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~大学生編~

第46章 打ち上げ花火(一佳ver.)

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その日俺は浮かれていた。七海と花火を観に行って、今日こそ告白するんだ。一年、いや、高三の卒業式から数えれば二年以上も掛かってしまった!

去年は潤の野郎に邪魔されたが今年は二人きりだ。上からたらいが降ってくることもない。だけど花火大会に行くことは潤に相談したよ。なんだかんだ言っても潤は親友だ。奴は「いよいよか!」って笑っていた。

俺のリクエストを叶えてくれた七海は浴衣を着て恥ずかしそうに現れた。濃紺の朝顔の柄の浴衣だ。髪もアップしてうなじの後れ毛が何だか色っぽい。化粧も派手過ぎず似合っている。可愛いって言ったら顔を赤くして照れていた。そんな七海がすげぇ可愛い!

俺は指を絡めて手を繋いだ。恋人繋ぎって奴だな。七海はずっと戸惑っていた。浅田と白石が来ないことをずっと気にしていた。ダメだ、やっぱり分かっていない。これは、俺と七海のデートなんだよ。

海辺のショッピングモールで買い物をした。七海に何か買ってやりたかったけど彼女は遠慮ばかりして、そのくせ俺のTシャツを買ってくれた。うん、記念になるな。七海は本当に俺の好みを分かってる。これで、俺の気持ちにも気づけば言うことは無いのに……

花火大会の会場は物凄く混雑するらしいから、告白するならこのショッピングモールの二階テラスが良いと潤にアドバイスされた。花火がキレイに見えて穴場なんだそうだ。また潤の罠じゃないかと周りを気にしたが奴の姿は見当たらない。

花火が上がるたび、七海は可愛い歓声を上げた。俺は花火より七海に見惚れていた。ふと目が合った時、彼女の顔には戸惑いの色が浮かんだ。ヤバい、がっついていたかな?俺は焦った。そして……

「七海、俺たち、まだ友達のままなのか……」

ぽけーっと口を開けたまま、七海は不思議そうに俺を見つめた。そして急に顔を曇らせた。この表情には覚えがある。つか、一気に嫌な思い出が蘇った。そう、あの卒業式のあと、いきなり逃げ出した時と同じだ!

「七海……あのさ……今の聞こえた?」

「あ、あの、友達のままなのかって……どういうこと?」

「だから、俺と、付き合わないか?」

「え……えええっ!」

七海は本気で驚いていた。なんだ、この状況で何も感じていなかったのか!いい加減、鈍感過ぎるだろ!

「わ、私は、友達のままでもイイよ!」

「はい?」

俺は呆気に取られて七海をガン見してしまった。



新年度になって、とにかく俺は浮かれていた。七海と同じキャンパスになる。授業の合間に逢えるんだ、学校帰りにデートみたいなことも出来るんだ。

去年ゼミの共同研究で同じグループになり仲良くなった浅田と白石には、良く七海の話をしていたから、さっそく逢わせろって言われた。七海に電話したら、このみや千夏と生協のカフェテリアに居るらしい。ちょうどいい、浅田たちに七海を自慢しよう!

俺が二人を連れて行くと、七海たちは白石に興味津々だった。確かにな。見た目はイケメン優男なのに実は女子だっていう不思議な奴だ。でも、中身は気さくなオッサンだよ。

七海と居酒屋に行くのが楽しみだった俺は、浅田たちとの飲み会に七海を誘ったら、一緒にいたこのみや千夏も来るって言う。岡本や加藤も加えてまるで合コンみたいになった。

以前いたサークルでノンアルコール飲料を美味そうに飲んでいた七海はやっぱり酒好きだった。ザルの浅田につられて飲みまくっているから注意したけどすっかり出来あがってしまった。

帰りの電車の中ではもうフラフラで、俺はどさくさまぎれにずっと七海を抱っこしていた。すげー柔らかくて気持ちイイ。トロンと可愛い顔で俺を見上げてギュッと抱きついてきた。ヤバい、俺の理性が持つかな?帰り道もご機嫌で歌を歌いながら帰った。どうしよう、「好きだ」って告るか?酒の勢いで告ったら本気にされないかな?俺はギリギリまで悩んだ。悩んで正気の時に言おうって決めた。

七海の家まで連れていったら、彼女は俺の手を握って帰そうとはしない。ダメだ、理性が限界だ。七海の柔らかな唇が欲しくて顔を近づけていったら……いきなり七海が家に駆け込んでトイレで戻していた。あれだけ飲んだら仕方が無いか……ああでも可愛かった。「一佳……あのね、私ね……」って、何を言おうとしていたんだろう?俺の希望通りの言葉ならすげー幸せなんだけど。



七海とのキャンパスライフを楽しみにしていたのに、バイトや資格試験の勉強やゼミの課題で俺はいっぱいいっぱいだった。七海と遊ぶ暇さえ無い。

俺の所属するゼミの担当は厳しいことで有名な長峰教授だ。でも、ゼミ決めの前に教授の講義を受けて、理論ばっかりじゃない、実践に基づいた内容に興味を引かれ、師事するならこの教授しかいないとこのゼミを選んだ。実践的な対人対応訓練や論破する理論構成、グループ学習に基づくチームの運営など、卒業してからどんなところで働いても即戦力になるような教育を受けた。そんな訳で、同じグループになった浅田や白石たちとはどっぷり仲良くなりいつもつるんでいた。考えたら、七海や潤や薫以外で本当に深く付き合った友達は初めてじゃないかな。凄く居心地が良くて、何の問題も感じなかった。朝まで飲んで語り合ってそのまま雑魚寝なんて毎度のことだった。それが悪いなんて思ってもみなかった。

ある日、バイトをしていたら、七海がずっと無視するんだ。理由も分からず苛立ったら、いきなり俺の寝顔の待受けを見せられた。白石が撮って送ったらしいが、何を怒っているんだと言ったら、ケンカになった。売り言葉に買い言葉で、七海とはしばらく逢わないって言ってしまった。

なんだよアレ、俺と白石がエッチしたと疑っているのか?最初は怒り狂っていたが、二・三日して後悔した。七海とケンカしたのは初めてじゃないかな。俺を疑うことは許せないが、このまま七海に逢わないのは耐えられない。その日、七海はバイトのハズだったから店に顔を出したら休んでいるって言う。どうしたんだよ?諦めきれずに家を訪ねたら、七海はまだ帰っていなかった。電話でどこにいるか聞こうとしたが、直接逢って話がしたくて家の前で帰りを待っていた。

すると夜遅くなってふわふわした足取りで帰って来た。俺を見つけると一目散に駆けてきた。俺はすかさず謝った、本当に辛かった。七海はもう怒っていないみたいだ。薫に逢いに行って、薫の彼氏を紹介されたと一気にしゃべりまくった。全く、七海は可愛いよ。ホッとしたら急に眠気に襲われた。七海のこととか課題とかバイトとか、とにかくここ数日まともに寝ていなかったんだよ。

次の朝、目が覚めたら見知らぬ部屋だった。可愛いぬいぐるみや小物がいっぱいだ。まさか七海の部屋!?と思ったら、本当に彼女の部屋に寝かされていた。マジで七海のお母さんに謝り倒したよ。お父さんにも迷惑を掛けたらしい、マズイだろー!

七海の方は全然気にしていなくて、ウキウキと俺の朝ご飯を作っていた。シンプルなエプロンを付けてささっと朝メシを用意してくれた。うわぁ、結婚したらこんな感じかな?ついそう口走ったら、七海が嬉しそうに笑った。少しは俺のことを意識したらしい。とにかく、俺と七海の初のケンカは無事に仲直りして終わった。



それからは忙しい合間を縫って、とにかく七海と連絡を取り合った。何でもない日常の出来事を伝えあうだけで、上手くいっているって安心できた。

家庭教師をしている生徒が風邪を引いて休みになった日、さっそく七海とデートだと電話したら、彼女は白石やこのみと買い物をしているって言う。乱入して、白石の洋服を選んでやったらやけに喜んでいた。試着した姿を見たらまるで女みたいで可笑しかった。そうか、白石も元は女なんだな。それより俺は七海の洋服を必死で選んだ。彼女に俺好みの服を着せるのが夢だったんだ!案の定良く似合っていたよ。デートの時に着せたいな。

このみが何を血迷ったか浅田をディズニーシーに誘ったらしく、俺らも一緒に着いて行くことにした。俺はこっそりみんなを巻いて七海と二人きりになることを願っていたんだが、七海が誘った潤に相変わらず邪魔された。帰りも七海を拉致って帰ったから先回りして七海の家の前で待っていた。帰って来た七海は、なぜか俺と目を合わせない。潤と何があったんだ?俺はつい頭に来て七海を置いて帰ってしまった。

そのあとすぐ、カフェのバイトも辞めた。七海と逢えなくなるのは残念だけれど、とにかく時間が無かったんだ。そして俺は潤の家に転がり込んでいた。ディズニーシーの帰りの真相を知りたかったからだ。やっぱり潤は七海に告白したって言っていた。もしかして、七海はOKしたんだろうか……落ち込んでいたら、潤が七海を呼び出すから自分で真実を確かめろって言うんだ。ファミレスでドキドキしながら、七海と潤の会話を盗み聞いていた。カッコ悪過ぎだろ、俺!でも、七海は潤にキッパリ付き合えないって言ってた。そして好きな人がいるって……

俺は七海を家まで送り、そして彼女に迫った。七海の口から、好きなのは俺だと言って欲しかった!七海は目を潤ませて熱い瞳で俺を見つめていた。ああ、絶対これは……!だけど寸前でお父さんに邪魔された。でも、その時、俺は確信した。七海の好きな男は俺に違いないって!



夏休みに入る前から企業の会社説明会を回るようになり、白石も大抵一緒だった。説明会の時点で、俺も白石もその会社の人事担当からうちに来ないかって直接声を掛けられた。良い感触だ。白石って勉強も出来るし性格もいいし、就職したらバリバリ働くんだろうな。白石と同じ会社に入るのも悪く無いなってその時思った。



そして夏休み、なんとか時間を見つけて七海を花火大会に誘い、ついに七海に告白して……俺は固まっていた。

「友達のままで……いいのか?」

七海は泣きそうに顔を曇らせた。

「俺と付き合う気……無い?」

「一佳と……付き合うの?」

「俺の彼女になる気は無い?」

「わ、私が……?」

七海以外考えていないよ!俺の中でシュミレーションしたパターンは総崩れだった。七海は俺の告白に驚き喜びそして俺を受け入れてくれる、それしか頭に無かったんだ。上手く行けば、そのままホ……いやいやいや、そんなことまで欲張りはしないよ!

花火大会が終わり、電車を乗り継ぎ、行きとは真逆の気分で彼女の家までとぼとぼ歩いて帰った。

七海の家の前で俺はもう一度彼女の手を握った。

「七海、もう一度聞く、俺と付き合ってくれないか?」

「わ、私で……いいの?」

「だから!七海しか考えていないよ!」

「お試し……で、いいなら……」

七海はそう呟くと、家に駆け込んでしまった。



取り残された俺は、とぼとぼと歩いて帰った。向かった先は潤の家だ。俺の顔を見るなり、奴は「残念だったなー!」と笑い転げた。

「残念じゃない、お試しで付き合うって言われた。」

「なにそれ?七海らしいな!」

ゲラゲラと腹を抱えて笑う潤を思いっきり蹴飛ばしてやりたかった。

「だけど良かったじゃん?振られた訳じゃないんだろ?」

「あれは振られたんじゃないのか?俺らはマジで付き合うのか!?」

「だろー?つか、あのショッピングモールの二階テラスで告白して付き合いだしたカップルって、100%別れるって噂だぜ。」

「なんでそんなところで告白しろとかお前は言うんだよ!」

「噂が本当か、実証したかったのさ。」

くそー!だからあんなに花火が良く見える場所なのにカップルが少なかったのか……

「まあ、お試しで付き合っちゃえよ。ダメなら俺がまたアタックするから。」

「潤、もう二度と、お前は頼らねーぞ!」

頭に来た俺は潤の家を飛び出した。夜空を見上げれば真っ暗な空が広がっている。ああ、俺の告白は打ち上げ花火のようにシュルルと舞い上がってドンと花開いて、キレイに消え去ってしまった。

この先、俺と七海はいったいどうなるんだ?真っ暗な闇の中を歩いているような気持ちで俺は家に向かって歩き出した。




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