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46 米
しおりを挟む「わふわふ」
外から帰ってきたポチの体が草だらけだ。
どうやら草ぼうぼうの藪の中を突っ切ったらしい。
「こらこら、そのまま家の中を歩き回られたらかなわん。
取ってやるからそこに座れ」
「わふぅ……」
俺はブラシでポチの毛をとかしながら、毛に付いた雑草を落としてやる。
抜けた毛だけでもそれなり分量だ。それこそ座布団の中綿にでもできそうな程だな。生え代わりの時期になったら、もっと大変なことになるんだろうか。
「よぉし、だいだい落ちたぞ。……おや? これは⁉」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「どうだ?」
クロエがルーペを使って、真剣に図鑑と見比べている。
「確かにそうですね」
「クロエ、さっきから何を熱心に見ている?」
「これだよ」
俺はジャンヌにそれを手渡す。
「うん? ……麦、ではないか。穀物の一種だろうか?」
「たぶん、稲だと思うんだ」
「いね? いねとは何だ?」
「ジャンヌはカレーライスが好きだろ?」
「もちろん、カレーは最高だ!
人類史上、最上級の料理に違いない! 作った者は天才だろうな」
ジャンヌは拳をグッと握りしめて力説する。
「ライスにカレーをかけたものが、カレーライス。
ライスとは米のことで……」
「そうか! あの白い穀物が米というものなんだな?
つまり、その稲から米が採れるというわけか?」
ジャンヌはあれが何か知らずに食っていたのか……。
「そう、理解が早くて助かるよ。
そして、残念ながら今は米を自給できてないんだよ」
ジャンヌたちが今食べている米は、全てアルファ米だ。この手の保存食品は意外と傷みもなく、無事なまま見つかることが多い。
ともかく、残量はまだ十分にあるとはいえ、いずれ無くなってしまうのだ。それまでに何かしらの手を打たないといけない。
「なにぃ! それは困るぞ」
俺は稲を手に持ってブラブラさせる。
「コイツの栽培の仕方が分かれば、問題は解決するはずだ」
「それは何とかなりそうです。図書館に参考書籍があったと思います。
ただ、もう少し現物のサンプルが欲しいですね」
「ポチの行動範囲内の、どこかの茂みだと思うんだが……」
結局、手の空いたホビットたちを動員して、市内をくまなく探し回り、それなりの量の稲を確保することができた。どこからか種籾が飛んできたのだろう、野生化したものがあったのだ。
栽培の方法はクロエが調べ上げて、分かりやすい資料を作った。
早速ホビットたちにその資料を配って、ごく小規模な範囲で畑を田んぼに作り替えてもらっている。
「収穫が来年になるか、三年後になるか分からんが、
農業に詳しいホビットたちに任せておけば何とかなるだろう」
彼らもカレーライスが大好きなので、真剣に取り組むはずだ。
「米は麦よりもずっと収穫率が高いと聞いたことがある。
米さえあれば、とりあえず飢えることはないはずだ」
「ブラド、米は分かったが、カレーの方はどうなんだ?
カレールーは自給できるのか?」
「カレー粉の中に入っている原料を、一つ一つ作って行けば何とかなるかな。
でも、全て用意できるかどうかは、ちょっと良く分からない。
カレー粉の類はなるべく回収するようにしてるから、当分は大丈夫だよ」
たぶん、ジャンヌが食べる一生分はあるはずだが、先のことはどうなるか。
「そっ、そうか……」
俺たちがあれこれ話をしていると、ポチがやって来た。
ガゥガゥと低く唸るような声で、俺たちに何かを訴えている。
「む! 妖魔か⁉」
ジャンヌがバッと立ち上がる。
「いや、違う。何者かを捕まえたっぽいぞ。
とにかく見に行かないとな」
「私も行くぞ!」
いつの間にか戦闘服に着替えたジャンヌは、今日もフル装備だ。
「何があるか分からんからな」
クロエは守りの魔法を俺たちにかけてくれた。
「お気をつけて」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
現場に着くと、人間と思われる一団が目に入った。
ざっと見て二百人くらいはいるようだな。皆、着の身着のまま、やせ細っている。最初に会ったときのホビットたちと雰囲気がよく似ている。
魔狼たちに周りを包囲されて、丸く縮こまり、皆絶望的な顔をしている。
俺は魔狼たちを下がらせて、ポチを伴って彼らに近づく。ジャンヌも馬を降り、俺の後に続いた。
「俺は向こうの街で領主をしている者だ。
お前たちは何者だ? ここで何をしている?」
彼らは俺の言葉に驚き、しばしざわざわと何かを話し合っていた。
しばらくすると、一団の中から代表者らしき壮年の男が出てきた。
「私たちはハメルンの街から逃げてきたのだ。どうか助けて欲しい」
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