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#1 中世 イリア編
#1.3 限界を超える時 (3/3)
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店の前まで戻ってくると、おやっさんが俺を出迎えてくれた。おやっさんがこっちに向かって走ってくる。よせやい。子供の使いに行ってたんじゃないんだぜ。
「ユウキ! テメエ! 娘に何した! 言ってみろ!」
おやっさん、あんまり俺の首を、閉めないでくれないか。これじゃ、言いたくても、その前に、死ぬ!
「ギブギブギブ。あううあううあああいいい」
おやっさん、俺をいきなり突き飛ばさないでくれないか?
イっテエーーーーーーーーーーーー。
「さあ、言え! さっさと言え! もう許さねー」
「はあ、はあ、はあ、ゲホ、ゲホ、ゲホ」
「娘を、娘を、大事な娘を、おめーってやつは」
「おやっさん! かくかくしかじかだ」
「え!」
「だから、かくかくしかじかだって」
おやっさんは俺を引き上げると、服についた汚れを手で払っていた。
「お坊ちゃん、ユウキ様。お怪我はありませんか?」
身体中がいてーよ。
「すまねー、ユウキ。ちょっと、その、なんだ、人違いした、んだよ。娘が、イリアが泣いて帰ってきたから、てっきり、な」
どこが人違いなんだよ。走馬灯が見えるところだったぞ。
「もう、いいですよ」
「人違いだから。な! 家族同然のお前とさ、勘違いするわけないじゃないか。だけどさ、ユウキと似た奴が歩いてるなーってさ、そういうわけだから」
どうしても人違いということにしたいらしい。
「別に、気にしてないですから」
これが大人の対応って奴だ。俺も、大人の階段を一つ、登ったな。
「お父さん、これ」
いつの間にかイリアがおやっさんの後ろに立っている。
「大丈夫か、お前?」
「何が?」
「いや。ところでこれは何だ?」
「価格表よ。メモを取ってきたのよ」
「ああー、どれどれ。何だ? イリア。桁が間違ってるじゃないか」
「間違ってなんかいないわよ。それで売ってたのよ」
「ナンダッテー」
「あら、タッちゃん。どうしたの?
私の店先で、二人で戯れ合っていたかと思ったら、今度は大声で」
ああーん? あれが戯れ合っていただと? どうりで虐めがなくならない訳だ。
「おう、ミヨちゃん。これを見てくれよって言ってもあれか」
「どれどれ、……あーなるほどね、なるほど」
これが大人の反応ってやつか。
「これじゃ、特売どころか、売れば売るほど赤字だよ」
「ね、おかしいでしょう、お父さん」
「これじゃあ、イリアが暴れても、おかしくないな」
「誰が暴れたですって! 抗議しただけよ。誰からそんなこと聞いたのよ」
イリアが俺を疑いの目で見ている。というか、俺しかいないか。
「実はねタッちゃん。噂に聞いたんだけど――」
このオバサン、どんだけ噂が好きなんだよ。
「――タッちゃんだけ、仕入れを高くしてるじゃないかって噂があるのよ」
「何でまた、そんなことを」
「それって、お父さん。うちを潰すつもりじゃないの?」
「潰す? 誰が、まさか」
「思い出してみてよ。いつから仕入れが高くなったの?」
「そりゃー、……そうだ! ユウキがうちに来てからだ。お前なのか? ユウキ」
NO, NO, NO。俺は関係ないってば。
「他にもいるでしょう?」
「そういえば、勇者ケンジ様が戻ってきたな。でも、違うだろう、さすがに」
「あのお店は?」
「勇者ケンジ様の親戚? おお、そうなのか?」
「そう考えれば、全部、辻褄が合うでしょう」
「何であいつが、そんなことを。分からね」
「タッちゃん。あくまで噂だからね。それじゃあ、私は戻るわね…忙しいわ」
翌日。
お店の営業を開始してから暫く経った。おやっさん、イリア、俺は店先に立っていた。そう、記念写真を撮るんだ……ならいいんだけど。朝からお客が誰も、こない。そう、こないんだ。いいことだ。さっきから欠伸が出てしょうがない。俺の欠伸が伝染すして、次々に欠伸が連鎖する。誰も言葉を口にしない。まあ、言葉にならない状態ではあるが。空っ風が店先を通り過ぎていくが、お客も通り過ぎていく。
「なあ、ユウキ」
「なんだよ、おやっさん」
「お前さん、奉公に出る気はないか?」
「奉公?」
「ああ、うちも、あれだしな。いつまで持ち堪えられるか分からん」
「まあ」
「今すぐって話じゃねー。考えておいてくれ」
「うんもー、ちょっと文句言ってくる」
イリアが痺れを切らして吠え始める。
「どこに?」
「市場よ」
「ああ、言っても無駄だ」
「だって!」
「みんな、分かってて、やってることだ。言ってもしょうがない」
「でも!」
「でも、でだ」
「でもでも!」
「でもでも、でだ」
「でもでもでも!」
「でもでもでも、でだ」
「ちょっと、行ってくる」
「おい!イリア」
イリアは言い終わる前に駆け出して行った。
俺がイリアを追いかけようとすると、おやっさんが止めに入る。
「行かせてやってくれ」
「でも!」
「お前も、”でも”って言うのか? 一度言い出したら聞かないんだよ、あれは。全く、母親そっくりだぜ」
「でもでも!」
「言って気が済むなら、行かせてやりたいんだ。それで、少しは、気が晴れるだろうよ。そうしたら、自分で戻ってくるさ。あれも、もう大人だ。大きくなりやだって」
「でもでもでも!」
「ユウキ。お前のは可愛くないんだよ」
「ユウキ! テメエ! 娘に何した! 言ってみろ!」
おやっさん、あんまり俺の首を、閉めないでくれないか。これじゃ、言いたくても、その前に、死ぬ!
「ギブギブギブ。あううあううあああいいい」
おやっさん、俺をいきなり突き飛ばさないでくれないか?
イっテエーーーーーーーーーーーー。
「さあ、言え! さっさと言え! もう許さねー」
「はあ、はあ、はあ、ゲホ、ゲホ、ゲホ」
「娘を、娘を、大事な娘を、おめーってやつは」
「おやっさん! かくかくしかじかだ」
「え!」
「だから、かくかくしかじかだって」
おやっさんは俺を引き上げると、服についた汚れを手で払っていた。
「お坊ちゃん、ユウキ様。お怪我はありませんか?」
身体中がいてーよ。
「すまねー、ユウキ。ちょっと、その、なんだ、人違いした、んだよ。娘が、イリアが泣いて帰ってきたから、てっきり、な」
どこが人違いなんだよ。走馬灯が見えるところだったぞ。
「もう、いいですよ」
「人違いだから。な! 家族同然のお前とさ、勘違いするわけないじゃないか。だけどさ、ユウキと似た奴が歩いてるなーってさ、そういうわけだから」
どうしても人違いということにしたいらしい。
「別に、気にしてないですから」
これが大人の対応って奴だ。俺も、大人の階段を一つ、登ったな。
「お父さん、これ」
いつの間にかイリアがおやっさんの後ろに立っている。
「大丈夫か、お前?」
「何が?」
「いや。ところでこれは何だ?」
「価格表よ。メモを取ってきたのよ」
「ああー、どれどれ。何だ? イリア。桁が間違ってるじゃないか」
「間違ってなんかいないわよ。それで売ってたのよ」
「ナンダッテー」
「あら、タッちゃん。どうしたの?
私の店先で、二人で戯れ合っていたかと思ったら、今度は大声で」
ああーん? あれが戯れ合っていただと? どうりで虐めがなくならない訳だ。
「おう、ミヨちゃん。これを見てくれよって言ってもあれか」
「どれどれ、……あーなるほどね、なるほど」
これが大人の反応ってやつか。
「これじゃ、特売どころか、売れば売るほど赤字だよ」
「ね、おかしいでしょう、お父さん」
「これじゃあ、イリアが暴れても、おかしくないな」
「誰が暴れたですって! 抗議しただけよ。誰からそんなこと聞いたのよ」
イリアが俺を疑いの目で見ている。というか、俺しかいないか。
「実はねタッちゃん。噂に聞いたんだけど――」
このオバサン、どんだけ噂が好きなんだよ。
「――タッちゃんだけ、仕入れを高くしてるじゃないかって噂があるのよ」
「何でまた、そんなことを」
「それって、お父さん。うちを潰すつもりじゃないの?」
「潰す? 誰が、まさか」
「思い出してみてよ。いつから仕入れが高くなったの?」
「そりゃー、……そうだ! ユウキがうちに来てからだ。お前なのか? ユウキ」
NO, NO, NO。俺は関係ないってば。
「他にもいるでしょう?」
「そういえば、勇者ケンジ様が戻ってきたな。でも、違うだろう、さすがに」
「あのお店は?」
「勇者ケンジ様の親戚? おお、そうなのか?」
「そう考えれば、全部、辻褄が合うでしょう」
「何であいつが、そんなことを。分からね」
「タッちゃん。あくまで噂だからね。それじゃあ、私は戻るわね…忙しいわ」
翌日。
お店の営業を開始してから暫く経った。おやっさん、イリア、俺は店先に立っていた。そう、記念写真を撮るんだ……ならいいんだけど。朝からお客が誰も、こない。そう、こないんだ。いいことだ。さっきから欠伸が出てしょうがない。俺の欠伸が伝染すして、次々に欠伸が連鎖する。誰も言葉を口にしない。まあ、言葉にならない状態ではあるが。空っ風が店先を通り過ぎていくが、お客も通り過ぎていく。
「なあ、ユウキ」
「なんだよ、おやっさん」
「お前さん、奉公に出る気はないか?」
「奉公?」
「ああ、うちも、あれだしな。いつまで持ち堪えられるか分からん」
「まあ」
「今すぐって話じゃねー。考えておいてくれ」
「うんもー、ちょっと文句言ってくる」
イリアが痺れを切らして吠え始める。
「どこに?」
「市場よ」
「ああ、言っても無駄だ」
「だって!」
「みんな、分かってて、やってることだ。言ってもしょうがない」
「でも!」
「でも、でだ」
「でもでも!」
「でもでも、でだ」
「でもでもでも!」
「でもでもでも、でだ」
「ちょっと、行ってくる」
「おい!イリア」
イリアは言い終わる前に駆け出して行った。
俺がイリアを追いかけようとすると、おやっさんが止めに入る。
「行かせてやってくれ」
「でも!」
「お前も、”でも”って言うのか? 一度言い出したら聞かないんだよ、あれは。全く、母親そっくりだぜ」
「でもでも!」
「言って気が済むなら、行かせてやりたいんだ。それで、少しは、気が晴れるだろうよ。そうしたら、自分で戻ってくるさ。あれも、もう大人だ。大きくなりやだって」
「でもでもでも!」
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