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婚約解消を言い渡されましたが、あっという間に人生二度目の婚約が決まりました
前編
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「カナン、そなたとギルフレッドの婚約を解消する」
国王の宣言に、カナンは栗色の瞳を見開いた。一瞬、呼吸を詰まらせてドレスの裾を握り締める。鈍い痛みが胸を貫いた。
あぁ、遂にこの時が来てしまった。
「貴女には本当に申し訳ない事をしたわ」
国王の隣に座る王妃が、普段は柔和な顔を悔しさで歪めてカナンに詫びる。
第一王子ギルフレッドとカナン・レザーガ侯爵令嬢の婚約は十二年前、ギルフレッド六歳、カナン五歳の時に決められたものだった。そこに本人達の意思が介在する余地はない。
それでも、カナンは己に課せられた役目を弁えているつもりだった。だから婚約者であるギルフレッドが他の女性に心を奪われて親密な関係を築いていると薄々勘付いていても、見て見ぬふりを貫いた。
国を背負って立つ者として、ギルフレッドが目を覚ます日が来るはずだと淡い期待を抱いていた。
しかし、カナンの望みが叶うより早く国王が決断した。
カナンとギルフレッドの婚約解消。それはつまり。
「不義の罪でギルフレッドの王位継承権は剥奪」
「フレス・ノイア男爵令嬢にも、ギルフレッドを誑かした責任を取って貰うわ」
告げる王妃の肩が怒りで震えている。
息子への愛情と、王妃としての責務。
二つの思いの板挟みに苦しみながら、それでも国の為に正しい道を選択出来る強さに、カナンは同情と尊敬の念を抱いた。
深呼吸して気持ちを落ち着かせて、カナンは顔を上げた。
「では、私の役目もここまででございますね?」
自分ではギルフレッドを支え、理解する伴侶にはなれなかった。彼が王位を継ぐ未来が潰えた以上、カナンもここでお役御免となるだろう。
第一王子が失脚した以上、王位を継ぐのは第ニ王子ーーギルフレッドの双子の弟であるヴィノが有力だ。
明るく 奔放気質な兄と違い、あまり感情の起伏を表さないヴィノ。意見を求められても曖昧に微笑むだけで即答しない、優柔不断で気弱な王子だと侮る者もいる。
口さがない連中からは『双子だけあって容姿はそっくりだが、中身は正反対。あれでは兄王子に万が一の事があった場合でも代役にすらなれない』と揶揄されてもいる。
ヴィノが黙っているのを良い事に好き勝手に言ってくれる連中に我慢ならず、憤慨したカナンが言い返したのも一度や二度ではない。その度にヴィノから「ボクは大丈夫。そのうち大人しくなりますよ」と苦笑交じりに窘められたものだ。
実際、ヴィノを酷評していた人間は不正を暴かれて没落したり財産を没収されたりして悉くカナン達の前から消えていった。実はヴィノには予言能力があるのではないのかと、カナンは密かに思っていたりする。
そんな益体もない事をつらつら考えていたカナンの前で、国王と王妃が顔を見合わせた。二人揃って不思議そうに首を傾げる。
「『そなたとギルフレッドの婚約を解消』して『ギルフレッドの王位継承権を剥奪』するのであって、そなたは引き続き『次期国王の婚約者』なのだぞ?」
「婚約者候補は他にもいるけれど、やはり貴女が一番相応しいもの」
「は?」
さも当然とばかりに言い切られ、思わず間の抜けた声がカナンの唇から零れる。
国王夫妻はカナンの失言に構わず上機嫌で続ける。
「王位継承権が繰り上がって次期国王はヴィノになるわね」
「そなたにはヴィノと婚約してもらう。今後も頼む」
こうして、またしてもカナンの意思を挟む余裕もないまま、人生二度目の婚約が決まった。
国王の宣言に、カナンは栗色の瞳を見開いた。一瞬、呼吸を詰まらせてドレスの裾を握り締める。鈍い痛みが胸を貫いた。
あぁ、遂にこの時が来てしまった。
「貴女には本当に申し訳ない事をしたわ」
国王の隣に座る王妃が、普段は柔和な顔を悔しさで歪めてカナンに詫びる。
第一王子ギルフレッドとカナン・レザーガ侯爵令嬢の婚約は十二年前、ギルフレッド六歳、カナン五歳の時に決められたものだった。そこに本人達の意思が介在する余地はない。
それでも、カナンは己に課せられた役目を弁えているつもりだった。だから婚約者であるギルフレッドが他の女性に心を奪われて親密な関係を築いていると薄々勘付いていても、見て見ぬふりを貫いた。
国を背負って立つ者として、ギルフレッドが目を覚ます日が来るはずだと淡い期待を抱いていた。
しかし、カナンの望みが叶うより早く国王が決断した。
カナンとギルフレッドの婚約解消。それはつまり。
「不義の罪でギルフレッドの王位継承権は剥奪」
「フレス・ノイア男爵令嬢にも、ギルフレッドを誑かした責任を取って貰うわ」
告げる王妃の肩が怒りで震えている。
息子への愛情と、王妃としての責務。
二つの思いの板挟みに苦しみながら、それでも国の為に正しい道を選択出来る強さに、カナンは同情と尊敬の念を抱いた。
深呼吸して気持ちを落ち着かせて、カナンは顔を上げた。
「では、私の役目もここまででございますね?」
自分ではギルフレッドを支え、理解する伴侶にはなれなかった。彼が王位を継ぐ未来が潰えた以上、カナンもここでお役御免となるだろう。
第一王子が失脚した以上、王位を継ぐのは第ニ王子ーーギルフレッドの双子の弟であるヴィノが有力だ。
明るく 奔放気質な兄と違い、あまり感情の起伏を表さないヴィノ。意見を求められても曖昧に微笑むだけで即答しない、優柔不断で気弱な王子だと侮る者もいる。
口さがない連中からは『双子だけあって容姿はそっくりだが、中身は正反対。あれでは兄王子に万が一の事があった場合でも代役にすらなれない』と揶揄されてもいる。
ヴィノが黙っているのを良い事に好き勝手に言ってくれる連中に我慢ならず、憤慨したカナンが言い返したのも一度や二度ではない。その度にヴィノから「ボクは大丈夫。そのうち大人しくなりますよ」と苦笑交じりに窘められたものだ。
実際、ヴィノを酷評していた人間は不正を暴かれて没落したり財産を没収されたりして悉くカナン達の前から消えていった。実はヴィノには予言能力があるのではないのかと、カナンは密かに思っていたりする。
そんな益体もない事をつらつら考えていたカナンの前で、国王と王妃が顔を見合わせた。二人揃って不思議そうに首を傾げる。
「『そなたとギルフレッドの婚約を解消』して『ギルフレッドの王位継承権を剥奪』するのであって、そなたは引き続き『次期国王の婚約者』なのだぞ?」
「婚約者候補は他にもいるけれど、やはり貴女が一番相応しいもの」
「は?」
さも当然とばかりに言い切られ、思わず間の抜けた声がカナンの唇から零れる。
国王夫妻はカナンの失言に構わず上機嫌で続ける。
「王位継承権が繰り上がって次期国王はヴィノになるわね」
「そなたにはヴィノと婚約してもらう。今後も頼む」
こうして、またしてもカナンの意思を挟む余裕もないまま、人生二度目の婚約が決まった。
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