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サリュウは王都の北の外れにある広大なゴルゴンの屋敷に降り立った。銀色の三匹の蛇が絡み合った飾り模様のついた門扉をギギギとこじ開けて、キリリと歯を食いしばった。
ゴルゴンは表向き居酒屋や宿屋を営む健全な経営者だが、その実は王都の『闇』商人、恐喝・強盗・殺人、そして人身売買と手広く行っている。しかし悪行の尻尾を掴ませない巧妙さで逮捕することは出来なかった。
「どうするよ、ここは俺たち魔導師団には管轄外だ。」
サリュウの後を追って来たグレアムは屋敷の前で唸った。
「理由など何でも良い。メリナと一緒にいた娘を連れ去ったのはゴルゴンだ。彼女の行方をゴルゴンが知っているかもしれない。」
呼び鈴を鳴らすと、すぐに中から老齢の執事が現れた。
「これは王宮のメイリード師団長さま。今日はどのような御用件で?」
「ご主人のゴルゴンさんはいるか。話を聞きたいのだ。」
「ただいまは来客中でして。」
「構わない、通せ。」
ドンと執事を突き飛ばすと、サリュウはローブを翻し屋敷の中に踏み行った。
「お待ちください、メイリードさま。」
「お前たちが連れ去った娘はどこだ!」
「連れ去るなどとは、言いがかりにございます。」
騒ぎを聞きつけ近くの部屋から警備の男たちが飛び出してきたが、サリュウが右手を振り上げ疾風を起しあっという間になぎ倒した。すると、奥の部屋から老婆が現れた。
「これはこれは、王宮の色男さん、いったいこんな夜遅くに何のようだい?」
「ゴルゴン殿、俺が来た理由に見当はつかぬのか?」
「はて、なんだかねぇ、年寄りは早寝をするものだ。用なら明日にしておくれよ。」
「しらばっくれるな!私の花嫁が連れ去られた。その娘を返してもらおう!」
「言いがかりもたいがいにしなさいよ。」
ホホホと笑い、ゴルゴンは奥の部屋のドアを開け、その中に引きこもろうとした。不意に花の香りを感じた。
「これは……この香りは!」
サリュウはダッと走り出し、ゴルゴンを突き飛ばして部屋に飛び込んだ。
中には背の高い黒いドレスの中年女が一人、威圧するように彼を睨みつけていた。その後ろに金髪の白雪のような白い肌の少女が怯えたように身を縮め、そして栗色の髪の少女が驚いたように目を丸くしていた。
「……メリナ、メリナなのか!」
「サリュウさん、どうしてここに!?」
「やっと見つけた、さあおいで!」
「行かせはしないよ、この娘たちは私の獲物なんだ!」
ゴルゴンは電撃を放った。まともに食らったサリュウはその場に崩れ落ちた。
「サリュウ!」
慌ててグレアムが駆け寄ると、さらにゴルゴンは彼にも電撃を浴びせた。床に転がった魔導師たちをドンと蹴飛ばし、ゴルゴンはコーエンに目配せした。
「面倒なことになったねぇ。とりあえずこの娘たちを別な場所に運ぶよ。お前も手伝っておくれ。」
「畏まりました。」
コーエンはメリナとゾフィをまとめて麻袋の中に閉じ込めた。突然の信じがたい出来事に、メリナは動転した。
「先生、どうしたんですか、コーエン先生!」
「バカな娘だ。大人しく山奥でお前のいかれた親父と暮らしていればよかったのに。」
じたばたと袋の中で暴れたが、脱出することは出来なかった。
「メリナさん、私たち、どうなるの?」
「大丈夫、絶対何とかしてみせる!」
涙を流して縋りつくゾフィをメリナは固く抱きしめた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
テオはユバレドを馬車に乗せライツフェルト男爵の屋敷を訪れた。男爵夫人が血の繋がらない娘を売り飛ばそうとしたことを確認した後、遅れてゴルゴンの屋敷に到着した。
玄関の扉を蹴り開け中に踏み入ると、荒くれ男どもがゴロゴロと床に転がり呻き声を上げていた。いずれも大きな怪我は無いが受けたダメージは大きかったようだ。
「サリュウの奴、相変わらず手際が良いな。」
クククと笑いテオは男どもを踏み越え平然と先を進む。目指す場所は屋敷の一番奥のようだ。ユバレドは粗暴な行為に嫌悪を露わにしながら彼のあとを追った。
部屋を覗いて驚いた。サリュウとグレアムが二人揃って床に転がっていたからだ。そして見知らぬ少女が一人、必死で彼らを介抱していた。
「どうしたのだ、一体!」
少女はハッとして振り返り、テオとユバレドに縋りつくような目を向けた。
「王宮の魔導師団の方ですか?この方たちは私が到着した時はすでに意識が無くて、私の治癒魔法ではとても回復出来ないほど酷くて……」
「心配はいらないよ、私が今すぐ治療しよう。」
ハラハラと涙を流す少女の頭を撫でて慰め、ユバレドは症状の重いサリュウに手を当て呪文を唱えた。「ううっ」と呻くとやっと目を開け、サリュウはユバレドとテオ、そして見知らぬ少女を眺めた。
「す……すまない……油断して、ゴルゴンの電撃を、浴びてしまった。」
「で、お前の花嫁はどこだ?」
ハッとしてサリュウは部屋を見回した。メリナの姿は無く、一緒に居た少女もゴルゴンも背の高い中年女も消え失せていた。
「先輩はきっと連れ去られたんです。今、ブライアンが、私の友達が後を追っています!」
「君は?」
「私は魔術高等学院のエリーザ・オズワルド。メリナ先輩には在学中にお世話になりました。さっき、先輩が女の子を連れて匿ってくれと学院に来て、コーエン先生が女の子を助けるためだって先輩達をこの屋敷に連れて来て……でも、ブライアンが怪しいって言ったんです。北の屋敷と言えば、悪党ゴルゴンの屋敷じゃないかって、それで私たちこっそり後をつけて来たんです!」
「ゴルゴンと一緒にいたのは、確かに魔術学院のコーエン学院長だったぞ。なんであの方がゴルゴンなんぞと手を組んでいるんだ?」
「コーエンめ、ついに悪事に手を染めたのか!」
サリュウのあとから意識を取り戻したグレアムはぶつけた頭を押さえて唸り、ユバレドはギリギリと歯を噛みしめた。その横で、突然テオが思い出し笑いをした。
「それはそうとお前の嫁さんは、かーなーりーのお転婆らしいぞ。大の男を一人は錯乱状態にして、一人は一撃で意識を失わせたと、ライツフェルトの奥方が怯えていたんだ。」
「ほほう、それは勇ましい!さすがは我が花嫁だ。」
「なんと嘆かわしい!『催眠の術』も『麻酔の術』も高等な治癒魔法だと言うのに、我が娘ともあろうものがそれを悪用するとは!」
「お義父さま、機転が利くと誉めてやってくださいよ。」
上機嫌に微笑むサリュウの隣りで、ユバレドはイライラと地団駄を踏んだ。
「あの、もしかして、あなたはメイリード師団長ですか?て言うか、花嫁ってメリナ先輩のこと?」
エリーザが頬を染めサリュウを見上げた。
「そうだ、メリナは我が花嫁。私に逢いに来たところを誘拐されてしまったのだ。」
「素敵!だから先輩はあのチョーカーを首に巻いていたのですね!でも、先輩は花嫁になるって一言も言っていなかったわ?」
「フフフ、求婚はこれからだからね。さあ、一刻も早くメリナを助け出さねば!」
サリュウはローブを翻し、屋敷の外に出た。クロツグミがトゥルルと夜空を舞っていた。エリーザを見つけると急降下し、肩に止まってチチチと鳴いた。
「ブライアンからです。先輩たちは王宮の東側にある小屋に連れて行かれたそうです!」
「分かった、すぐに向かおう!しかし、その鳥はなんだい?」
「この子は雛の頃に巣から落ちて死に掛けていたところをメリナ先輩が助けて育てたんです。だから先輩とは仲良しなのですよ。」
「そうか、メリナは心優しき娘なのだな。ますます気に入った!」
まだ身体が痺れているグレアムをユバレドとエリーザに託し、サリュウとテオは欠けた月の輝く夜空へ舞い上がった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
メリナとゾフィは麻袋の中にひとまとめに閉じ込められ、そのままズルズルと地面を引きずられ運ばれた。ゴツゴツとぶつかるたびに擦り傷が出来る。メリナはゾフィを庇いながら早く止まれと祈り続けた。
やがて、目的地に到着したらしく、麻袋の入口が開けられ、やっと呼吸も楽になった。
おんぼろ小屋の中には、ゴルゴンとコーエン、そして屋敷の執事、その他に美しい金髪に輝く青い瞳の女性が一人いて、ぐるりとメリナとゾフィを取り囲んでいた。
「おばあさま、ワタクシをこんな場所に呼び出すなんてあんまりですわ。」
「仕方が無かろう、クラウディア。私らも急いでおったのだ。なにしろ私にはお前の父の呪いが掛っておって王城に入ることが出来ぬからな。」
「それで、どちらの女がワタクシのサリュウを惑わしたのですか?」
ホホホと笑い、ゴルゴンはメリナを蹴とばした。クラウディアと呼ばれた女はキっと目を吊り上げメリナを睨みつけた。
「ごらんよそのチョーカーを。お前がねだったものだろう?女もろとも運よく手に入ったのだよ。」
「なんてこと!こんな醜い女がワタクシのサリュウのチョーカーをしているだなんて!」
クラウディアが怒り狂ってメリナの首元に掴みかかった。突然ドンと稲光が走り、クラウディアは「ギャー!」と雄叫びをあげ尻もちをついた。
「生意気な男だね。呪いを掛けて、この娘以外のものがチョーカーに触れることを拒んでいるのだ。」
メリナはハッとチョーカーに触れた。サリュウさんが私を守ってくれている……そう思ったら途端に勇気が湧いてきた。
「さて、この娘はお前にやろう。首を切り落としてチョーカーを奪えばいいさ。こっちの娘は私が連れて行く。砂漠の国の王からの依頼でね、金髪に青い目の小娘が欲しいんだとよ。この子ならどれだけ吹っかけても相当な高値で買い取ってもらえるだろう。」
「分かったわ。さあおいで!そのチョーカーをワタクシに寄越しなさい!」
クラウディアに髪を掴まれ、メリナは床を引きずられた。
「痛いっ、痛いぃぃぃーっ!」
「メリナさんを離して!」
メリナの横で小さく縮こまっていたゾフィが意を決してクラウディアに体当たりした。ゴロゴロと一回転して泥だらけになったクラウディアは目を剥いてゾフィに殴りかかった。
「よくもやったわね!」
「ぎゃあああ!」
雄叫びが上がり、メリナは驚いて振り向いた。電撃が次々とゴルゴンとコーエンと執事を襲い、彼らはばたばたと倒れていった。
開かれた小屋の入口から、ブライアンがメリナに駆け寄った。
「大丈夫ですか、先輩!」
「ブライアン、どうしてここに?」
「先輩たちの後をつけて来たんです、コーエン先生の言うことが信じられなくて……」
「どうして、コーエン先生が……私を騙すなんて……」
「分かりません、とにかくここから逃げましょう!」
ブライアンはメリナとゾフィの手を取った。
「お待ちなさい、逃がしはしないわよ!」
クラウディアが先回りして小屋の入口を塞ぎ、叫び声を上げた。それと同時に護衛の兵士たちがわらわらと小屋を取り囲んだ。ブライアンは兵士たちに電撃を浴びせ、彼らをなぎ倒した。
「こっちです!俺についてきてください!」
ブライアンは迷わず小屋の奥に走った。そして、暖炉に潜り込み奥の壁を突き破った。その先に階段があり薄暗い通路が現れた。促されるままにメリナとゾフィは飛び込んだ。
ゴルゴンは表向き居酒屋や宿屋を営む健全な経営者だが、その実は王都の『闇』商人、恐喝・強盗・殺人、そして人身売買と手広く行っている。しかし悪行の尻尾を掴ませない巧妙さで逮捕することは出来なかった。
「どうするよ、ここは俺たち魔導師団には管轄外だ。」
サリュウの後を追って来たグレアムは屋敷の前で唸った。
「理由など何でも良い。メリナと一緒にいた娘を連れ去ったのはゴルゴンだ。彼女の行方をゴルゴンが知っているかもしれない。」
呼び鈴を鳴らすと、すぐに中から老齢の執事が現れた。
「これは王宮のメイリード師団長さま。今日はどのような御用件で?」
「ご主人のゴルゴンさんはいるか。話を聞きたいのだ。」
「ただいまは来客中でして。」
「構わない、通せ。」
ドンと執事を突き飛ばすと、サリュウはローブを翻し屋敷の中に踏み行った。
「お待ちください、メイリードさま。」
「お前たちが連れ去った娘はどこだ!」
「連れ去るなどとは、言いがかりにございます。」
騒ぎを聞きつけ近くの部屋から警備の男たちが飛び出してきたが、サリュウが右手を振り上げ疾風を起しあっという間になぎ倒した。すると、奥の部屋から老婆が現れた。
「これはこれは、王宮の色男さん、いったいこんな夜遅くに何のようだい?」
「ゴルゴン殿、俺が来た理由に見当はつかぬのか?」
「はて、なんだかねぇ、年寄りは早寝をするものだ。用なら明日にしておくれよ。」
「しらばっくれるな!私の花嫁が連れ去られた。その娘を返してもらおう!」
「言いがかりもたいがいにしなさいよ。」
ホホホと笑い、ゴルゴンは奥の部屋のドアを開け、その中に引きこもろうとした。不意に花の香りを感じた。
「これは……この香りは!」
サリュウはダッと走り出し、ゴルゴンを突き飛ばして部屋に飛び込んだ。
中には背の高い黒いドレスの中年女が一人、威圧するように彼を睨みつけていた。その後ろに金髪の白雪のような白い肌の少女が怯えたように身を縮め、そして栗色の髪の少女が驚いたように目を丸くしていた。
「……メリナ、メリナなのか!」
「サリュウさん、どうしてここに!?」
「やっと見つけた、さあおいで!」
「行かせはしないよ、この娘たちは私の獲物なんだ!」
ゴルゴンは電撃を放った。まともに食らったサリュウはその場に崩れ落ちた。
「サリュウ!」
慌ててグレアムが駆け寄ると、さらにゴルゴンは彼にも電撃を浴びせた。床に転がった魔導師たちをドンと蹴飛ばし、ゴルゴンはコーエンに目配せした。
「面倒なことになったねぇ。とりあえずこの娘たちを別な場所に運ぶよ。お前も手伝っておくれ。」
「畏まりました。」
コーエンはメリナとゾフィをまとめて麻袋の中に閉じ込めた。突然の信じがたい出来事に、メリナは動転した。
「先生、どうしたんですか、コーエン先生!」
「バカな娘だ。大人しく山奥でお前のいかれた親父と暮らしていればよかったのに。」
じたばたと袋の中で暴れたが、脱出することは出来なかった。
「メリナさん、私たち、どうなるの?」
「大丈夫、絶対何とかしてみせる!」
涙を流して縋りつくゾフィをメリナは固く抱きしめた。
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テオはユバレドを馬車に乗せライツフェルト男爵の屋敷を訪れた。男爵夫人が血の繋がらない娘を売り飛ばそうとしたことを確認した後、遅れてゴルゴンの屋敷に到着した。
玄関の扉を蹴り開け中に踏み入ると、荒くれ男どもがゴロゴロと床に転がり呻き声を上げていた。いずれも大きな怪我は無いが受けたダメージは大きかったようだ。
「サリュウの奴、相変わらず手際が良いな。」
クククと笑いテオは男どもを踏み越え平然と先を進む。目指す場所は屋敷の一番奥のようだ。ユバレドは粗暴な行為に嫌悪を露わにしながら彼のあとを追った。
部屋を覗いて驚いた。サリュウとグレアムが二人揃って床に転がっていたからだ。そして見知らぬ少女が一人、必死で彼らを介抱していた。
「どうしたのだ、一体!」
少女はハッとして振り返り、テオとユバレドに縋りつくような目を向けた。
「王宮の魔導師団の方ですか?この方たちは私が到着した時はすでに意識が無くて、私の治癒魔法ではとても回復出来ないほど酷くて……」
「心配はいらないよ、私が今すぐ治療しよう。」
ハラハラと涙を流す少女の頭を撫でて慰め、ユバレドは症状の重いサリュウに手を当て呪文を唱えた。「ううっ」と呻くとやっと目を開け、サリュウはユバレドとテオ、そして見知らぬ少女を眺めた。
「す……すまない……油断して、ゴルゴンの電撃を、浴びてしまった。」
「で、お前の花嫁はどこだ?」
ハッとしてサリュウは部屋を見回した。メリナの姿は無く、一緒に居た少女もゴルゴンも背の高い中年女も消え失せていた。
「先輩はきっと連れ去られたんです。今、ブライアンが、私の友達が後を追っています!」
「君は?」
「私は魔術高等学院のエリーザ・オズワルド。メリナ先輩には在学中にお世話になりました。さっき、先輩が女の子を連れて匿ってくれと学院に来て、コーエン先生が女の子を助けるためだって先輩達をこの屋敷に連れて来て……でも、ブライアンが怪しいって言ったんです。北の屋敷と言えば、悪党ゴルゴンの屋敷じゃないかって、それで私たちこっそり後をつけて来たんです!」
「ゴルゴンと一緒にいたのは、確かに魔術学院のコーエン学院長だったぞ。なんであの方がゴルゴンなんぞと手を組んでいるんだ?」
「コーエンめ、ついに悪事に手を染めたのか!」
サリュウのあとから意識を取り戻したグレアムはぶつけた頭を押さえて唸り、ユバレドはギリギリと歯を噛みしめた。その横で、突然テオが思い出し笑いをした。
「それはそうとお前の嫁さんは、かーなーりーのお転婆らしいぞ。大の男を一人は錯乱状態にして、一人は一撃で意識を失わせたと、ライツフェルトの奥方が怯えていたんだ。」
「ほほう、それは勇ましい!さすがは我が花嫁だ。」
「なんと嘆かわしい!『催眠の術』も『麻酔の術』も高等な治癒魔法だと言うのに、我が娘ともあろうものがそれを悪用するとは!」
「お義父さま、機転が利くと誉めてやってくださいよ。」
上機嫌に微笑むサリュウの隣りで、ユバレドはイライラと地団駄を踏んだ。
「あの、もしかして、あなたはメイリード師団長ですか?て言うか、花嫁ってメリナ先輩のこと?」
エリーザが頬を染めサリュウを見上げた。
「そうだ、メリナは我が花嫁。私に逢いに来たところを誘拐されてしまったのだ。」
「素敵!だから先輩はあのチョーカーを首に巻いていたのですね!でも、先輩は花嫁になるって一言も言っていなかったわ?」
「フフフ、求婚はこれからだからね。さあ、一刻も早くメリナを助け出さねば!」
サリュウはローブを翻し、屋敷の外に出た。クロツグミがトゥルルと夜空を舞っていた。エリーザを見つけると急降下し、肩に止まってチチチと鳴いた。
「ブライアンからです。先輩たちは王宮の東側にある小屋に連れて行かれたそうです!」
「分かった、すぐに向かおう!しかし、その鳥はなんだい?」
「この子は雛の頃に巣から落ちて死に掛けていたところをメリナ先輩が助けて育てたんです。だから先輩とは仲良しなのですよ。」
「そうか、メリナは心優しき娘なのだな。ますます気に入った!」
まだ身体が痺れているグレアムをユバレドとエリーザに託し、サリュウとテオは欠けた月の輝く夜空へ舞い上がった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
メリナとゾフィは麻袋の中にひとまとめに閉じ込められ、そのままズルズルと地面を引きずられ運ばれた。ゴツゴツとぶつかるたびに擦り傷が出来る。メリナはゾフィを庇いながら早く止まれと祈り続けた。
やがて、目的地に到着したらしく、麻袋の入口が開けられ、やっと呼吸も楽になった。
おんぼろ小屋の中には、ゴルゴンとコーエン、そして屋敷の執事、その他に美しい金髪に輝く青い瞳の女性が一人いて、ぐるりとメリナとゾフィを取り囲んでいた。
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「仕方が無かろう、クラウディア。私らも急いでおったのだ。なにしろ私にはお前の父の呪いが掛っておって王城に入ることが出来ぬからな。」
「それで、どちらの女がワタクシのサリュウを惑わしたのですか?」
ホホホと笑い、ゴルゴンはメリナを蹴とばした。クラウディアと呼ばれた女はキっと目を吊り上げメリナを睨みつけた。
「ごらんよそのチョーカーを。お前がねだったものだろう?女もろとも運よく手に入ったのだよ。」
「なんてこと!こんな醜い女がワタクシのサリュウのチョーカーをしているだなんて!」
クラウディアが怒り狂ってメリナの首元に掴みかかった。突然ドンと稲光が走り、クラウディアは「ギャー!」と雄叫びをあげ尻もちをついた。
「生意気な男だね。呪いを掛けて、この娘以外のものがチョーカーに触れることを拒んでいるのだ。」
メリナはハッとチョーカーに触れた。サリュウさんが私を守ってくれている……そう思ったら途端に勇気が湧いてきた。
「さて、この娘はお前にやろう。首を切り落としてチョーカーを奪えばいいさ。こっちの娘は私が連れて行く。砂漠の国の王からの依頼でね、金髪に青い目の小娘が欲しいんだとよ。この子ならどれだけ吹っかけても相当な高値で買い取ってもらえるだろう。」
「分かったわ。さあおいで!そのチョーカーをワタクシに寄越しなさい!」
クラウディアに髪を掴まれ、メリナは床を引きずられた。
「痛いっ、痛いぃぃぃーっ!」
「メリナさんを離して!」
メリナの横で小さく縮こまっていたゾフィが意を決してクラウディアに体当たりした。ゴロゴロと一回転して泥だらけになったクラウディアは目を剥いてゾフィに殴りかかった。
「よくもやったわね!」
「ぎゃあああ!」
雄叫びが上がり、メリナは驚いて振り向いた。電撃が次々とゴルゴンとコーエンと執事を襲い、彼らはばたばたと倒れていった。
開かれた小屋の入口から、ブライアンがメリナに駆け寄った。
「大丈夫ですか、先輩!」
「ブライアン、どうしてここに?」
「先輩たちの後をつけて来たんです、コーエン先生の言うことが信じられなくて……」
「どうして、コーエン先生が……私を騙すなんて……」
「分かりません、とにかくここから逃げましょう!」
ブライアンはメリナとゾフィの手を取った。
「お待ちなさい、逃がしはしないわよ!」
クラウディアが先回りして小屋の入口を塞ぎ、叫び声を上げた。それと同時に護衛の兵士たちがわらわらと小屋を取り囲んだ。ブライアンは兵士たちに電撃を浴びせ、彼らをなぎ倒した。
「こっちです!俺についてきてください!」
ブライアンは迷わず小屋の奥に走った。そして、暖炉に潜り込み奥の壁を突き破った。その先に階段があり薄暗い通路が現れた。促されるままにメリナとゾフィは飛び込んだ。
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