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35 自動車

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 ある日の昼間。
 俺は自室でスヤスヤと眠っていた。夜行性の俺としては、昼間は眠っていたいのだが、いろいろな事情でなかなかそうはさせてもらえない。


「お~い! ブラド! ブラド、起きておるか?」

 ドルフの胴間声どうまごえがホールに響く。駐車場の方もなにやら騒がしい。

「なんだよ、何時だと思ってるんだよ……」

 俺はぶつくさ文句を言いながら、外へ出ようと一階ホールに向かう。
 どこかで聞いたようなガラガラという騒音がする。

「おぉ!? これはもしや?」

「どうじゃ、ブラド。これを見るのじゃ!」

 ドルフと他のドワーフたち、それからホビットたちも、それを囲んでワイワイと嬉しそうにしていた。それは、こないだジャンヌと一緒にドワーフの鉱山へ届けに行った、あのディーゼルエンジンの自動車だった。

「スゲェ!? 動くようにしたんだ! やるなぁ!」

 ドルフたちは自慢げに胸を張る。

「わしが前に言った通りじゃろ? ちゃんと道はつながっておったろうが」

 原油が湧くという信じられない幸運はあったものの、その幸運を見事にモノにしたのは、ドワーフたちの尽力があればこそだな。

「まさかここまで出来るとはな。さすがドワーフと言うべきか……」

「ガハハ! わしらに不可能はないんじゃ」

 俺は車の周りをまわりながら、その出来に感心する。
 錆びやへこみのあったボディーは丁寧に修繕されており、よく見るとエンブレムなどの各部の装飾パーツは新しく作り直されている。
 ボロかった鉄チンホイールはピカピカのアルミホイールに入れ替えられ、新車とは言えないまでも、きれいにカスタムされた旧車といった雰囲気に仕上がっていた。

「うわっ! 内装が全然違ってるぞ! このシート革張りじゃないか!」

 ショボかった商用バンの内装が、ずいぶんと豪華になっていた。

「そりゃそうじゃ、わしらが手をかけたんじゃ。適当なことはできぬわ」

 ハンドルもシフトレバーにも革が巻かれて、ダッシュボードの作りまでなにやら豪華になっている。運転席だけ見ると昔の高級スポーツカーのような感じだ。

「おい、ちょっと運転させてもらっても良いか?」

 もともと車好きの俺は、運転するのも当然好きだ。

「当たり前じゃ。これはお前さんの車なんじゃからの」

 ドルフが逆にビックリしたような顔で言う。

「マジか!? せっかく直したんだろ? 俺が貰って良いのかよ?」

「マジじゃ。
 だいたい、お前さんはこの辺りの領主じゃろうが。
 領地にあった物なんじゃから、これは元々お前さんのものじゃよ。
 それにわしらもお前さんのおかげで、良い経験が積めたしのぉ」

「そうか、良いものをありがとう」

「なんのなんの」

「よぉし! この辺りをちょっとドライブしてみるか。
 お前たちも乗れ。ほら、ジャンヌも乗った乗った!」

 興味深げに車を観察していたジャンヌを助手席に誘う。

「おっ、おぅ。では乗せてもらおう」

 ジャンヌの膝の上には、ホビットの子供たちがワラワラと乗った。
 後ろの席は他のホビットたちが取り合っている。

「俺が先だぞ」
「いや僕の方が先」
「私も乗りたい」
「ちょっと待て責任者の私が」
「それは関係ないよ」

「待て待て! 後席はそうだな四人ずつだな。順番に乗せるから、並ぶんだ。
 ちゃんと並ばないと乗せないぞ」

「「「はい、領主様」」」

 ホビットたちが行儀よく並び始める。


「では、しゅっぱ~つ!」

 俺は庁舎の周りを車でぐるぐると周回する。
 エンジンはディーゼルらしくガラガラと少しうるさいがパワフルだ。
 ハンドルやシフトノブの感触も実に良い感じだ。

 ホビットたちは車の乗り心地に感心している。

「ほぉぉ、なんと滑らかな乗り心地」
「すごい速いぞ!」
「これは貴族の馬車にも負けませんな」
「さすが領主様です」

「うほぉぉぉぉぉ! これは爽快!」
「「「ヒャヒャヒャ、すごぉい!」」」

 ジャンヌも子供たちもご機嫌だ。 
 久々のドライブを俺は十分に堪能した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 それから数日後。
 俺はドワーフの鉱山へ行って、驚愕することになる。
 鉱山前の広場が中古車販売場のような様相になっていたのだ。
 ピカピカの自動車がズラッと何十台も並んでいる。

「なにぃぃ!?」

「ガッハッハ!
 この辺りにあった車を全部整備し直してやったのじゃ。
 ガソリンもあと少しで量産できるからの。
 どうじゃ、なかなか壮観じゃろ?」

 ドワーフたちのバイタリティーには驚かされる。
 しかし、こんなに車を用意しても、ちゃんと走れる道路があまりないのだが。

「それこそ売るほどあるな」

「売り先がないのが悩みの種なんじゃ。ガッハッハッハッ!」

 そう言ってドルフは豪快に笑うのだった。










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