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#16 見送る風
#16.2 迷いの風
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もふもふ100%、おまけにゴロゴロの子守唄付きとあって、スヤスヤ中のエリコです。そこではどんな夢を見ているのでしょうか、ちょっとだけ覗いてみましょう。
◇
どんよりとした空から雨が降っていました。その空模様だけで憂鬱になりそうなくらいですが、傘を差さずにはいられない程、強く降りしきる雨です。そんな雨の中、少し開けたところを馬が一頭、人を乗せて走っていました。
雨の中ということで、人も馬を苦しそうに見えてしまうのは気のせいでしょうか。これといった雨具も無く、どこかの制服を着ているだけのその人は全身びしょ濡れになっていました。そして手元には大きな籠を大事に支えていますが、その支える手が小刻みに震えているようにも見えます。
この光景だけでは、とても愉快な夢とは言えないでしょう。そう、何かを急いでいるのか、それとも逃げて来たのか。そのどちらでも、馬を走らせる人の歪んだ表情からは何も伺えません。ただ、顔から大粒の水が、どんどん滴り落ちていました。
籠の中をコッソリと覗いてみると、あれまあ、赤ちゃんです。その子には幾重にも布が覆っていましたが、それでも雨を防ぐことは出来ず、赤ちゃんの頬にも雨粒が落ちていました。
そうして雨の中を走り続ける馬です。しかし、次第に馬上の人は左右によろめき始め、後方に大きく仰け反ると、そのまま馬から落馬してしまいました。それでも赤ちゃんの籠は馬から落ちることなく馬と一緒に走り抜けて行きます。
それはきっと、馬にも行き先が分かっていたのでしょう。だから乗り手が居なくなっても走り続けることが出来たのだと思います。それが約束だから、と言い交わしてあったのかもしれません。それで、赤ちゃんの入った籠を背負いながら、落とさないように、それでも速く、もっと速くと足を前に運ぶ馬です。というところで夢から覚めたエリコです。
◇
決して良い夢だったとは言えませんが、夢の意味が分からなかった分、不思議な気持ちで目覚めたエリコです。でも、隣で何度もエリコの名を呼ぶノリコの声で目が覚めたのかもしれません。
「やっと起きましたね、エリコ。さあ、帰りましょうか」
空は茜色に染まり、涼しい風も少し冷たくなっていたでしょうか。ノリコの声で起き上がったエリコは、その背中が冷たくなっていることに気が付きました。それで振り返るとニャーゴの姿はなく、いつの間にか居なくなっていたようです。そしてニャージロウの姿もなく、ノリコだけがその場に立っていたのです。それで、なんだかとても寂しい思いが湧きそうになりましたが、
「さあ、帰ろうか」と手を差し伸べるノリコの笑顔で消えてしまったようです。それに、
「うん」と答えるエリコです。
そうして手を繋いだエリコとノリコは、スッと消え、ノリコの家に帰ったのでした。
◇
玄関に到着したエリコたちは、そこで靴を脱ぎ、長い廊下をススッと進んで行きます。その先の部屋ではケイコたちの騒いでいるだろうと思ったノリコです。しかし、部屋はもぬけの殻、その代わり、遠くの方からケイコたちのはしゃぐ声が聞こえてくるようです。
どうやら、ケイコたちは先に温泉で寛いでいるのでしょう。ええ、ノリコの家には、なんと! 源泉掛け流しの露天風呂があるのです。冷え切った体には持って来い、ノリコ自慢の施設です。但し、風の子には『お風呂に入る』という習慣は無く、その必要も無いのですが、人の生活を真似てみた、というところでしょう。
そこでノリコたちも温泉に入ろうと行ってみると、案の定、お風呂の中を泳ぎまくるケイコ、それを注意するマチコです。ええ、残念ですが風の子には暑さ寒さを感じないので、そこはただの『湯気の出るプール』のようなものなのです。
遥か上空に吹く冷たい風、時には雪の下敷きになってしまうこともある風の子(特にケイコの場合などなど)が、人のように暑さ寒さを感じていたら生きてはいけないでしょう。でも、一度でも温泉を経験したら、きっと病み付きになるはずです。ほら、その証拠に、ぬくぬくとお湯に浸る風の子たちです。
◇
みんなが寝てしまった静かな夜、まんまるの月明かりに照らされて伸びる影が、部屋の中をスーッと移動して参ります。そしてエリコの寝ている布団の近くで、その影が止まりました。
「エリコ、起きて、エリコ」
寝ているエリコを起こすノリコです。因みにケイコたちとは別々の部屋で、ケイコとマチコ、エリコとノリコの組み合わせとなっています。でも別の部屋と言っても隣の部屋なので、今頃はグースカと寝ていることでしょう。
ノリコに起こされたエリコです。それで少々不満そうな顔になっていますが、その耳元で、
「今夜、満月だから猫の集会があるのです。それを見に行きましょう」と囁くノリコです。楽しいことには目がないのは、小さいエリコも同じこと、曇っていた表情が一瞬でワクワクに変わりました。そうして浴衣に着替えて、夜の散歩へとお出かけです。
◇
家の玄関から集会のあるところまでは、風に乗って、こっそりとニャーゴとニャージロウの後を追って集会場に行こう、と考えているようです。ということはノリコもその場所を知らないのでしょう。どのようなところなのか、想像しただけでワクワクのエリコとノリコです。
しかし、玄関付近に居るのは、何やらソワソワしているニャージロウだけで、ニャーゴの姿が見えません。それはきっと先に行ってしまったからなのでしょう。そこで、動き出したニャージロウの後をコソコソと音も立てずに付いて行くエリコたちです。
◇
◇
どんよりとした空から雨が降っていました。その空模様だけで憂鬱になりそうなくらいですが、傘を差さずにはいられない程、強く降りしきる雨です。そんな雨の中、少し開けたところを馬が一頭、人を乗せて走っていました。
雨の中ということで、人も馬を苦しそうに見えてしまうのは気のせいでしょうか。これといった雨具も無く、どこかの制服を着ているだけのその人は全身びしょ濡れになっていました。そして手元には大きな籠を大事に支えていますが、その支える手が小刻みに震えているようにも見えます。
この光景だけでは、とても愉快な夢とは言えないでしょう。そう、何かを急いでいるのか、それとも逃げて来たのか。そのどちらでも、馬を走らせる人の歪んだ表情からは何も伺えません。ただ、顔から大粒の水が、どんどん滴り落ちていました。
籠の中をコッソリと覗いてみると、あれまあ、赤ちゃんです。その子には幾重にも布が覆っていましたが、それでも雨を防ぐことは出来ず、赤ちゃんの頬にも雨粒が落ちていました。
そうして雨の中を走り続ける馬です。しかし、次第に馬上の人は左右によろめき始め、後方に大きく仰け反ると、そのまま馬から落馬してしまいました。それでも赤ちゃんの籠は馬から落ちることなく馬と一緒に走り抜けて行きます。
それはきっと、馬にも行き先が分かっていたのでしょう。だから乗り手が居なくなっても走り続けることが出来たのだと思います。それが約束だから、と言い交わしてあったのかもしれません。それで、赤ちゃんの入った籠を背負いながら、落とさないように、それでも速く、もっと速くと足を前に運ぶ馬です。というところで夢から覚めたエリコです。
◇
決して良い夢だったとは言えませんが、夢の意味が分からなかった分、不思議な気持ちで目覚めたエリコです。でも、隣で何度もエリコの名を呼ぶノリコの声で目が覚めたのかもしれません。
「やっと起きましたね、エリコ。さあ、帰りましょうか」
空は茜色に染まり、涼しい風も少し冷たくなっていたでしょうか。ノリコの声で起き上がったエリコは、その背中が冷たくなっていることに気が付きました。それで振り返るとニャーゴの姿はなく、いつの間にか居なくなっていたようです。そしてニャージロウの姿もなく、ノリコだけがその場に立っていたのです。それで、なんだかとても寂しい思いが湧きそうになりましたが、
「さあ、帰ろうか」と手を差し伸べるノリコの笑顔で消えてしまったようです。それに、
「うん」と答えるエリコです。
そうして手を繋いだエリコとノリコは、スッと消え、ノリコの家に帰ったのでした。
◇
玄関に到着したエリコたちは、そこで靴を脱ぎ、長い廊下をススッと進んで行きます。その先の部屋ではケイコたちの騒いでいるだろうと思ったノリコです。しかし、部屋はもぬけの殻、その代わり、遠くの方からケイコたちのはしゃぐ声が聞こえてくるようです。
どうやら、ケイコたちは先に温泉で寛いでいるのでしょう。ええ、ノリコの家には、なんと! 源泉掛け流しの露天風呂があるのです。冷え切った体には持って来い、ノリコ自慢の施設です。但し、風の子には『お風呂に入る』という習慣は無く、その必要も無いのですが、人の生活を真似てみた、というところでしょう。
そこでノリコたちも温泉に入ろうと行ってみると、案の定、お風呂の中を泳ぎまくるケイコ、それを注意するマチコです。ええ、残念ですが風の子には暑さ寒さを感じないので、そこはただの『湯気の出るプール』のようなものなのです。
遥か上空に吹く冷たい風、時には雪の下敷きになってしまうこともある風の子(特にケイコの場合などなど)が、人のように暑さ寒さを感じていたら生きてはいけないでしょう。でも、一度でも温泉を経験したら、きっと病み付きになるはずです。ほら、その証拠に、ぬくぬくとお湯に浸る風の子たちです。
◇
みんなが寝てしまった静かな夜、まんまるの月明かりに照らされて伸びる影が、部屋の中をスーッと移動して参ります。そしてエリコの寝ている布団の近くで、その影が止まりました。
「エリコ、起きて、エリコ」
寝ているエリコを起こすノリコです。因みにケイコたちとは別々の部屋で、ケイコとマチコ、エリコとノリコの組み合わせとなっています。でも別の部屋と言っても隣の部屋なので、今頃はグースカと寝ていることでしょう。
ノリコに起こされたエリコです。それで少々不満そうな顔になっていますが、その耳元で、
「今夜、満月だから猫の集会があるのです。それを見に行きましょう」と囁くノリコです。楽しいことには目がないのは、小さいエリコも同じこと、曇っていた表情が一瞬でワクワクに変わりました。そうして浴衣に着替えて、夜の散歩へとお出かけです。
◇
家の玄関から集会のあるところまでは、風に乗って、こっそりとニャーゴとニャージロウの後を追って集会場に行こう、と考えているようです。ということはノリコもその場所を知らないのでしょう。どのようなところなのか、想像しただけでワクワクのエリコとノリコです。
しかし、玄関付近に居るのは、何やらソワソワしているニャージロウだけで、ニャーゴの姿が見えません。それはきっと先に行ってしまったからなのでしょう。そこで、動き出したニャージロウの後をコソコソと音も立てずに付いて行くエリコたちです。
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