28 / 29
28 ギルドの酒場で
しおりを挟む俺たちは例の組織の依頼を受けることにした。
街中に潜伏している改造人間を見つけ出し、討伐するのだ。
アマンダとケイトが情報集めをすることになった。元もと暗殺組織にいた彼女たちはその種の仕事を得意としているのだった。残った俺たち三人は、そういうことには全く役に立たないので、ギルドの酒場の隅の方で待機していた。
今日で依頼を受けてから三日目となるが、なんら進展はなかった。
「次はサンダーの番」
「ああ、すまん。はいよ」
「うわっ、そうきますか……」
待機といっても、ただ待つだけでは暇なので三人でトランプをしている。
ゲームの内容はウノにそっくりなやつ。たぶんどの国にもこういうのはあるんだろうな。ともかくこの手のゲームは疲れないし、時間を潰すにはもってこいだ。
昼間から酒は飲めないので、ルートビアに似たノンアルコールの炭酸飲料を飲んで、適当なつまみを適宜追加しながらゲームを楽しむのだった。真面目に働いている二人に怒られそうだな。
「おい、てめぇ!」
ふと目を上げると5人ほどの男たちが、俺たちのテーブルを半包囲している。俺の真後ろは壁なので誰もいない。全員鉄級の普通の冒険者だな。
「もしかして俺のこと?」
男たちの中でひときわ体の大きな男が吠える。
「昼間から良いご身分じゃねぇか。酒を食らいながら女とカードゲームかよ」
「うん? それがどうしたんだ?」
「そこは俺の席だ。失せな」
男が俺を睨みながら、テーブルを指さす。
「えぇ⁉ ここは別に予約席じゃないし。
座りたいなら他の空いたテーブルに行けよ」
「よそ者が! 大きな顔してんじゃねぇ、失せろ!」
「嫌なこったい。お前こそ大きな顔してんじゃねぇよ、ゴロツキが」
煽り気味の俺のセリフを聞いて、カーシャは渋い顔、メルキアは呆れたような顔でため息をついた。この後のことが予想できるのだろう。
男は怒りのためか顔面が赤黒くなり、プルプル小刻みに震えだした。
「て、てめぇ。いい加減にしねぇと、叩きのめすぞ!
いくらてめぇが手練れの魔法使いでも、詠唱よりも拳の方が速ぇんだ!」
「そうかぁ?」
「くそがぁ!!」
男が拳を振り上げたと同時に、衝撃の魔法を発動させ、男のみぞおちに叩きこんでやった。
「はうっ……」
白目をむいてうつ伏せに倒れる男を、男の仲間たちが信じられない様子で見る。
「それで、まだやるのか?」
「よ、4対1じゃ敵わんだろ? てめぇら同時に行くぞ!」
「「「おぅ!!」」」
男たちがダッと距離を詰めようとした瞬間、衝撃の魔法の連続発動、マシンガンブローを炸裂させる。四人は目を見開いてしばらく悶絶すると床に沈んだ。
「まったく、こんな雑魚相手に……」
メルキアは口の中でぶつくさ文句を呟く。
「ど、どうします?」
カーシャは泡を吹いている連中を見て、慌てている様子だ。
「死にはしないから放っておけ。連中には良い薬になる」
ギルドの入口の方から影がサッと入ってきた。
ケイトだ。足音も立てずにテーブルまでやって来て、ストンと椅子に座った。普段から気配が薄くて本当に忍者っぽい。
「ただいま」
「やあ、ご苦労。どうだった?」
「うん、だいたいの場所は分かったよ」
「そうか、おつかれさま」
アマンダが少し遅れて帰ってきた。
彼女はドスドスと足音を立てて堂々とした様子で歩いて来る。うっかり彼女と目を合わせてしまった冒険者が、鋭すぎる眼で睨み返されて小さくなってしまった。
アマンダはテーブルの周りに倒れている連中を見て顔をしかめる。
「なんだこいつら?」
「ハエがたかって来たから、落としてやったんだ」
「はははは、なるほどなぁ。
あたし達がいないうちに、サンダーをへこまそうとか考えたんだろうな」
「馬鹿だよね。一番手を出したらダメな人でしょ。
私たちならあっさり首を刎ねちゃうけど、サンダーのあれはキツイよね」
「だな。あたしも死ぬかと思ったよ。あれは地獄だ」
前に一度、試しに撃ってくれとアマンダに頼まれたことがあるのだ。あたしには分厚い筋肉があるから大丈夫だからとか言ってしつこいので、撃ったのだが……。
「あれは見ものだったねぇ。はっはっは」
「アマンダは一度死なないと直らないと思う」
「あんな馬鹿なことはやめてくださいね」
「もう二度とやらねぇよ。今思い出しても漏らしそうだぜ」
アマンダは倒れている連中に若干の同情的な視線を送った。
「メルキアも衝撃の魔法が使えるだろ?
練習すればできるようになるぞ」
「そうか! アマンダ、練習台になって」
「なるわけないだろうが、馬鹿か!」
「ともかく、二人ともお疲れ様。
飯でも食いながら打ち合わせをしようぜ。
俺のおごりだから、皆好きなの頼んでいいぞ」
「そいつはありがたいねぇ」「うひょー、太っ腹!」
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
解体の勇者の成り上がり冒険譚
無謀突撃娘
ファンタジー
旧題:異世界から呼ばれた勇者はパーティから追放される
とあるところに勇者6人のパーティがいました
剛剣の勇者
静寂の勇者
城砦の勇者
火炎の勇者
御門の勇者
解体の勇者
最後の解体の勇者は訳の分からない神様に呼ばれてこの世界へと来た者であり取り立てて特徴らしき特徴などありません。ただひたすら倒したモンスターを解体するだけしかしません。料理などをするのも彼だけです。
ある日パーティ全員からパーティへの永久追放を受けてしまい勇者の称号も失い一人ギルドに戻り最初からの出直しをします
本人はまったく気づいていませんでしたが他の勇者などちょっとばかり煽てられている頭馬鹿なだけの非常に残念な類なだけでした
そして彼を追い出したことがいかに愚かであるのかを後になって気が付くことになります
そしてユウキと呼ばれるこの人物はまったく自覚がありませんが様々な方面の超重要人物が自らが頭を下げてまでも、いくら大金を支払っても、いくらでも高待遇を約束してまでも傍におきたいと断言するほどの人物なのです。
そうして彼は自分の力で前を歩きだす。
祝!書籍化!
感無量です。今後とも応援よろしくお願いします。
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる