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恐るべき執着心

101 異世界との差

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勝負は、すぐについた。

「ぐっ……!」

 空を舞い、地面に突き刺る木刀。

 私は首に木刀を突きつけられ、身動きがとれなくなっていた。

「リアンの勝ち、ね。終わりよ」

 終了の言葉に首に突きつけたらた木刀は下ろされた。

 圧倒的な実力者の前に自信というか……なにかがポッキリと折れたような気がして、その場に座り込んでしまう。

「……なにがあったんだ?」

「多分、リアンさんから仕掛けて、一撃は凌いだけど仕掛けたところで木刀を飛ばされて、逃げようとしたけど距離を詰められて……終わり?」

 ララの言う通りだ。

 それに、一撃目を凌げたのはまぐれと行っても言いかもしれない。

 ほぼ勘で動いて、ギリギリ反射神経で弾いた感じだからだ。

 あれ、人間のする動きではなかった気がする……。

 距離をとって木刀を回収しようともしたものの、それも未遂に終わってしまったし……。

 カリヤ先輩にもリアンにも勝てないのか……。

「私を睨み付けても勝敗は変わらないぞ」

「わかってる……」

 無意識に睨んでしまっていたらしい。

 ふてくされても意味がないのはわかっている。

 けど悔しいし、何よりもこの状態だと元の世界に戻ったとしても目的を果たせないかもしれないという不安が襲ってくる。

 上には上がいるのはわかっていた話だが、あっさりと首に剣を突き立てられたのがショックだった。

 あれが真剣だったら、私の首はあっさりと飛んでいただろう。

 ……異世界に呼び出されて、何とか生活しているものの命を狙われることが多くて、怖くて帰りたいのに帰れなくて、特技の一つで子供の頃からあっさり負けるなんてことなかった剣道でこんな結果になるなって……。

 剣道以外の特技だって手芸くらいなものだから、私の目的のために役立つものじゃ無い。

 ……なんか、嫌になってきた。

 目的のために使えそうなものがこれくらいだから必死に鍛えてきたのに、これだもん。

 私は強くなきゃいけないのに……。

 剣道じゃなくても最近はカリヤ先輩相手に負け続きなのに……。

 自分の常識が通じない世界で、その世界の人と自分を比べても仕方の無い気もするけど……。

 走ってもゴールが見えないレースを走っている感覚って言うか……。

「はぁ……」

 心折れそう、っていうか……。なんか折れたっていうか……。

 それで足を止める選択肢もないんだけどさ……。

「君、田舎の出か?」

「は?まぁ、そうだけど……」

 いきなり出身なんかを聞いてなんになるんだろうか?

 こういうの、私達の立場からしたら大っぴらに「異世界出身です」何て言えないから困る。

 とにかく、この世界に故郷なんて無いから、学校に来る前に生活していたバイスの町を故郷扱いにしている。

「なるほど……。ミュー」

「なあに?」

 その話は置いてといて、いったい何なんだろうか?

 ミューとリアンはなにかを話している。

「はぁ……」

 まあ、なんだって良いや。

 今日もう部屋に帰って、寝たい。

 それで忘れたい。気持ちを切り替えて、昨日までのように目的のために鍛えて……。

 ……できるかな、これ。

 まあ、いい。こういうときは甘いものを食べるに限る。

「ララ~、このあとスイート食べに行こうよ」

「貴方、この前、襲われたばかりでしょう?ダメよ」

「え~……篠野部~」

「却下」

「むう……」

 購買に生洋菓子売ってないから町に行きたかったのに……。

 仕方の無い話だ。確か、購買辺りにクッキーやらの消費期限の長いものが売ってたはずだから、それを買おう。

 チョコケーキの気分だったのに……。

「永華殿に一つ、提案がある」

「え?」

「私が君を鍛える」

 この犬獣人は一体何を行っているのだろうか?

「いきなりだな」

「武人なんてわりとこんなものじゃないかしら?」

 困惑する外野の声が聞こえてくる。

 だよね?ビックリするよね?

 え、なにこの人……。

「とりあえず、話を聞いてあげて」

「あ、うん。えっと、理由は?」

「まず一つ、永華殿は伸び代があるから」

 私をあっさりと倒した人に、そんなこと言われてもなぁ……。

「二つ、人に教えることで自分の糧になるという話を聞いたからだ」

 それは一学期の中間テストの時に篠野部が言ってたな。

「三つ、単純に興味」

 興味。

「四つ、このままだともったいないから」

「もったいない?」

「伸び代があっても伸びきらない可能性があるからだ。君一人だけで鍛練をしているのだろうが、君はそれだけで強くなれるタイプではないだろう?」

 なるほど。

 まあ、そんな気はしていた。

「でも、なんでいきなり……」

「師匠、父から“人に教え、学べ”との課題が出ている。誰を、と悩んでいたところに永華殿が現れた」

 タイミングいいな。

「と言うわけで、構えろ」

「え、今から?」

「何事も早い方がいいだろう?」

 ミューの方を見る。

 正直今日はもう寝たいんだけど……。

「言い出したら聞かないから受けといた方がいいわよ。そいつ頑固だから」

「そういうことだ」

「威張れることでもないと思うけど……」

 今、私の頭のなかには甘いものと睡眠のことしか頭に無い。

「それさあ、私が受けると思ってるの?」

「受けないのか?」

「今、この状態が見つかったら過激な人たちになにされるかわからないんだよ。ただでさえ最近は何か蠢いてるって感じがするのに、これ以上の火種はいらないよ」

 襲撃の件だって人身売買事件の関係者の報復だっていう話になってるけど、犯人は曖昧のまま。

 ローレスの様子もおかしいまま、解決してる様子はない。

 元の世界に買える方法もわからないし、黒いドラゴンを呼んだ犯人もわからない。

 その上、魔法学校と軍学校のトラブルも増える?

 そんなの勘弁だ。

「ふむ、そうか。私が怖いのだな?」

「……は?」

「ん?いや、私からの一撃は凌げたとはいえ、瞬殺だったものな」

 事実だけど羅列されると腹立つな。

「いや、わかる。勝てる気がしないんだろう?」

 は?なに?私、腰抜けだと思われてるの?

「……」

「逃げてもいいぞ。私は別のものを探すだけ、君は今のまま私に負けて逃げたという事実を背負うだけだ」

 ……勝てる気がしないのは、事実だ。認めよう。

「君、何か目的があるんだろう?いいのか?目的を達成しようとしてるのに、立ちはだかる壁一つ壊そうともしないなんて、その目的を達成すること、できるのか?」

 認めはするが、怖いわけでもないし、逃げてるわけでもない。

 リアンの言葉に、コケにされてると感じてしまって怒りが腹の底からせりあがってくる。

 煽られているのもわかっている。

 さっきまで頭の中にあった甘いもののことや、寝ることは頭の片隅にありはするものの、苛立ちが先行する。

 確かに目的を達成するのに壁はいくつだって出てくるだろう。

 いささか高すぎる気もする壁だが、これくらいぶち壊さないとな。

 そう考えた私の頭は、目の前にいるリアンを倒すこと一択になってしまっていた。

 地面に突き刺さったままの木刀を抜いて、リアンに向ける。

「……やってやる。かまえろよ」

「いいのか?また負けるぞ?」

「知らねえよ。なんど転がされようが、いつか絶対に勝ってやる」

 なくなっていたやる気はいつの間にか復活していて、目の前にいる強敵に切りかかっていった。







 リアンと永華の打ち合いが続き一時間ほど。

 ミューは審判をして、カルタは持っていた本を読んで、ララは観戦をしていた。

「セイ!」

「うおわっ!?」

 リアンが永華の持っている木刀を弾き、地面に転がされていた。

 すぐに起き上がって木刀を拾いリアンに向かっていく。

「煽られたからなんでしょうけど、よくやるわね」

「戌井のやつ、わかっててのっかってるぞ」

「え?」

「あれは基本的に温厚だ。僕が煽ってもイラッとはしても仕掛けてくることはなかったしな」

「煽るって、何やってんのよ……」

 当時は確か、戌井がフラットいなくなることに腹を立てて軽く言い合いをしていな。

「あれは戌井は悪い」

「永華なにしたの……」

 いってる先は猫集会だったんだがな。

 言い合いがあってから、自分が悪い自覚があったのか、あれからは一言告げてからいなくなることの方が多くなった。

「リアンもわかっててやってるわよ。アホだけど案外
、腹黒いところあるから」

「二人ともわかっててやってたの……?」

「永華、瞬殺されてふてくされてたからやる気にさせたんでしょ」

「それがわかってたし、強くなりたいから乗ったんだろうな」

 戌井は元の世界では新人エースだった。それに、大会では上位常連だったと記憶している。

 実践形式かどうかの違いもあるんだろうが、戌井が負けた原因はここが異世界だからだろう。

 リアンの動きは人間業ではなかった。

 相手が獣人あのもあるんだろうが異世界だと魔獣なんかの驚異が身近にある、そんな状態だと強くならなければならない。

 平和な世の中になっている僕たちの世界の住人と、危険が見える形で近くに存在する、この世界の住人。

 進化の過程で差ができるのも当然、平和な世界と危険なあ異世界との差だろう。

 それに、ミューいわくリアンの実家が道場であり、その道場でも上澄みの強さらしい。

 カルタは視線を本からあげて永華を見る。

 何が目的か知らないが、強くならないといけないらしい。

 ……あぁ、やって明確な手段があるの、うらやましい。
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