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子は鎹

154 今日

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カルタ視点

気づいたら真っ白の四角が延々と続く空間にいた。

 二度目だな……。

「やっほー」

 振り向いた先には、前と変わらない様子のカライトが立っていた。

「てっきり事が起きるまで干渉してこないと思っていたんだがな」

「あはは、挨拶もなし?もしかして嫌われた?」

「ふん」

 肯定されたら近々、もしかしたら今問題が起きているとわかるんだが、それに感づいているのか、話をそらされてしまった。

 まぁいい、別の事を聞いてみれば答えが得られるかもしれない。

「聞きたいことがあるんだが良いか?」

「答えられることなら」

「僕の知っている“からいとさん”とカライトと名乗るアンタが関係あるのか。関係あるのだとしたら、どんな関係なのか」

「え?君、からいと一家の事覚えてたの?」

 白黒でわかりにくいけど、カライトの表情には驚愕に染まっていた。

 この反応をするってことは、少なくとも“からいとさん”達の事を知っているってことだな。

 それでいて、カライトと名乗っているのか?

 だとしたら趣味が悪いな……。

「覚えてるに決まっているだろう。あんな特徴的な名字、漢字は忘れてしまったけど」

「ふ~ん、なるほどねえ。答える前にはっきりさせたいことがあるんだけど、からいと一家がどうなったか、知ってる?」

 何でそれを聞くんだ?

「全員死んだ。確か、逆恨みだとか強盗だとかだったはず……」

 逆恨みの線もあるが、金目の物が無くなってたから強盗犯が見つかってしまったから一家全員殺してしまったと言う話で片付いていた、と言う話になっていたはず……。

 もう十年も前の記憶で、当時は幼いこともあってきちんと話を聞かせてもらえなかったから少し怪しいところあるけど、こんな感じだったはず……。

「ふ~ん、なるほどねえ……。前提から違ったのか……」

 最後の方、何を言っていたのかわからなかったが、カライトが勝手に一人で納得しているのだけはわかった。

「何かってに納得しているんだ。答えろ」

「あぁ、うん。からいと一家については君よりも知っている。カライトって名乗ってるのは普通に自分の名前だから、君を煽るためとかじゃないからね。そんなことしたら話聞いてもらえなくなるでしょ」

 まあ、それもそうだな。

 カライトの目的は僕を死なせないことだ。

 悪意あって“からいとさん”達の名前を使ったと僕が判断したのならカライトの言葉を一切合切無視するだろう。

 カライトはその状態にはなりたくないはずだから、自分からするわけもない。

 本当に自分の名前なんだろうな。

「“からいとさん”達の事は誰から聞いたんだ?」

「いつだったか忘れたけど“カルタ”がポロっとこぼしてたんだよね。気になって聞いてみたら、ね?」

「そうか」

 いったいどんな経緯で“からいとさん”達の名前を出すことになったんだか……。

「まぁ、聞きたくなるのもわかるよ。生まれたときからの幼馴染みなんでしょ?娘さん」

「あぁ……」

 母親同士が幼馴染みで、近くに住んでて生まれた病院も一緒だったから、生まれたときからの幼馴染みになる。

「疑問は晴れた?」

「あぁ」

「じゃあ、この話は終ね。他に聞きたいことがあるんだったらどうぞ」

 戌井が僕を忘れてしまうこと、その辺りについて聞きたいんだけど、多分どんな風に聞いたって答えてくれないよな。

「……なんで戌井は僕を殺したんだ?」

「……そうするしか、道はなかったから、殺した」

「そうか」

 やっぱり、戌井は自分の意思で僕を殺したわけではなかったのか。

 なんか、妙に安心してしまったな。

「あとは……。なんで、また夢にできてた?」

「今日だよ」

 カライトか綺麗な笑顔を張り付けて言った。

「は?何が?」

 ……いや、待て。

 カライトがわざわざ出てきて今日だと伝えること……。

「戌井が記憶をなくすのは、今日?」

「はは」

 カライトは僕の言葉に笑みを深めたが、その目は笑っていなかった。

 背筋に悪寒が走る。

 どうにかして夢から覚めないと、でも同やったら夢から覚めれるんだ?

 前の時はカライトの言葉が合図になったかのように僕の目が覚めた。

 つまりこの夢の主導権はカライトにあるのか?

「っ……!カライト!とっとと僕の夢から出ていけ!」

「時刻は朝六時過ぎたとき、場所は魔法学校から街に行くまでの道」

「おい!」

 カライトに掴みかかろうと、近づこうとしたものの、僕とカライトの間は透明な壁で遮られていた。

 これじゃあ近づけない、この夢の主導権を奪い取ろうにも魔法を使えないように設定されているのか、一番手っ取り早い自己魔法を発動させれない。

「ベイノットを起こしてから行くと良い。花火が上がるからわかりやすいと思うだろうさ」

「邪魔するな!」

 透明な壁を殴り付けるが音が何もない空間に響くだけで罅すら入りはしない。

「結構出血してるから、急いで先生達かレーピオに見せるのが良いだろうね」

「カライト!」

「私としては、君の前に進んでもらうためにも、戌井永華に記憶をなくしてもらわないといけない」

「何を言って……!」

「じゃあ、怪我するだろうけど頑張って」

 視界が暗転した。

 次の瞬間、見慣れた光景が視界に広がって、夢の内容を理解した瞬間、飛び起きた。

「っ!」

 慌ててベッドから降りて時計を確認する。

 時計の針は午前、六時二分だった。

 スッと体から血の気が引いた。

「起きろ!」

 今まで出したことのないような、大きな声が部屋のなかに響いた。

「なんだ!?」

「ふぁ!?」

「……え、あに?」

 部屋の中にある杖と箒をひっつかみ、外に繋がる窓を開ける。

「先生と保険医を呼べ!」

「は?どういうことだよ!」

 いきなり、同室の大声に叩き起こされて何も説明されてないから状況が把握できていないんだろうが、こっちも説明する余裕はない。

「戌井が危ないかもしれない!」

 後ろから聞こえてくる声を無視して窓の外に飛び出して、箒で学外に向かっていく。

「クソッ!」

 カライトの話が本当なら、戌井は何故か学外に行った末に誰かに怪我をさせられている。

 なんで、なんで危ないと行ったのに一人で学外に出たんだ。

 頭の中がごちゃつきながらも、箒を飛ばしていくと真っ昼間だって言うのに花火が空にうち上がった。

 __花火が上がるからわかりやすいと思うよ__

 頭の中でカライトの言葉がリフレインする。

「どいつもこいつもふざけやがって!」

 さらにスピードを上げていく。

 カライトが言っていたのは魔法学校から街に行くまでの道、花火が上がった以上、嘘ではないはず。

 いつでも魔法を使えるように杖を握りしめていると、パーティー会場や戌井を遊撃していた黒服達が戌井を押さえつけているのが視界に入った。

 小さな血の水溜まりの上で戌井はぐったりとしており、戌井の斜め前に立つ黒服の手には戌井の物だろう血が滴っている杖が握られていた。

 さっきまで失せていたはずの体温が、さらに下がったような気がした。

「戌井!」

 戌井の反応は、ない。

 黒服達がこちらを向く。

 黒服質の中のに一人にピエロの仮面を被ったものがいた。

「ははは!早速きましたねえ!今でこれならば良い釣果が見込めます。今回は無理そうですが、できるところまでやりましょうか!」

 恐らくは、うるさいコイツが黒服達の指揮官。

 戌井を押さえつけている黒服達は、戌井に当たってしまうかもしれないから狙えない。
 
 ならば、離れたものから狙えば良い。

 ピエロの仮面を被った者に向かって自己魔法のレーザーを打ち込む。

「おっと!その少女を人質にしなさい。彼の自己魔法は厄介です」

 ピエロは余裕げにレーザーを避ける。

 こっちの自己魔法は割れてしまっているらしいが、速攻で戌井を奪還すれば良いだけの話!

 黒服達がこちらに向かって魔法を撃ってくるのを自己魔法で透明になってかわし、こちらも負けずと撹乱目的で空中から発射されるように設定して魔法を撃つ。

「くそっ、透明なのが厄介だ!」

 透明にしたままの箒を戌井を抱えている黒服達に向かって飛ばしす。

 戌井を抱えている三人のうちナイフを持っている一人に命中、間髪いれずにもう一人を回し蹴りを入れて、戌井が気絶しているのを良いことに、もう一人の目元で光を放つ。

「ぐあ!・?」

 最後の一人が戌井を離した。

 気を失い、支えを失っている戌井が崩れ落ちていくのを、今度は僕が抱え上げて自己魔法で戌井も隠す。

 だが自己魔法での透明化が有利に働くのも、ここまでだろう。

 他何人かが魔力探知の魔法を詠唱しだしたし、ピエロに至っては詠唱省略で使っている。

「さぁ、“あのお方”のために、私のために捕まりなさい」

 ピエロは魔力探知魔法を使ってこちらを正確に狙ってくる。

 多少怪我をさせてでも捕まえる気らしい、雷魔法や水魔法、土魔法、風魔法、遠慮無しにバカスカと黒服と共に魔法を撃ってくる。

 透明化でのアドバンテージをほとんど失い、気を失って動かない戌井を抱えている現状、さっきとは撃って違って不利でなのは僕だ。

 魔法をいくつか掠り、誰かの水魔法が右の太ももを貫いた。

「っ!」

 声にならない悲鳴が上がる。

 さっき黒服にぶつけた箒を魔力で手繰り寄せ、機動力を確保する。

 箒に乗って魔法学校に向かって飛ぶが、さっきよりも激しい魔法攻撃が僕たちを襲う。

 目を潰すつもりで光を放っても、魔力探知を目の代わりにして魔法は飛んでくる。

 風魔法が穂先切り裂き、追撃とばかりに僕の背に炎魔法があたった。

 あぁ、数の利で勝てる未来が見えないからと、魔法学校にまで行けば安全だと思って、背を向けるのは悪手だったか……。

 飛べなくなった僕たちは自由落下となった。

 戌井をしっかりと抱え込み、僕の背中から地面にぶつかるようにして地面に何度かバウンドして転がっ__

「あっぶない!」

「重いですう!」

「全知の神罰、降って災害、槍になって不敬者を貫け!ボルトスピア!」

「その者の時さえ止め、永劫の寒さを与えよ。アイススピア!」

 __ることはなかった。

 アスクスとレイが僕の服を掴み、落下を阻止し、レイスとララが牽制とばかりに黒服達に雷魔法と氷魔法を放った。

 ゆっくりとアスクスとレイが降下していき、何とか地に足つけることができたが右の太ももの怪我のせいですぐにしゃがみこんでしまった。

 すぐにレイが最高高度の防衛魔法を張り、僕の背に魔法で作られた水がかけられる。

 炎魔法で燃えてた服を鎮火したんだろう。

「すぐに手当てしますから気絶しないでくださいねえ」

「僕より戌井を先にしろ、頭を殴られている」

「っ!?わかりましたあ。ミューさん、篠野部くん太ももの止血お願いできますか?」

「わかったわ」

 揺らさないように、戌井を寝かせる。

 アスクスが戌井の怪我を見て、レイは僕の太ももの止血をしている。

 レイスとララはレイの張った防衛魔法の上からさらに防衛魔法を二枚張った。

 牽制程度の魔法を撃っているところを見るに、撃退ではなく時間稼ぎが目的のようだ。

 だが、黒服達の中心に凄まじい氷魔法が落ちた。

 発射元だろう上空にいるのには、恐ろしい気迫を放っているザベル先生だった。

 ついでマーマリア先生とジャーニー先生が現れ、ザベル先生の氷魔法から逃れた黒服達を無力化していく。

 ニーナ先生が現れて、僕の背中に魔法薬をかける。

「何か飲まされてる?」

「注射痕が首にい、種類はわかりません。血を吐いている理由も不明です」

「チッ。一先ず遅延薬入れましょう。効果が本格的に出るまでの時間稼ぎになるはず」

「はい」

「他は?」

「額の傷と揉めたときについただろうかすり傷が結構ありますう。頭蓋骨陥没などはありませんでしたしい、さっきの様子を見ると殺さない程度に痛め付けてつれていくつもりだったんでしょう……」

 ニーナ先生とアスクスの会話を聞きつつ、安心感からか眠気がやってきて、意識が遠退いていく。

 ストンと、意識は落ちてしまった。
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