逆・異世界転生 Ⅰ

Tro

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#4 ゴルゴーンの涙

森の三姉妹

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ドンドン。今度は中に人が居ることが分かっているかつ、若い女性である、これがドアを叩かずにはいられようか、と叩き続ける爺さんである。これはもう、迷い人どころか山賊または強盗の類であろう。情けないぞ爺さん、それでもあんたは俺の爺さんなのか、そうなのか、いやだ、そんなのやいやだよ~。

そんな俺の願いが天に届いたのか、玄関のドアはまた少しだけ、いいや、大いに盛大にドカーンと開いたではないか。当然、その前に立っていた爺さんは、開くドアの勢いで後方に吹き飛ばされていくのであった。大丈夫か? 大丈夫だ。何故なら俺がこうしてピンピンしているということは、ここで爺さんの身に何か致命的な出来事が起きなかった、というわけである、はずだ。

吹き飛んで地面に這いつくばる爺さんではあるが、そこは俺の爺さんである。しっかりと開いたドアの向こうを見ているではないか。何が起こっても起きなくても、見たい触れたいアレしたいと、欲望の権化と化した爺さんが諦めるはずがない。

『諦めるな、前に進め。さすれば道は開かれる』とは我が家の家訓である。それが誕生した瞬間なのだろう。見ろ! 爺さんの濁りきった眼を、まだ死んではいない、ギラついたヤバイ光を放っているではないか。

「おお!」
爺さんがヤバイ声を上げた。玄関のドアは開け放れ、そして家の中が。だが暗くて良くは見えない。それでも瞬間動体視力能力解放により、先ほど返事した女性であろう、その美しい片鱗が見えた、ような気がした爺さんだ。

すくっと起き上がる爺さんは全身にアドレナリンを過剰投与、玄関めがけてダッシュをキメる、のはずが、なんだ? 足が重いではないかー。

「なんだ、ジジイじゃん。それに何? あの格好、酷いじゃん」
「まあまあ、まあまあ」

爺さんの耳に飛び込む新情報、語尾に「~じゃん」を付ける女人の声、それに続く「まあまあ」は最初に聞いた声と断定。ということは姉妹なのかー、とその姿が見えない分、妄想を爆発させる爺さんだ。一体、どこまでエロいんだよ爺さん、と言ってやりたいが、これは全て過去に起きた出来事。すなわち過ぎ去った事である。それでも俺は爺さんに言ってやりた事が生まれた。それは、『悔い改めよ』だ。

何かに狂った爺さん、だがその足が重い。正確には右足が動かない、というよりも、なんだ! これは! と驚くのも無理はなかろう。右足が動かないどころか膝も曲がりはしない。そう、よく言う『足が棒のよう』な状態だ。序でに右腕も重いというか、何かに固定されたかのようにピクリともしないようだ。

ということは、そう、右半身が麻痺した状態といえば分かるだろう。こうなると、目的達成を阻止された爺さんはきっと何かのピンチに違いない。前に進むも後退することも出来ない状態だ。これは爺さんにとって非常に辛い過酷なものであろう。何故なら自由を誰よりもこよなく愛する爺さんだ、自分の思惑通りに体が動かせないとなると、あんなことやこんなことが出来なくなるではないか。

「まだ、動くつもりのようですね。まるでアレ以下ではないですか」

またまた爺さんの寿命を延ばすかのような、今度は少しだけ幼げなだが、その口調は精一杯背伸びした感の、大人の階段の途中なのよ、と言いたげな少女の声が。これもまた姿は見えず声だけが爺さんの耳に伝わってくる。これは何かのプレーなのか、身動きが取れない爺さんにとっては正しく『お預けプレー』そのものであろう。

さて、この辺で状況を整理してみよう。村から居なくなった若者たちを探しに、森深くに侵入した司祭こと俺の爺さんは、例によって迷子になるが、そこで山小屋風の一軒家を見つけた。そこに人の気配を確信した爺さんは、そこで休憩しようと玄関のドアをノックするが、怪しさ満点のため返り討ちに遭ってしまう。しかし住人が女性と分かると下心満載で再挑戦するも、これも打ち返され地面に這い蹲る哀れな老人にと成り下がっている。

玄関のドアは開け放れているが、その奥は暗く、また人の気配を感じるがその姿は確認できない。それでも女性が3人、いや3人以上居ることは確認できたため、このままここで引き下がる訳にはいかないと、もはや本来の目的を見失っている爺さんである。おまけに何かの術なのか、右半身の自由を奪われてしまったが、そんなことで諦めるわけもなく、『求めよさらば与えられん』と奮闘努力する爺さんである。

欲望の渦に自ら飲み込まれた爺さん、何を思ったのか考えたのか、動かぬ体の右側を地面に付け、おりゃーと体を回転させ始めたではないか。歩けないのなら転がって行けばいいんだとばかりに、歯を食いしばりながらの大回転。その、底知れぬ欲の深さに感涙しそうになる俺である。

「アホだ、アホが向かってくるじゃん」
「まあまあ」
「呆れた、アレはアレ以下ね」

またまた聞こえてくる女性たちの声。しかしそれは却って爺さんの欲望の炎に油を注ぐが如し。さらにパワーアップし回転を速める爺さんだ。「あと少し、あと少しで届くぞい」とワクワクしながら回り続ける爺さん。序でに、もしかしたら、この位置からなら見えるかもー、と一体何が見えるというのか分からないが、とにかく回る回る爺さんだ。

しかーし、これを黙って見ている女性たちではなかった! 出たー、遂になんか出てきやがったぞー。今まで引き篭もっていた女性たちが光ある世界にその姿を現したー。

まず、最初は女子大生風の女子が玄関のドアからその長身を持て余すかのように上半身だけ全世界に披露、その顔は少し困り顔であったが、それがまたいい。次に登場したのは元気一杯、夢一杯、JK風のお転婆かツンデレか、どっちもで良いが、とにかくドアの中央から堂々のデビュー。そしてこれが最後であろう、どこかあどけないが、放ってはおけないJC風の少女、守ってあげたい投票で一位通過も楽勝、歩く宝石、子猫ちゃんキャラだー。

しかーし、これを黙って見ていた爺さんではない。何を隠そう、全く全然何も見えていなかった爺さんだー。それもそのはず、彼女たちの登場と同時に全身が硬直、それはまるで石にでもされたかのよう。序でに目も見えず耳も聞こえず、手も足も出ない、まさしく八方塞がり、地蔵爺さんだ。

ん? なんだ? アレ、先程の紹介は一体なんなんだ? 爺さんは見えていないのに何で分かるんだって? それはあれだ、爺さんの日記にそう書いてあるのだから仕方がないだろう。ではあれは全部嘘なのか? いいや、その答えは『NO』である。あれは爺さんの妄想なのだろうが、大方、間違いはないだろう。何故ならば……ここは信じてあげたい、うん。

無数に転がる石と同様な存在と化した爺さん、家からやっと出てきた3人の女性、ここでは三姉妹としておこう。正確には家から出てきたのは「~じゃん」を連発するJK風の少女のみ。女子大生風のお姉さんは相変わらず玄関のドア付近に半身を隠し、JC風の少女はドアと外との境界線上に居る。

「あれ程、警告したのにそれを無視するなんて、虫並なのね」とはJC風の少女。この少女が言う警告とは、爺さんの右半身を麻痺させ、それ以上の前進を拒否したという理屈らしい。

おいおい、それが本当なら一体この少女はどんなことを爺さんにしたというのだ? それはまるで魔法、現実的に考えればバイオテロの類ではないか。だがしかし、石にされてしまった爺さんでは、その真相を知る手立てが無いのも事実。ここでは結果だけを追っていこう。

地面に転がる爺さんに近寄るJK風の少女。そして――。

「ふん」
「まあまあ」

表情一つ変えることなく爺さんを蹴飛ばすJK風の少女。それを困惑そうな表情、だが爺さんを気遣っているのではなく、そこは妹? なのだろう、JK風の少女の行為を心配しているといった感じだ。そして残る一人、JC風の少女は全く表情を変えることなくJK風の少女の後ろ姿を見ているだけである。それは、『私は興味ありません』と言わんばかりの態度だ。

俺には、これで分かったことが幾つかある。この三姉妹はそれぞれ個性が違うのだということだ。それはそれで宜しいだろう。3人とも同じ性格では、この先やってはいけないはず。そうやってこれまで様々な問題を解決してきたに違いない、と思わずにはいられない俺である。

JK風の少女に蹴られた爺さん、それは石ころが転がるのと同じこと。コロコロと転がり続ける爺さんだ。序でに下り坂となり、その勢いは増すばかり。さぞかし目を回したことだろうと、多少不憫に思わなくはないが、所詮は身から出た錆びというもの。罪を贖って出直してくるがよい、いや、二度と来るでないぞ。

転がり落ちる爺さんにはもう、用がないのであろう。JKはまた家の中へと戻るのであった。そしてJC、続いてJDも家の中へと引き込まれるかのように消え、玄関のドアは静かに閉まるのである。

片や大回転中の爺さん、クルクルパーと目を回し、今頃、神との面談をしている頃だろうか。幸いにも石のように硬直した体が、ありとあらゆる障害を跳ね除け、逆に快適なのではないかと思える程、良く回っておる。

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