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~大学生編~

第42章 思わせぶり

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次の朝やっと目を覚ました一佳は、私の部屋を見回して激しくうろたえていました。

「俺、なんでここに寝てるの!」

「昨日の夜、眠らせてって言ったっきりほとんど意識が無くて、お父さんと一緒にやっとここに運んだのよ。」

「マズい……お父さんはマズいだろ!……起こしてくれればいいのに!」

「だって爆睡してて全然起きなかったもん。」

「つか、男の俺を娘と同じ部屋で寝かせるかぁ、普通?」

「お母さんが、お茶の間じゃなくて私の部屋に布団を敷いたんだもん。」

「……うっ、さすが七海の家族……」

ブツブツ文句を言いながら起きてきた一佳は、お茶の間にいたお母さんにまず平謝りでした。その間に、私は朝ご飯を用意しました。

「一佳ぁ、コーヒーと紅茶、どっちがいい?」

「コーヒーにして。」

「目玉焼きは固め?それとも半熟?」

「半熟がいいな。」

「今すぐ作るね!」

トーストにサラダと目玉焼きを添え、カップにコーヒーを入れて渡したら、一佳はトロンとした笑顔で受け取りました。

「なんだか、新婚みたいだな。」

「や、ヤダ、変なこと言わないでよ!」

そんなこと言われたら、変に意識してしまいます!



それからは、お互いの授業とバイトの合間になるべく逢うようにしました。一佳に誘われて愛奈ちゃんや浅田くんとも何度か飲みに行きました。二人とも気さくで一緒にいて凄く楽しいです。

一佳は本当に忙しい生活を送っています。厳しい教授のゼミにいるから論文の提出も多くて、お小遣いは相変わらず自分で稼がなくてはならないから、暇さえあれば警備の仕事を徹夜でしているんだって。無理はしちゃダメだよー!



ある日、授業を終えて帰ろうと駅に向かって歩いていたら、前を歩く背の高い愛奈ちゃんの姿を見つけ、私は思わず駆け寄りポンと肩を叩きました。

「愛奈ちゃん、偶然だねー!」

「ちょうど良かった、七海ちゃん、今日は暇?」

「バイトも無いしヒマだよ。どうしたの?」

「そ、相談、と言うか……買い物に付き合ってくれない、かな?」

「いいよ!何を買うの?」

「その……スカート、なんて?」

愛奈ちゃんは真っ赤になってモジモジしながらそう言いました。

「わぁ、イメチェン?」

「うん、あの、藤原が……急に、もっと女らしくしろって言うから……」

「一佳が?」

「そう、見た目が男だと、私のことを女と思えないから困るって。私も最近、女子トイレに入る時、そばにいる女の子にギョッとされるのも気になっていたから……」

「そうなんだ、愛奈ちゃんはスタイルが良いからきっと似合うよ!」

私たちはさっそくお買い物に出掛けることにしました。すると、このみちゃんから電話が掛って来ました。

「七海ー!今どこっ!?」

「愛奈ちゃんと買い物に行く途中だよ。」

「ちょうどイイ!相談に乗ってー!」

なんだろう?今日は相談事が多い日ですね!駅でこのみちゃんを待っていたら、真っ赤な顔して必死になって彼女は走って来ました。

「ね、ね、一生のお願いっ!二人とも、私とディズニーシーに行って!」

「いいね、いつ?」

「今週の土曜日なの。空いてる?」

「うん、シフトを変えてもらえば大丈夫!」

途端にこのみちゃんはハーっとため息を吐きました。

「急にどうしたの?」

「あのね、実は、浅田くんを誘ったの!そーしたら、イイよ、だってぇーーー!」

キャーと真っ赤になってこのみちゃんはクネクネ身体を振りました。

「浅田くんを?いきなり?」

「この前の合コンでいいなー!って思って連絡先を交換して、それから何回かメッセージしていたのぉー!」

「浅田が好きなの、このみちゃん?」

「うん、どストライクなんだもん!」

「へー。」

私と愛奈ちゃんは呆気に取られて顔を見合わせました。

「でもさ、千夏も浅田くんを狙っているのよね……」

「千夏ちゃんには、須藤先輩がいるじゃない。」

「最近別れたらしいよ!今年になって授業が忙しくてあんまり逢わなかったらお互い心が離れたって言ってた。それに、法学部の男子はレベルが高いって言うのよぉー!モテ女めー!」

「そ、そうなんだ……」

とりあえず、このみちゃんも付き合ってくれることになり、私たちは手近な新宿に向かいました。

手始めに駅のショッピングモールを回ろうとしていたら、今度は一佳から電話が!

「七海、今どこ?」

「愛奈ちゃんとこのみちゃんと、新宿でお買い物中!」

「はぁ?何買うの。」

「愛奈ちゃんのスカートだよ!一佳、愛奈ちゃんに女の子らしくしろって言ったんでしょ?」

「ああ、白石を女として意識しろって七海に言われたけど、どーしても女に見えないから、せめてカッコだけでも女になれば、少しは意識出来るかなって……」

そんな理由だったとは、思いも寄りませんでしたよー!

「つか、俺も行く。家庭教師カテキョのバイト、生徒が風邪引いて休みになったんだ。」

「そうなんだ、一緒に愛奈ちゃんのコーディネートしようよ。」

「他人の服を選ぶなんてめんどくせー……」

「愛奈ちゃんをその気にさせたのは一佳なんだから、責任取ってね!」

わあ、思いもよらず一佳も参加です!30分くらいして、一佳はブスっとして現れました。

「せっかく暇になったのに!」

「イイじゃない、これなんかどう?」

私は愛奈ちゃんにロングスカートを当ててみました。

「うー、いや、こっちの方が良くね?」

一佳はそばにあったミニの可愛いワンピースとジャケットを選びました。私もこのみちゃんも賛成して早速試着です。愛奈ちゃんは恥ずかしがっていたけど、長くてキレイな足の彼女にはピッタリ!

「凄く可愛いよ!」

「そ、そうかな?」

照れながらも、愛奈ちゃんは気に入ったようです。

「あとは、髪を伸ばせよ。小学生じゃないんだから。」

「一佳、もうちょっと優しい言い方しようよ。」

「じゃあ、サラサラしててキレイな髪だから伸ばせば可愛いぞ、でOK?」

「OK!」

一佳に誉められた途端、愛奈ちゃんは真っ赤になりました。

「七海もこれ着て。」

いつの間にか、一佳は私にもワンピースを選んでいました。

「私の服は要らないよ。」

「いいから着てみろ。」

「七海ちゃん、似合うよきっと!」

愛奈ちゃんに勧められて着てみたら……可愛い!ふわりとした生地も色合いも夏らしい!愛奈ちゃんと違って太めの足が気になるけど、とってもイイ!うわー、一佳ってセンス良いな!みんなにも見てもらったら、可愛いって誉められました!

「買いたいけど、今はお財布がピンチだから無理。」

「だったら俺が買ってやる。」

「ダメ!一佳は自分でお小遣いを稼いでいるんだから、無駄遣いしちゃダメだよ!」

「俺が稼いだ金なんだから、何に使おうか自由だろ?」

「ダメだったらー!」

「このバカップルが!もう夫婦ゲンカしているし!」

このみちゃんには呆れられましたが、一佳に押し切られ買ってもらうことになりました。

「なによ一佳、七海や愛奈ちゃんの服だけじゃなくて、私の服も選んでよ!」

「このみに?これでいいじゃん!」

一佳は面倒くさそうにそばにあった服をこのみちゃんに押し付けました。もう、適当過ぎ!だけど、ブツブツ言いながらこのみちゃんはその服を買っていました。適当に選んだ割には似合っていると思うんだって。



そのあと、他のお店も何件か回り、靴やバッグも揃えて愛奈ちゃんのコーディネートは完成しました。それから四人でレストランに入り、夕ご飯を食べながら次の作戦会議です。

「さっきの服で、ディズニーシーに行こうね!」

「う、うん……藤原も来る?」

「何それいきなり。いつ行くの?」

「今週の土曜日。」

「うっ……七海は行くんだよな?」

「さっき店長にシフトの変更をOKしてもらったよ。」

「じゃあ、当然、俺も行く。あとは?」

「浅田くんだよ。このみちゃんが誘ったの。」

「浅田?お前、浅田と付き合う気?」

「きゃあ!付き合う気って……そうなればイイかなー……なんて?」

「ムリだろ。アイツ、無口だぞ。口から生まれたみたいなお前とは合わないだろ?」

「そんなことは無いよぉ!」

このみちゃんと一佳がじゃれ合っているうちに、私はふと思いついてある人に電話を掛けました。

「もしもし?今、電話してて平気?」

「ああ、家に帰る途中だよ。」

「今週の土曜日は空いてる?一佳たちとディズニーシーに行くんだ。」

「空いてる空いてる、俺も行く!」

「詳しいことはまたメッセージするね!」

よっしゃー!これで男子3×女子3になりました。

「今、誰を誘ったんだよ?」

「ん?潤くんだよ。この前電話して、久しぶりに逢おうって言ってたんだ。」

「なんで潤なんか誘うんだよ!」

「いいでしょー!」

一佳はなぜか激怒しています。親友なのにー!



土曜日の計画を大まかにまとめ、浅田くんと潤くんに連絡すると二人からOKの返事が来ました。楽しみです。晴れるといいな!

帰りの電車の方向が違う愛奈ちゃんとは駅でお別れです。

「楽しみだね、ディズニーシー!」

「う、うん……」

なぜか愛奈ちゃんはぼーっとしていました。私と一佳がじゃれ合う様子を見つめていたのです。

お休みと言い、このみちゃんと一佳と三人で歩き出したあと、ふと気になって振り返りました。すると、泣き出しそうな表情の愛奈ちゃんと目が合ったのです。

「……え?」

愛奈ちゃんは慌てて背を向け、人混みの中を走り去りました。どうして、あんな表情を?

その時、私の心の中に、小さな不安が芽生えたのです。

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