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第66話 聖王国を蝕む闇

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聖王国フィリルス、シュルツヘルン城謁見の間―――

仁王立ちするリンネの前で聖王ルプナミス2世、ルプナミス・エイレルド・ナル・フィリルスが冷や汗を流しながら跪いていた。
彼は半年前急死した前王ルプナミスから引き継いだ、いまだ19歳の青年であった。

「貴様……子飼いの貴族すら抑えられぬのか?そのような愚鈍なトップなど、消えた方がまし。……そうは思わぬか?」

見下ろし言い放つリンネの圧がますます増していく。
何故かエルノールもその様子を誇らしげに見ていた。

騒然とする聖王国の重鎮たち。
まさに即座に首を刎ねられそうな雰囲気に、誰一人声を発する事が出来なかった。

何とかつばを飲み込むルプナミス2世。
若いとはいえ一国のトップ。

その矜持が、意地が、伺いを立てようとどうにか頭を上げさせる。

「っ!?」

まるで感情のない様な、あり得ないほど冷えたリンネの瞳と目が合う。

「ふん。良いであろう。直答を許す。……言ってみろ」
「恐れながら……す、すぐに対策いたします。そ、その、今回の不手際……まさに私の不徳の致すところです。……私の首は差し上げる。……ど、どうか、国や民たちは……お救い下さい」

そこへ突然品のない大きな声で騒ぎながら、実質この国を牛耳っている聖教会のトップ、教皇モードレイが数人の聖職者を引き連れ乱入してきた。

余りのリンネの発する圧に動けない近衛たちの反応が遅れる。
その様子を『偉い自分に恐れた』と勘違いしたモードレイは人を馬鹿にしたように顔を歪めリンネに指をさし暴言を吐いた。

「なんと嘆かわしい。聖王ともあろうお方が……我が神リナミス様は創造神なぞ認めてはおらん。このまがい物が、頭が高いわ!!」

凍り付く謁見の間。

流石に前王の時代より仕えし重鎮たち。
確固たる実力を兼ね備えていた。
瞬時に、訪れていたリンネとエルノールの底知れぬ力に気づき慄いていた。

それを全く分かっていない教皇たち。
内心あきれてものも言えない。

モードレイはさらに近づき、いやらしい目でリンネを視姦しはじめ、手をワキワキといやらしく動かし始めた。
周りの聖職者もどきも顔にいやらしい笑みを張り付ける。

とても聖職者には見えない。
ただのエロジジイの集団だ。

「ふん?……よく見ればいい女じゃないか……くくくっ、我が神にひれ伏すとよい。なあに、我が神は寛容だ。たっぷりとベッドの上で教議をその体に教え込んで進ぜよう。……ほっほーう?お前、良いものを持っているなあ……どおれ」

そしておもむろにリンネの胸に手を這わそうと手を伸ばしてきた。

「おいルプナミス。なんだこのゴミどもは。……力の欠片も感じぬ。……神リナミス?知らんな。……頭が高いのは貴様だ」
「なに?……っ!?ひぐぎゃあああああああああああーーーーーーー!!!!?」

モードレイの腕が一瞬でミンチになりおびただしい血しぶきが噴き出しあたりを濡らす。
喚き散らし転げまわるモードレイ教皇。

「ふん。この国はどこまで腐っているのだ。……ルプナミス、貴様が責任をとれ。この国を立て直せ。死ぬことは許さん」

「っ!?は、はっ。この命に代えても」


※※※※※


諦めていた。

確かに自分は聖王。
だがいきなり即位しまだ半年。
お飾りに他ならない。

実情は聖教会とそれに連なる貴族派閥に牛耳られていたのだ。

だがまさに今。
創造神であらせられるリンネ様が認めてくださった。
そして神の啓示を示してくださった。

『この国を立て直せ。死ぬことは許さん』と。

聖王ルプナミス2世の心に確かな炎が灯った瞬間だった。


※※※※※


続けざまにリンネは指示を出す。

「宰相」
「っ!?はっ」
「まずはこのゴミどもをひっ捕らえよ。それが済んだら早急に貴族と教会関係者を招集しろ。一掃するぞ。……わが姉であるゲームマスター。その力で選別を行う。5日後この場に集めよ。確たる理由がなく招集に応じない貴族と聖職者も反逆者と断ずる。心して集めよ」

「仰せのままに」

あわただしく動き出す国の重鎮たち。
喚き散らす教会関係者を一瞬で拘束していく。

彼らの表情がまるで憑き物が落ちたように輝いていた。

リンネはそっとしゃがみ、慈悲を表情に表し優しくルプナミスの手を取った。

「すまぬな。貴殿も辛かったであろう?……創造神として貴殿の力になると約束しよう。さあ、立つといい………あなたは無力じゃない。こんなにも支えてくれる臣下がいる。きっとフィリルスの未来は明るい。ゲームマスターであるわが姉、美緒も喜ぶであろう」

魂を震わす感動。
とめどなく流れる涙を隠すことも忘れ、ルプナミスはリンネの手を取り立ち上がった。

そして見つめる。
なんと美しいご尊顔か……

まだ伴侶を得ていないルプナミスは顔を染めてしまう。

「ふふっ。我も捨てた物ではなかろう?まあ、美緒は、わが姉はもっと可憐であるがな」
「いえ……私は貴女ほど美しい方を知りません。美しき救済の創造神様。わが命、尽きるまで忠誠を誓います」

そして跪きリンネの手の甲へとキスを落とす。

「ふむ。承知した。……エイレルド、貴殿はそう名乗れ。……あなたは父王の代わりではない。……刻むといい。真の王であることをその心に…よろしく頼む」

にっこりと慈愛の表情でほほ笑むリンネ。
ルプナミス2世、いや、エイレルドが恋に落ちるのは必然だった。


※※※※※


聖王執務室。

かぐわしい紅茶を楽しみながらリンネとエルノール、そしてエイレルドと宰相であるヒルニガルド公爵の4人で打ち合わせを行っていた。

「リッケル侯爵の件は既に報告が上がっております。あまりの横暴。すでに処罰対象として調査は進んでおります」
「ふむ。無能ばかりではなかったのだな。少し安心したぞ?」

「これは手厳しい。しかし言い訳はできませぬ。あの男、教皇一派が幅を利かせていた事実に変わりありません」

喚き散らしていた教皇はあの場であっさり気を失った。
今は牢屋で手当てを受け、死んだように眠っているはずだ。

「ではこちらで捕らえても問題はないという事でよいだろうか」

エルノールは宰相に視線を向け問いかけた。

「はい。できれば生かしたまま……もちろん殺害したとしても、罪には問いません。ですが悪事をつまびらかにする必要もありますゆえ、どうか」

「ええ。それこそ我が主、ゲームマスターである美緒さまの願いです。っ!?……どうやら、すでに確保したようです」
「なんと……流石は創造神リンネ様の配下。凄まじいですな」
「おい宰相」
「はい?」

リンネが圧を乗せ宰相を睨む。
思わず冷や汗を流す宰相。

「間違えるな。あくまで我らはゲームマスターである美緒の配下、いや仲間だ。我がトップではない。そもそも今回の訪問だって美緒の指示に他ならない。まあ貴様らも彼女に会えばすぐわかるが……美緒を少しでも下に見てみろ。この世界から痕跡も残らぬと知れ」

「し、失礼いたしました」
「ふん。分かればよい。……どうしたエイレルド?そんな顔して」

何故か呆けた表情でリンネを見つめる聖王。
はっとし、トマトのように顔を真っ赤に染め突然マシンガンのように話し始めた。

「い、いえ、信じられなくて。リンネ様はきっと至上の美しさ。そんなお方が敬愛を向ける美緒さま。ですが我が忠心はリンネ様に……ああ、あなた様はまことにお美しい。それに…………」


※※※※※


あー、エイレルド?
貴方自分の世界に入っちゃってたのね。

うん。
少しだけ美緒の気持ち分かったかも。

妄信され敬愛を一方的に向けられる。
大変だったね、美緒……
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