逆・異世界転生 Ⅰ

Tro

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#3 エルフの涙

帰郷

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 病院の前に現れた私たちです。相変わらず伸びている私をチャーリーが見守り、他の二人がゾーイを探しに行きます。ですが何度も振り返りながら私の方を見たそうです。チャーリーが私を抱えて病院の中に入り、私は直ぐさま治療を受けることが出来ました。後は生き返るだけです。それを見届けたチャーリーは、周囲を、そして世界を見渡し、これは容易にゾーイは見つからないと判断したのでしょう。そう、チャーリーはとても頭の良いエルフです。そのチャーリーは私に笑顔を向けながら、この場から消えたそうです。これは自分の持ち時間である8時間を他の二人に与えたことになります。

 ゾーイを探すアリスとボブです。ですがこの広い世界でゾーイを探し出すのは容易ではないはず。ですが、どうやらエルフ同士で通じ合うことが出来るそうで、特にエルフが自分たち以外いない場合、特に感じるそうです。それはまるで発信器を付けた獲物を狩るようなもの、お縄頂戴です。

 そのゾーイです。端正な顔立ちが特徴なエルフですから、モテまくって優雅な人生を謳歌している、とかなんとか。そんなゾーイを見つけるのは造作もなかったようです。早速、夜道をチャラチャラと歩いているところをボブが見つけました。

「ゾーイ!」

 街中で大声を上げるボブです。当然、周囲の注目の的となりました。その出で立ち、その衣装。人々は何かのコスプレイヤーと感違い、いえ、そうとしか思えなかったことでしょう。勿論、隣にいるアリスも同様です。ですが大勢の視線を今まで浴びたことのないアリスは顔が真っ赤です、お腹が痛いのでしょうか。

 ゾーイは一目散に逃げました。そう、脱兎のごとくに。でも、なんで逃げるのでしょうか。追われていることを知っている? それとも借金取と間違えたの? どちらでも同じことですが、アリスとボブも負けじとゾーイを追いかけます。ですが地の利はゾーイが優位。伊達に長く人の世界で暮らしていたわけではないようです。

 姿を隠すには人の中へ。駅に真っしぐらのゾーイ。サッと携帯を翳して改札を通り抜けていきます。そこへ、改札とは何だ? のアリスとボブです。まず最初は軽やかに改札を飛び越えるアリス、続いてボブも、と行きたいところですが、ここは素直に阻まれてしまう間抜けなボブです。そうして強行突破、のはずが速攻で駅員に取り込まれたボブです。

「俺のことは構わず先に行ってくれ」

 ボブの最後の言葉に「当然だ」と言い残しアリスはゾーイを追いかけます。万事休すのボブは諦めるのも早い。後はアリスに託して消滅です、さようなら。

 列車に乗り込んだゾーイ、それに合わせてアリスも無賃乗車します。「やべー」とゾーイが人を掻き分けながら車両を移動していきます。が、その背後に、そう、弓を構えるアリスです。勿論、車内は騒然とします。が、気にする様子はありません。しかし他の乗客は大いに気にしたようです。

 一斉にアリスの周囲から人が消え、絶好のチャンス到来です。ですが車両の連結部分のドアを閉められ、更に離れていくゾーイ。

「ちっ」

 これはアリスのため息のようです。弓を放てないことが分かるとアリスも人を掻き分け掻き分け、が上手くいきません。人の視線が恥ずかしいアリスです。

 モタモタしている内に列車は次の駅に到着。そこで降りたゾーイは夜の街に逃げ込み、行方を隠してしまいます。どうやらこの戦、ゾーイの勝ちのようです。悔しがるアリス。ですが時間がありません、挫けず急ぎましょう。

◇◇

 船の汽笛がボーと夜の空に染み渡る埠頭。そこで真っ黒な海を見つめるゾーイ。時折、海面に街の光が写りますが、それが何だと言わんばかりのゾーイです。風が俺を呼んでいる、世界が俺を欲している、なんのこっちゃのゾーイです。

 その背中を見つめるアリス。そしてゾーイの横に立ち、同じ光景を目にします。どうしてあなたは、いえ、何も聞くまい。そう決心するアリスです。だから、「何故、逃げる?!」と聞かずにはいられなかった、と後で聞きました。

「普通、追いかけられたら逃げるだろう」

 ゾーイはコートの襟を立て、ポケットに手を突っ込んでいます。格好つけたいのでしょうか。そんなゾーイを睨みつけるアリスです、

「私と戻って欲しい」

「俺が、欲しいのか?」

 ゾーイはアリスに蹴られ、もう少しのとこで海に落ちるところでした。でも、そんなことをしている時間はありません。アリスはゾーイに事情を説明し、それに納得するゾーイです。

「わかった、戻ろう。どうせ好きでこっちに来た訳じゃない。それに……」

「それに?」

「彼女のためだ。それは俺も同じ思いだ。最初に彼女を助けた時から、この時が来るのを待っていたのかもしれないな」

「では戻ろう」

「ところで、もし俺が戻らなかったらどうなる? 彼女が連れ戻されるのか?」

「いいや、それはない。誰か、どこかの誰かが引き込まれるだろう。そうなったら厄介だ」

「そうか、分かった。戻ろうか」

 ゾーイはアリスの顔を見つめ、覚悟を決め、今までの楽しかった日々を捨て、捨て、捨て、捨てきれず、意表をついて逃げ出したそうです。そして「またなー、俺はまだやり残したことがあるんだ、悪いー」と言いながら走り去ります。

「なんちゅう野郎だ」と言いながら弓を弾くアリスです。そうして放たれた矢は特別なものだったと聞いています。それは『怒りに身を任せた快心の一撃、くたばれこの野郎、地獄の沙汰も金次第やー』だそうです。

 特別な矢に射抜かれたゾーイは焼却炉のゴミように一瞬で炭となって、浄化されたように消えました。そしてその後を追うように、アリスも消えて行きました。これで、ゾーイ捕物帳は終わりです。めでたし、めでたしです。



 病院のベットの上でお目覚めの私です。生き返りました。これも運命というものなのでしょう。看護師さんやお医者さん、それに同僚の、いえ、同室の皆さん、何やら言っていますが私には言葉がサッパリ分かりません。私が分かるのはエルフの言葉のみです。ああ、なんてことでしょう。一命は取り留めたものの、世間の常識もお金もありません。あるのはこの美貌のみ。これからは笑顔で生きていきましょう。

 あれから何年経ったのでしょうか。学歴も人脈もお金も無い、無い無い尽くしの私が出来たことといえば、何やら分からぬ仕事ばかり。日々、望郷の念が積もるも、帰る方法なんて分かりません。人の世界にたった一人、エルフの血を引く……ではありませんが、心はエルフです。ああ、帰りたい。ここはどこ? 私は誰? 虚しい思いが駆け巡る日々が過ぎていきました。ああ~

 そんな私にも、とうとう最後の日が訪れるようです。極貧の中で生きた「人の世界」。そりゃ~、楽しいことも有った? かもしれません。嬉しい時も有った? かもしれません。けれどそれもこれも終わりです。私の肉体は限界を迎え、静かに、誰にも見届けられず旅立つのでした。享年79歳(多分)、頑張りましたとさ。

 あれ? 何故それを私が話しているのかって? 嫌ですよ、せっかちなんだから。そう、お話はまだ続きますです、はい。

 私が虹の橋を渡りかけた時です。その時、懐かしい顔を見ました。アリスとボブ、そしてチャーリーが私を迎えに来てくれたのです。アリスが私の右手を、ボブが左手、そしてチャーリーが左足を。ですから右足でチャーリーを蹴ってあげました。

「エリー!、待ってたよ。一緒に帰ろう」

 アリスが叫ぶ姿は最後に見た時とそのままで。だけど子供のように泣いていました。

「私は! 私は……」

 彼らと出会って、嬉しさで狂いそうな私でした。けれど、私と彼女たちとでは住む世界が違います。それは叶わぬ夢、儚いことなのです。思ってはいけません、思えば余計に苦しむだけです。そう、それ以上は考えられませんでした。ですがアリスは私の手を離しませんでした。

 それは、生と死が混在するエルフの世界だからです。魂となった私はもう「人の世界」の理に縛られないのです。それを知っていたからこそ、アリスは私の手を離さなかったのです。ボブは……どうでしょう、知っていたことでしょう、チャーリーも。

 そうして私は3人に連れられ、念願の故郷に帰ることが出来ました。めでたし、めでたしです。



「それじゃあ、おばさ……、お姉さん、幽霊なの?」

 私の話に聞き耳を立てるお子様達です。別に立てなくても耳はビヨ~ンと長いですけどね。

「さあ、どうかしらね」

 私は子供達の前でお話をするのが大好きです。その純心な目、清らなか心に触れていると私までも少女になった気分にさせてくれるのです。

「ほら」

 私は自分の耳をエルフのように伸ばすことが出来ます。魂とも精霊とも呼ばれる存在になった私です、その形を自分の思うように変えることが出来る、便利な体になりました。これで本当に私もエルフになれたでしょうか。

「あげー、化け物だー」

 そんな私を見て子供たちがワイルドに驚いているようです。そんな子供たちに私からご褒美をあげましょう、ゲンコツという愛のムチを。
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