬼は有朋とトワイライトに深々と一礼すると、静かに幽世へと戻っていきました。
有朋は瑠偉の頭に手を乗せると、優しい顔をして満足そうに頷いてみせます。
「まぁ、すぐに逃げだせたなら上等だ。落ちついて行動すればあんな陣なんぞはすぐに描けるようになる。よくやったな」
瑠偉は目を丸くしました。
有朋はいつもこうなのです。
叱られると覚悟していると褒められ、褒められるだろうとどや顔をしていると叱られてしまいます。
でも瑠偉はちょっとだけ、父さんの息子でよかったなぁと思うのでした。
その横でノエルは珍しく考え込んでいます。
負けづ嫌いのノエルは妖を倒すのに有朋とトワイライトの手を借りたことが悔しくてならないのでした。
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