29 / 44
#7 私はこうして魔王になったで章 え編
#7.5 魔王になりましたよ
しおりを挟む
「待ったれほー」
部屋の扉が勢いよく開いたかと思えば、何やら小汚いおじいさんが吠えながらの乱入です。
「引退するつもりだったのによー、何よー、この仕打ちはよー。俺ー、社長だよー、偉いんだよー」
そう喚きながら、ズンズンと前へ前と突き進んできます。それを誰も止める人はいないよです。それどころか、そのおじさんから離れて、いえ避難しているようです。先程、不満を零したおじさん達も一目散に隠れています。この小汚いおじいさんを、何故、それほどまでに恐れる必要があるのでしょうか。その時、おばさんがその体を震わせながら私に耳打ちしてきました。
「あの人は、前社長だけは特別な、特殊な能力があるようです、気をつけて」
それだけ言うとおばさんも逃げて行きました。そして物陰に隠れています。成る程、小汚いおじいさんが歩いている両脇のテーブルがブルブルを震えています。かなり大きく重いテーブルが紙でできているように震え、幾つかは倒れ、なかには吹き飛ぶものもあります。部屋の中は騒然としてきました。まるで怪獣がガオーと文句を言いながらノッシノッシと歩いているようです。
邪魔な椅子を蹴飛ばし、倒れたテーブルを踏みつけ、転がる果物を拾っては一口かじって捨て、倒れなかったテーブルの上を腕でなぎ払っていきます。そして周囲を見渡しては目の合った人を恫喝し、物を投げつけています。大勢、人がいるというのに誰も怪獣を止めることは出来ないのでしょうか。
「そこは俺の席だやー、どけやー、小娘がー」
怪獣が吠え、その口から唾のような泡が吹き出ています。そして最後のガオーで指差された私に、何やら得体の知れない、見えませんが本当に何かが襲ってくるような感じがしたのです。
「きゃあぁぁぁ、来ないでー」
思わず叫んでしまった私です。するとどうでしょう、怪獣が入り口付近まで後退していきました。いえ、正確に申しましょう、吹き飛んで行かれました。部屋中にどよめきが響きます。私もビックリコンです。
「何するんじゃー、痛いじゃないかよー」
そういえば独房をこじ開け、幾多の壁を突破してきた怪獣です。そう簡単には倒れないようです。立ち上がって真っ直ぐこちらに向かってくるではありませんか。その時です、春子さん、冬子さん、夏子さんが私の前に立ちはだかりました。
「「この子には指一本、触れさせません」」
皆さんが私を守ってくれます。そうです、私達は特別なのです。何があっても起こっても私達は菫組なのです!
「そこはよー、あれもここも、全部、俺のもんなんだよー、邪魔すんなー」
怪獣が吠えながらまた迫って来ました。それに構える皆さんです。私は、私は、どうしたら良いのでしょうか。この怪獣に打ち勝つ力が欲しい。ああ、でも今の私には祈ることしか出来ません。どうか皆さんを守ってください。
「何だやーこの風はよー、誰だほー、窓なんか開けやがったのはよー」
私の祈りが届いたのでしょうか。怪獣に向かって強風が吹き始めました。前に進めなくなった怪獣です。ですがそれでも少しずつですが前進してきています。不純な目を腕で覆いながら、口を開き唾が何処かに飛んで行きます。そして周囲の物も、カツラも飛んで行きますが、私も、もっと祈るのです。もっと強く、もっと強くと。
この怪獣を押し戻す風はどこから吹いてくるのでしょうか。ああ、分かりました。今までこの怪獣に蹂躙されてきた乙女たちの怒り、悲しみ、怨念が一つに集結し、その思いが風を起こしているのです。それが分かればこちらのものです。さあ、怪獣さん、あなたの居るところは、ここではありません。えい!
怪獣はまたも吹き飛び、今度は立ち上がれないように上から風が押さえつけています。身うごきが出来なくなった怪獣です。さあ、トドメを刺しましょう。
「怪獣さん、あなたにそのような力は不要ですので取り上げます。えい!」
風が止み大人しくなった怪獣です。身うごきひとつしません。成敗完了です。そしてカーテンに隠れていた副社長候補のおじさん達に先程の質問を繰り返します。
「彼女達が副社長です、異論はありますか」
「いいえ、滅相もありません。従います、ですから命だけは」
「そうですか、命は……考えておきましょう」
「では、早速あの者を処分致しますので」
「それは……夏子さん、どうしましょうか」
私達は円陣を組み緊急会議を開催しました。
「良子さん、いいえ魔王。あれは処分せずに飼い殺しにしましょう。生かせて、その罪を自身で償わせるのです」
流石は夏子さんです、ごもっともです。
「分かりました、夏子さんのおっしゃる通りですね」
「魔王、もう『さん』で呼び合うのは止めましょう。私達は仲間であり、良き友人でもあります。もっと距離を近づけましょう。私達もあなたを魔王と呼びます。アホーな私達です、とことんアホーになろうではありませんか」
「夏子さ……、皆さん」
こうして私は魔王になったのです。如何でしたでしょうか。涙なくしては語れないことだらけでした。ですが私は一人ではありません。助けてくれる仲間が、知恵を授けてくれる仲間が、勇気を与えてくる仲間と友人に囲まれ、私は幸せ者です。魔王になったのも、そう悪いことではないしょう。では最後にもう一度、言いましょう。
こうして私は魔王になりましたよ、えへん!
部屋の扉が勢いよく開いたかと思えば、何やら小汚いおじいさんが吠えながらの乱入です。
「引退するつもりだったのによー、何よー、この仕打ちはよー。俺ー、社長だよー、偉いんだよー」
そう喚きながら、ズンズンと前へ前と突き進んできます。それを誰も止める人はいないよです。それどころか、そのおじさんから離れて、いえ避難しているようです。先程、不満を零したおじさん達も一目散に隠れています。この小汚いおじいさんを、何故、それほどまでに恐れる必要があるのでしょうか。その時、おばさんがその体を震わせながら私に耳打ちしてきました。
「あの人は、前社長だけは特別な、特殊な能力があるようです、気をつけて」
それだけ言うとおばさんも逃げて行きました。そして物陰に隠れています。成る程、小汚いおじいさんが歩いている両脇のテーブルがブルブルを震えています。かなり大きく重いテーブルが紙でできているように震え、幾つかは倒れ、なかには吹き飛ぶものもあります。部屋の中は騒然としてきました。まるで怪獣がガオーと文句を言いながらノッシノッシと歩いているようです。
邪魔な椅子を蹴飛ばし、倒れたテーブルを踏みつけ、転がる果物を拾っては一口かじって捨て、倒れなかったテーブルの上を腕でなぎ払っていきます。そして周囲を見渡しては目の合った人を恫喝し、物を投げつけています。大勢、人がいるというのに誰も怪獣を止めることは出来ないのでしょうか。
「そこは俺の席だやー、どけやー、小娘がー」
怪獣が吠え、その口から唾のような泡が吹き出ています。そして最後のガオーで指差された私に、何やら得体の知れない、見えませんが本当に何かが襲ってくるような感じがしたのです。
「きゃあぁぁぁ、来ないでー」
思わず叫んでしまった私です。するとどうでしょう、怪獣が入り口付近まで後退していきました。いえ、正確に申しましょう、吹き飛んで行かれました。部屋中にどよめきが響きます。私もビックリコンです。
「何するんじゃー、痛いじゃないかよー」
そういえば独房をこじ開け、幾多の壁を突破してきた怪獣です。そう簡単には倒れないようです。立ち上がって真っ直ぐこちらに向かってくるではありませんか。その時です、春子さん、冬子さん、夏子さんが私の前に立ちはだかりました。
「「この子には指一本、触れさせません」」
皆さんが私を守ってくれます。そうです、私達は特別なのです。何があっても起こっても私達は菫組なのです!
「そこはよー、あれもここも、全部、俺のもんなんだよー、邪魔すんなー」
怪獣が吠えながらまた迫って来ました。それに構える皆さんです。私は、私は、どうしたら良いのでしょうか。この怪獣に打ち勝つ力が欲しい。ああ、でも今の私には祈ることしか出来ません。どうか皆さんを守ってください。
「何だやーこの風はよー、誰だほー、窓なんか開けやがったのはよー」
私の祈りが届いたのでしょうか。怪獣に向かって強風が吹き始めました。前に進めなくなった怪獣です。ですがそれでも少しずつですが前進してきています。不純な目を腕で覆いながら、口を開き唾が何処かに飛んで行きます。そして周囲の物も、カツラも飛んで行きますが、私も、もっと祈るのです。もっと強く、もっと強くと。
この怪獣を押し戻す風はどこから吹いてくるのでしょうか。ああ、分かりました。今までこの怪獣に蹂躙されてきた乙女たちの怒り、悲しみ、怨念が一つに集結し、その思いが風を起こしているのです。それが分かればこちらのものです。さあ、怪獣さん、あなたの居るところは、ここではありません。えい!
怪獣はまたも吹き飛び、今度は立ち上がれないように上から風が押さえつけています。身うごきが出来なくなった怪獣です。さあ、トドメを刺しましょう。
「怪獣さん、あなたにそのような力は不要ですので取り上げます。えい!」
風が止み大人しくなった怪獣です。身うごきひとつしません。成敗完了です。そしてカーテンに隠れていた副社長候補のおじさん達に先程の質問を繰り返します。
「彼女達が副社長です、異論はありますか」
「いいえ、滅相もありません。従います、ですから命だけは」
「そうですか、命は……考えておきましょう」
「では、早速あの者を処分致しますので」
「それは……夏子さん、どうしましょうか」
私達は円陣を組み緊急会議を開催しました。
「良子さん、いいえ魔王。あれは処分せずに飼い殺しにしましょう。生かせて、その罪を自身で償わせるのです」
流石は夏子さんです、ごもっともです。
「分かりました、夏子さんのおっしゃる通りですね」
「魔王、もう『さん』で呼び合うのは止めましょう。私達は仲間であり、良き友人でもあります。もっと距離を近づけましょう。私達もあなたを魔王と呼びます。アホーな私達です、とことんアホーになろうではありませんか」
「夏子さ……、皆さん」
こうして私は魔王になったのです。如何でしたでしょうか。涙なくしては語れないことだらけでした。ですが私は一人ではありません。助けてくれる仲間が、知恵を授けてくれる仲間が、勇気を与えてくる仲間と友人に囲まれ、私は幸せ者です。魔王になったのも、そう悪いことではないしょう。では最後にもう一度、言いましょう。
こうして私は魔王になりましたよ、えへん!
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる