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3.間違えられた私

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私の目に、真っ白な空間に薄いもやの様なものが動いている景色が飛び込んできた。
そして靄は徐々に人のような形になっていく。

私は意味も分からず呆然とその様子を眺めていた。

※※※※※

「ねえ加奈子、あれ、もうクリアーした?」

さっきまで私は加奈子の部屋でビール片手に他愛もない話をしていたはずだ。

「んー『愛の狩人~美しすぎる男たち~』?もうやってないよ。だってさ『第2部』ってただのエロゲじゃん。アダルトビデオかよって。嫌いではないけどさ。まじ萎えた」

だらしない格好でソファーでビールを飲んでいる加奈子。
無駄にでかい37歳のくせに形の良い胸の下乳が、やけに短いTシャツの裾からちらちら見えている。

「ねーそれよりさ、聞いてよ。あのくそエロ部長がさ『たまには付き合いなさい。もう子供じゃないんだ……意味わかるよね』とか言ってくるんだよ。キモ過ぎでしょ。はあーもうやめようかな、仕事」

「加奈子がエロいからいけないんじゃん。流石にあの格好はないと思うよ」

この子は私の唯一の親友の山際加奈子。
一つ年下だが大学を中退した加奈子は私と同じタイミングで入社した同期だ。
もうかれこれ15年以上の腐れ縁だ。

「それより加奈子、近藤君とはどうなってんのよ。この前メチャクチャ愚痴られたんだけど?」

加奈子は開いたビールを放り投げ、ごそごそとレジ袋から新しいチューハイを取り出しながら面倒くさそうに口を開く。

「だってさアイツ、受付の美弥ちゃんといちゃいちゃしているんだよ?知らないしあんな奴」

不満を募らせたような顔をし缶を開け一気に流し込む。

「……ぷはあ、どうせ男は若くて可愛い娘の方が良いんだよ。枯れてるあんたにゃ分かんないだろうけどさ」

そしてなぜか私に投げつけてきた。

「痛っ、ちょっと、酷くない?私悪くないよね」

ジト目で睨む私。
そっぽを向きふくれっ面をする加奈子。

加奈子は拗ねるととても面倒くさい。
長い付き合いの私は早急に対策を講じることにした。

そっと加奈子の隣に移動し、彼女を優しく抱きしめる。
この子は家庭の事情で人の肌に飢えているんだよね。

「ん……舞奈、あったかい。……グスッ……ヒック…」

私は加奈子の頭を優しくなでてあげる。
37歳のくせに可愛い加奈子は、こういう時はまるで子供のように見える。

「悔しいよお……美弥ちゃんに…取られちゃう……ぐすっ……」
「もう、大丈夫だよ……加奈子は可愛いんだから……」

私はずっと加奈子の髪の毛を撫でていてあげたんだ。
そして決してそういう趣味はない私たちだけど、抱き合ったまま寝ちゃったはずだ。
明日は休みだったから、いろいろ気にしないでいたんだけど。

えっ、なに?
わたし、死んだの?

※※※※※

やがて人の形をとった靄だったモノは、あるえないほどの美しい顔を愉快そうに輝かせながら、わたしに声をかけてきた。

「おめでとー♡やったね、君は選ばれましたーパチパチ。地球で不幸だった君に、新進気鋭の新神、このオルゴイルド・デルク・リーデンマイナルが特別に君の好きな異世界にご招待してあげるよ♡」

なんだかポーズを取りながら決め顔でうっとりしていやがる。
一瞬かっこいいと思った私の気持ちを返してほしい。

「ん?どうしたんだい?あまりの嬉しさで、パニックなのかな?心配はいらないよ、美弥ちゃん。君の好きなゲーム『愛の狩人~美しすぎる男たち~』の第2部の世界だからね。特別にいくつかのスキルもあげちゃうから、たっぷり憧れている彼らとエッチなことできるからね」

私は思わず固まってしまう。
はっ?
美弥ちゃん?

私舞奈だけど。

「あの、質問いいですか?」
「ああ、何でも聞いてごらん?神であるオルゴイルド・デルク・リーデンマイナルが何でも叶えてあげるから」
「私舞奈ですけど」

ぴしりと音を立て固まる長い名前の神。
ギギギと音を立てながらこちらに顔を向ける。

「えっ?だって、君と一緒にいた女の子が『美弥ちゃん』って……」

私はジト目で神を見つめる。
なんかだんだんポンコツに見えてきた。
私はわざとらしいくらい大きくため息をつく。

「間違ってるよ。もう。神様なんでしょ?ちゃんと確認してよね」
「ううう、すみません」

打ちひしがれ両手をついて震える神。
なんだか少し可哀相に思えたのは内緒だ。

「もうしょうがないな。良いよ。許してあげるからさ、元に戻してよ。今日は役所に行く用事があるんだよね。せっかくの平日休みなんだから。シャワーも浴びたいし」

「………ううっ」

何故かうめき声をあげる無駄に長い名前の神が、恐る恐るこちらに視線を向けてくる。
目が泳いでいる?

「あの、えっと、その……舞奈様?」
「っ!?舞奈様?えっ、何突然」
「あの、そのですね、ははっ、あははは、ごにょごにょ」

後半声が小さくなり聞き取ることができない。
私は猛烈に嫌な予感がしてきた。

「なんて?聞こえない。はっきりしゃべってよ」
「うう、あのですね、もう地球では、10日ほど経過しておりまして……」
「はっ?嘘でしょ?まさか?!」
「えっと、その、もう灰になっちゃってたりなかったりで…ははは…」

私は膝から崩れ落ちた。
そして涙が零れ始める。

「ちょっと、どういう事よ!信じらんない!!」

私の悲痛な叫びが訳の分からい空間に響き渡っていた。
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