上 下
102 / 181
第3章 翼国編

102話 クロルとの別れ

しおりを挟む
 黒い影の集合体がクロルの姿になり、ブロムに剣を向けた時である。

 横になっていたクロルは、ブロムの後ろに剣を向けている自分の姿を見たのだ。
 それは、とても邪悪な自分の心の姿にダブったのだ。

 そして、とっさにブロムを突き飛ばすと、黒い影の集合体が持つ剣を胸で受け止めたのだ。
 すぐにブラックが影の集合体に向けて左手をかざし、黒い煙へと消滅させたのだが、剣がクロルの胸を貫くのが一瞬早かったのだ。
 
「おい、クロル!」

 突き飛ばされたブロムは急いで倒れているクロルの元に行くと、クロルは少しだけ微笑んで言ったのだ。

「兄上、無事でよかった。
 ・・・やっと楽になれます。
 リオにすまないと伝えてください・・・」

 クロルはそう言うと、動かなくなったのだ。

 私は黒い影の集合体がブラックにより消滅されるのを見ると、クロルの元に駆け出したのだ。
 青紫色の毒の花が一面に咲き乱れている草原であったが、そんな事は関係なかった。
 もちろん、ブラックからもらったペンダントがあるので、毒の花から自分は守られていたが、走り出した時はそんな事は考えてもいなかったのだ。

 間に合って・・・
 
 私は心の中はそれだけだった。
 そしてクロルのところに早く着きたいのに、中々進めない自分が情けなかったのだ。

 私はブロムに抱えられているクロルのところに着くと、すぐに完全回復の薬を身体に押し付けて破裂させたのだ。
 金色の光がクロルを包み込んだので、私は間に合ったと思ったのだが、クロルの顔色は土色のままであったのだ。

 私は自分が今持っている傷や化膿で使う薬、痛みや腫れをとる薬など、次々にクロルに押し付け破裂させたのだ。
 それらの薬を使うと綺麗な光でクロルを包み込むのだが、それだけでクロルの顔色は変わらず、目覚める事がなかったのだ。

 私は涙をこぼしながら、他に何か無いかとカバンを探っていると、ブラックが手をつかんだのだ。

「舞、もう無理だよ。」

 いつの間にかブラックが横に来ていたのだ。
 ブラックだけでなく、みんなが私とブロム達を囲んでいたのだ。

「まだ、何か助ける方法がきっとあるはずよ。
 考えればきっと・・・お願いブラック・・・」

 私は泣きながら、ブラックに懇願したのだ。

「舞、もう行ってしまったのだよ・・・
 一度亡くなった者を生き返らせる事はできないのだよ。
 魔人のように核が有れば復活は出来るが、黒翼人はそうでは無い事を舞もわかっているだろう。」

 ブラックは優しく私に諭したのだ。
 そう、完全回復の薬の効果が無い事から頭ではわかっていたのだ。
 だが、私の心が何かしなければと納得できなかったのだ。

「私が・・・クロルを追いつめてしまった。」

「違うよ、舞さん。
 あなたは、リオを助けてくれたのですよ。
 あなたがいなければ、いずれリオは死んでいたのですよ。
 ・・・クロルの心が弱かったのが原因です。

 それに、クロルはリオに謝ってほしいと最後に言ったのですよ。
 舞さんに自分が犯人だと知られた事で、最後にはクロルはリオの良い兄に戻ったのですよ。
 クロルは止められない自分を、どこかで誰かに止めて欲しかったのだと思います。

 本当のクロルはとても優しい弟ですから。
 だから、私の身代わりになったのですよ。
 兄なのに助けられなかった私の方が不甲斐ないのですよ。
 ・・・たぶん、リオを陥れる自分を無くしたくて、ここに来たのだと思います。

 だから、舞さんは二人を助けてくれたのですよ。」

 そう言って、ブロムは私の肩に手を置いたのだ。

 私は溢れる涙を止める事が出来なかった。
 自分の無力さを思い知ったのだ。
 ただの人間が出来ることなど、本当にちっぽけな事しか無いのだ・・・。

 そしてブロムとアルはクロルを抱え、リオの待つ黒翼人の世界に帰って行った。
 ブラックは落ち着いた頃に伺う事にするとブロムに伝え、私達は魔人の城に戻ったのだ。

 私はと言えば、何も考える事は出来なかった。

 そんな私を見て、ジルコンは何も言わずに寄り添ってくれたのだ。
 ブラックはカクの所に手紙を出してくれて、私は数日魔人の城に滞在することにしたのだ。
 ブラックはそんな私を優しく見守ってくれていたのだ。

 ここにいると、少しずつだが心が癒される気がしたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓神様。転生場所間違えたでしょ。転生したら木にめり込んで…てか半身が木になってるんですけど!?あでも意外とスペック高くて何とかなりそうです

熊ごろう
ファンタジー
俺はどうやら事故で死んで、神様の計らいで異世界へと転生したらしい。 そこまではわりと良くある?お話だと思う。 ただ俺が皆と違ったのは……森の中、木にめり込んだ状態で転生していたことだろうか。 しかも必死こいて引っこ抜いて見ればめり込んでいた部分が木の体となっていた。次、神様に出会うことがあったならば髪の毛むしってやろうと思う。 ずっとその場に居るわけにもいかず、森の中をあてもなく彷徨う俺であったが、やがて空腹と渇き、それにたまった疲労で意識を失ってしまい……と、そこでこの木の体が思わぬ力を発揮する。なんと地面から水分や養分を取れる上に生命力すら吸い取る事が出来たのだ。 生命力を吸った体は凄まじい力を発揮した。木を殴れば幹をえぐり取り、走れば凄まじい速度な上に疲れもほとんどない。 これはチートきたのでは!?と浮かれそうになる俺であったが……そこはぐっと押さえ気を引き締める。何せ比較対象が無いからね。 比較対象もそうだけど、とりあえず生活していくためには人里に出なければならないだろう。そう考えた俺はひとまず森を抜け出そうと再び歩を進めるが……。 P.S 最近、右半身にリンゴがなるようになりました。 やったね(´・ω・`) 火、木曜と土日更新でいきたいと思います。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

宮廷画家令嬢は契約結婚より肖像画にご執心です!~次期伯爵公の溺愛戦略~

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
ファンタジー
男爵令嬢、アマリア・エヴァーレは絵を描くのが趣味の16歳。 あるとき次期伯爵公、フレイディ・レノスブルの飼い犬、レオンに大事なアトリエを荒らされてしまった。 平謝りしたフレイディにより、お詫びにレノスブル家に招かれたアマリアはそこで、フレイディが肖像画を求めていると知る。 フレイディはアマリアに肖像画を描いてくれないかと打診してきて、アマリアはそれを請けることに。 だが絵を描く利便性から、肖像画のために契約結婚をしようとフレイディが提案してきて……。 ●アマリア・エヴァーレ 男爵令嬢、16歳 絵画が趣味の、少々ドライな性格 ●フレイディ・レノスブル 次期伯爵公、25歳 穏やかで丁寧な性格……だが、時々大胆な思考を垣間見せることがある 年頃なのに、なぜか浮いた噂もないようで……? ●レオン フレイディの飼い犬 白い毛並みの大型犬 ***** ファンタジー小説大賞にエントリー中です 完結しました!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸
ファンタジー
 普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。  海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。  その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。  もう一度もらった命。  啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。  前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています

処理中です...