上 下
136 / 181
第4章 火山のドラゴン編

136話 消滅と希望

しおりを挟む
 私は目が覚めると、アクアとスピネルが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

「あれ・・・何があったの?」

 私は一瞬何があったかわからなかったが、急に頭の中に記憶が蘇ったのだ。
 私はゆっくりと立ち上がると、目の前にとても綺麗で優しい光を放つ集合体が現れたのだ。
 その集合体はあっという間に人の形に変わり、見慣れた精霊の姿になったのだ。

「成功したのだな?
 舞が目覚めたぞ。」

 アクアは嬉しそうに精霊に向かって話したが、精霊は浮かない顔をしていたのだ。

「まさか・・・そうか・・・」

 そう言うと、スピネルと顔を見合わせ下を向いたのだ。
 私にはいったい何のことかわからなかった。
 すると、側にはブラックがいつの間にか立っていたのだ。
 
「急にドラゴンが私の身体から出て行ったのですが、何が起きたのですか?
 舞は倒れていたようだし、いったい・・・」

 精霊は真剣な顔で私を見て、私が倒れた後の事を話し始めた。
 それは、私の予想を超えた話であったのだ。
 話を聞くにつれ、私の心臓の鼓動が速くなってきたのだ。
 時間の遡りが出来るなんて、やはり自然から生まれた存在の精霊はなんてすごいのだと驚くばかりだった。
 そして、ここにドラゴンがいないと言う事は、私を助けるために犠牲になったと言う事なのだろう。
 そう思うと、胸が締め付けられるように苦しかったのだ。

「私のせいなのね・・・」

 私が呟くと、精霊は私に伝えたのだ。

「舞、それは違う。
 舞はドラゴンの放った矢から私や森を助けてくれたじゃないですか?
 あの時あなたがとった行動で、森も私も、そしてドラゴンも救われたのですよ。
 それに、ドラゴンは失敗して犠牲になったのでは無いのです。
 自分から舞の前に降り立ち自分の攻撃を受け、あえて消滅の道を選んだのです。
 ドラゴンは自分のした事で舞を傷つけてしまった事をとても後悔していたのです。
 その事でドラゴンは初めて悲しみを知り、そして誰かのために出来る事をしたいと思ったのですよ。
 ドラゴンにはちゃんと良心はあったのですよ。
 それは、舞、あなたが気付かせてくれたのですよ。」

 確かにドラゴンにはこの世界の楽しさだけでなく、悲しみや心の痛みを知って欲しかった。
 そうする事で、優しさや本当の心の強さを持って欲しかったのだ。
 だが・・・消滅してしまったのでは、闇の薬や契約の指輪を使ったのと、結果としては同じではないか。
 まだまだ知ってほしい事がたくさんあったのに・・・

 いつの間にか涙で周りがよく見えなくなっていた。
 私は涙が止まらなかったのだ。
 そして膝から崩れそうな私をブラックが黙って支えてくれていたのだ。

「舞、あまり悲しまないで。
 ドラゴンは舞のおかげで、封印すべき存在では無くなったのですよ。
 一つ忘れている事があるじゃないですか?」

 精霊は私の前に来て、ある物を見せてくれたのだ。

「あ、封印の石。
 あのドラゴンのエネルギーの一部はどうなったの?」

 封印の石の中を見てみると、今まではエネルギー体の一部分でしかなかった物が、ちゃんとした小さなドラゴンの形になっていたのだ。
 それは石の中で丸まって、まるで静かに眠っているようだったのだ。

「これ・・・もしかしたら。」

 私は驚いて精霊の顔を見たのだ。
 そして精霊は私を見て微笑んだのだ。

「ドラゴンの魂が自分の一部であるエネルギーのところに戻ったのですよ。
 封印の石の中ではありますが、ドラゴンの意志は魂に刻まれて受け継がれると思いますよ。
 だから、いつ目覚めるかわかりませんが、その時はここから出してあげようと思います。
 きっとあの岩山の大地の精霊であれば、やってくれるでしょう。
 ちょっと、あの人は苦手ですが。」

 そう言って苦笑いをしたのだ。
 
 いつ目覚めるかわからないけど、きっとその時はもう封印は必要ないはず。
 何十年、何百年後に目覚めるかわからない。
 私はもう会う事はないかもしれない。
 でも、ここにいる精霊や魔人達がきっとドラゴンを支えてくれるはずだろう。
 だって、このドラゴンにはちゃんとした良心がある事を知っているのだから。
 
 やっぱり、闇の薬を使わなくて良かった。
 私は心からそう思えたのだ。
 そして、あの薬を思い出したのだ。
 闇の薬を作る時に、希望を込めて作ったもう一つの薬。
 封印の石の上からで効果があるかわからないけど、使ってみようと思ったのだ。
 鞄からその薬を出すと、石の上で破裂させ振りかけたのだ。
 すると、金色の優しい光が封印の石を包み込んだのだ。
 それは

 ソウジュツ、ブクリョウ、センキュウ、トウキ、サイコ、カンゾウ、チョウトウコウ
 の入った漢方に光の鉱石を混ぜた物なのだ。

 本来、イライラや神経のたかぶりや興奮を抑える働きがあるのだ。
 このドラゴンが再構築する上で、温和な性格になる様に少しでも働きかけれればと思ったのだ。
 いずれ、強大な力を復活させるかもしれないが、その力を誰かのために、良き行いをする為に使ってほしいと願いを込めたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】帝国滅亡の『大災厄』、飼い始めました

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
 大陸を制覇し、全盛を極めたアティン帝国を一夜にして滅ぼした『大災厄』―――正体のわからぬ大災害の話は、御伽噺として世に広まっていた。  うっかり『大災厄』の正体を知った魔術師――ルリアージェ――は、大陸9つの国のうち、3つの国から追われることになる。逃亡生活の邪魔にしかならない絶世の美形を連れた彼女は、徐々に覇権争いに巻き込まれていく。  まさか『大災厄』を飼うことになるなんて―――。  真面目なようで、不真面目なファンタジーが今始まる! 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう ※2022/05/13  第10回ネット小説大賞、一次選考通過 ※2019年春、エブリスタ長編ファンタジー特集に選ばれました(o´-ω-)o)ペコッ

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 試験雇用中の冒険者パーティー【ブレイブソード】のリーダーに呼び出されたウィルは、クビを宣言されてしまう。その理由は同じ三ヶ月の試験雇用を受けていたコナーを雇うと決めたからだった。  ウィルは冒険者になって一年と一ヶ月、対してコナーは冒険者になって一ヶ月のド新人である。納得の出来ないウィルはコナーと一対一の決闘を申し込む。  その後、なんやかんやとあって、ウィルはシェフィールドの町を出て、実家の農家を継ぐ為に乗り合い馬車に乗ることになった。道中、魔物と遭遇するも、なんやかんやとあって、無事に生まれ故郷のサークス村に到着した。  無事に到着した村で農家として、再出発しようと考えるウィルの前に、両親は半年前にウィル宛てに届いた一通の手紙を渡してきた。  手紙内容は数年前にウィルが落とし物を探すのを手伝った、お爺さんが亡くなったことを知らせるものだった。そして、そのお爺さんの遺言でウィルに渡したい物があるから屋敷があるアポンタインの町に来て欲しいというものだった。  屋敷に到着したウィルだったが、彼はそこでお爺さんがS級冒険者だったことを知らされる。そんな驚く彼の前に、伝説級最強アイテムが次々と並べられていく。 【聖龍剣・死喰】【邪龍剣・命喰】【無限収納袋】【透明マント】【神速ブーツ】【賢者の壺】【神眼の指輪】  だが、ウィルはもう冒険者を辞めるつもりでいた。そんな彼の前に、お爺さんの孫娘であり、S級冒険者であるアシュリーが現れ、遺産の相続を放棄するように要求してきた。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

処理中です...