冷蔵庫

神崎マコト

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冷蔵庫

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 大学の友人Bと昨日から連絡が取れない。LINEは既読がつかないし、電話しても留守電になる。
「そういや先週から見てないかも」
 共通の友達のKが呑気にそんなことを言うので、心配になってBの様子を見に行くことにした。Kも一緒に行かないかと誘ったら、Kは首を振った。
「いや、俺はいいや。あいつんち、ちょっと雰囲気が苦手なんだ」
「雰囲気って……Bのアパート事故物件か何か?」
「違うんだけど、似た感じ」
 要領を得ないのでKの説得は諦め、俺ひとりでBのアパートへ向かう。
 駅から15分ほど歩いたところにある、年季の入ったアパートの二階角部屋がBの部屋だという。俺は何度かBにLINEを入れながら、部屋のチャイムを鳴らしてBの反応を待つ。LINEは相変わらず既読がつかない。
「あれっ」
 何気なくドアノブを回したら、かちゃりと開いた。不用心極まりない。俺はそっとドアを開けてみた。
 玄関から覗く6畳一間のワンルームに、横たわるBの足が見えた。寝ているんだろうか。何となく音を立てたらダメな気がして、そろそろと忍び足で部屋へ入ってみると、そこには。
「……は?」
 部屋の隅に置いてある独り暮らし用の小さな冷蔵庫に、頭を突っ込んで横たわるBがいた。
 異様な状況に息が詰まる。まさか死んでるんじゃ――慌てて駆け寄ろうとした瞬間、細い指が突然冷蔵庫のふちを鋭く掴み、俺は飛び上がった。Bは冷蔵庫に頭を突っ込んだ姿勢のままピクリとも動いていないし、角度的に見ても明らかにBのものではない。
 病的に白い、痩せ細った指――ぎわぎわと気味悪く蠢くそれが、冷蔵庫の中から這い出てこようとしていると気付いた瞬間、俺は声も出せずにBの部屋から飛び出した。
 全速力で駅まで走り、息を切らしたままKに連絡する。先程の異常事態を一息で伝えると、Kはやっぱり、と一言言った。
『部屋は何ともないんだけどその冷蔵庫がさ、すげえ嫌な感じするんだよ』
「ゆ、指っ、な、な、中から指ッ……」
『まあ、見たのが指だけでよかったと思うよ。中のモノを見たらおまえも多分二の舞になってただろうし』
 ぞわりとして唾を飲み込む。
『もうBんちは行かない方がいいぞ。そのうちケロッとして学校にくるから』
「う、うん……」
 Kの言う通りBは数日後、何事もなかったかのように普通に学校へ来た。休んでいた間の記憶は曖昧なのか、寝すぎて頭と首が痛いと笑ったくらいで、俺が部屋を訪ねたことも気付いていないようだった。
 ただ、Bが笑顔で言った言葉に、俺は心底寒気がした。

「次のバイト代入ったら、冷凍庫買おうと思ってるんだ」
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