上 下
5 / 127

第5話 黒髪黒目の少女は目的を定める

しおりを挟む
「ねえ美緒。いつ決めたの?」

エルノールが驚愕でフリーズしていたのを何とかなだめすかし、今3人はギルドマスターの執務室でお茶をしながら今後の事について話し合いを行っていた。

リンネは見た目子供だが、実年齢は200歳を超えている。
創造神なのだからその力はすさまじい。
だが今は、ある縛りの中で彼女の本来の力は封印されているに等しい。

見た目は10歳程度。
しかし整った容姿はまさに絶世の美少女だ。

「…ん?ルートの事?…んーと、今が『帝国歴25年』って分かったときかな。ワンチャン全部救えるかもって思ったのよね」

リンネに見蕩れ、呆けていた私は何とか言葉を紡いだ。
若干言葉が崩れたのは御愛嬌。
まあこの神様、そういう事は気にしないらしい。

紅茶を口に含みほっと息を吐き出す。

「それから情報流入で確定したんだよ。私って軍師だけど、これってメインジョブでしょ?サブで『賢者』を選ぶつもりなの」

がたっと音を立てエルノールが立ち上がる。

「美緒さま!?それは……確かに可能ですが……そうか、だから時間が惜しいと」
「うん。まずは魔法使いを極めないと。その次は僧侶よね。大体1ジョブ極めるには2年必要だったはず。あと4年、私の情報とリンネのスキルを駆使すれば確実に間に合うわ」

私は決意を瞳に宿しリンネを見つめた。

「だからさ、リンネ。協力してほしい。あなたの力、私に貸して」

リンネは視線をそらし、ため息をつく。
そして俯き加減に話し始めた。

「……美緒はさ、このゲーム詳しいのよね?だったらもっと簡単な方法あるのも知っているでしょ?今この瞬間に私を殺せばついになる悪神も消滅する。……良いよ?私を殺しても……ぴっ!?」

リンネの頭に私はげんこつを落とす。
そして頬を膨らませ、ジト目でリンネを見つめた。

「あのね、私今言ったよね?私は全部を救いたいの。その中にはリンネだって入ってるんだよ?」
「うう…」
「まったく。神様のくせにそんなこと言わないの。まかせて。私勝算あるもん」

「「勝算??」」

涙目のリンネと驚愕の表情を浮かべるエルノール、ばっちりハモった。

君たち仲良しかなっ!?

「コホン。うん。まずはジョブを鍛えながら『コーディネーター』を捕らえるよ。そもそもリンネの弟君『ガナロ』がおかしくなるのだってあいつの『ちょっかい』のせいでしょ?わたし、頭に来ているんだよね」

長年続けていたゲーム攻略において、私にはいくつか腑に落ちない事があった。

情報もないしスチルもない。
でも確実に第3者がいくつかの場面で暗躍していた形跡があるのよね。

そして今回得た膨大な情報の中にそいつが居た。

『コーディネーター』

この世界における『調整者』という意味なのだろう。
ゲームバランスの面で見れば成程、確かにその存在意義はあるのだろう。
だけどシナリオを無視し、全てを救おうと考えている今の私。
それからしたらこいつはただの暗躍者、邪魔者だ。

何しろ嫌なタイミングで一番して欲しくない行動を起こす者だからだ。

その正体は。

超古代種族で今はもう現存していないエンシャントエルフ。
見た目美少年の『アルディ・リルルフェアリル』

何と御年2000歳。
性格はお察し。


※※※※※


「『コーディネーター』ですか?……私の情報には無い称号です」
「……美緒、あんたマジで言ってる?そいつの事は私も知ってる。奴は『流入者』だ。この世界に干渉できない代わりに生存を認めていたはず、なのだけど……」

多くを語りのどがカラカラだ。
私は紅茶をごくりと飲み干した。

「ふう。うん。……でもね、あいつ私たちが知らないスキルを隠し持っているんだよね。リンネ、あなた3代目でしょ。初代様が、創造神ルーダラルダ様がちゃんと楔(くさび)を打ってあるわ」
「っ!?おばあさまが…って、何で美緒は知っているの?まさか……」
「わたし『ゲームマスター』だよ。この世界のこと、全部わかる」

嘘は言っていない。

私はこの星が創造され人類が誕生してから今までの5000年の歴史を知っている。
あの情報流入で、全て脳に刻まれていた。

リンネのおばあ様、つまり初代の創造神ルーダラルダ様がこの世界を作ったときからの事を。
そして今から数年後の未来のことまで……

当然ながら個人の内面のことなどは分からない。
でも今それを言う必要ないよね?

二人絶句し私を見つめている。
まるで時が止まったかのように執務室は静寂に包まれていた。

うん。
本当ならこんなに恐ろしい存在はないよね。
我ながらとんでもないチートだ。

「だからさ、私を信じて。……私ね、前の世界でいろいろあって独りぼっちだった。そんな時このゲームに、みんなに救われたんだよね。……だから今度は私の番。お願いします。協力してください」

頭を下げ手を差し出す。
ここで断られたら……
もうその時は自分一人でも救う。
もう決めたんだ。

小刻みに震えている差し出した私の手が温かい感触に包まれる。
そしてさらに握られる力に重みが増した。

「頭を上げてください。私はマスターのしもべですよ?あなた様の御心のままに」
「まったく。あんた真面目なのか狂っているのか分からないよね。…心配だから協力してあげるわ」

私の胸の中に温かい何かが沸き上がる。
うっとりと私を見つめるエルノールと顔を赤らめそっぽを向いているリンネ。

私は今一人じゃない。
それがただ私は嬉しかったんだ。

「よろしくね!!」

そして物語は静かにそのスタートを切った。
本編開始まであと4年。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...