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第1章 洞窟出現編

16話 薬の効果

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 救護のテントに負傷者が運ばれてきた。
 ほとんどは、打撲や擦り傷程度であった。

 軍医と言うべき薬師、リョウ=コウカもおり、テキパキと診察をし、それぞれの症状や傷の深さなどを私やカクに伝えてくれた。
 カクはこの世界で行われる通常の処置を行い、私はその症状に見合う薬を選んだのだ。

 ついに、先日カクと一緒に作った薬を使う時が来たのだ。
 みんな飲み込みも問題は無さそうなので、そのカプセルのようなものに入れた薬を飲んでもらう事にした。

 まず、足や腕の打撲で腫れている兵士には

ケイヒ、シャクヤク、トウニン、ブクリョウ、ボタンピ、そして水の鉱石の粉末が入った薬を飲んでもらった。

 もともと打撲で使用される漢方で、短期処方される事があるものなのだ。
 大部分の兵士は同じような怪我であったので、同じ薬を飲んでもらったのだ。
 すると、擦り傷などの改善はなかったが、数分で打撲による腫れや痛みが引いたと、口々に話し出したのだ。

 中には火傷を負った兵士もいた。その兵士には、

キキョウ、カンゾウ、キジツ、シャクヤク、ショウキョウ、タイソウ、そして火の鉱石の粉末が入った薬を飲んでもらった。

 これは発赤や腫れで痛みを伴う化膿や傷で使うのだが、抗生物質のないこの世界では、火傷による化膿が一番心配と思われたからだ。
 飲んだ後、やはり数分で痛みが楽になり、火傷の赤みがほとんど消えたのだ。
 
「これは、すごい!今まで飲んだ薬とは全く違いますね。
 もう、腫れもないし、問題なく動かせます。
 ありがとうございます。」

 負傷した兵士達は、何事もなかったように持ち場に戻ったのである。

 ・・・すごい。
 あの古びた書物に書いてあることは本当だったのだ。兵士たちの回復する姿を見て、驚きしかなかったのだ。

 横にいた軍付きの薬師のリョウは目を丸くして、兵士たちの去った行く姿を見ていた。

「これはどういう事なのでしょうか?
  全く意味がわかりませんよ。
 シウン大将から、今回ここで見ることは他言しない事とキツく言われてはいたのですが、この事なんですね。
 ・・・舞殿でしたね。
 あなたはこの国の人間では無いですよね?」
 
 リョウは疑うような目で私をじっと見て話した。

 確かに、この世界の医療を考えたら、私が魔人か何かと思われてもしかたがないのだ。
 私でさえ、これらの薬は魔法の薬と思うのだから。

 カクが焦ったように話し出した。
 もともと、ヨクから、誰かに説明を求められた時の話は決めてあったのだ。

「ああ、驚きますよね。
 私もそうでした。
 舞は隣国で色々な薬の調合の研究をしている者なのです。
 今回、魔人対策のために特別に王様に呼ばれたわけで、研究中の薬を使用しているので、まだどこにも出ていないのですよ。  
 ですから、他言無用という事なのですよ。
 ははは・・・」
  
 「ほほう。
 そんな素晴らしい薬があるのですね。
 まあ、そういう事にしときましょうか。」

 カクの早口でわざとらしい説明に納得はしていなかったようだが、リョウはそれ以上詳しくは聞いてこなかった。
 
 一通り治療が終わったころ、ヨクがテントに現れた。

「どうだったかな?上手く負傷兵を治すことは出来ただろうか?」

「遅かったですね。
 もう、治療は終わってしまいましたよ。 
 本当に素晴らしかったです。」

 舞は小声でヨクに伝えた。リョウも近くにいるので、余計なことは言わないようにしたのであった。
 
 その時である。
 
 「お話中、失礼します。
 あの、同僚を見てもらいたいのですが・・・。」

遠慮がちに声をかけてきた青年は、何かブツブツと話している同僚を抱えながら入ってきたのだ。

 よく見ると彼らは警備隊で、洞窟で倒れていた人たちだった。
 確か、記憶が少し抜けてはいたが、大きな怪我はしていなかったはず。

「どうしました?
 確か、もう治療は終わっていたはずですよね?」

 リョウが先程見た患者で、覚えていたようだ。
 擦り傷くらいで、薬の必要性もない怪我であった。

「それが、少し前からブツブツ何かを言い出して、洞窟が怖いと騒ぎ出したんです。私は全く記憶が無いのですが、こいつは、洞窟で人影を見たって話してたんです。
 自分の知らないところで、恐ろしい思いをしたのかもしれません。
 どうにか、治すことはできますでしょうか?
 お願いします。」

 その青年は深々と私たちに頭を下げて懇願したのである。
 抱えられた同僚は表情はなく、興奮気味に同じコメントを繰り返すばかりであった。

「うーん、先程ここで見た時とは全く違いますね。
 ちゃんとした会話も厳しそうですね。
 いったいどうしたことやら。」

 リョウは彼を診察しながら困っていた。

 舞から見ても、落ち着きがなく、興奮状態が続いて少し精神に異常をきたしているように見えた。

 そういえば、あれは使えるかも。
 古びた書物の中に書いてある薬で、神経興奮状態を改善させるものがあったはず。
 ただ、精神に働き掛けるものには、光の鉱石の粉末が必要なのだ。
 漢方薬は持参しているが、光の粉末がここには無いのだ。
 私が思案していると、ヨクが話してきた。

「舞、もしやあの薬を考えているかな?
 これを使ってみるかな?」

 ヨクは小さな袋に入った綺麗な粉末を見せてくれた。
 私が何を考えているかわかっていたかのようだった。
 そう、この世界に転移した時に使用したのと同じものであった。

「使って良いんですか?」

「もちろんだとも。
 今使わなくて、いつ使うのじゃ?」

 ヨクはニヤリとして私にその袋をくれたのだ。
 
 カクと一緒に調合の準備をした。

 ソウジュツ、ブクリョウ、センキュウ、トウキ、サイコ、カンゾウ、チョウトウコウが含まれる漢方薬と、光の鉱石の粉末を書物の通りに混合したのだ。

 興奮している彼に飲ませるのは難しいので、数人で動かないように抑えてもらい、 頭にその薬を振りかけてみたのだ。
 その途端その薬は光を増し、彼自身を包むように光った。
 その後、彼の中に吸収されていくかのように消えたのである。
 そして、静かに彼は横たわり、スヤスヤ眠っているような状態になったのだ。

 
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