53 / 62
53 ゴーレムが増えた
しおりを挟む陶器作りは以前ほど頻繁ではないが、細々と続けている。
家で使う食器などを作るついでに、売り物の皿や壺などを少量ずつ作っているのだ。
もともと陶器作りは俺が始めたことだが、今となっては焼き工程以外はリサが取り仕切るようになった。俺は陶器の便器ができた時点で満足だったが、工作好きなリサは食器だけでは飽き足らず、陶器の置物なんかも作るようになった。
新しい釉薬を試したり研究に余念がないのだった。
「ほぉ、これは馬か。スケルトンたちも作ったのか、上手いもんだなぁ」
「エヘヘ、もっと褒めて良いよ?」
「ふぅん……うん? これはなんだ?」
細かい紋様がびっしりと刻まれた、陶器製の何かが、ひとまとめにされている。
「それは、これから組み立てるところよ。ちょっと待ってて」
その陶器製の何かにはそれぞれ小さな穴が開けられていて、リサはその穴に細い麻糸を通して組み上げていった。ビーズ細工でも作るような感じだ。
リサの手際を感心しながら見ていると、すぐに形になった。
「へぇ、操り人形か?」
それは五十センチくらいの大きさの、精巧な人形だった。
関節部分は麻糸でつながれていて、自由に曲げ伸ばしできるようになっている。
胸の部分には俺の左手の紋様があしらわれていて、他の部分にも細かい紋様がびっしりと刻まれている。それは魔法陣の紋様に似ていた。
「どう? スゴイでしょ」
「これって、ひょっとしてあれか?」
「そうよ、ちょっと試してみて」
「よぉし! やってみるか」
俺は精神を集中して偽りの魂を作り上げる。そいつをグッと人形に押し込むと、スケルトンと同じくらいの容易さでカチリと魂が定着した。
「おぉ! この感触は……」
ほどなく、人形の胸の紋様がぼぉっと青白く発光しはじた。
周囲の魔素が胸に吸い込まれてゆき、各部に刻まれた紋様を流れるのが見える。
胸の紋様が心臓で、各部の紋様が血管のような働きをしているのだ。
やがて人形が立ち上がって、俺の方を向く。
『……ますたー』
「リサ、お前スゴイな! これは成功かもしれんぞ。良く思いついたな」
「スケルトンたちを見てたら気がついたの。
魔素が胸の核に入って、それから体のあちこちに流れて行ってるでしょ?
でも、前にイチロウが作ったゴーレムはそうじゃなかった」
そうだった。以前のゴーレムには血管の代わりをするものがなかったのだ。
だから魔素の流れが悪くて、無駄にエネルギーを消費していたのか……。
あの時の実験で爆発したのも、なんとなく理由が分かった。
フタをした管に無理やり圧をかけたようなものだな。
圧の逃げ場がなくなって破裂したというわけだ。
人骨は元々魔素が流れやすいから、スケルトンには魔法的な紋様などは必要なかったわけか。分かってしまえば簡単な理屈だが、思いつかなかった……。
「偉いぞ! リサは魔導師の鏡だな」
「エヘヘ……。もっと褒めて良いよ?」
『ばか者。お主はネクロマンサーであろうが。
生活魔法の魔導師に専門分野で負けてどうするのじゃ』
『そうは言うけどさぁ……。
俺ってぜんぜん一人前のネクロマンサーじゃないんだよなぁ。
知らないことだらけだよ』
『当たり前じゃろうが。言い訳をする暇があったら日々勉強じゃ』
「そのゴーレムはリサが作ったようなものだから、お前専用にすればいいよ」
「やったー! ありがとうイチロウ。名前つけて良い?」
「あぁ、好きにしろ」
「じゃあ、チャッキー!」
「お、おぉ、分かった」
とある映画が頭に浮かんで少し考えてしまったが、まぁ大丈夫だろう。
コイツの魂は俺が作ったものなんだからな。
術者:イチロウ・トオヤマ
名前:チャッキー
種類:陶器のゴーレム
用途:汎用
状態:良好
熟練:小
特記:なし
ステータスからすると、コイツはスケルトンと同じようにクラスチェンジできそうだな。
ちなみに、板ゴーレムやペンダント型のゴーレムのステータスはこんなかんじ。
術者:イチロウ・トオヤマ
名前:なし
種類:偽りの魂
用途:=’’)&#&%’%
状態:&%’%&(’$#
熟練:%&(’$#)()=
特記:=)(’%&%$(’&
想定外の使い方をしてるせいか、盛大に文字化けしているのだった。
種類がゴーレムではなく、偽りの魂となっているのが面白い。
今のところ問題なく使えてはいるが、今後どうなるかはわからん。
「よし。名前も付けたし、お前の命令も聞くようにしたぞ」
「わぁ、ありがとう!」
リサはさっそくゴーレムにあれこれと作業を教えている。
人形並みの体格だから、他のスケルトンと同じ作業は無理だろうが、作業の補助的なことぐらいはできるかな。俺としてはどんな感じにクラスチェンジして行くのか知りたいところだが。
「コイツの原料は粘土だから、木か何かで型さえ作れば、ポコポコ量産できるな」
「そうだね、面白いかも!」
「でも量産するのは、コイツが使い物になるかどうかを確認してからだぞ」
「そうねぇ……」
「まぁともかく、作業も一段落したし、昼飯にしようぜ」
「うん!」
昼飯は俺が作ることにした。
作るのが簡単で、はやく出来て、美味いもの。やはり粉ものが楽だな。
小麦粉をだし汁で溶く。だし汁は干しシイタケと干し肉からとったものをストックしてある。
それにその辺にある野菜を細かく刻んで混ぜ込む。
さらにイノシシのベーコンや天かすも投入。
そいつをフライパンで焼き上げて、リサお手製の万能ソースで味付け。
マヨネーズやかつお節粉がないのは残念だが、ないものねだりをしても仕方ない。
「わぁ! ナニコレ?」
「お好み焼きだ。冷めないうちに食おうぜ」
「ハフハフ……、おいひぃ!」
「適当に作ったけど、意外といけるなぁ」
お好み焼きの匂いにつられたのか、ベロニカがのっそりと起きた。
「ベロニカおはよう!」
「なんだ、今日はずいぶんと早いじゃないか?」
「ちょっと、私にもよこしなさいよ」
「ああ、お好み焼きか。ほれ」
「熱っ! フゥフゥ、ハフハフ……。
むぐむぐ、なかなかいけるわね。リサ、お酒ちょうだい」
「はいどうぞ」
「まったく、昼間から酒かよ……」
「良いじゃないの、グビリ。うん! これお酒に合うわね……。
えぇ!? ちょっと! そのちっこいのは何なの?」
「チャッキーよ! いいでしょ?」
「俺とリサが共同で作ったゴーレムだよ」
「また前みたいに爆発するんじゃないでしょうね?」
「しないよ! 今回は魔石も使ってないしな」
「ふぅん……。で、私のは?」
「はぁ? ないよ。お前にはニンジャを付けてるんだし、別にいらんだろ?」
「いるに決まってるでしょ! ないならまた作りなさいよ!」
「えぇぇ……。すまんリサ、また作ってもらえるか?」
「うん、わかった!」
ということで、ゴーレムがもう一体増えた。
名前はベロニカによってピノッキオと命名されたのだった。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
素質ナシの転生者、死にかけたら最弱最強の職業となり魔法使いと旅にでる。~趣味で伝説を追っていたら伝説になってしまいました~
シロ鼬
ファンタジー
才能、素質、これさえあれば金も名誉も手に入る現代。そんな中、足掻く一人の……おっさんがいた。
羽佐間 幸信(はざま ゆきのぶ)38歳――完全完璧(パーフェクト)な凡人。自分の中では得意とする持ち前の要領の良さで頑張るが上には常に上がいる。いくら努力しようとも決してそれらに勝つことはできなかった。
華のない彼は華に憧れ、いつしか伝説とつくもの全てを追うようになり……彼はある日、一つの都市伝説を耳にする。
『深夜、山で一人やまびこをするとどこかに連れていかれる』
山頂に登った彼は一心不乱に叫んだ…………そして酸欠になり足を滑らせ滑落、瀕死の状態となった彼に死が迫る。
――こっちに……を、助けて――
「何か……聞こえる…………伝説は……あったんだ…………俺……いくよ……!」
こうして彼は記憶を持ったまま転生、声の主もわからぬまま何事もなく10歳に成長したある日――
くじ引きで決められた転生者 ~スローライフを楽しんでって言ったのに邪神を討伐してほしいってどゆこと!?~
はなとすず
ファンタジー
僕の名前は高橋 悠真(たかはし ゆうま)
神々がくじ引きで決めた転生者。
「あなたは通り魔に襲われた7歳の女の子を庇い、亡くなりました。我々はその魂の清らかさに惹かれました。あなたはこの先どのような選択をし、どのように生きるのか知りたくなってしまったのです。ですがあなたは地球では消えてしまった存在。ですので異世界へ転生してください。我々はあなたに試練など与える気はありません。どうぞ、スローライフを楽しんで下さい」
って言ったのに!なんで邪神を討伐しないといけなくなったんだろう…
まぁ、早く邪神を討伐して残りの人生はスローライフを楽しめばいいか
人気MMOの最恐クランと一緒に異世界へ転移してしまったようなので、ひっそり冒険者生活をしています
テツみン
ファンタジー
二〇八✕年、一世を風靡したフルダイブ型VRMMO『ユグドラシル』のサービス終了日。
七年ぶりにログインしたユウタは、ユグドラシルの面白さを改めて思い知る。
しかし、『時既に遅し』。サービス終了の二十四時となった。あとは強制ログアウトを待つだけ……
なのにログアウトされない! 視界も変化し、ユウタは狼狽えた。
当てもなく彷徨っていると、亜人の娘、ラミィとフィンに出会う。
そこは都市国家連合。異世界だったのだ!
彼女たちと一緒に冒険者として暮らし始めたユウタは、あるとき、ユグドラシル最恐のPKクラン、『オブト・ア・バウンズ』もこの世界に転移していたことを知る。
彼らに気づかれてはならないと、ユウタは「目立つような行動はせず、ひっそり生きていこう――」そう決意するのだが……
ゲームのアバターのまま異世界へダイブした冴えないサラリーマンが、チートPK野郎の陰に怯えながら『ひっそり』と冒険者生活を送っていた……はずなのに、いつの間にか救国の勇者として、『死ぬほど』苦労する――これは、そんな話。
*60話完結(10万文字以上)までは必ず公開します。
『お気に入り登録』、『いいね』、『感想』をお願いします!
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる