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第4章 火山のドラゴン編

135話 記憶の遡り

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 この世界の禁じ手・・・
 時間を遡る。

 精霊はこの方法しか無いと、本来は言ってはいけない事を口にしたのだ。

 この森の中で起きた事であれば、記憶を遡る事が出来るのだ。
 以前ブラックに頼まれて、私がまだ小さな1本の若木であった頃まで遡った事がある。
 あの時、ブラックには記憶の書き換えが行われてしまうので、静かな傍観者でいるように約束してもらったのだ。
 だが、実は少し違っていた。
 本当はこの森であった事であれば、記憶だけでなく、過去の事実も書き換えが行うことが出来るのだ。
 ただそれは、何か少しでも手を加えてしまうだけで、現在を変えてしまう危険な行為となる。
 その為、ブラックには記憶の書き換えの話だけにしたのだ。
 過去に行き、現在の状況を変える事は、自然の摂理に反する事なのだ。
 だから禁じ手なのだ。

 そしてもう一つ、過去の森の記憶に入った時、もしそこに存在する自分自身に認識されてしまうと、その者は存在する事ができなくなってしまうのだ。
 この世界では、同一次元に2人同じ存在がある事は許されないのだ。
 つまり過去に行き、舞を救うための何らかの行いをする事自体、とても危険であるのだ。
 過去の自分に見つかった時点で終わりなのだ。
 そう考えると、この危険な事を一体誰がやってくれるだろうか。

「いったいどうすれば良いのだ?」

 ドラゴンを含め、みんなが精霊に注目した。
 精霊はため息をつきながら話したのだ。

「これから話す事はとても危険な事です。
 そして、他言無用と約束してください。」

 精霊は時間の遡りについて話したのだ。
 重い空気が流れた後、アクアが口を開いた。
 
「私が行く。
 精霊、連れて行ってくれるか。
 ドラゴンの攻撃が起きる前に、私が阻止すれば良いのだろう。
 見えない場所であれば良いのだろう?」

「確かにそうですが・・・」

 私が言葉を続けようとした時、ドラゴンが口を挟んだのだ。

「いや、我が行く。
 お前達と違い、今の我には実体がない。
 であれば、認識される事はないだろう。
 それに・・・我が放った矢が原因なのだ。
 我の力でこの娘を目覚めさせたい。」

 確かに今のドラゴンではエネルギー体であるため、ちょうど良いかもしれない。
 だがそれは、我々から見た場合である。
 ドラゴン当人が自分のエネルギー体を認識するのはたやすいのではないか?
 逆に危険ではないかと思ったのだ。
 それを私は伝えたが、ドラゴンは譲らなかった。

 そして私は舞をアクアとスピネルに任せ、自分は人型から光の集合体に変わったのだ。
 ドラゴンもブラックの体から出てきて、エネルギー体として出現したので、私はそれを包み込んだのだ。
 そして私達はこの森全体の記憶の中に入り込んだのだ。

 森の記憶に入った私達は、ちょうど広場から消えた場所を上から見ているような状態になった。
 そして少しずつ遡っていったのだ。
 舞がドラゴンの矢に打たれる前の、ブラックからドラゴンに入れ替わる所で、私は記憶の遡りを止めたのだ。 

「さあ、どうやって止めますか?
 あなた自身に攻撃を仕掛けますか、それともあなたの放った矢をそらしますか?」

 私がそう聞くと、ドラゴンのエネルギー体は答えた。

「・・・どちらでもないぞ。
 この時の我はあの娘がいなくなる事が、我にここまで大きなダメージを与える事だとわかっていないのだよ。
 だから、別の場所から攻撃したり矢をそらしても、また同じ事を繰り返すだろう。
 そしてあの娘、舞も同じように私の前に両手を広げて、この森や他の者を守ろうとするだろう。
 弱い人間だと言うのに・・・」

 そう私に思念で伝えてきたドラゴンの言葉は、少し嬉しそうに感じたのだ。

「では・・・」

 私が続けて話そうとすると、ドラゴンのエネルギー体は記憶の中にあっという間に降り立ち、一言だけ私に伝えてきたのだ。

「上手くやってやるから心配するな。
 ・・・さあ、記憶を進めろ。」

 私はドラゴンの意志の通り、記憶を進めたのだ。

 そして私は、私とドラゴンが広場から消えたすぐ後の時間に一人で戻ったのだ。
 そこには倒れていた舞が立ち上がり、光の集合体から人型に変わった私を見て、不思議な顔をしたのだ。

 舞は正しかったのだ。
 ドラゴンに良心を与える事が、舞には出来たのだ。
 ・・・だが、舞に何て伝えれば良いのだろう。
 私は心が痛んだのだ。
 だが、ドラゴンの気持ちを私がしっかりと伝えなければならないと思ったのだ。

 
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