異世界ネクロマンサー

珈琲党

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16 砂糖を作る

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「まだ見てない所がたくさんあるけど、どうするの?」

 リサが言うのは俺たちが住むこの森のことだ。

「う~ん、そうだな……。こないだの調査は結構大変だったなぁ」

「じゃぁ、森の探索はやめる?」

「いや、この森のことは知っておきたいから、続きはスケルトンたちにさせようかな。俺はスケルトンたちの目を通して物を見ることができるから、なんとかなるだろう」

「ひぇぇ~、何それ怖い……」

「そりゃあ、ネクロマンサーとして、これくらいできて当然だよ。あぁ、君は出来ないのか、フフフ……」

「何よ、偉そうに」

 リサが俺の脇腹をつねりあげる。

「ぐぇ! お前、握力強くなってないか?」

 ネクロマンサーとしての経験を積んだせいなのか知らないが、俺はスケルトンたちの記憶にアクセスすることができるようになっていた。さながらHDDレコーダーの映像記録を見るかのように、検索をかけたり、早送りしたりもできるのだ。
 説明するのが面倒なので、リサにはこのことは話していない。

『イチロウも腕を上げてきておるようじゃの』

『いつもスケルトンたちを使ってるから、自然に鍛えられるんだと思う』

『イチロウほどスケルトンを使いこなせておるネクロマンサーというのはちょっと珍しいかもしれん』


「とりあえず、汎用スケルトンをそれぞれの地域に向かわせて、適当に歩かせてやればなんとかなるだろう。奴らの位置もだいたいは把握できるしな」

 GPSもないのにどうやっているのかは不明だが、スケルトンたちはそこそこ正確に自分の位置を把握している。初めての場所に入っても、迷子になったりはしないのだ。

「死なせたりしたらダメだからね」

「分かってるって」

 リサはこの頃汎用スケルトンたちを自分の手下扱いしている。彼らにさまざまな手伝いをさせたり、いつの間にかそれぞれに名前まで付けているのだった。

「でもお前、スケルトンたちはペットじゃないんだからな。物として考えないとダメだぞ」

「えぇ~、でもぉ」

「奴らには何かの時に盾になってもらうこともあるんだ。情が移ると判断に迷いが出るからな」

「うん……」

「ゾンビなら掃いて捨てるほどいるんだがなぁ」

「もぅ!」

 ということで、俺はスケルトンたちからの情報を元に簡単な地図を少しずつ作っていくことにした。



 あるの日のこと。
 リサが畑の片隅を指さして言った。

「あれって、何だっけ。あんなの植えてた?」

「さぁ、ちょっと掘り出してみるか……」

 俺は大きな葉を付けた作物を引き抜いた。根の部分は大きく膨れていて、大根の出来損に見える。根菜のたぐいなのは確かだな。

「野生の大根が勝手に育ったのかもしれん」

 おれはそれを洗って噛り付いてみた。
 パリッ、シャクシャクシャク……

「おぉっ! これ甘いぞ!」

「えぇ!? 嘘ばっかり~」

 リサが横目で俺を見る。
 俺が時々適当な嘘を言ってからかうから、リサが疑うのは仕方がないんだけどな。

「いやいや、本当だって。かじってみろよ」

 リサは恐る恐る口に入れる。

「甘い! ナニコレ?」

「これは甜菜てんさいってやつじゃないかな。砂糖の原料になるんだよ」

「砂糖? 凄いよ!」

 早速、畑に生えている甜菜を収穫させた。
 どうやれば良いのか分からなかったので、良く洗った実をすりおろしてそれを布巾に包んでぎゅうっと絞って汁を取り出すことにした。こういう作業はスケルトンたちにさせると捗る。
 ほどなくして、甜菜の汁が鍋一杯に取れた。

「あとはこれを煮詰めてやれば砂糖が出来るはずだが。いや、ちょっとこれに乾燥の魔法をかけてみろ」

「うん、やってみる!」

 汁の水分があっという間に抜けて、お椀一杯ほどの分量の茶色の結晶が出来上がった。

「お~、出来たみたいだぞ」

 リサが茶色い結晶を一粒手に取って口に運んだ。

「砂糖だよ! あま~い!」

「どれどれ」

 うん、確かにこれは砂糖だ。少し土臭くて雑味があるが、甘味の貴重なこの世界ではこれで十分かもしれない。

「この作物を量産出来ればいいんだけどな」

「そうね……」


 翌朝。リサが畑の前で甜菜を手にうんうん唸っていた。

「おい、リサどうしたんだ?」

「今集中してるから!」

「そうか……」

 怒らせると怖いからそっとしておく。


 数日後。畑が甜菜だらけになっていた。

「なんじゃこりゃ!? リサ、お前何やったんだ?」

「……うん、これがたくさん生えたらいいなって思いながら、実りの魔法を使ってみた」

「んなー!」

 そんな馬鹿な。その理屈ならマツタケでもなんでも、好きなものを採り放題じゃないか。律儀に種をまいたのはなんだったのか……。

 まぁ、それはともかく、俺たちは甜菜をどんどん収穫して、ガンガン砂糖を作ったのだった。ほどなく、小屋にあった大甕おおがめが砂糖で一杯になってしまった。

「売るほどあるってのは、このことだな……」

「うん、容れ物がなくなっちゃった」

 リサは困りつつもご満悦の様子だった。

「容れ物か……」


「リサ、ちょっとマクド村に行ってくるよ」

「えぇ~! 言っとくけど、ゾンビは連れてきちゃダメだよ」

「分かってるって。日暮れまでには帰るから」

 こないだ帰って来た道を使えば早いはずだ。俺は護衛のニンジャを連れて、荷車を引いてマクド村に向かった。


 マクド村。正面入り口のアーチの文言を見ると、なんともいえない陰鬱いんうつな気持ちになる。ゾンビどもがウロウロしているし、夜には来たくない場所だな。

 俺は村に点在している家の中を物色した。やはり、ゾンビどもの警備のおかげか、家財道具は盗難などにあわず、家の中にそのままあった。木製品は家とともに朽ちてしまっているが、壺とか皿とかの陶器は無事だ。俺は使えそうなものを集めて、どんどん荷車に積み込んだ。

「まさか物にまで何か呪いがかかってるってことはないよな?」

「うむ、大丈夫じゃ。呪いがかかっておるのは元村人のみじゃ。物にはかかっておらん」

「そうか……」


「大事に使わせてもらうぜ。それじゃあな!」

 俺は近くを通ったゾンビにそう言い残して、マクド村を後にした。


 大荷物を抱えて小屋に帰ったら日が暮れていた。

「イチロウ、おかえり。結構あったんだね」

「まぁな。ほったらかしは勿体ないから、有効利用してやらんとな」

「うん。これだけ容れ物があれば、まだ砂糖が作れる!」

「えぇ~!」
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