上 下
28 / 73
~大学生編~

第27章 運命の人

しおりを挟む
履修登録も無事に終わり、本格的に授業開始です。一年次に取らなくてはならない必修科目だけでも相当な分量で、講義の内容も難しく、一限から五限までみっちり授業のある日は力尽きそうになります。

全学部共通の選択科目で、週に二回、一佳と同じ講義を受けることになりました。そのうちの一回は、このみちゃん、経済学部の千夏ちゃん森田くんも一緒です。潤くんもいましたが、常にキレイな女の子たちに囲まれハーレム状態なので近くに寄ることも出来ません。

千夏ちゃんと森田くんは、高校の時よりラブラブ度が増したみたい。いつも一緒で授業中でも時々見つめ合い微笑み合っています。もう、当てつけられてクラクラしちゃいますよ!

「大変だったのよ!卒業式の後、修羅場でさー。」

授業のあとでお茶をしながらこのみちゃんがクククと笑いました。

「吹奏楽部の後輩の女の子がいきなり打ち上げにやってきて、森田と付き合っているってバラしちゃって、二股掛けられたって真帆ちゃんは泣いてるし、千夏ちゃんも怒りだして、それでも頑として森田のこと信じてて、結局、森田は千夏ちゃんを選んだのよ。」

「そんなことがあったんだ……」

「そーよ!七海と一佳が揉めている間にね。あの時は一佳も荒れてて大変だったんだから!薫ちゃんが宥めて収まったけど。」

ああ、あの頃は、一佳の言葉に傷ついてメソメソしていたっけ……懐かしい思い出です。て言うか、その後すっかり一佳に丸めこまれたような……

「飯島と永井ちゃんは別れちゃったのよ。浪人が決まった飯島を振って、永井ちゃんはおんなじ大学の男の子に走ったみたい。」

「え、そんな!あそこは大学が違っても安泰だと思ったのに。」

「一番安泰なのは、アンタたちでしょ?」

安泰?どこが!一佳に振り回され続けているだけで、別に付き合っている訳では無いのです、誤解ですよ、誤解!

でも、一佳に『一番大切な友達』って言われちゃった、えへへ。あのプリクラを時々眺めてはこっそり悦に入っています。私たちはお友達、今はそれで満足です!



授業の回数を重ねるにつれ、一佳の周りには熱い視線を送る女子が増えて来て、私は相変わらず冷たい視線を浴びています。だけど、一佳は隣りに座っていても全然ラブラブじゃないし、むしろあれをやれこれをやれって口うるさく言うだけです。どう見ても恋人同士じゃないですよ。

そう言えば、一佳は男子の友達が増えました。新しい友達と軽口を叩きあっている姿を見ると、ちょっと安心します。もともと何もしなくても周りが放置しておきませんからね。その気になれば、いつでも友達百人くらい出来そうです。



その日も選択科目を終えて、次の授業を受けに行く一佳や森田くんと別れ、千夏ちゃんこのみちゃんとお茶をしに二号館のカフェテリアに向かいました。

「あ、あの!」

呼び止められて振り向くと、めちゃくちゃ可愛い女の子が顔を赤らめ、私たちを見つめていました。

「あなた達とさっき一緒にいた男の子、N高校の藤原くん、ですよね?」

「藤原一佳のことですか?」

「そうです!わああ、偶然!信じられない!おんなじ大学になったって聞いて、探していたんですよ!」

女の子はパアッと明るく微笑みました。

「あなた、経済学部の奥村翼さん、ですよね?」

同じ経済学部の千夏ちゃんが不思議そうに尋ねると、彼女は嬉しそうにうなずきました。

「そうです!良かったら、一緒にお茶しませんか?私、藤原くんのことが知りたいの!」

物怖じしない翼ちゃんに圧倒され、私たち三人は一緒にカフェテリアに行くことにしたのです。

あとで千夏ちゃんに聞いた話では、華やかな顔立ちでお洒落でスタイルの良い翼ちゃんは、お父さんが大手商社にお勤めのお金持ちのお嬢さまで、帰国子女で英語とフランス語がペラペラ。そのうえ性格も明るく朗らか、誰に対しても分け隔て無く優しく親切なパーフェクトな女の子なのだそうです。一佳や潤くん薫ちゃんで慣れたとは言え、世の中には何にでも優れた人がまだまだいるんだとしみじみ感動しました。



私たちはカフェテリアの丸いテーブルに腰掛け、翼ちゃんの様子を伺いました。

「奥村さん、どうして一佳のことを知っているの?」

同じく物怖じしないこのみちゃんが、単刀直入に質問しました。

「私の仲の良い、一つ年上の従姉が、N高校に通っていたんです。一昨年、従姉の高校最後の合唱コンクールだからって観に行って、その時、ミュージカルに出ていた藤原くんに一目惚れしたの!従姉にあれこれ彼のことを尋ねたけれど知らなくて……でも、同じK大に入ったって、N高校だった友達に聞いて嬉しくて、友達になれたらいいなと思っていたんですよ!」

「そうなんだー。」

「うん!ずっと好きで好きで、でも逢えるとは思っていなくて、そしたら偶然同じ大学で知り合えるなんて!藤原くんはきっと私の運命の人だよ!」

はしゃぐ翼ちゃんを見ながら、私たちは顔を見合わせました。そのあと、あれこれ尋ねられるがままに一佳のことを答えたのです。

「藤原くんが出ている授業は分かりますか?」

「明日の三限の、選択科目に出ますよ。私たちも一緒なの。大講堂で授業があるわ。明日はそのあと講義は無いはずよ。」

「じゃあ、藤原くんに逢いに行きますね!」

翼ちゃんは晴れやかな笑顔で手を振ってお別れしました。

「今の、何?」

「一佳に突撃する気だ。」

「まあ、こっぱ微塵にされるんじゃない?」

千夏ちゃんとこのみちゃんはクスクスと可笑しそうに笑い出しました。

「七海、少しは焦った?」

「え、え?そんなことないってば……」

「心配無いか!一佳が他の女にしっぽを振るとは思えないもんね。」

確かに今までの一佳なら、見知らぬ女の子に声を掛けられてもぶっ飛ばしそうです……



次の日の三限、大講堂で授業を受けながらも、翼ちゃんのことが気になって落ち着きませんでした。

「何そわそわしてるんだよ。」

当たり前のように隣りに座ってふんぞり返る一佳はジロリと私を睨みました。

「一佳、あのね、授業のあとで、一佳に逢いたいって子が居るの。」

「なにそれ、七海の友達?」

「昨日知り合ったばかりだよ。お洒落で可愛くて、凄く親しみやすい子だった。」

「だからって、俺が逢わなきゃいけねー理由になってないだろ。」

憮然として一佳は答えました。それもそうですよね……

授業が終わって、一佳と一緒に大講堂を出ました。

「藤原くん!」

翼ちゃんが待っていました。ぽーっと一佳に見惚れています。

「経済学部の、奥村翼さんよ。一昨年のうちの高校のミュージカルを観て、一佳と友達になりたいってずっと思っていたんだって。」

「奥村です!良かったら、お友達に……いえ、お付き合いして下さい!」

ぎゃー!いきなりですか!私は愕然として後ずさりしてしまい転びそうになりました。

「俺、アンタのこと知らないし、いきなり付き合ってって言われても付き合う気はないよ。」
 
またそう言うことを言うーーーー!高校の時と全然変わっていません。

「そうですよね、ごめんなさい、焦り過ぎました。良かったら、お友達になってください!」

「はあ、嫌だって言ってるだろ!」

「一佳、そう言わないで、お友達くらい、いいでしょ?」

涙目になる翼ちゃんが気の毒になって、私はつい口出ししてしまいました。結局、一佳が珍しく折れて、一佳も私も翼ちゃんと連絡先を交換したのです。

「私、このあと授業があるの!だから今度一緒に遊びましょう!七海ちゃんもこれからよろしくね!」

嬉しそうに走り去る翼ちゃんの後ろ姿を見ていたら、バコンと頭を叩かれました。

「勝手に俺に女を紹介するんじゃねえ!」

「ごめんなさい!」

一佳は怒ってズンズンと歩いて行ってしまいました。

はあ、だけど、一佳と翼ちゃん、並んでいたらテレビドラマに出て来る恋人同士みたいに良く似合っていましたよ。

なんとなく、不安な日々の始まりを感じながら、歩き去る一佳を私は急いで追い掛けました。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

単身赴任しているお父さんの家に押し掛けてみた!

小春かぜね
恋愛
主人公の父は会社の諸事情で、短期間で有るはずの単身赴任生活を現在もしている。 休暇を取り僅かだが、本来の住まいに戻った時、単身赴任の父の元に『夏休み、遊びに行く!』と急に言い出す娘。 家族は何故かそれを止めずにその日がやって来てしまう。 短いけど、父と娘と過ごす2人の生活が始まる…… 恋愛小説ですが激しい要素はあまり無く、ほのぼの、まったり系が強いです……

公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン
恋愛
 HOTランキング 1位 (2019.9.18)  お気に入り4000人突破しました。  次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。  だが、誰も知らなかった。 「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」 「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」  メアリが、追放の準備を整えていたことに。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あなたの婚約者を私にちょうだい?

ララ
恋愛
上級生の彼女は、嬉々とした表情で私に言う。 あなたの婚約者を私にちょうだい?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

処理中です...