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24 荒野での野営
しおりを挟む俺たちは苦戦しつつもゴブリン軍団を殲滅した。
ゴブリンの死体の臭いを嗅ぎつけて、他の魔物が寄ってくるかもしれない。俺たちは戦利品を回収すると早々に戦場を後にした。
しばらく歩くと、背の低い茂みが点在する場所に出た。
「この辺りが良いんじゃない?」
斥候のケイトが言うのだから、たぶん間違いないだろう。
「よし。野営の準備をするぞ」
手分けをして枯れ木を集めて、火を起こす。
昼間は日差しが暑いくらいだが、日が落ちると一気に肌寒くなるのだ。
「食事の用意をするから、ケイトとアマンダは周囲の警戒をしていてくれ」
「おぅ!」「了解」
まな板の上に野菜や肉をドサドサと取り出す。他にもナイフとお玉と寸胴鍋と……。俺が次々に物を取り出す様子を見て、メルキアは目を丸くするのだった。
「こんなの反則よ……」
「カーシャとメルキアは野菜の皮をむいて、適当な大きさに切ってくれ」
「はい」「わかった」
俺はその間にサンドイッチを量産する。料理をする暇がない時もあるだろうから、この機会に多めに作っておくことにした。魔法を使って小腹がすいたときなどに、手軽に栄養補給できれば何かと助かるしな。マジックポケットに入れておけば、ずっと新鮮なままだし、ばらけたりもしないし。
出来上がったサンドイッチを一つ手に取って味見をしてみる。
「しゃくしゃくむぐむぐ……。
む! 新しく買ったソースが良い感じにマッチしてるぞ」
具はほとんど同じなのに、前に作ったサンドイッチよりも数段美味い。物欲しそうな顔で見ていたカーシャとメルキアにも食べさせてみる。
「しゃくしゃく……。おいしい! 前にもらったのより美味しいです」
「もしゃもしゃ……。こ、これは!」
「たぶんソースの違いだな。新しいやつは香辛料が効いている」
サンドイッチを作り終えて、今度は寸胴鍋で細かく切った肉を油で炒める。切った野菜もどんどん放り込んで、全体に軽く火を通した。あとは水を入れてしばらく煮込むだけだ。
「カーシャの温めの魔法は料理に使えるのか?」
「さあ、どうでしょう……」
カーシャは首をかしげつつ、ワンドを振って寸胴鍋に魔法をかける。そのとたん、鍋の中からぐつぐつと音がして、あっという間に野菜に火が通ってしまった。
「おぉ⁉ これは凄いぞ!」
魔法をかけたカーシャ自身もビックリしている。
「こんな魔法だったとは……」
以前はもっと微妙な効果の魔法で、あまり使わなかったのだと言う。
「魔法の腕が全体的に上がったんじゃないのか?
この旅で、洗濯の魔法や治療の魔法をたくさん使ったからな」
「なるほど、そうかもしれませんね」
「さすがサンダーの嫁……」
仕上げに市場で買った固形のスープの素を味を見ながら入れていくと、具だくさんのコンソメスープが出来上がった。
「晩飯ができた。アマンダとケイトを呼んできてくれ」
薄闇が広がり始めたころ、皆で焚火を囲んでスープとパンの質素な食事をとった。
「なかなかうめぇな」
「わぁ、具が一杯だよ」
「……おいしい」
「ニールの宿で食べたご飯とよく似てます」
スープの味はなかなか好評だった。
味付けはスープの素だよりで特に手は加えてない。あの宿も同じものを使っていたのだろうか。一食200ジェニーだったが、自分で作るとずっと安く上がった。
「たくさん作ったから、どんどん食ってくれよ」
「おかわり!」
アマンダがスープをあっという間に平らげてしまう。
「え⁉ お前、ちゃんと味わってるのか?」
仕方がないので一回り大きめの皿を出して、それに山盛りにしてやった。
「ほらよ」
「お! ありがたいねぇ」
寸胴一杯に作っていたスープ。残った分を明日の朝飯に流用しようと思っていたが、結局綺麗さっぱり皆の胃袋に収まった。皆スリムに見えるが、食欲旺盛だな。
「ふぅ、ごちそうさん」
「おいしかったよ」
「満足」
「ごちそうさまでした」
次はもう一回り大きい鍋で作ろうと思ったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「昼間の戦いを見て思ったんだが、アマンダとケイトはただ者じゃないよな。
アマンダの剣技にしてもケイトの手刀にしても、とても普通とはいえん。
もしかして、伊賀の里とか虎の穴とかの出身なのか?」
「……イガの里や虎の穴は知らんが、あたし達はちょっと訳ありでね」
珍しくアマンダが言いにくそうな顔をする。
「そうか。言えないなら別に構わんよ」
冒険者は脛に傷のある者が多い。過去をあまり詮索するのはトラブルの元だ。
「同じパーティー仲間なんだし、別にいいじゃん」とケイト。
「うん、そうだな……。
あたしとケイトは元は暗殺組織の人間でね、汚い仕事もいろいろやってたんだ。
だからあたし達の技は、まっとうな剣術じゃなくて暗殺術なんだよ」
「なるほど、話には聞いていたが見るのは初めてだ。
それにしても暗殺者ならもっと陰惨な雰囲気をしてるもんだが、
俺が見たところいたって普通な感じだな」
「まぁ、あたし達は仕事と割り切ってたからな」
「長くやってると人格変わるらしいけど、ほんの数年だしね」
「ふ~ん。じゃあメルキアも特殊な組織の魔法使いなのか?」
「……」
メルキアを見るが口を閉じて話す気はなさそうだ。
「彼女は家出少女よ」
「ちょっと、ケイト!」
普段大人しいメルキアが慌てる。
「良いじゃないのよ。
彼女はさる貴族様のお嬢さんよ。
それで親が決めた婚約者が気に入らなくて家を飛び出して、
いろいろあって私たちと知り合ったってわけ」
「もう!」
「な! お貴族様かよ……。家に帰った方が良くないか?」
「いや」
「あたし達も説得したんだけどねぇ。意志が固いみたいでね」
「しょうがねぇなぁ……」
「サンダーの旦那こそどうなんだよ? あんたもただ者じゃねぇよ」
「たしかにね」「その通り」
「俺か……。俺はこの世界の人間じゃない。
別の世界から次元を超えてやって来た異世界人なんだ。
神より特殊な能力を授かりし異邦人、それこそが雷のサンダーなのだ!」
「「「……」」」
アマンダ、ケイト、メルキア、三人の目が点になる。そして、
「「はっはっはっはっはっ!!」」
「ぷふぅぅ」
アマンダとケイトは涙を流して大爆笑し、メルキアも我慢できずに吹き出す。真面目な顔をしているのはカーシャだけだった。
「作り話にしても突拍子がなさすぎるぜ、ハッハッハ」
「なんだよ、人が真面目に話したのに……」
「私はサンダーさんを信じますよ」
カーシャは真っすぐな瞳で俺を見る。
「俺の味方はカーシャだけだよ」
「じゃあカーシャはサンダーの嫁なのか?」
アマンダがまたいつものように親父ギャグをかまして、カーシャが赤くなる。
「違うって! 何が『じゃあ』だよ。ニールの町で雇ったんだよ。
それでその後でパーティーのメンバーになった。普通の生活魔法の使い手だよ」
「「「ふ~ん……」」」
「お、お前ら!」
「はっはっはっ、しかし異世界人はねぇよな」
「やっぱり冗談のセンスがただ者じゃないね」
「その発想はなかった。異世界人とは、ぷふぅぅ……」
彼女たち三人は、異世界人をネタに夜遅くまで笑っていた。
楽しくてなによりだ。
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