35 / 59
35 自動車
しおりを挟む
ある日の昼間。
俺は自室でスヤスヤと眠っていた。夜行性の俺としては、昼間は眠っていたいのだが、いろいろな事情でなかなかそうはさせてもらえない。
「お~い! ブラド! ブラド、起きておるか?」
ドルフの胴間声がホールに響く。駐車場の方もなにやら騒がしい。
「なんだよ、何時だと思ってるんだよ……」
俺はぶつくさ文句を言いながら、外へ出ようと一階ホールに向かう。
どこかで聞いたようなガラガラという騒音がする。
「おぉ!? これはもしや?」
「どうじゃ、ブラド。これを見るのじゃ!」
ドルフと他のドワーフたち、それからホビットたちも、それを囲んでワイワイと嬉しそうにしていた。それは、こないだジャンヌと一緒にドワーフの鉱山へ届けに行った、あのディーゼルエンジンの自動車だった。
「スゲェ!? 動くようにしたんだ! やるなぁ!」
ドルフたちは自慢げに胸を張る。
「わしが前に言った通りじゃろ? ちゃんと道はつながっておったろうが」
原油が湧くという信じられない幸運はあったものの、その幸運を見事にモノにしたのは、ドワーフたちの尽力があればこそだな。
「まさかここまで出来るとはな。さすがドワーフと言うべきか……」
「ガハハ! わしらに不可能はないんじゃ」
俺は車の周りをまわりながら、その出来に感心する。
錆びやへこみのあったボディーは丁寧に修繕されており、よく見るとエンブレムなどの各部の装飾パーツは新しく作り直されている。
ボロかった鉄チンホイールはピカピカのアルミホイールに入れ替えられ、新車とは言えないまでも、きれいにカスタムされた旧車といった雰囲気に仕上がっていた。
「うわっ! 内装が全然違ってるぞ! このシート革張りじゃないか!」
ショボかった商用バンの内装が、ずいぶんと豪華になっていた。
「そりゃそうじゃ、わしらが手をかけたんじゃ。適当なことはできぬわ」
ハンドルもシフトレバーにも革が巻かれて、ダッシュボードの作りまでなにやら豪華になっている。運転席だけ見ると昔の高級スポーツカーのような感じだ。
「おい、ちょっと運転させてもらっても良いか?」
もともと車好きの俺は、運転するのも当然好きだ。
「当たり前じゃ。これはお前さんの車なんじゃからの」
ドルフが逆にビックリしたような顔で言う。
「マジか!? せっかく直したんだろ? 俺が貰って良いのかよ?」
「マジじゃ。
だいたい、お前さんはこの辺りの領主じゃろうが。
領地にあった物なんじゃから、これは元々お前さんのものじゃよ。
それにわしらもお前さんのおかげで、良い経験が積めたしのぉ」
「そうか、良いものをありがとう」
「なんのなんの」
「よぉし! この辺りをちょっとドライブしてみるか。
お前たちも乗れ。ほら、ジャンヌも乗った乗った!」
興味深げに車を観察していたジャンヌを助手席に誘う。
「おっ、おぅ。では乗せてもらおう」
ジャンヌの膝の上には、ホビットの子供たちがワラワラと乗った。
後ろの席は他のホビットたちが取り合っている。
「俺が先だぞ」
「いや僕の方が先」
「私も乗りたい」
「ちょっと待て責任者の私が」
「それは関係ないよ」
「待て待て! 後席はそうだな四人ずつだな。順番に乗せるから、並ぶんだ。
ちゃんと並ばないと乗せないぞ」
「「「はい、領主様」」」
ホビットたちが行儀よく並び始める。
「では、しゅっぱ~つ!」
俺は庁舎の周りを車でぐるぐると周回する。
エンジンはディーゼルらしくガラガラと少しうるさいがパワフルだ。
ハンドルやシフトノブの感触も実に良い感じだ。
ホビットたちは車の乗り心地に感心している。
「ほぉぉ、なんと滑らかな乗り心地」
「すごい速いぞ!」
「これは貴族の馬車にも負けませんな」
「さすが領主様です」
「うほぉぉぉぉぉ! これは爽快!」
「「「ヒャヒャヒャ、すごぉい!」」」
ジャンヌも子供たちもご機嫌だ。
久々のドライブを俺は十分に堪能した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから数日後。
俺はドワーフの鉱山へ行って、驚愕することになる。
鉱山前の広場が中古車販売場のような様相になっていたのだ。
ピカピカの自動車がズラッと何十台も並んでいる。
「なにぃぃ!?」
「ガッハッハ!
この辺りにあった車を全部整備し直してやったのじゃ。
ガソリンもあと少しで量産できるからの。
どうじゃ、なかなか壮観じゃろ?」
ドワーフたちのバイタリティーには驚かされる。
しかし、こんなに車を用意しても、ちゃんと走れる道路があまりないのだが。
「それこそ売るほどあるな」
「売り先がないのが悩みの種なんじゃ。ガッハッハッハッ!」
そう言ってドルフは豪快に笑うのだった。
俺は自室でスヤスヤと眠っていた。夜行性の俺としては、昼間は眠っていたいのだが、いろいろな事情でなかなかそうはさせてもらえない。
「お~い! ブラド! ブラド、起きておるか?」
ドルフの胴間声がホールに響く。駐車場の方もなにやら騒がしい。
「なんだよ、何時だと思ってるんだよ……」
俺はぶつくさ文句を言いながら、外へ出ようと一階ホールに向かう。
どこかで聞いたようなガラガラという騒音がする。
「おぉ!? これはもしや?」
「どうじゃ、ブラド。これを見るのじゃ!」
ドルフと他のドワーフたち、それからホビットたちも、それを囲んでワイワイと嬉しそうにしていた。それは、こないだジャンヌと一緒にドワーフの鉱山へ届けに行った、あのディーゼルエンジンの自動車だった。
「スゲェ!? 動くようにしたんだ! やるなぁ!」
ドルフたちは自慢げに胸を張る。
「わしが前に言った通りじゃろ? ちゃんと道はつながっておったろうが」
原油が湧くという信じられない幸運はあったものの、その幸運を見事にモノにしたのは、ドワーフたちの尽力があればこそだな。
「まさかここまで出来るとはな。さすがドワーフと言うべきか……」
「ガハハ! わしらに不可能はないんじゃ」
俺は車の周りをまわりながら、その出来に感心する。
錆びやへこみのあったボディーは丁寧に修繕されており、よく見るとエンブレムなどの各部の装飾パーツは新しく作り直されている。
ボロかった鉄チンホイールはピカピカのアルミホイールに入れ替えられ、新車とは言えないまでも、きれいにカスタムされた旧車といった雰囲気に仕上がっていた。
「うわっ! 内装が全然違ってるぞ! このシート革張りじゃないか!」
ショボかった商用バンの内装が、ずいぶんと豪華になっていた。
「そりゃそうじゃ、わしらが手をかけたんじゃ。適当なことはできぬわ」
ハンドルもシフトレバーにも革が巻かれて、ダッシュボードの作りまでなにやら豪華になっている。運転席だけ見ると昔の高級スポーツカーのような感じだ。
「おい、ちょっと運転させてもらっても良いか?」
もともと車好きの俺は、運転するのも当然好きだ。
「当たり前じゃ。これはお前さんの車なんじゃからの」
ドルフが逆にビックリしたような顔で言う。
「マジか!? せっかく直したんだろ? 俺が貰って良いのかよ?」
「マジじゃ。
だいたい、お前さんはこの辺りの領主じゃろうが。
領地にあった物なんじゃから、これは元々お前さんのものじゃよ。
それにわしらもお前さんのおかげで、良い経験が積めたしのぉ」
「そうか、良いものをありがとう」
「なんのなんの」
「よぉし! この辺りをちょっとドライブしてみるか。
お前たちも乗れ。ほら、ジャンヌも乗った乗った!」
興味深げに車を観察していたジャンヌを助手席に誘う。
「おっ、おぅ。では乗せてもらおう」
ジャンヌの膝の上には、ホビットの子供たちがワラワラと乗った。
後ろの席は他のホビットたちが取り合っている。
「俺が先だぞ」
「いや僕の方が先」
「私も乗りたい」
「ちょっと待て責任者の私が」
「それは関係ないよ」
「待て待て! 後席はそうだな四人ずつだな。順番に乗せるから、並ぶんだ。
ちゃんと並ばないと乗せないぞ」
「「「はい、領主様」」」
ホビットたちが行儀よく並び始める。
「では、しゅっぱ~つ!」
俺は庁舎の周りを車でぐるぐると周回する。
エンジンはディーゼルらしくガラガラと少しうるさいがパワフルだ。
ハンドルやシフトノブの感触も実に良い感じだ。
ホビットたちは車の乗り心地に感心している。
「ほぉぉ、なんと滑らかな乗り心地」
「すごい速いぞ!」
「これは貴族の馬車にも負けませんな」
「さすが領主様です」
「うほぉぉぉぉぉ! これは爽快!」
「「「ヒャヒャヒャ、すごぉい!」」」
ジャンヌも子供たちもご機嫌だ。
久々のドライブを俺は十分に堪能した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから数日後。
俺はドワーフの鉱山へ行って、驚愕することになる。
鉱山前の広場が中古車販売場のような様相になっていたのだ。
ピカピカの自動車がズラッと何十台も並んでいる。
「なにぃぃ!?」
「ガッハッハ!
この辺りにあった車を全部整備し直してやったのじゃ。
ガソリンもあと少しで量産できるからの。
どうじゃ、なかなか壮観じゃろ?」
ドワーフたちのバイタリティーには驚かされる。
しかし、こんなに車を用意しても、ちゃんと走れる道路があまりないのだが。
「それこそ売るほどあるな」
「売り先がないのが悩みの種なんじゃ。ガッハッハッハッ!」
そう言ってドルフは豪快に笑うのだった。
0
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
拝啓神様。転生場所間違えたでしょ。転生したら木にめり込んで…てか半身が木になってるんですけど!?あでも意外とスペック高くて何とかなりそうです
熊ごろう
ファンタジー
俺はどうやら事故で死んで、神様の計らいで異世界へと転生したらしい。
そこまではわりと良くある?お話だと思う。
ただ俺が皆と違ったのは……森の中、木にめり込んだ状態で転生していたことだろうか。
しかも必死こいて引っこ抜いて見ればめり込んでいた部分が木の体となっていた。次、神様に出会うことがあったならば髪の毛むしってやろうと思う。
ずっとその場に居るわけにもいかず、森の中をあてもなく彷徨う俺であったが、やがて空腹と渇き、それにたまった疲労で意識を失ってしまい……と、そこでこの木の体が思わぬ力を発揮する。なんと地面から水分や養分を取れる上に生命力すら吸い取る事が出来たのだ。
生命力を吸った体は凄まじい力を発揮した。木を殴れば幹をえぐり取り、走れば凄まじい速度な上に疲れもほとんどない。
これはチートきたのでは!?と浮かれそうになる俺であったが……そこはぐっと押さえ気を引き締める。何せ比較対象が無いからね。
比較対象もそうだけど、とりあえず生活していくためには人里に出なければならないだろう。そう考えた俺はひとまず森を抜け出そうと再び歩を進めるが……。
P.S
最近、右半身にリンゴがなるようになりました。
やったね(´・ω・`)
火、木曜と土日更新でいきたいと思います。
僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~
SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。
ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。
『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』
『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』
そんな感じ。
『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。
隔週日曜日に更新予定。
【完結】月夜の約束
鷹槻れん
恋愛
家出少女パティスと孤独な吸血鬼ブレイズ。
満月の晩、2人はとある約束をした。
NL、全年齢対象です。
エブリスタでも読めます。
※ 表紙絵はあままつ様のフリーアイコンからお借りしたイラストを使わせていただいています。
無断転載など、硬くお断りします。
https://ama-mt.tumblr.com/about
異世界転移した俺は異世界ライフを満喫する事にした
森崎駿
ファンタジー
『異世界転移』
それは男子高校生の誰しもが夢見た事だろう
この物語は神様によって半ば強制的に異世界転移させられた男がせっかくなので異世界ライフを満喫する話です
★印は途中や最後に挿絵あり
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる