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セディ視点でのお話。その2.お叱り編

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 リリーはいきなり現れたセディに驚いたが、部屋に通すように言いつけました。
 貴族でありながら、約束もなしに現れるなんてきっと何かあったに違いありません。

「何ですって! 馬鹿なの? なに考えてるの? 自己中なの? 頭湧いてるの?」
 
 リリーからいきなり怒涛のような悪罵を受けてセディは固まってしまいました。
 セディが何か言おうとすると、ベッシと頭を扇子ではたかれて床を指し示します。

 まさか、プリンスプリンスの称号を持つ私に、床に座れっていっているの?
 抗議をしたらまたはたかれそうな勢いだったので、セディは大人しく床に腰をおろしました。

「それで? どーゆーことか一応聞いてあげますから、言い訳があるんなら言ってごらんなさい」

 怖いですリリーさん。
 リリーってそんなキャラでしたっけ。

 セディがぼそぼそと経緯を説明すると、バシと前よりもずっと強くたたかれました。
 セディの頭が低くなったので、ちょうど叩きやすいようです。

「それで、セディは自分の勝手で異世界から誘拐して婚約までした女を、なにひとつ持たせずにこの世界に追い払った訳ですのね。お気に入りのおもちゃに飽きたみたいにね」

 あんまりな言いようだ!
 セディが抗議しようと口を開くと、ビュンと扇が飛んできます。
 この姿勢はまずすぎます。
 セディの頭がちょうどソファに座ったリリーの目の前にあるんですから。

「ロッテがどこまで飛んだのかわかるかしら?」
 リリーは解決策を考える方向に動いてくれるようです。

「いやぁ。それが。確かに私の転移陣を写したものだとは思うけど、ロッテって思いのほか魔法の才能もあるから予想できないんだ。転移陣の術式だって何枚持っているかわからないし」

 ビシ。
 なんだかセディは叩かれるのに慣れてきました。
 どうやらリリーお嬢さまは気に入らない答えには、扇を打ち下ろすことにしたようです。
 
 ねぇ。王太子殿下。
 あなたの婚約者は怖いんですけどご存知ですか。

「それで黒幕はナオだけなの?」

「ロッテはロビンを怪しんでいたみたいだけどね。私はその線はないと思っている。ロビンに利はないだろう?」
 
 セディはロビンを信じていたが、リリーはうっそりと目を細めた。

「あぁいう頭の良すぎる男は苦手ですわ。何考えているかわかりませんもの。ロッテの家庭教師になったのも怪しければ、ナオの猶子の件もそうですわ。まさか王位を狙ってる訳じゃないと思いますけれど、異界渡りの姫を何に利用しようと言うのかしら?」

 やっぱり王妃となる方は違いますね。
 視野が広い分、いろいろと勘繰るらしい。
 セディがぼんやりしていると、バシっと扇が振り下ろされた。

「痛ったいなぁ。馬鹿になったらどうしてくれるんです」
 セディが頭を押さえて抗議すると、リリーは冷たく言い放った。

「もうそれ以上馬鹿にはなれませんわ。それよりロビンのところに云ってみなさいな。どうしてわざわざ平民用の服を作らせてカフェに連れていったのかしら。馬鹿でも直接聞けば、なんか掴めるかもしれませんわ」

 セディはすぐさまロビンのところに転移しました。
 ロビンはなにも聞かずにセディを自分の居間に通しましたから、どうやらセディが来ることは織り込みずみだったようです。

 セディが口を開く前にロビンが言いました。

「ナオがね。ロッテにもカフェを楽しんで貰いたいから、内緒で平民の服を作って、初日に来てちょうだいと言ったのだよ。ロッテには内緒にして喜ばせたいとね」

「しかしその結果は予想がついた筈です。私は魔術師としては天才だと言われるように貴公は軍略の天才なのですから。そんな子供だましの策略が読めない訳がない。なんでナオの策略に乗ったのです」

「見極めておきたかったからね。異界渡りの姫たちを」

 セディはむっとしました。

「それだけの理由でロッテをあそこまで追い詰めたんですか。ロッテは国を飛び出したんですよ!」

「それは私が見誤ったんだ。君がロッテが絡むとそこまで目が見えなくなるとは思わなくてね」
 そう言われては、セディは何も言い返せません。

「覚えておきなさい。悪い事をした子は追い出すんじゃなくて閉じ込めて反省させる方がいいんですよ。そうすれば何が悪かったか自分で考えることになりますからね」

 おっしゃる通りですがね。この忌々しい策略家どの。
 何か智慧はないんでしょうかね。

 セディはここに来たことを後悔しはじめました。

「しかし面白い発見をしましたね。あの青銀の娘、おとなしそうに見えて実に大胆な行動をとる。臆病であり大胆でもある。これは面白いですねぇ」

 セディがこんな奴に構わずに帰ろうとすると、ロビンが呟きました。
「まぁ。探してどうしても見つからなければ、またここにおいで」

 誰が来るかよ!
 全く頭のいい奴ときたらこれだから。

 結局お前が馬鹿だからこうなった。
 そこまで抜けてると予想できなかったと言われただけでした。

 セディは叱られるのを覚悟でクレメンタイン公爵夫妻にこれまでの経過を報告しましたが、そこには兄夫婦も来ていましたから、針のむしろ状態になりました。

「ふーん。つまりさすがの戦略家のロビンにさえ、お前の馬鹿さ加減は読めなかった訳だ。誇ってもいいぞセディ。あの天才戦略家が読み違える程お前が馬鹿だってことだからな」

「兄上、そー言われると私の立場がありません」

「へー。立場ねぇ。番の娘を身ひとつで追い出す男に立場なんてあると思えちゃうんだ。さすがだねえセディさまは」

 もともと毒舌家の姉上はここぞとばかりに毒を吐きます。

「お願いします。クレメンタイン家の総力を挙げてロッテの捜索を手伝ってください」

 セディが頭を下げると、クレメンタイン家当主が駄目だしをしました。

「順番が違うだろうセディ。お前は魔術師だ。とにかくまずは国外の探査の魔法陣をひたすら伸ばして探索するんだな。夜が明けてもなおロッテが見つからなければ、明け方もう一度ロビンのところに行きなさい。あの男にわからないことはないんだ。いまいましいがな」

「それではロッテがひと晩中、心細い思いをすることになってしまいます。知らないところでひとりぼっちで夜を過ごすなんて、どれだけ恐ろしい思いをするんだろう」

「それを知ることがあなたの罰ですよ。明日、ロビンがあなたに有益な助言ができなければその時はクレメンタイン家の総力を挙げてロッテを探してもらいます。ロビンの答えを貰うまではお父さまはうごきませんわよ」

 セディの母はセディではなく夫である公爵の味方をしました。
 これでセディひとりでロッテを探すことが決定しました。

「あぁ、そうだわセディ。またこんなことがあってもいけないから、ロッテ専用の離宮を用意しましょう。いつでもお前から逃げ出せるようにね」

「母上!」
 セディは思わず叫び声をあげましたが、己のやらかしたことを考えれば何もいえませんでした。

 

 そうしてセディは一晩中、転移を繰り返しました。
 転移して、探査魔方陣を極限まで広げてロッテの気配に耳をすませます。
 これは極限まで精神をすり減らす作業でしたが、どこかでロッテが震えていると思うと、休むことはできませんでした。

「朝か」

 東のそらが、だんだんと明るくなって、朝日が地上を染めはじめました。
 セディは真っすぐにロビンのところに転移しました。

 ロビンは夕べと同じように居間で待っていました。

「どうだい。自分のしでかしたことの大きさが少しはわかったかな」

 セディは神経を使う探査魔法を一晩中展開したせいで、げっそりとやつれています。
 それでもセディは腰を降ろそうともせずにロビンにいいました。

「ロッテは見つからない。助けてくれ。稀代の戦略家なんだろ」

「それなら君が最初に見つけた場所にいるだろうね。彼女が唯一安心できる場所だからね」

 それを聞くやいなやセディは王立図書館に飛びました。
 

 
 マンションの扉には鍵がかかっていました。

「いる!」
 そう確信してセディの胸は高鳴りました。

 果たしてロッテは、すやすやとベッドで眠っていました。

 この場所にあるもののほとんどを、兄上が研究のために引き上げましたから、狭かった筈の部屋もがらんとしています。
 そんなうら寂しい部屋のポツンと残されたベッドにロッテは眠っていました。

 青銀の髪
 その髪こそがロッテがセディを受け入れてくれた証でした。
 こうして丸まって眠る稚い婚約者をみて、セディは愛しさで胸がいっぱいになりました。

 この国に留まってくれだんだ。
 あんなにも酷いことを言ったのに。

 セディはロッテが目をさましたら、誠心誠意謝るつもりでした。なのに……。

「ずいぶんと呑気に眠れるもんだなぁ」
 
 なにを言っているんだオレ。
 そんなことが言いたいんじゃないだろう。

「出て行け!って言われて出て行くなんて子供かお前は!」

 あー誰かオレの口を封じて下さい。
 お願いします。

「飛べる限り遠くに逃げるつもりだったけれどね」

 なんだって!
 絶対に逃がすものか。
 お前はオレのものだ。
 オレだけのものだからな。

 知らないうちに、拘束の魔方陣を発動してしまいました。
 本来は囚人なんかにかけるものです。
 この魔方陣を解除しない限り、どこまで逃げても連れ戻すことができます。

 町では、これを解除する魔方陣が闇で売られていますが、私のかけたこの魔方陣を解除できる魔法使いはいないでしょうねぇ。

「セディ、何をしたの!」

 ロッテがおびえたみたいです。
 安心させてあげないとね。

「迷子札だよ」
 
 ただの迷子ふだですとも。
 やんちゃな子猫ちゃんが迷子にならないようにね。

 もう二度と逃げ出せないようにね。
 いいかいロッテ。
 本当のことなんて知らなくていいよ。

 だってロッテはずっと私といるんでしょう。
 だったらこれがあっても無問題だしねぇ。

 それでもなんとかきちんと謝ることができました。
 どうしてロッテのまえだと、優しいことが言えないのかなぁ。
 こんなに愛しているのに。


 セディはロッテを抱きしめてその唇をついばみました。
 何度も、なんども。
 愛してるって言葉の代わりに、深い口づけを。

 そうして夢中になってロッテをついばんでいると、ガチャリと音がしてベッキーとジャンヌが入ってきました。
 あいつら知ってて黙ってやがったんだ。

 ロッテは真っ赤になって逃げ出したし、ジャンヌたちも真っ赤になっています。

 せっかくのお楽しみタイムだったのに。
 まぁいいでしょう。

 これからは絶対にロッテを逃がしません。
 ロッテにも私の愛をたっぷり教えてあげます、
 時間をかけてね。


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