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続編その①〜初めての発情期編〜
37.可愛いは正義
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僕の腰が立たないという情報をどこからか聞きつけたのか、イザベラとパネースさんがニヤニヤしながら部屋に来た。
そしてなぜか爆弾作りを手伝わされている。
爆弾作りといっても、火薬が入っていると危ないので部品を組み立てるだけ。
——カチャ、カチャ
「ハルオミって可愛い顔して独占欲強いよなー」
——カチャ、カチャ
布団の上で爆弾作りながら話す話じゃないよなーと思いながらもイザベラの巧みな手つきに釘付けになりつつ答える。
「そうかな、二人だって自分の好きな人を取られちゃうの嫌でしょ?」
「そりゃそうだけどさ、ハルオミみたいなやつが町中でフレイヤさんに抱きついてたらみんなびっくりしただろうな」
「もう、掘り返さないでよ」
「でもあの写真のおかげで、"フレイヤ様の側仕えを諦めきれない衆" が一気に手を引いたそうですよ」
突然パネースさんの口から聞きなれない言葉が飛び出し、僕の爆弾を組み立てる手が止まった。
「パネースさん……なに? その衆……」
「おや、ハルオミ君ご存知無かったのですか? フレイヤ様の側仕えになりたいという方はたくさんいらっしゃって、ハルオミ君が側仕えになった後も諦めきれぬ者たちが屋敷の前に押しかけたこともあったそうですよ」
「う、うそ」
「ハルオミ君が側仕えになってからもフレイヤ様の呪いや番のことなどバタバタしていて中々人前に姿を現さなかったこともあって、『側仕えの姿をこの目で見るまでは諦めきれない』『本当に側仕えをお取りになった証拠を見せてください』などとおっしゃる方々も多くてですね……」
「知らなかった……」
「でも昨日の新聞で、その方たちも一気にハルオミ君のファンになったそうですけどね」
「なんで!?」
素敵な素敵なフレイヤさんの側を僕が取ってしまって妬まれるのならわかる。だってもし僕が"フレイヤ様の側仕えを諦めきれない衆"だったとしたら、きぃぃー、ってなると思う。
「どうしてかはご本人たちにしか分かりませんが……まぁ、分かる気はします」
「うん、分かる。誰もハルオミにゃ勝てねえもん」
「え、勝ち負けなの?」
ひとまず、フレイヤさんの側仕えになりたいという方が諦めてくれて良かったとは思う。僕は彼の隣を譲る気は1ミリもないし、きっとモテモテの様子見たら嫉妬しちゃうだろうから。
「でもそんなこと言ったらさ、ニエルド様もビェラ様もすっごく男前じゃん。色々言い寄ってくる人たち多そうだけど、二人はそういうの見ても平気なの? 僕は多分、いや絶対、やきもち妬いちゃうなあ」
正直に嫉妬心を曝け出せば、二人とも少し上を向いて想像を巡らした。
「そうですねえ。私はもう祝言を挙げてしまったというのもありますし、彼はそういう方たちを冷たくあしらってしまうので、むしろもうちょっと愛想良くできないものかとヒヤヒヤしてしまうというか……」
苦笑いするパネースさんの言葉に、イザベラが答えた。
「ああー、確かに。ニエルド様が無意味に愛想振りまく姿想像できねえな。ビェラさんは愛想は良いけど、別に俺は心配じゃねえな。俺に向ける顔と俺以外に向ける顔、違うの分かるし」
「顔の違い?」
「フレイヤ様だって違うぜ? ハルオミを見る時の顔と、ハルオミ以外の人間を見る時の顔」
「フレイヤさんの、顔……」
「確かに、フレイヤ様が一番分かりやすいかもしれませんね。ハルオミ君の前ではいつも朗らかだからハルオミ君は気付きにくいかもしれませんが、それ以外ではあんなにニッコリ笑うご様子見たことありません」
「そうなんだ……確かに、パネースさんの祝言で他の土地の魔祓い師さんとお話ししてる顔はキリッとしてたな。いつもはなんかもっと、フニャッとしてることが多い」
「はははっ、フニャってなんだよ」
「フニャはフニャだよ。なんていうかこう……そう、可愛いんだ!」
僕に見せる笑顔の素晴らしさを形容する言葉を絞り出してみると、二人は少し考えて、それから納得の声を上げてくれた。
「うん……分かるかも。ビェラさんも外っ面はかっこいいけどさ、なんか可愛いんだよな」
「言われてみればニエルド様も、あんなに雄々しくて逞しいですが、なんか可愛いんですよね」
「好きな人が可愛く見えたら、もう堪らないよね」
「憎たらしいこともあるけど、なんでも許せちゃうよな。浮気だけはぜってえ許さねえけど」
「ええ。万が一があればチョン切りますし」
「「……………」」
嫉妬しちゃうのって悪いことなのかなあとか、ほんとにフレイヤさんが他の人を好きになっちゃったらどうしようとか、こんなことばかり考えて僕って本当に余裕無いなあとか。そういう今まで悩んでたことがどうでも良くなるくらい、パネースさんの笑顔は怖かった。
◆◆◆
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