上 下
48 / 181
第1章 洞窟出現編

48話 深い森

しおりを挟む
 魔人達とのお茶会も終わり、舞は城を出て、ブラックと一緒に街へ向かっていた。

 楽しい時間はあっという間に終わってしまったが、ブラックがカクの家まで送ってくれるというのだ。
 帰る前に魔人の国について少しだけ案内してくれたのだ。
 ブラックの城を中心にして街が存在しており、闘技場やホールのような大きな建物もあった。
 少し離れたところには作物を育てている農園や果樹園などもあり、人間の国とそれほど変わる事はなかったのだ。
 しかし、街の外に出て遠くを見渡すと、岩山や草原がほとんどなのに、一つだけ不思議な気配を感じる森があったのだ。

「あの森は何かしら?
 ちょっと気になる気配を感じます。
 気のせいかな?」

 ブラックに聞いてみると、少し驚いた表情で教えてくれたのだ。

「人間なのに感が鋭いですね。
 あの森には魔獣が住みついているんですよ。
 ああ、もちろんこっちの世界に私達が連れてきた魔獣なのですがね。
 ただ、あの森には魔獣達以外の強い気配というかエネルギーを感じるのですよ。
 と言っても、この500年別の生物が現れる事は無かったのですが。
 私も何回か行ってみたのですが、見慣れた魔獣しか見つかりませんでした。
 ただそれは敵意を感じる気配ではないので、放置していますがね。
 言い方を変えると、生きている森とでもいうのでしょうか。」

 なるほど。
 確かに不思議な感じはするが、敵意ではないのは何となくわかるのだ。

「この世界は私とハナで見つけたのですが、まだ移住する前によく二人で遊びにきていたんですよ。
 その頃から、この森は存在していたのです。
 まだ魔獣もいなかったので、よくハナが1人でも来ていたようですが。
 何をしてたかは、よくわかりませんでしたが。
 ・・・行ってみますか?」

「ええ、行ってみたいです。」

 私がそう言うと、ブラックは私の手を掴み、一瞬でその生きている森の前まで移動したのである。
 そこに着くと先ほど以上に、大きなエネルギーを感じたのだ。
 やはりこの気配は不思議ではあるが、敵意などは無いようで、逆に何か惹きつけられるものがあったのだ。
 魔獣達の棲家になっているのも、理由があるのかもしれない。
 森の中には小さな小道が一本だけ通っており、私は引き寄せられるように中へと進んでいったのだ。
 そう言えば、この森には自分の世界と同じような植物は存在するのだが、小動物や昆虫のような生き物を見かけることがなかったのだ。
 それに、ブラックから魔獣の棲家と言われていたが、未だ魔獣1匹とも遭遇する事もなかった。

「魔獣は賢いから、自分より強いものがいると隠れるのだよ。
 もちろん、呼べば来る魔獣もいますよ。」

 ああ、ブラックを怖がって来ないってことなのね。
 なるほどね。

 ブラックは思念で呼び寄せたのか、すぐに綺麗なユニコーンのような魔獣が現れたのだ。
 よく見ると、頭のところに宝石のような石が光っているのだ。

「あの宝石のような石、攻めてきた魔獣にもついていました。
 あれは?」

 ブラックに尋ねると、そのユニコーンのような魔獣の背中を触りながら答えた。

「ああ、あれはその所有者がいると言う証拠ですよ。
 この子は私のお気に入りですがね。
 それに、その石を通して自分の魔力を送る事で、魔獣自身を強くすることも出来るのですよ。」

 なるほど。
 私の世界で言うと、首輪みたいなものなのだが、パワーアップさせる事ができるって感じかな。
 攻撃してきた魔獣もそうだったのかもしれない。
 あの魔人に操られていただけなのに、闇の薬を使い、可哀想なことをしたと思ったのだ。
 
 私はそのまま森の奥深くに進むと、気配の中心とも言えるものを見つけたのだ。
 そこは開けた空間になっており、中心に大きな木が立っていたのだ。
 幹は直径だけでも何メールもあり、濃い緑色の葉が沢山茂って、枝は周辺の木々と一体化しているように見えたのだ。
 そしてその下には色々な草花が咲き乱れていて、寝心地が良さそうな芝生が広がっていたのだ。
 そこまで歩いて来た小道は、高い草木が多く茂っており光も殆ど入らないような状態だったのに、そこは別の空間のように感じたのだ。

 きっとハナさんはここに来ていたんだ。
 すぐにそう思えるくらい、そこは不思議でとても素敵な場所だったのだ。

「この場所は昔はこんな感じでは無かったのですよ。
 もっとこの木も小さく、枯れそうな状態だったのです。
 ハナが可哀想と言って、それでよく通って草木の世話をしていたと思いますよ。」

 ここまで立派な木にさせるなんて、ほんとハナさんはすごい。
 そう思ったとき、何処からか呼びかける声が聞こえたのだ。

「今、聞こえました?」

「ええ。
 どうも、この木が私達に呼びかけているようですね。
 この木は昔はただの木だったはずですが、どうも魔力を吸収してますね。
 魔獣の棲家になってから、影響があったのかもしれません。」
 
 ブラックがそう話していた時、大きな音を立てて、その大木の横の木々や枝が動き出し、トンネルを作り出したのである。
 私達が驚いて顔を見合わせていると、そのトンネルから同じように呼びかけてきて、中に入るように伝えて来たのだ。
 そこには恐ろしい感じは全くなく、私達は中に入ってみることにしたのだ。
 私としては、ブラックがいるので、不安はひとかけらもなかったのだ。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓神様。転生場所間違えたでしょ。転生したら木にめり込んで…てか半身が木になってるんですけど!?あでも意外とスペック高くて何とかなりそうです

熊ごろう
ファンタジー
俺はどうやら事故で死んで、神様の計らいで異世界へと転生したらしい。 そこまではわりと良くある?お話だと思う。 ただ俺が皆と違ったのは……森の中、木にめり込んだ状態で転生していたことだろうか。 しかも必死こいて引っこ抜いて見ればめり込んでいた部分が木の体となっていた。次、神様に出会うことがあったならば髪の毛むしってやろうと思う。 ずっとその場に居るわけにもいかず、森の中をあてもなく彷徨う俺であったが、やがて空腹と渇き、それにたまった疲労で意識を失ってしまい……と、そこでこの木の体が思わぬ力を発揮する。なんと地面から水分や養分を取れる上に生命力すら吸い取る事が出来たのだ。 生命力を吸った体は凄まじい力を発揮した。木を殴れば幹をえぐり取り、走れば凄まじい速度な上に疲れもほとんどない。 これはチートきたのでは!?と浮かれそうになる俺であったが……そこはぐっと押さえ気を引き締める。何せ比較対象が無いからね。 比較対象もそうだけど、とりあえず生活していくためには人里に出なければならないだろう。そう考えた俺はひとまず森を抜け出そうと再び歩を進めるが……。 P.S 最近、右半身にリンゴがなるようになりました。 やったね(´・ω・`) 火、木曜と土日更新でいきたいと思います。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

あらやだ! コレあれやろアレ! なんやったっけ? そうや転生やろ! ~大阪のおばちゃん、平和な世の中目指して飴ちゃん無双やで!~

橋本洋一
ファンタジー
ちりちりパーマで虎柄の服をこよなく愛する大阪のおばちゃん代表、鈴木小百合はある日、目の前でトラックに跳ねられそうになった小学生を助けようとして、代わりに死亡してしまう。  しかしこの善行がとある転生神の目に止まり、剣と魔法の世界に転生させられる。そのとき彼女に与えられたチート能力は「好きなだけポケットの中から飴を出せる」だった。  前世からおせっかいで世話好きな性格の彼女は転生世界で自覚なしに、人々を助けまくる。その人々の中には、英雄と呼ばれる騎士が生まれたりして―― 『あらやだ! 転生しちゃったわ! ~おばちゃん無双~』よろしくおねがいします

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

宮廷画家令嬢は契約結婚より肖像画にご執心です!~次期伯爵公の溺愛戦略~

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
ファンタジー
男爵令嬢、アマリア・エヴァーレは絵を描くのが趣味の16歳。 あるとき次期伯爵公、フレイディ・レノスブルの飼い犬、レオンに大事なアトリエを荒らされてしまった。 平謝りしたフレイディにより、お詫びにレノスブル家に招かれたアマリアはそこで、フレイディが肖像画を求めていると知る。 フレイディはアマリアに肖像画を描いてくれないかと打診してきて、アマリアはそれを請けることに。 だが絵を描く利便性から、肖像画のために契約結婚をしようとフレイディが提案してきて……。 ●アマリア・エヴァーレ 男爵令嬢、16歳 絵画が趣味の、少々ドライな性格 ●フレイディ・レノスブル 次期伯爵公、25歳 穏やかで丁寧な性格……だが、時々大胆な思考を垣間見せることがある 年頃なのに、なぜか浮いた噂もないようで……? ●レオン フレイディの飼い犬 白い毛並みの大型犬 ***** ファンタジー小説大賞にエントリー中です 完結しました!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...