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~大学生編~

第36章 ハッピーバースデイ

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夏休みは、バイトしてバイトして、そしてゼミの合宿に行って、あっという間に終わりました。

一佳は、教え子の受験対策に忙しく、週に一回カフェのバイトで顔を合わせるだけ。でも、前よりメッセージでお互いの近況を教え合うようになりましたよ。

その後の、私たちの関係は?

キスも、その……それらしい気配も無いのです。やっぱり友達同士のままかな?一佳のことは意識していますが、新たな一歩が踏み出せません。



9月半ばに新学期が始まりました。

スケジュール帳を広げてハッと思い立ちました。一佳の誕生日がもうすぐあります!

「プレゼント、何にしよう?」

急にワクワクして来ました!ここは張り切って今までのお礼も兼ねて一佳にプレゼントしたいものです!

バイトの帰り、いつものように家まで送ってもらうとき、一佳に尋ねてみました。

「一佳、もうすぐ誕生日だね、プレゼントするから何がいい?何でも好きなもの、プレゼントするよ!」

すると一佳は急に立ち止まり、なぜか大きな手で顔を隠してしまいました。めちゃくちゃ悩んでいるようですが?

「何?遠慮しないで言ってね?」

「……それなら、いつもそばに置いておけるものがいい。」

「分かった!」

いろいろ悩んでお財布をプレゼントすることになりました!本当は一佳と一緒に買い物がしたかったけど、ほぼ毎日家庭教師のバイトがある一佳は誘えません。

アルバイトの無い日にデパートで迷いに迷って、男子に人気のブランドで二つ折りのお財布を買いました。一緒にキーケースも買いました。これは私用です、こっそりお揃いです。

ワクワクしながら彼の誕生日を待ちました。



ある日、キッチンで皿洗いをしていたら、いずみさんが困った様子で駆け込んできました。

「ね、七海ちゃん、今、一佳くんの知り合いって女の子たちが来ているんだけど……」

「知り合い、ですか?」

「大学の子らしいけど、ずいぶん馴れ馴れしいわね。彼、迷惑そうにしているわ。」

誰なんだろう?小野さんに断って、私はフロアの様子を見に行きました。

「七海、久しぶり!」

テーブルに座っていたのは、翼ちゃんと千夏ちゃんでした。

「二人揃って同じお店でバイトしていたんだ!千夏から一佳がカフェでバイトしているって聞いて、遊びに来ちゃった!」

「そ、そうなんだ……」

すると千夏ちゃんが、ごめんと言うようにこっそり隠れて私に手を合わせました。

「今、仕事中だから、あんまり話せないよ。」

一佳は軽く笑顔を作りながら、冷ややかに翼ちゃんを眺めていました。

翼ちゃんと千夏ちゃんはケーキセットを食べながらおしゃべりし、一佳は二人に時折話し掛けるものの、普段と変わらず仕事をしていました。

閉店時間になり、片付けと掃除を済ませ、いつものように一佳と帰るつもりでした。だけど、従業員通用口を出たところで、私たちはハッと立ち止まりました。

翼ちゃんが一人で待っていたのです。

「一佳も七海も、お疲れさま。」

ニコリと蕩けるような笑顔で翼ちゃんは私たちに駆け寄りました。

「こんな遅くまで何してるの。」

ひんやりするトーンで一佳が尋ねました。

「だって、最近、一佳も七海も私と遊んでくれないでしょ?それに、もうすぐ一佳のお誕生日だから、プレゼントが渡したくて!いつもそばに置いておけるようにお財布にしちゃった!」

翼ちゃんが差し出したのは高級ブランドのショップバッグでした。

一佳はじっとその袋を見つめていました。もしかして、受け取るのかな、お財布なら、私もプレゼントするのに……

「ありがとう、気持ちは嬉しいよ、だけど、プレゼントは受け取れない。」

「一佳……」

「何度も言うけど、俺は奥村と付き合う気は無い、プレゼントも受け取らない、遊びにも行かない……これ以上は言わせないでくれ。」

一佳は私の手を掴むと、ダッと駅に向かって歩き出しました。振り向いたら、翼ちゃんが悲しそうに佇んでいました。プレゼントなら、受け取っても良かったんじゃないかな……彼女の姿を見ていたら、急に胸が苦しくなりました。



家まで帰る道で、二人とも話しをすることもありませんでした。なぜか、悲しい気持ちです。

「お前、プレゼント、受け取った方がイイと思った?」

一佳がぼそっと呟きました。

「う、うん……」

「でも俺は、七海からもらうプレゼントだけでいいから。だけど、嫌な気持ちになるな、人の好意を踏みにじるって。昔は全然平気だったのに、最近は相手のことを考えてしまうんだ。」

「それは、相手が翼ちゃん、だから?」

「まさか!」

アハハと一佳は笑い飛ばしました。私はスッと一佳を見上げました。頑として他人を受け付けなかった高校生の時の彼ではありません。

「一佳も大人になったんだねー!」

「俺の方がお兄さん、だしな!」

クククと笑ってその後は普段通りにおしゃべりしながら私の家に着きました。

「お休み。」

「お休み、今日も送ってくれてありがとう!」

だけど、一佳は私を見つめたまま動こうとはしません。

「俺は、七海……が、くれるものだけが、欲しいよ。」

「一佳……」

嬉しかったです、その言葉が。なんだか涙が出そうになって、キュッと目をつぶったら、いきなりパフンと抱き締められました。

ギュッと頭の後ろを掴まれて、一佳の広い胸に埋め込まれるみたいに抱き締められました。それは、ちょっと、苦しいくらいで……

「一佳、一佳、息が出来ないよー!」

「あ、ご、ごめん!」

慌てて一佳は私を離しました。その表情が可愛くて、私から彼の首に飛びついて、頬をペタンとくっつけました。やっぱり、ちょっとひんやりする、絶対零度の王子さまの頬でした。

一佳は私の背中をポンポンとあやすみたいに叩いて、そしてムギュッと抱き締めました。

「俺の誕生日、家族でお祝いするんだけど、母さんが七海も呼べって言うんだ……来てくれる?」

「うん、行く行く!プレゼントもその時渡すね!」

「楽しみにしているよ。」

そうして、お休みって一佳は帰って行きました。また、キスはお預けだったけど、ほっぺたぺったんに進歩しましたよ!



一佳の誕生日のお祝いには、潤くんや薫ちゃんも招かれていて、瑠佳ちゃんも交えて、一佳ママ特製の豪華なお料理やケーキをいただいて楽しく過ごしました。

一佳は私のプレゼントを凄く喜んでくれて、いつまでもしげしげ眺めていました。

「なんだよ、お前、財布は絶対自分で買うんじゃなかった?」

「いいんだよ!七海が俺のために選んでくれたプレゼントだから。」

潤くんに冷やかされても、一佳は頬ずりして喜んでいました。

「お前、それで、ヌくなよ。」

「バカなのお前、そんなことに使うかよ!」

「つか、アレじゃないの、定番の、『プレゼントに七海をくれ!』とか、くさいセリフは言わない訳?」

「う、うるさい!」

そのあとは、いつものように、一佳と潤くんはじゃれ合いを始めました。高校生の時から全然変わりません!

「全く、進歩が無い奴らだ。」

薫ちゃんが呆れたようにため息を吐きました。

じゃれ合っている間も私のプレゼントを手放さない一佳を見ていたら、急にお財布に嫉妬したくなりました。だって、あんなに大事にしてくれるなら、私が代わりにそばに居たくなったのですよ!


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