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32 原油の精製

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 ドワーフの鉱山に原油が湧いてからというもの、ドワーフたちは異常ともいえる執念を燃やした。参考書籍を読み漁り、彼らが生き甲斐としている鍛冶仕事を後回しにしてまで化学実験に明け暮れていた。俺は彼らの求める物資を可能な限り提供し、力仕事なども積極的に手伝った。

 あれから一月あまり、小規模ではあるが、原油の蒸留装置が完成したのだった。

「久々の大仕事じゃったわぃ」

 ドルフが巨大な装置を見上げながふぅっと息をついた。

「まさかこの短期間で、ここまで出来るとは思わなかったよ」

 さすがドワーフというか、ちょっと空恐ろしくもあるな。

「ワハハ、わしらにかかればこれしきの事、容易たやすいことよ。
 しかし、まだまだ課題はある。これは試作機といったところじゃな」

 今のところはガスの扱いが難しく、ガスは出来るそばから燃やしているようだ。
 ガソリンもまだすぐに使えるものではなく、分離されて出てくるものは、ガソリンの素といったものらしい。使えるようになるまでには何段階かの工程が必要で、それはもう少し研究がいるとのことだった。

「でも、灯油と軽油は使えるんだろ?
 それだけでも十分すごいことだぞ」

「お前さんにも分かるか?」

「そりゃあ分かるさ。車の復活まであと一歩だな。
 あっ! ディーゼルエンジン車なら、もう動かせるんじゃないか?」

「ワハハ、そうじゃ、その通りじゃよ。
 残念ながら、この近辺にはディーゼルエンジンの車は見つけられんかったがの」

「そうか、俺の方で探しておくよ」

「楽しみに待っておるぞ」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ディーゼルエンジンの車はすぐに見つかった。市役所の公用車の中の一台が、ディーゼルエンジン車だったのだ。商用のバンで少々古い型のマニュアル車だったが、むしろその方が構造がシンプルで良い。車の鍵も庁舎内ですぐに見つかった。

 さっそくタイヤをマシなものに交換して、ブレーキの張り付きをなんとか解除して、転がせるようにした。ブレーキフルードは完全に劣化していたので、新しいもの――といっても古い未開封品――に交換。

「よし準備ができた。ジャンヌ、運転席に乗ってくれ」

「な!? 私がか?」

「そうだ。ホビットたちは体格的にちょっと厳しいからな。
 大丈夫だから、乗ってくれ」

「よ、よし、わかった!」

 ジャンヌはおっかなびっくり運転席に乗り込む。
 俺は運転席の位置をジャンヌに合わせて調整してやる。

「それで、真ん中のペダルを右足で踏んで見てくれ。そう、それだ。
 どうだ? ちゃんと奥まで踏み込めるか?」

 ジャンヌがグッとブレーキペダルを踏み込む。

「おっ、おぅ、踏み込んだぞ」

「サイドブレーキを解除してっと、ギアはニュートラルだな。
 よぉし、じゃぁ俺が後ろから押すから、言う通りに操作してくれ」

「ちょっ、ちょっと待て! 操作と言われても、何が何やら分からんぞ」

「目の前にあるハンドルを、俺が言うとおりに回すだけだから。
 真ん中のペダルには、ずっと足を添えておいてくれよ」

「そっ、そうなのか? やってみる」

「じゃぁ、まずバックしないといけないな」

 俺は車の前に回る。

「まずはペダルを戻して、ハンドルはそのまま。いくぞ!」

 グッと車を押してやると、思ったよりも軽く車が動いた。

「わっ、わわわわ……」

 ジャンヌが運転席で少々慌てている。

「よし、ハンドルを少しずつ右に回していってくれ」

「しょっ、承知した!」

 パワーアシストが切れているから重いと思うが、ジャンヌのパワーなら大丈夫。
 ググっと車の方向が変わっていく。

「上手い上手い。それじゃ、駐車場を出るぞ」

「まっ、待て、ブラド。どこまで行くのだ?」

「ドワーフの鉱山だよ」

「なぁぁぁぁ!?」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ジャンヌは何だかんだ言いながらも、しばらくするとハンドル操作に慣れたようだ。時間はかかったが、俺たちは無事にドワーフの鉱山にたどり着いた。

「とうちゃ~く!
 ジャンヌ、サイドブレーキを引いてくれ。よし、もう降りていいぞ」

「ふぅぅぅぅ、つっ、疲れた……」

 車から降りたジャンヌは地面にへたり込む。

「慣れないうちはそうかもかな。重ステだしな。
 お~い! ドルフ、注文の品を届けに来たぜ」

 鉱山の中から、どたどたとドルフや他のドワーフたちが出てきた。

「自動車が来たぞ!」
「おぉ! こいつか!」
「ちょっと形が古い感じがするの」
「ふむ、内装が他のよりも簡素じゃ」
「タイヤとブレーキは使えそうじゃな」

 車を囲んでガヤガヤと話し合っている。

「長いこと眠ってたから、いろいろ傷んでるだろうけど、
 ドルフたちなら、なんとかなるだろ?」

「当たり前じゃ、わしらに不可能はないんじゃ、ガッハッハッハッ!」

 ドワーフたちは車を前に大笑いするのだった。






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