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~高校生編~

第24章 高校三年間の思い出(一佳ver.)

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初めて逢った時、俺は七海のことを小動物みたいだって思った。

それは高一の文化祭の前、行事委員会の集まりでのことだ。七海はクラスの行事委員が部活で忙しくて委員会に出られないから代わりに来たとおどおどしながら小さな声でそう告げた。

その言い訳は嘘だ。元の委員だった女どもは派手な奴らで潤と絡むことが目的らしく、全く作業をせずに潤としゃべってばかりいた。その頃の生徒会がグダグダ過ぎて、潤が眞子に頼み込まれて生徒会の作業をするようになり委員会に出て来なくなったら、奴らはあっさり顔を出さなくなった。文化祭に向けてただでさえ人手が足りない時で、出て来いと文句を言ったら、プイと頬を膨らませて代わりを見つけると言い放った。

そして来たのが七海だった。大人しそうなコイツはきっと無理やり損な役目を押し付けられたんだろうなと気の毒にさえ思った。

だから、最初は全然期待していなかった。だけど、ペンキ塗りくらいは出来るだろうと刷毛を持たせたら、七海は嬉々として作業をし始め、あっという間に作業を終え出来栄えも上々だった。それ以外の作業もことあるごとに名指しでさせたら、戸惑いながらも文句も言わず、テキパキとこなしていった。

これは、使える。それに、俺に色目を使わないところがイイ。女って、何かと言えば「好きだ」「嫌いだ」とうるさいからな。

行事委員会は文化祭までが主な活動期間で、その後は七海と逢わなかった。アイツのことはすっかり忘れていた。



高校二年生の一学期、始業式。

早めに教室に着いた俺は黒板で席順を確かめた。すると、斜め後ろの席に七海の名前を見つけた。

「へえ、同じクラスか。」

途端に悪戯心が湧いてきた。アイツの席にわざと座って、窓の外を眺めながら七海が来るのを待ちわびた。案の定、七海は俺が自分の席に座っているのを見つけると、おどおどしながら消えそうな声で俺に話し掛けた。

「あ、あの、そこは私の席です……」

すかさず俺の席を探しに行かせた。素直に従い、斜め前の席を指差した。知っているんだけどねって吹き出しそうになるのを必死で堪えて唇をムッと結んでいたら怖がられた。からかい甲斐があって面白い。

ホームルームが始まって委員会決めになった。すかさず俺は行事委員に立候補した。今年も委員をやろうって潤や薫と約束していたんだ。相方の委員が決まらない。ふと思いついて、七海を指名したら硬直していた。一緒に委員会に行こうとしたら更に怯えられた。先に行こうかと思ったけどやっぱり一緒に行くことにしたら、こわごわとついてきた。そんなに俺って怖いか?マズイ、脅かし過ぎたかな。

委員会に行けば、俺が女と一緒だと、潤が興味津々で七海を構っていた。女には目の無い奴だからな。相変わらず馴れ馴れしくて、すぐに名前呼びし合っていた。薫も珍しくすぐに七海に慣れた。俺も「藤原くん」じゃなくていいと言ったらまたビビられた。一緒に入場門と退場門を作る時に体操着を貸してやったらデカ過ぎて可愛かった。うん、まるっきり小動物だよ。

しばらくして、七海がしょんぼり一人でいることが多くなった。何故だろうと思っていた。

「一佳、七海の様子に変わりは無いか?」

昼休み、弁当を食おうと第二準備室にいたら、薫がやってきていきなりそう言った。

「なんで?」

「今、トイレでお前のクラスの女どもが、七海が生意気だからハブっていると話していたんだ。」

だからか!俺はすぐに教室に駆け戻った。

七海はしょんぼり一人で弁当を広げていた。クルリと教室の中を見渡したら、去年行事委員をやって出てこなくなった女どもがニヤニヤしながら七海をうかがっていた。またこいつらか!俺は怒りに任せて怒鳴りつけたら、七海が慌てて俺を制した。お前が我慢すること無いだろ!

いつの間にか薫と潤までいて、女どもを脅しつけていた。つか、みんな分かっていないけど、俺なんかよりこの二人の方がマジで性格タチ悪いんだぞ。



それから七海は俺らと昼メシを食うようになった。まあ、体育祭まで忙しくてメシはまともに食べれなかったけど。七海は手際よく作業して去年よりずっと楽だった。

体育祭当日、受け持ちが別々だったが、また七海はトラブルに巻き込まれていた。生徒会執行部の担当教諭のサカモッチャンが誤った指示を出したからだ。手伝いに行ったら真っ赤な顔で2リットル入りペットボトルを5本まとめて運んでいた。放っておくと何するか分からない。

無事に体育祭も終わって、ふと七海を労ってやろうと打ち上げに誘ったんだけど、潤の奴が七海をからかうから辞めた。その後も潤は七海の気を引くようなことばっかりする。アイツは女の扱いが上手いからね。七海も楽しそうだった。なぜかムカついて七海に潤が好きなのかと聞いてしまった。そうしたら、あっさり好きだって言われ愕然とした。だけど、それは『LOVE』じゃなくて『LIKE』の意味らしい!途端に嬉しくなってアイスを奢ってしまった。つか、なんで喜んでいるんだ、俺?

文化祭の準備が始まって一緒にいる時間が増えた。そして七海はすぐにトラブルに巻き込まれる。去年の生徒会がダメ過ぎたおかげで今年は予算が厳しくあちこちから文句を言われていた。七海は真面目に対処しようとしていたけど真に受けるなよ!だから一人にしないように作業していたらまたビビっていた。そんなに怖いかなぁ俺って……ご機嫌をとるために購買でバニラアイスを買ってやったら素直に喜んだ。不思議そうな顔をされたけど、前に購買で「バニラアイスが一番好き!」ってデカイ声で言っていたよな?間違ってはいないだろう。なのに飲み物を買いに行かせたら麦茶を買って来た。コーラにしろって言ったらまた怯えられた。俺のこと、分かって無いよ。

文化祭の時も、何かと面倒を背負い込んでいた。サッカー部のチャラ男に振り回されているし、サカモッチャンに無茶ぶりされるし、バスケ部の後輩たちに泣き付かれているし……放っておけなくて一緒に行動したら、「ありがとう」って言われた。やっと俺を認めたみたいだ。

後夜祭で感激した七海に「大好きです!」って言われた。もちろん、潤や薫とまとめてだけどな。嬉しかった、単純に。「一佳」って呼び捨てでイイと言ったら、いきなりケラケラ笑い出した。可愛かった。



その頃から、七海のことが気になって仕方なくなった。



進路指導の調査表を提出する時、七海がK大を第一希望にしてるって知って、俺もそこを受けることにした。親父にはT大に行けって言われていたんだ。でも、大学はどこでも良かった。潤もK大の医学部を目指しているし、薫はまだどの大学に行くかはっきり決めていなかったけど、奴らもK大希望だって言ったら七海は安心した。それから勉強会と称して二人っきりになろうと計画したのにことごとく失敗した。なんで薫や潤まで誘っているんだよ!しかも、俺んちに連れて行くことになった。母さんや瑠佳にはおもいっきりからかわれたけど、二人とも七海を気に入っていた。

合唱コンクールになった。高二はミュージカルをやるんだが、総監督の薫にはめられて俺は主役に抜擢された。こういう目立つ役は潤がやるもんだろ。だけど、声質が気に入らないんだそうだ。どうでもいいのに!だから不貞腐れて大道具係の七海のところで暇つぶしをしていたら薫や潤に連れ戻された。でも、七海も俺らのグループに取り込めてラッキーだった。コンクールが終わった後、七海にめっちゃくちゃ誉められた。イイ気分だ。おかげで出たことの無いクラスの集まりに連れて行かれた。大抵の奴らが俺を怖がっているから嫌なんだけど、七海のおかげでクラスの奴らとも仲良くなったんだよ。

年の暮れに、潤がいきなり初詣に行こうと言い出した。ふと、七海を誘うことを思いついた。俺と二人だとまた怖がられそうだから、潤が一緒だって強調したらOKした。待ち合わせで現れた私服の七海は凄く可愛かった。誉めようと思ったのに潤に先を越されて、その後七海は潤とばかりしゃべっていた。誘ったのは俺なのに。しかも眞子とサカモッチャンのデート場面に遭遇して落ち込む潤のことばかり七海は気にしていた。散々な初詣だったよ。

三学期になると、修学旅行の事前学習が始まった。行動班決めがあって、俺は七海から誘われるのを密かに待っていたけど、アイツの女友達と仲の良い男ども二人を誘ってもう定員いっぱいになりそうで焦って自分から乗り込んだ。七海以外の奴らには嫌がられたけど……別に気にしない。

修学旅行は凄く楽しみだったのに、肝心の七海が風邪をこじらせてホテルで安静にしていることになった。一旦は行動班の奴らと出掛けたが、七海が心配でホテルに戻って看病した。彼女には「サボりたかった」と言い訳したら素直に信じていた。本当は、七海のそばに居たかったんだ。だけどその場面を女どもに見つかって、面白おかしく吹聴されて、なぜか俺は人気者になってしまった。意味が分からん。勘違いして言い寄って来る女どもを蹴散らすのが大変だった。



高校三年生になって、七海とまた同じクラスになった。先に教室に着いたから七海の席にわざと座っていたら、今年は気付いたみたいで可笑しそうに笑っていた。良かった、本気で嬉しかった。そして勘違いして行事委員になろうとする女どもを蹴散らして、今年も七海と無事に行事委員になった。すかさず彼女を副委員長に据えて、いつでもどこでも一緒に行動できるように仕組んだ。

体育祭では薫と揉めた。だけど、七海があちこちと話し合って上手くまとめてくれたから俺はそれに従うことにした。文化祭も雑多な作業を率先してこなし、七海は俺を支えてくれた。おかげで去年よりも盛り上がったといろんな奴らに誉められた。

後夜祭でファイヤーストームの炎を七海と並んで見ていた。感激して目を潤ませる彼女が可愛くてキスしようと顔を近づけた。でも、七海はキョトンとして俺の邪な心には気づかなかった。恥ずかしくなって誤魔化したけどね。



七海は、俺に興味無いのかな?潤の方が好きなのかな?ふとそんな風に落ち込む日々が続いた。



大学受験の勉強を理由にアイツと過ごす時間を強制的に作って一緒にK大を目指した。最初はダメかもって成績だったのに、夏休み明けから急に点数が取れるようになった。俺と同じ法学部は無理でも、文学部なら行けるだろう!本当は同じ学部が良かったけど、無理は言えない。

そして合格発表の日、俺は自分のことのように心配した。発表の時間が過ぎてしばらくして電話を掛けたら合格したって泣いていた。ありがとうって言われた。もっと話したかったのに、瑠佳と母さんに邪魔された。

それからすぐ、前から計画していた自動車の運転免許を取るための合宿に二週間行ったんだ。早く免許が欲しかったし、七海を乗せてドライブに行こうとそればっかり考えていた。だけどその頃、七海は潤や執行部の奴らとディズニーランドに行っていた。潤がわざわざ七海とツーショットの写真を撮って俺に送りつけてきた。しまった、免許を取るよりやるべきことがあったんだ!めちゃくちゃ悔しかった。



それから、俺は決意した。七海に「好きだ」って告ろうと……



卒業式、久しぶりに逢う七海は妙によそよそしかった。なんでかな、妙な距離は逢わなかったせいなのか?

俺は思い悩んだ。勘違いして俺に告ってくる見知らぬ女を次々蹴散らすのに忙しかった。その場面を七海が唖然として見ていた。マズイ、嫌われたかな?

そして、彼女に言われたんだ。

「あ、あのね、一佳、今日で卒業しちゃうけど、これからも……友達でいてくれるかな……」
 
友達?友達じゃないよ、俺はお前のことが好きなんだ!そう言おうとした、確かに途中まで伝えた、そのあとが、すぐに言えなかった。恥ずかしくて、ためらって……

気付いたら、七海は目の前から消えていた。「待て!」って言ったけど立ち止りもせずに走って逃げて行った。

なぜ?なんでだよ!?訳も分からず俺は硬直していた。



俺の高校生最後の日は、そうして終わりを告げた。



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