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#13 学ぶ風

#13.5 家庭訪問する風

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街の中心部に着いたケイコたちです。そこは、多くの車が行き交い、せわしなく歩く人たちで賑わって……いませんでした。時折通る配達のトラックと、歩道には、うん、誰もいません。

(これは、おかしい)と焦るケイコです。しかしそれも仕方の無いことでしょう。都会と違い、地方の小さな街なので、人の数自体が少ないのです。それでも、以前に訪れた時は、もっと活気があったような、のケイコです。

そこに、運良く学生を乗せたスクールバスが通り掛かり、近くのバス停に止まりました。そして待望の人集ひとだかりです。そこで、その近くのポストの上に舞い降りたケイコとエリコです。

「どうじゃ、エリコや。あれが人の群れじゃ。まだ小童こわっぱのようじゃが、エリコより……うーむ、似たようなものじゃな」とスクールバスから降りてきた子供たちを指先ながら解説するケイコです。それに、

「なんか……怖そう」と、ワラワラと動き回る子供たちに、体を少しだけプルプルさせるエリコです。その予感が的中したのか、ポストの前を通り過ぎるはずだった男の子がふざけて、ガツーンとポストに打つかってきました。それで、体だけではなく、ポスト全体がプルプルと小刻みに震え、本格的に震え上がるエリコです。

それを、「シャーっ」と威嚇しながら男の子を睨み付け、震えるエリコを抱きしめたケイコです。しかし、例によってその男の子にはケイコたちの姿は見えず、声も聞こえてはいないようです。そして、そのまま通り過ぎて行く男の子に向かって、「こらあああ、なにすんじゃあああ」と叱責しますが、それも届くことはないでしょう。

せっかくの街見物を邪魔されたケイコたちです。それもプルプルのエリコに責任を感じたケイコは、どこかに憩いの場所はないかと頭をフル回転。そこで、以前に出会ったオバさんのことを思い出しました。そういえば、そのオバさんの家は、この近くだったはず、です。

しかし、そこがどこだったのか思い出せないケイコです。街並みは当時と少し違いますが、その僅かな違いで全然ちがう街に見えてきたようです。それで、「ここは、どこじゃ」と思わず呟いてしまいましたが、それをハッと飲み込むケイコです。それは、弱気なお姉さんをエリコに見せてはマズイと思ったからでしょう。

そうこうしているうちに子供たちは通り過ぎてしまいましたが、途方に暮れるケイコたちをじっと見つめる女の子が、一人だけ残っていました。勿論その子にも「シャーっ」と威嚇するケイコです。

それでもケイコたちを見つめ続ける女の子です。それで、

「なんじゃあああ、こらあああ。あっちに、行けえええ」と女の子を追い払おうとするケイコに、

「げげっ、喋った」と言いながらケイコたちに手を伸ばしてくる女の子です。その伸びてくる手を全力で阻止しようと、ありったけの風を打つけるケイコ、その風に驚いて、サッと手を引っ込める女の子です。

そうして暫く睨み合いが続いた後、

「ねえ、妖精さん、だよね? そこに、居るんだよね」とケイコに尋ねる女の子です。それに、変わらず「シャーっ」と答えるケイコ、戦闘モードです。そしてケイコの後ろに隠れるエリコ、プルプルです。

「困ったなあ、出会っちゃったよ、見ちゃったよ、どうしよう」

自分から声を掛けたものの、それで困り始めた女の子です。さて、これは一体どうしたことでしょうか。

「ねえねえ妖精さん、話せるんでしょう? 名前、教えてよ。まさか、『ケイコ』、じゃないよね」

女の子からの質問にぎょっとして驚くケイコです。初めて会った人から自分の名前を呼ばれるなど想定外、(なんで知っておるのじゃあああ)のケイコです。

「なんじゃ。いかにも、私がケイコじゃが、そういうお主は一体、誰じゃ」と怖い顔をして聞き返すケイコです、そのケイコもプルプルです。

そんなケイコの返答に、女の子の方も更に困った風で、モジモジを始めました。そして独り言のように、

「お婆ちゃんの言ってた通りだよ、どうしよう、本物かな、あれかな、人違いかも」と呟いた後、ケイコの赤いバッグに目に留まったようです。それで、「ねえ、あなたの、その、バッグ、どうしたの」と指差す女の子です。

「むっ、これは大切なものじゃ。お婆ちゃんから貰ったのじゃ。これが狙いなのか」といぶかるケイコ、バッグを取られないようにとギュッと握りしめました。

「はあ、そうなんだ、やっぱりね、間違いなさそうね。ところで妖精さん、言い方がお婆ちゃんみたいだけど、お婆ちゃんなの? そうよね、そうじゃないと歳が合わないもんね」と自分で言いながら納得する女の子です。

「これは、お婆ちゃんから貰ったものじゃ。私が、お婆ちゃんではないのじゃ」と何かを訂正するケイコです。

「ふ~ん、まあ、どっちでもいいわ。それで、その、後ろに隠れているのは誰?」と尋ねる女の子に、

「こっちはエリコじゃ。これでも女王様なのじゃぞ」とプルプルのエリコを見ながら、自分が偉いかのように胸を張るケイコです。

「へえっ、妖精の女王様なの? それは大変だ」と、何が大変なのか分からない女の子ですが、とにかく驚いておこうと思ったようです。そしてまた独り言のように、「女王様なら尚更、うん、しなくちゃいけないのかな? 約束しているしね」と呟くと、「ねえ、ちょっと私の家まで来ない? 招待したいんだけど」と提案してきました。

それに少し悩んだ末、「うむ、良かろう」と快諾したケイコです。しかし、
「えええええ、行くのおおお、やだよおおお」とプルプルのエリコです。

「大丈夫じゃ、エリコ。何かあったら魔法でやっつけてやるでの、安心せい」と胸を張り続けるケイコに、

「魔法! ねえねえ、魔法が使えるのおおお?」と目を輝かせる女の子です。

「もちろんじゃ、お主など軽く吹き飛ばしてくれよう」と胸を張り、序でに鼻高々のケイコに、

「じゃあさ、さっきの風みたいのも魔法なの? ねえねえ」と、ねだる女の子です。
「あれは違うのじゃが、そんなものじゃ」と適当に答えたケイコ、
「ねえねえ、それ、もう一度、やって見せてよ、ねえねえ」と、せがみ出した女の子ですが、
「招待するのじゃろ、早よせぬか」と断るケチなケイコです。
「じゃあさ、後で見せてよね、約束だよ。こっちだから」と歩き出した女の子です。

そこで、プルプル中のエリコに振り向くと、「では、招待されようではないか」とエリコを担ぎ上げて風に乗せるケイコです。そして、「安心するのじゃ、エリコや。風の子は無敵じゃ」と言うケイコに、

「マチコとくれば良かった」とポツリのエリコです。それに、

「なっ、なななっ」とプルプルになったケイコ、でも、それをグッと我慢しながら風を掴むと、エリコと一緒にビューンと女の子の頭の上に着地しました。それに「ギョッっ」と小さく声を上げた女の子ですが、それを無視して、

「どうじゃ、これで征服したも同然じゃ。これで此奴は私の意のままなのじゃ、どうじゃ」と自慢するケイコ、なんでそんな不安定な場所に降りたのか不満なエリコです。

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