上 下
160 / 181
第5章 闇の遺跡編

160話 パラシスの思惑

しおりを挟む
 パラシスは古くからいる存在である森の主の所に急いだ。
 
 魔人達のエネルギーを吸収したかったが、あの者がいた事が誤算であったのだ。
 まさか、魔人や黒翼人達の仲間に自然から生まれし存在がいるとは思いもしなかったのだ。
 その者がいたせいで、計画が狂ったのだ。
 そしてその者の気配が城中に溢れ始めたのだ。
 何をしたのかはわからなかったが、私が作る空間は意味がなくなってしまったのだ。
 もちろん、捕らえている二人についてはその者の加護下にないのだが、見つけられるのも時間の問題かもしれない。
 そうであるなら、直接彼らに挑み、エネルギーをいただく事にするしか無かった。
 しかし・・・彼らは予想より強かったのだ。

 そう思っていた時、森の主が予想外に邪なエネルギーを蓄え始めたことを知ったのだ。
 あの状態でそのエネルギーを持つ事は、消滅への道をより進めてしまう。
 それではダメなのだ。
 本来の力をある程度復活させた上で、邪なエネルギーを溜めてほしいのだ。
 この森の主が消滅してしまっては、二度とあのエネルギーを吸収する事は出来ないのだ。

 森の主には、どんなエネルギーも私にとっては同じと言ったが、実は違っていた。
 それまでは確かにどんなエネルギーを吸収しても、全ては自分自身の存在を維持するための栄養でしかなかった。
 だが、この森の主の邪なエネルギーを吸収した後は、何とも言えない安らぎや幸福感を私にもたらしてくれたのだ。
 それは思っても見なかった事なのだ。
 森の主の邪なエネルギーを吸い込むたびにそれを感じる事が出来たのだ。
 私はその気持ちを得たいがために、この森に住み着いたようなものなのだ。
 だが、ここしばらくはそんなエネルギーが蓄えられる事が無くなっていた。
 村人達がいなくなってからは、森の主の心を掻き乱す事が無くなってしまったのだ。
 森の主は私が消滅しないようにエネルギーを与えてくれたが、それはあの時感じたものでは無かったのだ。
 ただ、存在を維持するだけのもので、そこに幸福感は無かったのだ。

 そしてこのまま私にエネルギーを与える事で、森の主が消滅する事があっては、二度とあの幸福感を得ることは無いかもしれない。
 昔、村人達を羽ばたかせてしまったことを後悔したのだ。
 だから、ここに黒翼人を呼ぶ事により、また森の主の邪なエネルギーを増やそうと思ったのだ。
 また、あの時と同じ状況を作り出そうと。
 そして、予想外に魔人達が一緒ではあったが、その大きなエネルギーは森の主の復活に役立てたかったのだ。

 私はすぐに移動すると、そこには予想通り魔人達もいたのだ。
 森の主は下を向きながら頭を抱えていた。
 そして私を見るなり、表情を変えたのだ。
 邪なエネルギーを溜め始めた事は気付いていたが、森の主の姿も変わり始めていたのだ。
 それはとても久しぶりに見る姿であった。
 私はこんな状況ではあったが、その姿を見て思ったのだ。
 ああ、またあの気持ちを感じる事が出来る・・・。
 ここ最近感じる事が出来なかったものが目の前にある。
 そう思うだけで、私は高揚していたのだ。
 私は森の主を見て、心から微笑んだのだ。

              ○

              ○

              ○


 古くからの存在である森の主は精霊から言われた言葉を聞いて、ひどく動揺したのだ。

 昔、森の中で本来の姿が村人に見られた事も、村人達が城に集まり、非難と罵声を浴びせた事も、誰かが先導したものだとしたら・・・。
 パラシスがまさか・・・
 あの者は私の邪なエネルギーを吸い取り、私に安定をもたらしてくれる者であった。
 必要以上にエネルギーを吸い取ることもなかった。
 だから、パラシスが弱りそうな時は、自分から望んでエネルギーを分け与えてきたのだ。
 そして今、私の為に新たなエネルギーを蓄える為に、正しいことでは無いかもしれないが、魔人達を捕らえているではないか。
 だが、パラシスがここに留まる理由は確かに無かったはずだ。
 この森のエネルギーを吸い尽くせば、ほかに移る事が出来たのだ。
 どこにでも行けるパラシスは私とは違うのだ。
 では、なぜ・・・。
 私の中で黒い物が少しずつ増えてくるのがわかった。
 疑問から疑念となっていったのだ。
 私は自分がその疑念から、恐ろしい姿になっていく事が止められなかった。
 
 その時、この場にその元となる者が現れたのだ。
 その姿は冷酷で恐ろしい姿をしており、私が変わりつつある姿と酷似しているに違いないのだろう。
 そしてパラシスは冷酷な姿ではあったが、私に怪しく微笑んだのだ。
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】帝国滅亡の『大災厄』、飼い始めました

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
 大陸を制覇し、全盛を極めたアティン帝国を一夜にして滅ぼした『大災厄』―――正体のわからぬ大災害の話は、御伽噺として世に広まっていた。  うっかり『大災厄』の正体を知った魔術師――ルリアージェ――は、大陸9つの国のうち、3つの国から追われることになる。逃亡生活の邪魔にしかならない絶世の美形を連れた彼女は、徐々に覇権争いに巻き込まれていく。  まさか『大災厄』を飼うことになるなんて―――。  真面目なようで、不真面目なファンタジーが今始まる! 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう ※2022/05/13  第10回ネット小説大賞、一次選考通過 ※2019年春、エブリスタ長編ファンタジー特集に選ばれました(o´-ω-)o)ペコッ

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 試験雇用中の冒険者パーティー【ブレイブソード】のリーダーに呼び出されたウィルは、クビを宣言されてしまう。その理由は同じ三ヶ月の試験雇用を受けていたコナーを雇うと決めたからだった。  ウィルは冒険者になって一年と一ヶ月、対してコナーは冒険者になって一ヶ月のド新人である。納得の出来ないウィルはコナーと一対一の決闘を申し込む。  その後、なんやかんやとあって、ウィルはシェフィールドの町を出て、実家の農家を継ぐ為に乗り合い馬車に乗ることになった。道中、魔物と遭遇するも、なんやかんやとあって、無事に生まれ故郷のサークス村に到着した。  無事に到着した村で農家として、再出発しようと考えるウィルの前に、両親は半年前にウィル宛てに届いた一通の手紙を渡してきた。  手紙内容は数年前にウィルが落とし物を探すのを手伝った、お爺さんが亡くなったことを知らせるものだった。そして、そのお爺さんの遺言でウィルに渡したい物があるから屋敷があるアポンタインの町に来て欲しいというものだった。  屋敷に到着したウィルだったが、彼はそこでお爺さんがS級冒険者だったことを知らされる。そんな驚く彼の前に、伝説級最強アイテムが次々と並べられていく。 【聖龍剣・死喰】【邪龍剣・命喰】【無限収納袋】【透明マント】【神速ブーツ】【賢者の壺】【神眼の指輪】  だが、ウィルはもう冒険者を辞めるつもりでいた。そんな彼の前に、お爺さんの孫娘であり、S級冒険者であるアシュリーが現れ、遺産の相続を放棄するように要求してきた。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

処理中です...