上 下
64 / 234
メルリス魔法学校

63 ギャップ

しおりを挟む
何人か持ってきたものがダブったりしてごたついたがなんとか必要なものはそろ__

「戌井、顆粒だしがない」

 __わなかった。

「まじか、めんつゆ探そ。流石にこの時間だとご飯間に合わないし、出汁とるのめんどくさい」

「後者が本音だろ」

「……」

「図星だな」

 流石に顆粒だしはなかったらしい。

 これは仕方がないとして、顆粒だしの代用品になるめんつゆを探して店内のあちこちを探して回る。。

「めんつゆってこれ?醤油と同じじゃないの?」

 あっちにないか、こっちにないか。そうやって探しているとミューが見つけてくれた。

「違うよ。全然、違う。あとで味見する?」

「そうするわ」

 人海戦術であっさりとめんつゆは見つかった。

 会計をすることになりレジ横にある呼び鈴を鳴らすと眠たげでくたびれた三十路いってそうな日本人っぽい男性が出てきた。

 服装はまさかの甚平たっだ。

「ふあ~、うちに客なんて珍しいと思ったら……もしかしてそこのお二人さん同郷かい?」

「あはは、そうですよ~」

 東の方の国だし売ってるものも、ほぼ同じだから広義的に同郷でいいだろう。それ以外に答えられないし。

「はは、こっちにきて久しぶりにあったわ。故郷の味が恋しくて、こうやって店を開いたものの全く人が来なくてなあ。俺は佐之助ってんだ。今後ともご贔屓に頼むぜ。同郷さん?」

「たぶんこれからも来ることになると思いますから、こちらこそよろしくお願いしますね」

 なんだろ。食えない人って感じがするな。

「せっかく久しぶりに同郷にあったんだ。少し値引きしてやるよ」

「え!?」

「いいんですか?」

「これからも来てくれるってんなら多少はサービスしとかねえとな」

 前言撤回、食えない人じゃなくて親切な人だ。

 嘘をついてることに罪悪感を感じるが、それを無視して会計を終えお店を出る。

 “日之出”、この街にいる限りずっとお世話になりそうだ。

「えっと、そうしたら必要なのがじゃがいも、ニンジン、玉ねぎ、牛もも、卵……。あとは何がいるかな」

 肉じゃが自体は、さっき言ったものを買えば作れるし、味噌汁の材料も卵を除いて揃ってる。白米だってさっきかったから大丈夫だし……。

 というか味噌汁と肉じゃがとご飯だけじゃ物足りないのではないだろうか。そう思って聞いてみれば案の定、頷かれた。

 ので、副菜を増やすことにした。何がいいか聞いてみれば色々と出てくる。

「サラダ?」

「ミニトマトとチーズのサラダとかどうかしら?」

「オニオンリング!」

「トマトが食べたいですわ」

「カボチャのマッシュサラダなんてどうでしょう?」 

「エリンギのソテー、ちょうどいいと思うわ」

 う~む、種類は違えどサラダの意見が多いね。

 あとオニオンリングは揚げ物なので今回は却下かな。今度機会があれば作ろう。

「なんでもいい」

「篠野部いい加減にしなさい。なんでもいいが一番困る。なんでもいいから言ってみ?」

「……」

 篠野部は右に、左にと視線を動かす。たぶん考えているんだろう。

 少しして、口を開いた。

「……金平ゴボウ?」

「じゃあ、さっきいってた野菜とチーズをいれたサラダと金平ゴボウにしようか。揚げ物は、また今度ね」

「はーい!」

 さっきまでとは違い、副菜はあっさりと決まった。

 必要な素材の大半が野菜なので一先ず八百屋に向かい、そこからチーズと牛ももを買って学校に戻ることになった。

 道中、暗くなったことで一応猫科であるミューの目が光って私たちが驚いたり、一応海洋生物の本能なのかメメがビビり散らしたりとあったがトラブルもなく帰れた。

 この時間になると学校の中には研究棟を除けば教師しかいない。

 普段は明るく賑やかな学校が、あまりにも暗く静かで不気味に思ってしまう。

 ササッと食堂に向かうとザベル先生が椅子に座って待っていた。

 先生は私たちを見つけると立ち上がる。

「む、おかえりなさい」

「ただいま、先生。そこ座って」

「え?」

「いいから座って、正座」

「あ、はい。……正座とは?」

「あ~……じゃもういいから、そこの椅子座って」

「は、はい」

 帰ってきて早々だが、あんな状態の財布を渡したことの不満と不用心さもろもろについてお話をしようと思う。

「圧こわ……」

「あ、あの、なんで私、座らせられてるんですか?」

「先生なんでって言ってますけど自業自得ですからね」

「私ちょっとザベル先生とお話しするから野菜切ってて、とりあえず一口大になってればいいから」

「はーい。さ、皆行くわよ」

「え……」

 悪気がないザベル先生は自業自得だと言われ困惑し、他の生徒達も“これは仕方がない”とでもいいたげな顔で厨房に去っていくものだからザベル先生は更に困惑していた。

「先生、あなたのお財布についてお話しがあります」

「え?財布ですか?足りませんでしたかね」

「いや、十分すぎたんですよ」

「十分すぎた?ならいいのでは?」

「多いすぎるって言ってんですよ」

「え……」

「“え”じゃない。多い、こんな財布持たせるな。怖いから、人から預かったお金があの金額とか怖いから」

「……え」

「ガチ困惑せんでください」

「す、すみません。普段自分で買い物とかしなくて……。だいたいどれくらいあれば足りるのかわからず足らないよりもいいだろうと……」

「だからって多すぎです!一人分の一ヶ月の食費で自炊すると大体、一万五千円とかなんですよ!」

「そうなんですか?」

 ザベル先生の純粋な目に私は頭を抱えたくなった。

「……先生、普段の食事はどうしてるんです?」

「学食か、外食ですませてます」

「独り暮らし?」

「はい」

 私は頭を抱えた。

「えっと、一応言い訳をしてもいいですか?」

「……どうぞ」

「私は普段は外食をしてると言ったでしょう?この人数ですし君らは成長期、特に男の子達なんかはたくさん食べるだろうと思って……。私の普段の食事をもとに考えてお金を入れたんです」

「どれくらいの計算ですか?」

「千円前後……」

「パスタ一品とかで?」

「はい……」

 パスタ一品、千円。無くはない金額設定か。

 ……ご飯と肉じゃが、味噌汁、サラダ、金平ゴボウで千円くらいとして、それを九人分で九千円。成長期の生徒達が更に食べるとして……。

「あ~、まあ……う~ん?白米、肉じゃが、味噌汁、サラダ、金平ゴボウ……ん~?」

 駄目だ。メニューがメニューなだけに定食として考えちゃう……。パスタ一品千円と今日の夕飯が結び付かない……。

「えっと……」

「いや!いや、それでも七万は多いですからね!高級焼き肉でも行く気ですか!?ていうか七万もポンと渡さないでください!」

 先生、たぶん結婚とかしたら一回は確実に怒られるだろうな……。高いもの買ってこないで、とか。

「すみません……」

「……はぁ」

 先生、しょぼんとしちゃった……。

 まあ、普段は外食らしいし、こうなるのも仕方がない……のかな……?

「一般的な学生からすれば七万なんて大金なんですから、気を付けてくださいね」

「えぇ」

 ザベル先生に財布を差し出す。

「中に買った物と金額を書いたメモをいれています。差額があれば言ってください」

「請求なんてしませんよ、おごると言ったのは私ですから」

「言ってくだいさいね」

「あ、はい」

 ザベル先生への説教はこれくらいにして、さっさと夕食の支度をしてしまおう。

「先生も手伝ってくださいね」

「……知り合いが料理を作るとき、手伝ったんですが私が手をつけたもの全て黒い塊になったことがあるんです。他にも色々あって、その友人には未来永劫キッチンに入るなと言われました」

「わかった、私が悪かったです。先生は机を拭いておいてください」

「そうします」

 まさか、ザベル先生がダークマター製造気だとは……。

 そりゃ外食ばかりになるし、自炊で料理をするときに使う金額もわかんないよね……。

 ダークマター製造なのはわかったけど、未来永劫キッチンに入るなって言われるほどの事ってなに?いやダークマターでも十分キッチン出禁なんだけどさ……。

「授業とか完璧にこなしてるし、試験のときの背中とか凄い頼もしかったのに料理関連はまじでダメとかギャップ凄いな」

 キッチンに続くドアを開け、中にはいる。

 入ってすぐに視界に入ったのは食器を出している、手が絆創膏だらけのレーピオとしょぼんと買ってきた野菜を運搬しているメメだった。

「おっとぉ……」

 料理下手が二人いたか。

 あ、そっか。二人とも貴族の出だわ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人間不信の異世界転移者

遊暮
ファンタジー
「俺には……友情も愛情も信じられないんだよ」  両親を殺害した少年は翌日、クラスメイト達と共に異世界へ召喚される。 一人抜け出した少年は、どこか壊れた少女達を仲間に加えながら世界を巡っていく。 異世界で一人の狂人は何を求め、何を成すのか。 それはたとえ、神であろうと分からない―― *感想、アドバイス等大歓迎! *12/26 プロローグを改稿しました 基本一人称 文字数一話あたり約2000~5000文字 ステータス、スキル制 現在は不定期更新です

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

騎士団長のお抱え薬師

衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。 聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。 後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。 なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。 そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。 場所は隣国。 しかもハノンの隣。 迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。 大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。 イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...