上 下
34 / 181
第1章 洞窟出現編

34話 仮説

しおりを挟む
 前回の幹部招集から1週間ほど経ち、再度みんなの意見を聞く事にした。

 幹部を疑ったこともあるが、あの娘と話していた時に感じた気配で、もう一つの考えが浮かんだのだ。

 ネフライトから幹部が全員揃ったと聞き、広間に向かった。

「みんなには悪かったね。
 考えてくれたかな?
 ちょっと気になることがあったのだよ。
 先日洞窟の結界を確認しに行った時、向こうの世界で魔人の気配を感じたのだよ。
 結界を破られた形跡も無かったし、考えられる事は・・・」

「すでにそこに存在していたという事ね?」

 ジルコンは深刻な顔で話し始めた。

「私の考えを言うわね。
 人間との付き合い方はブラック、あなたに任せるわ。
 この世界に移住するときに、あなたに従うと決めたのだから、今回も気持ちは同じよ。
 それと、洞窟の事だけど、今ブラックの話を聞いて思い出したことがあるの。
 異世界への移住に反対した魔人の中に、植物を操る者がいたと思うの。
 人間に消滅させられたと思っていたけど、もし生き残っていれば、人間にも移住を決断したブラック、あなたにも強い恨みを持っているかもしれない。
 だから、洞窟の封印を解いて、何かしようと考えているのかも。
 その者なら、できるかもしれないの。
 封印を解く事が。」

 なるほど。
 私の勝手な判断で移住を決めた事で、人間達に敗北したと思うならば、私への恨みもあるだろう。
 ただ、どうやって洞窟の封印を解いたのか?
 強い魔力を気付かれずに?
 それも今の時期に?

「よろしいでしょうか?」

 ネフライトが立ち上がった。

「もしかするとですが、消滅寸前まで追い込まれた事で、なかなか復活をする事が出来なかったのではないでしょうか?
 やっと500年ほど経ち、以前の力を取り戻してきたと言うのは?
 まあ、ブラック様が感じた魔人が500年前の生き残りであるならばですが。」

 その可能性はあるのだ。
 少し前に見たクオーツに使われた薬は消滅するまでには至らなかったし、薬の配合量によって違うと思われるのだ。

 ユークレイスが話し出した。
 
「すでに500年前に何か仕掛けがなされてたのではないでしょうか?
 そうでなければ、ブラック様の封印を解く事は不可能かと思います。」

「もしもよ、あの植物を操る魔人であればだけど、封印前に種を仕込んでいれば封印を解くことも可能かもしれないの。」

 ジルコンは仮説を立てたのだ。

 もしも封印前にその種を仕込まれると、封印後、少しづつ封印に使われている魔力を吸収して育っていったのかもしれないというのだ。
 毎日微々たる魔力の消耗が起こるだけなので、誰にも気付かれる事はないのだ。

 そして、どんどんと魔力を吸収して植物は大きく力をつける事になり、その魔人の手足として動く事ができると言う。
 500年と言う長い時間をかけて、封印に使用された魔力は無くなり、封印が解かれたと考えられるのである。
 そして、その植物を介して、クオーツに情報を与え、うまく奴を動かしたと想像できたのである。

 もしも、生き残りが同じ時期に復活を遂げたらどういう事になるだろうか・・・

「ブラック~、そんな深刻に考えなくていいんじゃないかな?
 1人の魔人が復活したところで、我らより格下の者。
 どうにでもなるんじゃないの?」

 相変わらず、スピネルは物事をよく考えるのが苦手なようで、楽天的な考えである。
 まあ、それが長所でもあるんだが。
 
「いや、その仮説が正しければ、事はもっと厄介かもしれない。
 復活した魔人がその者だけとは限らないという事だ。
 それに、今回クオーツを動かしたように、生き残りの魔人達を支持する者が何人か出てきてもおかしくはないかも知れない。」

「そうなると、人間との付き合いをどうこう考える前に、その生き残りの魔人に対する策を考えるのが先になりますね。
 まあ、こちらに敵意を見せれば・・・ですが。」

 トルマは嬉しそうに話し出した。
 基本的にトルマは戦略、戦術を練る事を得意としていたし、戦いが好きな魔人なのだ。
 これまでの退屈した日常から脱することが出来ると思い、半分楽しんでいるように見えた。
 まあ、私の指示の範囲内なら何でも良いのだが。

 確かに種を付ける事は可能だったと思う。
 異世界移住を促した時、十数人の魔人は人間との戦いを求めて、自分の所に来たのを覚えている。


『ブラック様。
 何故戦わないのですか?
 なにとぞ、人間との戦いをお許しください。
 異世界に尻尾を巻いて逃げるような事は出来ませぬ。』

『お前達の気持ちはわかるが、あの闇の薬を使われると魔人でも消滅してしまうのだよ。
 お前達にも傷ついてほしくないのだよ。』


 あの時、私は説得したが納得はしてもらえず、その者達は私から離れていったのだ。 
 すでに私に落胆し、あの時に種を仕掛けたのかもしれない。
 その者たちの半分は上位クラスの魔人であったのを覚えている。
 その者たちであれば、復活をしている可能性が高い。
 私や幹部達には劣るが、何人かが集まり戦いとなれば簡単にはいかないかもしれない。
 ましてや、賛同者が現れれば尚更である。

「では、人間達との付き合い方については、後回しという事で。
 復活した魔人の処遇が決まってからに。
 皆さん、いいかな?」

 みんな、私の言葉に頷き、今後の対策を考える事にしたのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓神様。転生場所間違えたでしょ。転生したら木にめり込んで…てか半身が木になってるんですけど!?あでも意外とスペック高くて何とかなりそうです

熊ごろう
ファンタジー
俺はどうやら事故で死んで、神様の計らいで異世界へと転生したらしい。 そこまではわりと良くある?お話だと思う。 ただ俺が皆と違ったのは……森の中、木にめり込んだ状態で転生していたことだろうか。 しかも必死こいて引っこ抜いて見ればめり込んでいた部分が木の体となっていた。次、神様に出会うことがあったならば髪の毛むしってやろうと思う。 ずっとその場に居るわけにもいかず、森の中をあてもなく彷徨う俺であったが、やがて空腹と渇き、それにたまった疲労で意識を失ってしまい……と、そこでこの木の体が思わぬ力を発揮する。なんと地面から水分や養分を取れる上に生命力すら吸い取る事が出来たのだ。 生命力を吸った体は凄まじい力を発揮した。木を殴れば幹をえぐり取り、走れば凄まじい速度な上に疲れもほとんどない。 これはチートきたのでは!?と浮かれそうになる俺であったが……そこはぐっと押さえ気を引き締める。何せ比較対象が無いからね。 比較対象もそうだけど、とりあえず生活していくためには人里に出なければならないだろう。そう考えた俺はひとまず森を抜け出そうと再び歩を進めるが……。 P.S 最近、右半身にリンゴがなるようになりました。 やったね(´・ω・`) 火、木曜と土日更新でいきたいと思います。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

宮廷画家令嬢は契約結婚より肖像画にご執心です!~次期伯爵公の溺愛戦略~

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
ファンタジー
男爵令嬢、アマリア・エヴァーレは絵を描くのが趣味の16歳。 あるとき次期伯爵公、フレイディ・レノスブルの飼い犬、レオンに大事なアトリエを荒らされてしまった。 平謝りしたフレイディにより、お詫びにレノスブル家に招かれたアマリアはそこで、フレイディが肖像画を求めていると知る。 フレイディはアマリアに肖像画を描いてくれないかと打診してきて、アマリアはそれを請けることに。 だが絵を描く利便性から、肖像画のために契約結婚をしようとフレイディが提案してきて……。 ●アマリア・エヴァーレ 男爵令嬢、16歳 絵画が趣味の、少々ドライな性格 ●フレイディ・レノスブル 次期伯爵公、25歳 穏やかで丁寧な性格……だが、時々大胆な思考を垣間見せることがある 年頃なのに、なぜか浮いた噂もないようで……? ●レオン フレイディの飼い犬 白い毛並みの大型犬 ***** ファンタジー小説大賞にエントリー中です 完結しました!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

処理中です...