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第3章 翼国編

69話 黒翼人の世界

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 目の前に、影の集合体により作られた姿と同じ、黒い翼を持つ人物が舞い降りて来たのだ。
 そして、私に一緒に来て欲しいとお願いしてきたのだ。

「ちょっ、ちょっと待ってください。
 何故私が?
 あなたは一体誰なんですか?」

 私は驚いたが、その者からは危険な雰囲気は無く、話をちゃんと聞こうと思ったのだ。

「失礼しました。 
 私はこの世界と繋がる別の世界から来た者です。
 我らは黒翼人と言われております。
 私はクロルと申します。
 見ての通り、我々は翼を持ち空を飛ぶ事が出来る種族です。」

 この世界に住んでいるわけでは無かったようだ。
 私と同じで、他の世界からやって来たという。
 しかし、何故この世界に来ているかと言うのが問題であったのだ。

「私も別の世界からこちらに来ましたから、同じような方がいても理解は出来ます。
 でも、私に来て欲しいと言われても、何かできる事があるとは思えないのですが。
 詳しく聞かせて頂かないと・・・」

 そう言い、話を聞こうと思っていた時、また大きな羽音を立てて、黒い存在が二つ舞い降りてきたのだ。

「クロル、何を手間取っている?
 娘を見つけたのなら、もたもたしないで行くぞ。」

 降りて来た黒い存在の一人はクロルと似ているが少し体も大きく傲慢な態度をとる人物のようだった。

「まあまあ、そんなに焦らせてはいけないよ。
 この娘が不安に思うではないか。
 クロル、話はしたのか?」

 もう一人は細身で、とても静かな口調で優しい雰囲気を持つ人物に感じたのだ。
 そう、どちらも同じ黒い翼を持つ黒翼人と言う種族のようなのだ。

「兄上、まだちゃんとは・・・」

 クロルは気まずそうに話した。
 どうも、この二人はクロルの兄のようなのだ。

「そうか・・・しかし、もう時間がない。
 申し訳ないが、このまま来てもらおう。」

「向こうで詳しく話すので、一緒に来てもらえないでしょうか?
 何もひどいことはしませんから。
 お約束します。」

 その細身の黒翼人は頭を下げて私に頼んできたのだ。
 
 私に何が出来るかわからないが、この人達が悪い人には見えなかったのだ。
 それに、私にはブラックからもらったペンダントもあるわけで、ある程度の危険は回避出来るはずなのだ。
 多分、私に危害を加えようとすれば、自動的に結界が作られるはずなのだ。
 
「わかりました。 
 話を聞くだけですよ。
 私が帰りたいと言ったら、戻してくださいね。
 しかし、私に何かできる事があるとは思えないのですが・・・」

 私はあまり深く考えず、彼らの世界に行く事に決めたのだ。
 不安が無いわけではないが、この人たちの国を見てみたいとも思ったのだ。
 相変わらず、行けばどうにかなるだろうと楽天的であったのだ。

「では、ちょっと失礼しますね。」

 そう言うと、細身の黒翼人は私の腰に手を回し、あっという間に空に飛び立ったのだ。
 私は一瞬のことで声を出すこともできず、目をつぶって腕にしがみつくことしか出来なかったのだ。

「大丈夫ですか?
 目が開けれますか?」

 そう言われ、私はしがみつきながら目を開いたのだ。
 高いところが苦手というわけではないが、こんな事は初めての経験なのだ。
 その黒翼人は、私に風が直接当たらないように腕でガードしてくれているようだった。
 少しして飛んでいる事に慣れて来たので、そーっと下を覗いてみた。
 すると、広大な緑の大地が広がっているのが見えたのだ。
 そして今まで知らなかったが、目前には海か湖かわからないが水辺が見えたのだ。
 水面が日差しでキラキラ輝いていて、とても綺麗だったのだ。
 このハナさんとブラックで見つけた世界はなんて素晴らしいのだろうと、ワクワクしたのだ。
 それを知ってか、私を抱えている黒翼人が話しかけて来た。

「空から見る世界は素敵でしょう?」

 そう言って微笑んだのだ。
 あ、誰かに似ていると思っていたが、この雰囲気はブラックに似ていたのだ。
 端正な顔立ちで、紳士的な雰囲気を持っていたのだ。

「私はブロムと申します。
 クロルは紹介済みですね。
 もう一人の無愛想なのがアルですよ。
 悪気は無いのですが、ああいう言い方しか出来なくて、すみません。
 実は、あなたの事を少し前にお見かけしました。
 不思議な薬で森を元気にさせていましたよね?」

 なるほど、森の件の事を知っているという事は、それが来て欲しい理由なのだろう。

「森の件を知っているのですね。
 でも、あの時に使った薬は持ってないですよ。
 だから、私では役に立ちませんよ。」

「今はいいのですよ。
 まずは話を聞いてもらえれば・・・」

 そう言いながら、少し苦しそうな表情をしたのだ。
 もしかして、私を抱えているから、上手く飛べなくて苦しいのではと思った。
 だがそうではないようだった。
 ブロムは時計のような機械を取り出して、言ったのだ。

「やっぱり半日が限界ですね。」

 そして、水面ギリギリを飛ぶと岩場が見えて来た。
 そこには暗い穴が口を開けていたのだ。
 前を飛んでいる二人は勢いよく、その穴の中に入っていき、私たちも同じように中に入ったのだ。
 その中は暗く静かな下に向かうトンネルのようであったが、すぐに光が差し込んできたのだ。

 そこには大きな木が何本も高くそびえたっており、その一番上に多くの建物が存在しているのだ。
 まるで空中都市のように見えたのだ。
 しかし、その場所から地上を見る事が出来ず、下がどうなっているのかさっぱりわからなかった。

 私たちはある大きな建物の前に降り立ったのだ。
 それは、この辺りでは一番大きく見える建物で、まるで城のような中心的な場所であったのだ。


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