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#11 ゾンビの涙(※残酷描写有り)
ゾンビ王
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3階でエレベーターを降りた。まさかこんなに早く降りてしまうとは誰も思うまい、はずだ。このビルは3階以上がビジネスユースになっている。そこで小分けされたオフィスを幾つか覗いてみると人がバタバタと倒れているではないか。それらは皆、仕事を遂行できずに無念であったことだろう。もしくは何かから解放された思いもあったかもしれない。
しかしこの状況は異常である。それらの死体は無傷であり、なおかつゾンビ化していない。これは一体なにが起こったのだろうか。俺はてっきり全員がこのビルから避難し無人であると推測していたからだ。グランド・フロアの教会がゾンビだらけだったことを思えば至極当然のはず。
それがどうして……ムムッ、この微かに匂う香りは何だ? クンカクンカ、成るほど相判ったでそうろう。その正体はゾンビウィルスガス、その特有の匂いでござる。
ゾンビウィルスガスとは、それを吸い込んだ瞬間ゾンビ化してしまうという真に恐ろしい細菌兵器である。おそらくそれを喚起を通してバラ撒かれたに違いない。そしてそれに適合しなかった者、つまりゾンビ化しなかった場合は無害どころか死に至ると聞き及んでいる。
なに? 何故そんなに詳しくのかと。いいだろう、少々自慢話になってしまうが語ってしんぜよう。
俺の彼女ことミヨちゃんは何を隠そう、アンチゾンビウィルスの権威、その教授の一番弟子である。ゾンビウィルスに対抗するための、あんなことやこんなことを考える秘密結社もとい研究機関に従事するエリート中のエリート、それがミヨちゃんであ~る。
必然的にゾンビウィルスに対抗するためにはウィルス自体をより詳しく知っておく必要がある。そこで俺たちが付き合い始めた頃、「これ、内緒だからね」とこっそりゾンビウィルスをガス化したものを嗅いだことがあるのだ。もちろん少量なので問題はない。
ということでゾンビにならずに死んでしまったのは、それはそれで不幸中の幸いというべきか。いやいや、それよりもビルにゾンビウィルスガスが撒かれたことの方が深刻だろう。これではビル全体がゾンビ製造施設と化してしまったようなものである。
ズキューン、ズキューン、ボコ。
あれこれと考えているうちに、なんと! 狙撃されたようだ。それもかなりの腕前と見た。何故なら耳の少し上と首の根元を同時に射抜かれたからだ。最後のボコは、おそらく首の骨が折れた音だろう。
だが何故だ? そんな疑問が湧き上がって仕方がない。狙撃されたということは、まさしく俺がここに居るということを事前に知らなければ不可能なはず。せめて警告ぐらいはしてほしいものだ。
それでも冷静に考えられる『流石の俺』である。角度と湿度、それと俺の気分を考慮し計算すると……近くの大きな窓に貫通した痕跡があった。ということは俺を狙い撃ちしたスナイパーは窓の外に居る! とういうことが判明。直ちにその窓に駆け寄る俺である。
はあ? バカじゃないのか、と思われるかもしれないが待ってほしい。不死身というか、これ以上、死ぬことの無い俺だ。一体何を恐れる必要があるというのだい。既に失うものを失っている以上、無敵または無双の俺である。
逃げも隠れもしない堂々たる俺は窓から下界を視察。当然テロ対策としてゴーストタウンと化した寂しい光景がそこに在る、と思いきや、何やら俺のファンで混雑しているようである。俺の姿を見るなり手を振る者やサインを求めるもの、そして求愛する者まで居るようである。だが既に俺はミヨちゃんを予約済みであるので、そのキャンセルを待ってもらいたい。
「タツオー、かーちゃんだよー」
その声は! メガホン越しだが間違いなく母様のお声。一体、何用であろうか。因みに『タツオ』とは生前の俺の名前である。ああ~何もかもが懐かしい。
いや、問題はそこではない。これまた何故に母様がこの場におられるのか、ということだ。まるで俺がここに居るのが筒抜けのような。それはもしかして監視カメラの類なのか。その可能性は十分に考えれることである。
「タツオー、この、バカたれがー」
今度は父様のお声ではないか。こんなとこまで出張ってくるとは相当お暇のようだ。この流れでいくと次は最愛のミヨちゃんのはずだ。どれ、どこにいるのやら。
「人様に迷惑をかけるんじゃ、ないよー。はよー、成仏せんかー」
ズキューン、スポ。
なんだよ! せっかくミヨちゃんを探している最中だというのに、母様のお声に続けて右目に撃ち込んでくるとは。これでは遠近がはっきりせず、ミヨちゃんを探せないではないかい!
「そうだぞー、タツオー。死んでからも迷惑をかけるとは、この、親不孝者めー」
今度は父様か。成る程、そのお手前見事である。その方らの夫婦仲は絶妙のようだが、ちょっと待て。成仏とか親不孝と言われても困るではないか。それではまるで俺が生きていては、いや、存在してはいけないと言わんばかりだぞ。これでは立つ瀬がないというものではないか。
いや、問題はそこではなかろう。俺がここに居ることを知り、かつ話の分かる状態だということが何故分かるのだろうか。これでも一応はゾンビである。そのゾンビに一体誰が『話せば分かる』などと世迷い言を言い放つのか。疑惑は深まるばかりである。
ここにこうして突っ立っていても仕方ない。それにミヨちゃんが居ないのであれば意味が無いのである。よって俺に集うファンを見捨ててずらかるとしよう。
◇
更に上を目指す俺である。階下に向かうという案もあるが、それは却下した。何故なら、とことん上を向いて邁進するのが男というものだからだ。
エレベーターはヤバそうだろう。そこで階段を目指す俺だ。その階段はどこにあるのだろうか、と走り回っている内に何やら腹部に違和感を感じてきた。その正体を突き止めるべく途中の事務所に乱入、誰かの机の引き出しからハサミを頂戴した。それで何をするのかといえば……割腹自殺、ではなく自分の腹にハサミを入れチョッキン。するとどうだ、何かしらの発信機なるものの出現である。
これで俺の位置を探っていたというわけだ。だがいつの間に仕込まれたものであろうかと暫し考えたが分からん。その腹いせに発信機をぶん投げてやった次第だ。さあ、これでどんどん行こう。
◇
しかしこの状況は異常である。それらの死体は無傷であり、なおかつゾンビ化していない。これは一体なにが起こったのだろうか。俺はてっきり全員がこのビルから避難し無人であると推測していたからだ。グランド・フロアの教会がゾンビだらけだったことを思えば至極当然のはず。
それがどうして……ムムッ、この微かに匂う香りは何だ? クンカクンカ、成るほど相判ったでそうろう。その正体はゾンビウィルスガス、その特有の匂いでござる。
ゾンビウィルスガスとは、それを吸い込んだ瞬間ゾンビ化してしまうという真に恐ろしい細菌兵器である。おそらくそれを喚起を通してバラ撒かれたに違いない。そしてそれに適合しなかった者、つまりゾンビ化しなかった場合は無害どころか死に至ると聞き及んでいる。
なに? 何故そんなに詳しくのかと。いいだろう、少々自慢話になってしまうが語ってしんぜよう。
俺の彼女ことミヨちゃんは何を隠そう、アンチゾンビウィルスの権威、その教授の一番弟子である。ゾンビウィルスに対抗するための、あんなことやこんなことを考える秘密結社もとい研究機関に従事するエリート中のエリート、それがミヨちゃんであ~る。
必然的にゾンビウィルスに対抗するためにはウィルス自体をより詳しく知っておく必要がある。そこで俺たちが付き合い始めた頃、「これ、内緒だからね」とこっそりゾンビウィルスをガス化したものを嗅いだことがあるのだ。もちろん少量なので問題はない。
ということでゾンビにならずに死んでしまったのは、それはそれで不幸中の幸いというべきか。いやいや、それよりもビルにゾンビウィルスガスが撒かれたことの方が深刻だろう。これではビル全体がゾンビ製造施設と化してしまったようなものである。
ズキューン、ズキューン、ボコ。
あれこれと考えているうちに、なんと! 狙撃されたようだ。それもかなりの腕前と見た。何故なら耳の少し上と首の根元を同時に射抜かれたからだ。最後のボコは、おそらく首の骨が折れた音だろう。
だが何故だ? そんな疑問が湧き上がって仕方がない。狙撃されたということは、まさしく俺がここに居るということを事前に知らなければ不可能なはず。せめて警告ぐらいはしてほしいものだ。
それでも冷静に考えられる『流石の俺』である。角度と湿度、それと俺の気分を考慮し計算すると……近くの大きな窓に貫通した痕跡があった。ということは俺を狙い撃ちしたスナイパーは窓の外に居る! とういうことが判明。直ちにその窓に駆け寄る俺である。
はあ? バカじゃないのか、と思われるかもしれないが待ってほしい。不死身というか、これ以上、死ぬことの無い俺だ。一体何を恐れる必要があるというのだい。既に失うものを失っている以上、無敵または無双の俺である。
逃げも隠れもしない堂々たる俺は窓から下界を視察。当然テロ対策としてゴーストタウンと化した寂しい光景がそこに在る、と思いきや、何やら俺のファンで混雑しているようである。俺の姿を見るなり手を振る者やサインを求めるもの、そして求愛する者まで居るようである。だが既に俺はミヨちゃんを予約済みであるので、そのキャンセルを待ってもらいたい。
「タツオー、かーちゃんだよー」
その声は! メガホン越しだが間違いなく母様のお声。一体、何用であろうか。因みに『タツオ』とは生前の俺の名前である。ああ~何もかもが懐かしい。
いや、問題はそこではない。これまた何故に母様がこの場におられるのか、ということだ。まるで俺がここに居るのが筒抜けのような。それはもしかして監視カメラの類なのか。その可能性は十分に考えれることである。
「タツオー、この、バカたれがー」
今度は父様のお声ではないか。こんなとこまで出張ってくるとは相当お暇のようだ。この流れでいくと次は最愛のミヨちゃんのはずだ。どれ、どこにいるのやら。
「人様に迷惑をかけるんじゃ、ないよー。はよー、成仏せんかー」
ズキューン、スポ。
なんだよ! せっかくミヨちゃんを探している最中だというのに、母様のお声に続けて右目に撃ち込んでくるとは。これでは遠近がはっきりせず、ミヨちゃんを探せないではないかい!
「そうだぞー、タツオー。死んでからも迷惑をかけるとは、この、親不孝者めー」
今度は父様か。成る程、そのお手前見事である。その方らの夫婦仲は絶妙のようだが、ちょっと待て。成仏とか親不孝と言われても困るではないか。それではまるで俺が生きていては、いや、存在してはいけないと言わんばかりだぞ。これでは立つ瀬がないというものではないか。
いや、問題はそこではなかろう。俺がここに居ることを知り、かつ話の分かる状態だということが何故分かるのだろうか。これでも一応はゾンビである。そのゾンビに一体誰が『話せば分かる』などと世迷い言を言い放つのか。疑惑は深まるばかりである。
ここにこうして突っ立っていても仕方ない。それにミヨちゃんが居ないのであれば意味が無いのである。よって俺に集うファンを見捨ててずらかるとしよう。
◇
更に上を目指す俺である。階下に向かうという案もあるが、それは却下した。何故なら、とことん上を向いて邁進するのが男というものだからだ。
エレベーターはヤバそうだろう。そこで階段を目指す俺だ。その階段はどこにあるのだろうか、と走り回っている内に何やら腹部に違和感を感じてきた。その正体を突き止めるべく途中の事務所に乱入、誰かの机の引き出しからハサミを頂戴した。それで何をするのかといえば……割腹自殺、ではなく自分の腹にハサミを入れチョッキン。するとどうだ、何かしらの発信機なるものの出現である。
これで俺の位置を探っていたというわけだ。だがいつの間に仕込まれたものであろうかと暫し考えたが分からん。その腹いせに発信機をぶん投げてやった次第だ。さあ、これでどんどん行こう。
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