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すっかり花岡に懐いた双子とあかりは、詩春の車にちゃっかり乗り込み登下校するようになった。助手席にあかりが座り、後部座席では双子が詩春を真ん中にして両脇を固める。帰り道、花岡を誘ってそのまま遊びに行くこともあった。詩春は就業外労働をさせてはいけないと断固反対したが、当の花岡が面白がって積極的に参加した。

その日はあかりが言い出してカラオケボックスに向かった。

最初は累がお気に入りの男性ユニットの曲を選び、慧と息ぴったりのデュエットで場を盛り上げた。あかりも交じってアイドルのポップスを振り付きで歌った。

詩春もカラオケは嫌いではないらしく、聞き馴染みのある女性シンガーの恋愛を綴った歌を自ら選んでいた。彼女が流行りものを知っていることが意外過ぎ、その上歌声が可愛らしくて花岡は思わずゆるゆると顔をほころばせた。

聞き役に徹していた花岡も、マイクを向けられて10年前に活動を休止したロックバンドのバラードを若者たちに歌って聞かせた。歌い込んだ美声に、双子も少女たちも聞き惚れた。

「ハナちゃん、好い声してる~!顔に似合わないね!」

慧は手にしたタンバリンをシャンシャン鳴らしてニヤニヤした。

「顔は関係無いでしょ!俺、大学生の時はバンドを組んでベースを弾いていたんですよ。まあ、学園祭でライブするくらいだったけど。」

「へ~!体育系かと思った。」

「運動も嫌いじゃないです。中学まではサッカー部にいたけど、ベンチウォーマーだったんです。」

「ねえねえ、今の歌、すごくいいね!」

あかりはトロンと目を細めた。

「そうでしょ!このバンド、好い歌ばかりなんですよ!今度YouTubeで聞いてみてください。俺の青春そのものなんです。学校サボってライブ見に行ったな~。」

「へぇ~、全然知らなかったよ。」

「凄い人気だったのにな~。」

流行りの音楽に詳しい累がそう言うので、花岡は思わず十才の年の差を痛感した。

「てか詩春、感激して泣いてない?」

詩春の顔をのぞき込んであかりがからかった。

「泣いてないよ!……でも、花岡さんの歌、私は好きです。」

好きと言われて花岡は思わずドキリと飛び上がった。

「勘違いするなよ、ハナちゃん。詩春は歌が好きだって言ったんだぞ。」

「分かってますよ、そのくらい。」

累に釘を刺され、花岡はグッと気を引き締めた。



カラオケボックスを後にして、近くの駅で双子たちを下ろし、花岡は詩春を乗せ車を走らせた。

「すみません、こんな遅くまで付き合わせて……」

「気にしないでください。詩春さんが好きな歌も覚えられて、俺も楽しかったですよ!」

ルームミラーに映る花岡の笑顔を見て、詩春は安心した。

しかし、結構知らない歌が多かったなと花岡は考え込んだ。もう少し若者向けの音楽にも詳しくなろう……と思って愕然とする。

「やっぱり、オッサンだよな~。」

「え?なにか言いました?」

「いえ、ちょっと独り言です。」

ついつい誤魔化し、ハンドルをゆっくり左に切った。



家に着き、いつものように詩春が家の中に入るのを見届けようと玄関先まで一緒に歩いた。

「あれ?」

鍵を回した詩春が声を上げた。

「花岡さん、鍵が、開いています……」

心配そうに詩春が彼を見上げた。

「城田さんが掛け忘れたんですかね?」

「いえ、今日はいらっしゃっていないはず……」

暗がりでもわかるほど、詩春が緊張していた。

「中に入ってみましょう。」

家の中は真っ暗だ。玄関の電気をつけ、次に廊下の灯りをつけ、奥に進む。

「ひゃ!」

茶の間に入って思わず悲鳴を上げた。箪笥の引き出しが開けられ中から物がめちゃくちゃに放り出されていた。他の部屋も恐る恐る見て回ると、同様に荒らされている。

「空き巣……!」

「警察に連絡します!」

花岡はすぐに詩春を車に戻して110番し、その後西山にも連絡した。しばらくして近くの派出所から白い自転車に乗った警官が二人やってきて、花岡に事務的に事情を尋ねた。花岡と詩春の関係を問われ、ありのままを話したが、警官たちは首を傾げるばかりだった。

やがて捜査員が来て室内の検証を始めた。花岡も詩春も指紋の提出を求められ素直に従った。詩春は気丈にも捜査員とともに現場に立ち会い盗難に遭ったと思われる物品を説明した。



一時間ほどその場で待たされた。西山がやってきて警官たちに挨拶をし、詩春との関係を説明すると花岡の元にやってきた。

「花岡、災難だったな。」

「いえ、今日は帰りが少し遅かったので……もしいつも通りの時間に帰っていて、詩春さんが強盗に鉢合わせしていたら……」

ゾッとして、ぶるりと身体を震わせた。

「この後、俺が警察と会社と対応する。お前は帰って休め。」

「はい。でも、詩春さんは?」

「どうするかな。この家にいるのは物騒だ。どこかホテルにでも宿泊してもらうか。」

そう言うと、西山は警官たちの元へ歩き去った。

「ホテルか、どうしよう……」

だが、詩春を独りにしたくない。花岡は考え込んだ。

「花岡さん、お疲れさまでした。もう、お帰りいただいて大丈夫です。」

詩春が来て、ぺこりと頭を下げた。

「西山さんにホテルに行くように言われました。今、荷物をまとめてきますね。」

「それで、平気なんですか。」

「いいんです。」

「だけど!」

「大丈夫です、花岡さんはお帰りください。」

「俺が大丈夫じゃないんだよ!」

乱暴な言い草に、花岡は自ら狼狽えた。

「す、すみません、つい……」

詩春が目を丸くして見つめるので、花岡はすっかり縮こまった。

「あの、良かったら、俺の家に来ませんか?」

「えっ!」

「あ、いえ、俺の家って今住んでるアパートじゃなくて!実家なんです。ちょっと遠くてここから一時間くらい掛かるんですけど!」

戸惑う詩春の手を掴み、花岡は歩き出した。

「詩春さんを独りにしたくないんだ。」

「分かりました。」

うなずいて、ニコリと微笑み、詩春はそっと花岡の手を握り返した。


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