リンダ

Tro

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#6 綺麗な夕日の果てに

#6.1 愛すべき人形

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下山し、置いてきた車の元まで戻ってきた俺達である。乗り捨てたつもりだった車が無事であることにホッとしながら、長い道のりを共にした仲間のようで、愛着が湧くというものだ。

ジョンの計画では、一旦南下し、そこから進路を東に進み、今居るB国を抜け、更にC国を横断して隣の国に行く行程である。戦時中に国境を越えるのは難しいと思われるが、そこは縦に長い国である。全ての境界に柵があるわけではないはずなので、そこを見つけ次第突破する算段だ。ということでルートが決まったので出発である。

◇◇

一体、この国はどうなってしまうのか。国民でもなく、ただ出て行くだけの俺としても気になるところである。戦争を始めた国に挟まれ、そのとばっちりを受けているようだが、国境は封鎖、国民は右往左往し国中を駆け巡り、俺のような外国人は国外脱出を試みる。そしてこの国は中立を宣言しつつ『どっからでもかかってこいや』と息巻くが、その前にちゃっかりパーティーなんぞを開く余裕を見せている。

もしこの状況で俺一人だったらどうなっていただろうか。それともジョンがここに居るということは、最初から会社はこうなる事を知っていたのではないかと疑問に思うところだ。

しかし、そんな事をして何の得があるのか。危険地帯だから俺を行かせたのかも知れないし、そうでないかもしれない。戦争が勃発したのも偶然なのか。それとも俺に経験を積ませるための策略か。どれも今の状況では知る術はない。

ただ帰国するという事が命がけとなった以上、何としても無事生還し、原因究明をしなくてはならないだろう。何時までも人の良い俺ではない、ぞ。

一つはっきりとしているのは、いや、はっきりではないが、それはリンダの存在だ。海外旅行の保険としては恐らく破格の対応だろう。普通、お金を払ってお終いだ。それが職員という名目でロボットを派遣する保険会社が何処にあるというのだ。おかげで多少、役には立っているが無骨なロボットから少女型アンドロイドに大変身ときている。一体これは俺にどうしろ、どう扱えというのだろうか。それも俺の『もの』として俺の国までお持ち帰り指定だ。確かに借りたら返すのが筋というものだが。

しかしこれが平時であれば然程さほど問題ではなかったはずだ。場合によっては箱詰めして返却で終わっていたところだろう。そうなると、どれもこれも戦争を始めた両脇の国が諸悪の根源となろう。仕方のない奴らだ。

◇◇

車で一路、南を目指す。道は空いていたり渋滞していたりと混乱している様子だ。そこに俺達の背後から戦闘機が一機、かなり低空で追い越して行った。方角的には北から南に向かって飛んでいることになる。一度、戦闘機にミサイル攻撃を食らった身としては、『またか』という思いだったが、通り過ぎたので問題ないだろう。

その戦闘機が見えなくなってから暫くすると、その方角から地響きのような音が微かに聞こえてきた。そして黒煙のような黒い筋が立ち上っているように見える。その光景を見たジョンが車を止め、なんと車載テレビをつけているではないか。ラジオに続き今度はテレビである。ただのナビだと思っていたのがテレビだ。

文明開化にショックを受けた俺であるが、テレビの方は通常運転らしい。どこにチャンネルを合わせても平和そのものである。そこでテレビから俺の知るラジオに切り替えると何やら話しているが、これも相変わらずサッパリである。

「ジョン、何か分かったか」

「詳しくは分からないが、この先の街が攻撃されたらしい」

「誰から?」

「それは分からない」

どこのどいつかも訳も分からず、いきなり攻撃されるのは堪ったものではない。一体、この国の防衛はどうなっているのだろうか。まさか自軍からの攻撃だったりしないだろうか。そうなると内戦だ。いずれにせよ状況は悪化の一途ということに変わりはない。

俺達は進路を東に変えて突き進む。このまま攻撃された街に行っても被害に巻き込まれるだけだ。そのまま暫く、と言っても5時間くらいだろうか、日が暮れ始めた頃に隣国、C国の国境近くまでやってきた。地図上ではB国の右隣となる。そしてまたもや検問所に繋がる道に差し掛かると、例によって渋滞の発生だ。

そこをノロノロと進み、どうせ封鎖されているのではないかと思ったが、意外にも反対車線を走る車の量が少ない。もしやと思いそのまま進むと、どうやら国境は越えられそうである。

そうなると、またもや問題発生である。そう、何時ものごとくリンダだ。俺とジョンは良いとしてリンダがすんなり通れるとは思えない。何故なら問おう、リンダの国籍はどこなのか、と。

車が渋滞で止まったところで車を降りる俺である。序でにリンダも降りてもらう。

「ケイ、何をする気だ」

「俺に秘策がある、置いていかないでくれよ」

リンダと共に荷台に乗り込み、リンダの服を脱げせる俺である。いや、全てではないぞ、薄着にする程度だ、勘違いしないでよね。
そして次にリンダを仰向けに寝かせる。

「いいか、リンダ。死んだ振りをするんだ。ああ、目は開けたまま、そうだな、口も少し開けておくか」

「なにすんのよ、このドスケベ」

と抗議するリンダのような気がする。しかしこれは、お前、リンダのためなのだ、堪えてくれ。

準備が出来たので、また助手席に戻る俺である。これで万全のはずだ。

国境の検問所で俺達の番が廻ってきた。が、荷台のリンダに気づき、わらわらと人が集まってくる。それも銃を携帯してだ。

「ケイ、これは何だと聞いているが」

ジョンが通訳してくれるが、当のジョンも困り顔だ。

「あれは俺のラブドールだ。そう言ってくれ」

ジョンが説明しているようだが、どうも納得していないらしい。いや、納得云々ではなく触れてみたいようだ。どいつもこいつもエッチー奴らときている。

「ジョン、あれに触らせないでくれ、あれに触れていいのは俺だけだと」

ジョンの顔は更に困り果てているようだ。しかしここは調子を合わせなくてはいけないシーン、私情は禁物だぞ。

序でに鼻の下を伸ばした兵士もどきに睨みを利かせ、「ごほん、うふん」と音声で威嚇すると、未練がましく手を引く野郎どもである。そんな下心満載で触れようなど笑止千万、一生、独身でいるが良い。

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