逆・異世界転生 Ⅰ

Tro

文字の大きさ
上 下
24 / 59
#11 ゾンビの涙(※残酷描写有り)

ゾンビ王

しおりを挟む
3階でエレベーターを降りた。まさかこんなに早く降りてしまうとは誰も思うまい、はずだ。このビルは3階以上がビジネスユースになっている。そこで小分けされたオフィスを幾つか覗いてみると人がバタバタと倒れているではないか。それらは皆、仕事を遂行できずに無念であったことだろう。もしくは何かから解放された思いもあったかもしれない。

しかしこの状況は異常である。それらの死体は無傷であり、なおかつゾンビ化していない。これは一体なにが起こったのだろうか。俺はてっきり全員がこのビルから避難し無人であると推測していたからだ。グランド・フロアの教会がゾンビだらけだったことを思えば至極当然のはず。

それがどうして……ムムッ、この微かに匂う香りは何だ? クンカクンカ、成るほど相判ったでそうろう。その正体はゾンビウィルスガス、その特有の匂いでござる。

ゾンビウィルスガスとは、それを吸い込んだ瞬間ゾンビ化してしまうという真に恐ろしい細菌兵器である。おそらくそれを喚起を通してバラ撒かれたに違いない。そしてそれに適合しなかった者、つまりゾンビ化しなかった場合は無害どころか死に至ると聞き及んでいる。

なに? 何故そんなに詳しくのかと。いいだろう、少々自慢話になってしまうが語ってしんぜよう。

俺の彼女ことミヨちゃんは何を隠そう、アンチゾンビウィルスの権威、その教授の一番弟子である。ゾンビウィルスに対抗するための、あんなことやこんなことを考える秘密結社もとい研究機関に従事するエリート中のエリート、それがミヨちゃんであ~る。

必然的にゾンビウィルスに対抗するためにはウィルス自体をより詳しく知っておく必要がある。そこで俺たちが付き合い始めた頃、「これ、内緒だからね」とこっそりゾンビウィルスをガス化したものを嗅いだことがあるのだ。もちろん少量なので問題はない。

ということでゾンビにならずに死んでしまったのは、それはそれで不幸中の幸いというべきか。いやいや、それよりもビルにゾンビウィルスガスが撒かれたことの方が深刻だろう。これではビル全体がゾンビ製造施設と化してしまったようなものである。

ズキューン、ズキューン、ボコ。

あれこれと考えているうちに、なんと! 狙撃されたようだ。それもかなりの腕前と見た。何故なら耳の少し上と首の根元を同時に射抜かれたからだ。最後のボコは、おそらく首の骨が折れた音だろう。

だが何故だ? そんな疑問が湧き上がって仕方がない。狙撃されたということは、まさしく俺がここに居るということを事前に知らなければ不可能なはず。せめて警告ぐらいはしてほしいものだ。

それでも冷静に考えられる『流石の俺』である。角度と湿度、それと俺の気分を考慮し計算すると……近くの大きな窓に貫通した痕跡があった。ということは俺を狙い撃ちしたスナイパーは窓の外に居る! とういうことが判明。直ちにその窓に駆け寄る俺である。

はあ? バカじゃないのか、と思われるかもしれないが待ってほしい。不死身というか、これ以上、死ぬことの無い俺だ。一体何を恐れる必要があるというのだい。既に失うものを失っている以上、無敵または無双の俺である。

逃げも隠れもしない堂々たる俺は窓から下界を視察。当然テロ対策としてゴーストタウンと化した寂しい光景がそこに在る、と思いきや、何やら俺のファンで混雑しているようである。俺の姿を見るなり手を振る者やサインを求めるもの、そして求愛する者まで居るようである。だが既に俺はミヨちゃんを予約済みであるので、そのキャンセルを待ってもらいたい。

「タツオー、かーちゃんだよー」

その声は! メガホン越しだが間違いなく母様のお声。一体、何用であろうか。因みに『タツオ』とは生前の俺の名前である。ああ~何もかもが懐かしい。

いや、問題はそこではない。これまた何故に母様がこの場におられるのか、ということだ。まるで俺がここに居るのが筒抜けのような。それはもしかして監視カメラの類なのか。その可能性は十分に考えれることである。

「タツオー、この、バカたれがー」

今度は父様のお声ではないか。こんなとこまで出張ってくるとは相当お暇のようだ。この流れでいくと次は最愛のミヨちゃんのはずだ。どれ、どこにいるのやら。

「人様に迷惑をかけるんじゃ、ないよー。はよー、成仏せんかー」

ズキューン、スポ。

なんだよ! せっかくミヨちゃんを探している最中だというのに、母様のお声に続けて右目に撃ち込んでくるとは。これでは遠近がはっきりせず、ミヨちゃんを探せないではないかい!

「そうだぞー、タツオー。死んでからも迷惑をかけるとは、この、親不孝者めー」

今度は父様か。成る程、そのお手前見事である。その方らの夫婦仲は絶妙のようだが、ちょっと待て。成仏とか親不孝と言われても困るではないか。それではまるで俺が生きていては、いや、存在してはいけないと言わんばかりだぞ。これでは立つ瀬がないというものではないか。

いや、問題はそこではなかろう。俺がここに居ることを知り、かつ話の分かる状態だということが何故分かるのだろうか。これでも一応はゾンビである。そのゾンビに一体誰が『話せば分かる』などと世迷い言を言い放つのか。疑惑は深まるばかりである。

ここにこうして突っ立っていても仕方ない。それにミヨちゃんが居ないのであれば意味が無いのである。よって俺に集うファンを見捨ててずらかるとしよう。



更に上を目指す俺である。階下に向かうという案もあるが、それは却下した。何故なら、とことん上を向いて邁進するのが男というものだからだ。

エレベーターはヤバそうだろう。そこで階段を目指す俺だ。その階段はどこにあるのだろうか、と走り回っている内に何やら腹部に違和感を感じてきた。その正体を突き止めるべく途中の事務所に乱入、誰かの机の引き出しからハサミを頂戴した。それで何をするのかといえば……割腹自殺、ではなく自分の腹にハサミを入れチョッキン。するとどうだ、何かしらの発信機なるものの出現である。

これで俺の位置を探っていたというわけだ。だがいつの間に仕込まれたものであろうかと暫し考えたが分からん。その腹いせに発信機をぶん投げてやった次第だ。さあ、これでどんどん行こう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...