上 下
154 / 181
第5章 闇の遺跡編

154話 森の主の仕業

しおりを挟む
 ブラックとブロムが中庭に行くと、そこにいた者が早くここから出て行くようにと忠告したのだ。
 
「あなたは一体誰ですか?
 この本に書いてある事は本当ですか?」

 ブロムは手に持っている本を見せて尋ねたのだ。

「・・・私は古くから存在する森の主とでも思ってください。
 この空間は私が作ったものです。
 ですが、私の力はもうこの空間を維持するくらいしかありません。
 その本の通り、この森を巨大化させたのは私です。
 今でも、その事を忘れる事はありません。
 ・・・とにかく早く出ないと。
 パラシスが戻ってくる前に。」

 パラシス・・・それが白の存在の名前である事は明らかであった。
 私がそう思った時、城の中に巨大な怒りと悲しみを備えた気配が入ってくるのがわかった。
 私はブロムの腕を掴み、城の外に出ようとしたのだが、一瞬遅かったのだ。
 この城自体がそのパラシスと言う白の存在が作る空間に変えられてしまったのだ。
 私達は再度、この白の存在の支配する空間に囚われる事となったのだ。

「いったい何故私達を捉えようとしているのですか?」

 私がその森の主に話したのだ。

「それは・・・」

 その主が話そうとした時、この中庭に強い気配の者が現れたのだ。
 それは先程見た白の存在であるが、全くと言うほど気配が違い、マントから見える風貌も綺麗ではあったがフードを取ると恐ろしいツノのような物が現れたのだ。
 古い書物に出てくる恐ろしい姿を持つ者は、白の存在の方であったのかもしれない。

「どうしてあの部屋から出られたのですか?
 まさか、手助けを?」

 パラシスと言う白の存在は森の主を睨んで叫んだのだ。
 森の主は黙ったままだった。
 私はこの二人の関係がよくわからなかった。
 
「あなた方には悪いがここに居てもらわないと困るのです。」

 そう言って私達に手のひらを向けたのだ。
 私は私達の前に結界を張ったのだが、やはり城自体がパラシスに作られた空間になっている為、影響を遮る事が出来なかった。
 左手でパラシスにむけて衝撃波や私が得意とする消滅の波動を放ったが、あっという間にうち消されたのだ。
 そしていつの間にか、私のエネルギーが少しずつ消失している事に気付いたのだ。
 どうもパラシスに向けられた手より、エネルギーが吸い取られているようなのだ。

 翼国人であるブロムは魔人とは違い、すぐに膝をついて立っていられなくなったのだ。
 私はブロムの肩を抱え、そのパラシスと言われる者を睨んだのだ。
 その時私は、この者が以前魔人の森を侵食した黒い集団に似ているように感じたのだ。
 侵食してエネルギーを吸い取っていくと言う力に。
 森の主を見ると苦々しい顔をしていたが、そのパラシスと言う白の存在を止めるつもりは無いようだった。
 そしてブロムを抱えながら、私もどんどんとエネルギーと魔力が低下し、ついに意識が遠のき始めたのだ。

 私はこんな時だが、いやこんな時だからか、考える事は一つだった。
 このまま舞に会う事が出来ないのか・・・
 もう、長らく生きる事自体に執着は無い。
 だが、舞の命が尽きるまで寄り添えるくらいの命はまだ惜しいのだ。
 このまま消えるわけにはいかない。
 核があっても復活した時には、既に舞のいない世界。
 それでは・・・意味が無いのだ・・・
 そして私はとても眠くなったのだ。
 

              ○

              ○

              ○


 ブラックが倒れたところで森の主がパラシスを止めたのだ。

「こんな事はやはりやるべきでは無いのでは・・・」

 そう言ってパラシスを見ると、森の主の所に駆け寄ってきたのだ。

「いえ、私の言う通りにするのです。
 そうすれば、上手くいくはずですから・・・」

 そう言って、パラシスは森の主を抱きしめたのだ。
 森の主は困った顔をした後、ブラックとブロムを見て目を閉じ、彼らをすぐ近くの部屋のベッドに移動させたのだ。
 そして森の主はニ冊の本を手に取ると、パラパラとページをめくり、懐かしい顔をしたのだ。
 森の主の気配は先程とは違い、少し力を取り戻したかのように、弱々しいものではなくなっていたのだ。
 それはまるで倒れた二人のエネルギーを吸い取ったかのようであったのだ。
 
「外の生き物も森から出ないようにしないといけないね。
 上への影響が大きすぎるからね。」

 そう言うと、森の主はこの空間の外の世界の森に意識を集中したのだ。
 そして森の巨大な生き物達が上の世界に行かないように、かつてと同じように上手く誘導する事にしたのだ。
 それには森の主にとってかなりのエネルギーを使うようで、先程得たエネルギーがまた少なくなり、弱い気配と変わってしまったのだ。
 そして森の主はため息をついたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

あらやだ! コレあれやろアレ! なんやったっけ? そうや転生やろ! ~大阪のおばちゃん、平和な世の中目指して飴ちゃん無双やで!~

橋本洋一
ファンタジー
ちりちりパーマで虎柄の服をこよなく愛する大阪のおばちゃん代表、鈴木小百合はある日、目の前でトラックに跳ねられそうになった小学生を助けようとして、代わりに死亡してしまう。  しかしこの善行がとある転生神の目に止まり、剣と魔法の世界に転生させられる。そのとき彼女に与えられたチート能力は「好きなだけポケットの中から飴を出せる」だった。  前世からおせっかいで世話好きな性格の彼女は転生世界で自覚なしに、人々を助けまくる。その人々の中には、英雄と呼ばれる騎士が生まれたりして―― 『あらやだ! 転生しちゃったわ! ~おばちゃん無双~』よろしくおねがいします

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

宮廷画家令嬢は契約結婚より肖像画にご執心です!~次期伯爵公の溺愛戦略~

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
ファンタジー
男爵令嬢、アマリア・エヴァーレは絵を描くのが趣味の16歳。 あるとき次期伯爵公、フレイディ・レノスブルの飼い犬、レオンに大事なアトリエを荒らされてしまった。 平謝りしたフレイディにより、お詫びにレノスブル家に招かれたアマリアはそこで、フレイディが肖像画を求めていると知る。 フレイディはアマリアに肖像画を描いてくれないかと打診してきて、アマリアはそれを請けることに。 だが絵を描く利便性から、肖像画のために契約結婚をしようとフレイディが提案してきて……。 ●アマリア・エヴァーレ 男爵令嬢、16歳 絵画が趣味の、少々ドライな性格 ●フレイディ・レノスブル 次期伯爵公、25歳 穏やかで丁寧な性格……だが、時々大胆な思考を垣間見せることがある 年頃なのに、なぜか浮いた噂もないようで……? ●レオン フレイディの飼い犬 白い毛並みの大型犬 ***** ファンタジー小説大賞にエントリー中です 完結しました!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

処理中です...