上 下
28 / 37
#15 夢見る風

#15.2 旅立つ風

しおりを挟む
トゥルルルル、トゥルルルル。

教室で授業が始まるのをボーッとしながら待っていたサチコの携帯が『早く出ろよ』と踊り狂っています。その発信元は委員長のマチコです。早速、試験対策を副委員長であるサチコに丸投げしようと電話を掛けて来たようです。

電話に出たサチコはマチコからの依頼を断ることはせず、渋渋ならが引き受けたのでした。それは、風の子は頼まれたら断れない性格だから、ではなく、今は夢の中で生徒になりきっているので、単にサチコの性格的なものでしょう。

その面倒事を押し付けたマチコは、何か用事があるからと教室には戻って来ないようです。それが本当なのか、それとも何かの言い訳なのかは分かりませんが、とにかくサチコがどうにかしなければならない状況になってしまいました。

そこでサチコが考えたのが小テストです。それは試験の成績を良くするためにはまず、それぞれの学力を知る必要があるからです。ですが、そのテストをする問題用紙はどうするのでしょうか? はい、これは夢なので思い立ったらすぐにテストの問題用紙がサチコの手元に現れました。但し、それが何の問題なのかは詳細不明となっています。

こうして全員に問題用紙を配ったところでテストの開始です。普通、いきなりテストをすると苦情がありそうですが、そこはそこ、問答無用で強制的に物語が進んで行く夢なのです。

問題用紙を手に取り、(これは一体、何をするものでしょうか)と疑問に思うケイコです。そんな『素』の思考は、素早く『設定されたケイコの性格』に上書きされ、問題を解く勤勉なケイコに早変わり、早速、問題文をヨミヨミして行きます。

しかし、問題を読み解こうとしても、何が書いてあるのかサッパリのケイコです。もしかしたら白紙の問題用紙なのかもしれません。そこで他のことを考え始めたようです。

それは、もしこの問題用紙がパッと消えてしまえばテストをしなくてもいい、そうすれば終わったも同然ではないかと思ったようです。ですがそんなことは現実的には不可能、ジタバタせず諦めて解くがよい、という『常識』がケイコを正していました。

それでも、それでもです。なんかこう、心の奥から沸き起こる微かな衝動に揺り動かされるのです。それはフツフツと、そして次第に抑えきれないくらい大きく成長したようです。そうしてそれは、

「あらったまほんにゃらほんぷー」という言葉になって解き放たれたのでした。すると、その直後のことです。

「「オキャあああぁぁぁあああ」」

教室中に渦巻く悲鳴、それは目を凝らして見ていた問題用紙がいきなりボワっと燃え、パッと消えてしまったからなのです。これは一体、何が起こったというのでしょうか。

エリコは驚きのあまり涙目になり、ノリコはそれが高等部のテストなのかと感心し、シマコはとにかく騒ぎたい様子、サチコは問題用紙ではなく違うものを配ってしまったと自分に呆れる始末です。そして、

「(おお、消えてしまったのじゃ)これは? どうしましょう、テストが出来なくなってしまいました、残念です」と冷静に独り言を呟くケイコ、怪しさ満点です。

パンパン!

ざわめく教室を鎮めるために、合図代わりに手を叩いたサチコです。それに注目……注目、やっと全員が注目しました。

「みなさーん、落ち着くまで図書室に移動しましょう」
「「はーい」」

こうしてサチコを先頭に図書室へ移動を開始した生徒たち、ゾロゾロと後に続きます。まだ目を赤く腫らしたままのエリコ、遠足気分のシマコはスキップしながら、そしてケイコが余所見をしながら歩いて行きます。この行列にノリコの姿がありませんが、ノリコは夢から覚めてしまったため離脱しています。この場合、離脱した時点で最初から居なかったことにされる夢の世界です、はい。

図書室までの道すがら自問自答するケイコです。今ではもう忘れてしまいましたが、あの呪文のような言葉はなんだったのだろうかと問い、あれは寝言に違いないと結論付けたのでした。それは、目を開けて起きていたものの、とても眠かったので、そんな技が出来るようになったんだ、と成長した自分を褒めてあげるケイコです。

◇◇

図書室に到着し部屋に入ると、カウンターのようなところにミツコが座っていました。そして、

「いらっしゃいませ、ようこそ」と挨拶するミツコ、ペコリです。それにサチコたち一行もペコリ。「お好きなテーブルへどうぞ」と腕を伸ばして案内します。

窓際のテーブル席に引き寄せられるようにサチコとケイコ、その向かいにシマコが座りました。そして、エリコは怖い夢を見たことで覚醒してしまったのでしょう、居なくなっていました。

椅子に座ったサチコは皆んなを連れて来たことで満足し、シマコは足をブラブラとさせています。ケイコは、何をして遊ぼうかなと思案中です。そこにミツコが分厚い本を携えて来ると、でーんと本をケイコの前に置き、

「ケイコさんにこれを読んで欲しいのです」と頼んできました。そんなミツコの顔を見上げながら、

「奥さん、これは」と穏やかに尋ねるケイコです。

「いいえ、ミツコです。さあ、読むのです、読んで読んで、読み尽くすのです」と、ほぼ強要しているようなミツコ、

「(読むのは嫌じゃ)何が書かれているのですか」と、相変わらず穏やかなケイコ、
「読めば分かります。さあ、さあ、さあ」の押し売りミツコです。

そんなケイコたちのやり取りを見ていたシマコが、

「私が読んじゃうよ」と本に手を伸ばすと、それをピシッとはたくミツコ、
「ケチィィィ」と唸るシマコ、ケイコの隣で『のほほん』としているサチコです。

揉め事を好まないケイコは渋渋、その本を読むことにしたようです。その本の題名は例の『大魔道師ケイコ』、もちろんケイコには身に覚えのない初めて見る本です。

ペラペーラのペララ。

適当にページをめくっていくと、どのページもほぼ同じ内容で、日付、本文、日付、本文という調子でダラダラと続いているだけです。要は日付だけが違うと言っても良いでしょう。

その本文には『朝起きた、遊んだ、寝た』と書かれているだけです。これでは流石のケイコも呆れていることでしょう?

「(まるで、私が書いたような名文ではないか。素晴らしいのじゃ)なるほど、興味深いですね」と和やかに答えるケイコです。それに、

「どれどれ」と本を覗き込んだサチコは、すぐさま「プププ」と口を押さえながら笑ってしまいました。その隙に、

「私にも見せてー」と本に手を伸ばしたシマコですが、その前に、バタンと本を閉じたミツコです。それに、「ケチィィィ」と唸るシマコです。

「さあ、どうでしたか、ケイコさん。何か思い出したことは有りませんか」

ミツコの突然の問いに戸惑うケイコです。

「(一体、何を思い出すというのじゃ。確かに素晴らしいのじゃが、それがなんじゃというのじゃ、うむ。しかしのお、言われてみれば、なんかこう体が踊るようじゃて、よよいのよいじゃ)思い出したことは有りませんが、このリズミカルな文章のおかげで旋律が私の頭の中で、高らかに歌っているのです。ですからこう、こうなのです」と言いながら体をクネクネさせるケイコ、今にも踊りだしそうです。

そんなケイコの反応を見てニヤリとするミツコです。「それでは」と目を輝かせたところで、シマコが急に立ち上がってきたのです。そして、

「ケイコさん、歌いに行きましょう」と高らかに宣言しました。それに、

「うん、そうですね」と同調するサチコ、「(ちと喉の調子が。まあ良いか)行きますか」と落ち着いた雰囲気のケイコ、(なんでそうなるの?)のミツコです。

こうしてまたサチコを先頭にシマコとケイコは音楽室を目指し、それを見送るミツコ、(きっとこれから何かが起こる予感)でワクワクです。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

処理中です...