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22 出発の準備

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 俺とカーシャの二人だけだったパーティーに、もう三人加わることになった。
 女戦士のアマンダ、くノ一のケイト、赤魔法使いのメルキア。三人とも若い鉄級冒険者だが、落ち着いた物腰で頼りになりそうではある。

「ちょっと市場に寄って、買い物していこうぜ」

「サンドイッチの材料を買うんですか?」

 カーシャは俺が作る味がいまいちのサンドイッチを、なぜか気に入っているのだった。そういえばサンドイッチはもう品切れだ。また作らないといけない。

「特にサンドイッチというわけじゃないが、食料と飲み物がたくさんいるぞ。
 五人で十日分くらいは見積もっておくか」

「アマンダ、お前たちは飲み物を買い集めてくれないか?
 俺たちは食べ物を買いに行くから。後でそこの広場で落ち合おう」

「わかった。でも、荷車が要るんじゃないか?」

「そうだなぁ……」

 マジックポケットのことを言うべきか迷うが、それはしばし保留だ。
 アマンダに金貨を10枚ほど渡す。50万ジェニーもあればなんとかなるだろう。

「もし買えるようならこれで頼む」

「お、おぅ」


 ヨルデノールの町はデサントスに比べると小さく寂れてはいるが、それでもそれなりの大きさの市場はあった。

 よく見かける硬いパン、卵、鶏肉や獣の肉、調理用の油、各種の野菜や果物、野菜を煮詰めたソースや塩や蜂蜜といった調味料の数々。俺たちは片っ端から目に付いた物を次々に買い込んでいくのだった。マジックポケットがあるので、運搬の心配や、食べ物が傷む心配をしなくていい。なんと楽なことか。
 夏が過ぎて、朝晩がやや肌寒くなってきたので冬用の衣類も買っておいた。

「よし、こんなものだろう」

「あの、調理用の鍋や食器などは?」

「心配するな、この中に入ってるから」

 俺は肩から掛けているカバンを指さす。
 マジックポケットには、俺の持ち物が全て収まっているのだった。

「まさか、本当ですか?」

 カーシャが疑わしい様子で俺を見る。少し大きめの寸胴鍋を取り出して見せると、ひっくり返って驚いた。

「えぇ⁉ 前から聞きたかったんですが、本当にどうなってるんですか?
 どう見てもそのカバンよりも大きいですよね」

「ふふん、魔法だよ、魔法」

 慣れないウインクで誤魔化す。

「ぇぇ……」

 カーシャは今一つ納得していない様子だ。

「さて、待ち合わせ場所に戻ろうか」

「はい」



 待ち合わせ場所には、元黒百合の三人が先に戻っていた。
 大八車のような、車輪まで木で出来た小ぶりのリアカーがあり、それに飲み物の樽がいくつも載っている。

「うん? 食べ物は買えなかったのか?」

 アマンダや他の二人も不思議そうな顔をしている。

「いや、タップリ買ったぞ」

 俺は食料を次々と取り出して、リアカーの上に山積みにしてみせる。

「はぁぁ⁉」「うそぉ」「ば、ばかな!」

 三人は目をむいて驚く。

「見ての通り十分に買ってあるから心配ないよ」

 出した食料は邪魔になるので、さっさとマジックポケットに片付けた。

「「「えぇぇぇ!」」」

 三人はまたのけぞって驚いた。

「ちょっ、ちょっと説明が欲しい」

 普段おとなしいメルキアが真っ先に口を開いた。よほど気になるのだろう。

「ふふっ。魔法だよ、魔法」

 慣れないウインクで誤魔化そうとするが、

「私だって魔法使いのはしくれ、そんな魔法は聞いたことがない」

 と言って、思いの外しつこく食い下がってくる。

「メルキア。まだまだ君は勉強不足だな。
 空間魔法を極めれば、こういう応用技が使えるんだよ。
 もちろん詳細は教えられないがな」

 当然適当な嘘だが、いかにもそれっぽい嘘なら看破できまい。

「そ、そうだったのか……」

 メルキアは愕然とした様子で、力なく地面にしゃがみ込んだ。

「まあせいぜい、魔法の修行に励むことだな。ふふふ」

 カーシャは何かに気が付いているのか、俺を微妙な目つきで見る。

「さて、飲み物を調べておくかな」

 ひとつひとつの樽に識別の魔法をかけていく。腐った水を飲みたくはないからな。結果、ほとんどが新鮮な井戸水だった。ワインの樽もいくつかある。

「むむ、これは酢になっているぞ」

 発酵が進んで天然のワインビネガーになったのだろう。

「マジか⁉ 交換してくるか?」

「いや、これはこれで調味料として使えるから構わないよ」

 飲み物の樽は少々重いが、試してみるとマジックポケットに収まった。
 これはいけるということで、俺は次々と飲み物の樽も片付けていった。

「へっ⁉」「うひゃっ!」「こ、これが銀級……」

 よほどショックだったのか、三人は目が点になってしばらく固まっていた。
 カーシャは俺の異常さに慣れてしまったのか、何も言わず平然としている。

「これでよし! じゃあ、出発するか!」

「お、おぅ。でも荷車いらなかったんじゃないか?」

「これはこれで、何かを運ぶことがあるかもしれないだろ?
 せっかく買ったんだから持っていこうぜ」


 俺たち五人は空のリアカーを引いて、荒野に旅立つのだった。




□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

◎お金の設定

  5万ジェニー金貨

  1万ジェニー銀貨
  5千ジェニー銀貨
  1千ジェニー銀貨
 500ジェニー銀貨

 100ジェニー銅貨
  50ジェニー銅貨
  10ジェニー銅貨

   5ジェニー鉄貨
   1ジェニー鉄貨


 以上の硬貨が流通しています。紙幣はありません。
 1ジェニーは約1円です。

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