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子は鎹

200 勇者の剣

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レーピオ視点

辺り一帯に響き渡るキメラの咆哮、ガラスが震え、しまいには砕け散った。

 周囲はキメラが暴れたことで荒れ果て、少し前までは違法建築物が建っていたことなんてわからない状態になっていた。

 相手はキメラであり、正気を失って本能のみで行動しているのだから人間を相手にするよりも幾分かましだと思っていたのに、これなら理性のある人間の方がましに思える。

「そもそも、なんでキメラがここにいるんですかあ!」

「誰かが作って離したんだろうよ!」

 キメラとは本来は自然発生しない生き物__合成獣であるのに、なんでここにいるのか。

 簡単に答えが出る疑問を叫べば、苛立っているベイノットくんが答えを返した。

 キメラはダンジョンでも発生しない、魔導師が魔法を使って既存の生物を混ぜて作り上げるものである。

 作るにしたって、事前に国の許可が必要になるし、国の役人立ち会いの元に国がしてしている使用してはいけない物や生き物がいないか入念にチェックされ、そこで始めてキメラを作るための魔法の行使が許される。

 国の許可無くキメラを使った場合、または国の役人の目を掻い潜って使っては行けない物や生き物を使っていた場合、一生涯牢屋に入れられることになる。

 それほど重い罪なのだから、破るものなんて滅多にでない。

 だけど、今はこれだ。

 殺人、ご禁制の魔法薬の使用、ご禁制になってもおかしくない魔法薬二種に製造、違法なキメラの製造、誘拐、拉致、監禁、あとは呪い。

 一体いくつの犯罪行為をしているのかは知らないが、捕まった黒服は一生牢屋から出てこれないだろうな。

 あちこち飛びはね、壊していくキメラに魔法を放っていくが、動くスピードは早すぎて魔法はほとんど当たらない。

 たまに当たるが、だいたいが化する程度。

 魔法ではなく剣を使う皇さんも攻撃を受け止めることは出来ても決定打を与えるには至らなかった。

 どうにかキメラの動きを止めなければ行けない。

 ……スピードのせいで攻撃が当たらないと言うのならば、そのスピードを出せないように捕まえてしまえばいいのだ。

 幸いにも相手は人間ではないし、人語を理解できるような脳を持っているわけでもない、持っていたとしても強欲の薬のせいで到底使い物にはならないはずだ。

 ならば、目の前で作戦会議をしたって大丈夫なはず。

「ベイノットくん、あのキメラの動きを止めますから力を貸してください」

「おう!」

 心いい返事が返ってきた。

「キメラが強欲の薬を投与されていることからあ、皇さんにトドメをうってもらうのがいいでしょう。ですからあ、僕たちはそのための援護をしますう」

「どうすんだよ?」

「さっき作戦を考えましたのでえ、それを実行しますう」

 ベイノットくんに作戦を教えると、口角を上げた。

「シャアッ!行くぞ!」

「えぇ、皇さん!僕たちがキメラを止めるので、その隙に倒してください!」

「わかった!」

 強欲の薬を投与されて理性を失ったキメラは仕掛けられた罠にすらも気づくことはなく、闘争本能にしたがったのか、一番近くにいたベイノットくんに襲いかかる。

 強欲の薬で体が強化されているのか、すばやい動きのキメラはベイノットくんを狙い、他の誰の攻撃を気にすることもなく大きく鋭い爪をベイノットくんの体に突き立てようとして勢いよく振り下ろす。

 ガキン__

 ベイノットくんは自らに身体強化の魔法をかけ、僕が強度を上げる魔法を駆けた瓦礫でキメラの爪を受け止める。

 瓦礫に爪がめり込むが、キメラはそのまま巨体を使ってベイノットくんを押し潰そうと体重をかけるが、ベイノットくんの素の力と身体強化の魔法の前には、そこまで意味はなかった。

「ウンググっ!!」

 ベイノットくんが踏ん張ってキメラと力対決になっている間、キメラの意識はベイノットくんに集中した。

 そこを好機と見た僕はすかさず魔法を行使する。

「これは神の裁きのための試練、聖なる鎖は罪人を縛り!チェイン」

 魔法が発動した瞬間、キメラは自分に何が起こっているのは理解はしていないが自分にとってよくないことが起こっているのはわかったのだろう。

 だが逃げようとしたとき、ベイノットくんはキメラをひっくり返しキメラの攻撃を受け止めた瓦礫を投げつけた。

 ひっくり返り、魔法を駆けられている最中のキメラは反応速度が悪くなり、龍のような蜥蜴のような顔に瓦礫が勢いよく当たった。

 チェインという魔法に掛かったキメラはもがけばもがく程、動けなくなっていく。

 チェインの効果は見ての通り、魔法の対象者が動けば動くほどに魔法で作り出した鎖に締め付けが強くなり、最終的には一ミリも動けなくなってしまうような魔法だ。

「皇さん!」

「さぁ!やっちまえ!」

 皇さんが剣を構える。

「助かる」

 皇さんが構えた剣に、ヘルスティーナ先生の自己魔法と似たような神々しい光が集まっていく。

「これは勇者が振るう聖剣、邪を立ち世に平穏をもたらす剣。カリバー!」

 神々しい光をまとった剣がキメラに振り下ろされ、キメラの胴と首を、たったの一撃で両断。

 キメラは断末魔を上げる暇もなく、死んだ。

「ふぅ……。ここまでの大物、相手にしたことがなかったから不安だったが、やれば出きるものだな」

「あ~……疲れた」

「お疲れ様ですう」

 負担を強いてしまったかすり傷だらけのベイノットくんに治癒魔法をかけおえれば、次は皇さんを、そうともって声を抱えると皇さんは仮面をはずした。

「こういうことだから、それはいらないよ」

「あらま……」

 自己魔法の一環なのか、それとも仮面がそういう魔具なのか……。

 仮面を外した途端、身体中にあった傷は消えて、かわりに仮面がボロボロに変わってしまった。

 流石勇者というか、なんと言うか……。

「これから、どうしる?どこと合流するよ」

「そうだな。恐らくは、もうアジトに誰かが侵入しているだろうが……」

「恐らくは入ってきた箇所ではなく別のところから出てくるでしょうねえ。待っても無駄かとお」

「そうだね。なら、夏月達のところにいこうか。あそこが一番苦戦しそうだからね」

 ローレスくんとロンテ先輩の怒り具合を見ると、普段以上に魔力の出力は容赦ないだろうし、攻撃的にもなっているだろう。

 方や一切の手加減なしの学生が二人と三人の学生、方や大量の黒服と幹部補佐のような立場の者。

 字面だけ見れば勇者が有利に見えるだろうが、学生組の中には常々一緒に戦闘訓練を行ってきた三人がいる。

 その三人の実力を知っているのは監督役をしていた先生達と参加していた自分達であり、いくら強者であれど早々簡単に破れないという自負があった。

 勝てはせずとも、ローシュテールの時のように条件が好転するまで足掻くもの達である。

 苦戦していると言う話ならば、モカノフも変わらない気がする。

 まぁ、そこはどうでも良いか。

 多分、音からしてもここよりも酷いことになっているだろうし、早急に向かわなければいけないのは変わらない。

「さて、ローレスくんもロンテ先輩も酷い怪我してそうですから、治癒魔法を準備をしていないといけませんね」

 ポツリと呟いたそれは誰に聞かれることもなく、ローレスくん達がいる方向から聞こえてくる爆発音によってかき消されてしまった。

「派手にやってんなあ……」

「同感ですう」
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