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王都〜第二章〜
紅く染まる君②
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—————————side JILL—————————
——ガチャ
「アキオ。おかえり。早かったな。ユリッタと話はできたか?」
アキオは扉の隙間から顔を覗かせながら控えめに言う。
「ユリが……今すぐ司令官のところに戻りなさいって。お話はまたゆっくりすることにしました」
「そうか。
さあ、そんなところに居ないで入ってきなさい。体が冷えてしまう」
「はい」
アキオと思いが通じたのは今でも夢のように思う。さらに今日は彼の生まれた日でもある。
どのようにして過ごそうか、何かしてやれることは無いかなどをゆっくり考えるつもりだったが、早々にアキオは戻ってきた。
おそらくユリッタも気を利かせてくれたのだろう。
杖を引っかけながら難しそうに扉を閉める彼を抱き上げる。
「わ…ジ、ジルさん……」
転げてしまう前に救出し、彼をソファに座らせてから隣に腰を下ろす。
「アキオ、1つ聞きたい。君の世界では歳祝いには何をする?」
「なに…って?」
「風習は無いのか?
何かを贈るとか、何かを食べるとか」
「贈り物は、これを貰ったから…」
服の上から大事そうに懐中時計を握りしめるアキオ。その柔らかい微笑みを見れただけで、私の全身に喜びが駆け巡る。
「それは私がしたくてしたことだ。他には無いのか?」
「んー、風習……ケーキを食べたり…とか?」
「けぇき?」
聞き慣れない言葉に舌がもつれそうになっていると、アキオがふっと吹き出した。
「ジルさんがカタコトなの、かわい」
可愛い……。
掛けられ慣れない言葉も、彼から言われたのなら体が宙に浮くようだ。
「ケーキっていうのは甘いお菓子で、ふわふわのパン?みたいなやつに白いクリームが塗ってあっていちごっていう果物が乗ってるやつとか、チョコレートっていうお菓子の味のやつとかタルト?っていう硬いやつ……ごめんなさい。ぼくもあまり食べたことないのでうまく説明できないです」
「そうか。アキオはそれが食べたいか?」
「僕は……僕は、ジルさんが作った料理が食べたいです。木の家で生活していた時に作ってくれたようなのがいいです」
「あれは特別な料理でも何でもない。せっかくの歳祝いだが…」
「それがいいんです。それに、ジルさんの料理なら僕にとって何でもご馳走です」
アキオが自ら何かを要求することはそう多くない。貴重な彼の要望を叶えない理由はどこにもなかった。
「では、夕飯は私が作ろう」
「いいのですか? やった、」
小さな手を一生懸命に握りしめ喜びを示すアキオは、ありがとうございます、と、こんな取るに足らないことにも礼を言う。
「他には? 何かしたいことは無いか?」
「うーん、と………ジルさんは、お休みの日は何をして過ごすことが多いのですか?」
「私か? そうだな、書類の整理をしたり…」
「それは、お休みとは言わないのでは」
「そうだろうか。あとは例えば、魔術書を読むこともある」
「じゃあ僕も読んでみたいです。魔法は使えないけど、ジルさんが普段読んでるものを読んでみたい」
「では用意しておこう」
「あと、お城の庭を散歩したい。たまに1人でするけど、ジルさんと一緒ならもっと楽しいと思うから」
「雨も上がり、今日は花が綺麗に咲いている。丁度散歩日和かもしれんな」
「はい。あと……」
「?」
アキオがもごもごと口ごもり始めた。
彼がこうするときは、おおよそ言わんとしている事柄に対して不安を感じている時だ。
何を伝えてもらっても問題無いと言えば、しばらく考えた後にこう話し始めた。
「ジルさんに………キスがしたいです」
「っ!」
「けど! 僕からはできないので、ジルさんにして欲しいです。でも! あ……どうしよう。緊張してジルさんの顔が見れなくなっちゃうのでやっぱりまた今度に……いや、その、ジルさんに触れたくないわけじゃなくて…えっと」
ああでもないこうでもないと百面相しているアキオは、最初の頃に比べれば本当に表情豊かになった。
アキオの手を取り、ゆっくりと引き寄せる。
いとも簡単に私の腕におさまってしまう華奢な彼は、静かな吐息も、まつ毛の震えも、全てが美しい。美しく、艶やかで、私は無意識に吸い寄せられていた。
「では、何度でもして慣れれば良い」
「……っ!」
小さな唇からも微かな震えが伝わる。
ぎゅっと目を瞑って恥じらいに耐えながら、それでも必死に顔を上げる彼のいじらしい姿に、私の理性は今にも崩れそうだった。
このまま組み敷いて腕の中に拘束してしまいたい。
そんな邪な私欲をなんとか頭の隅に追いやり、ゆっくり唇を離す。
彼は案の定、頭を下に向けて私から顔を逸らす。そのまま小さな頭を私の胸に軽く押し付けると、「やっぱり無理です。今ジルさんの顔見れません。きっとずっと慣れません」と小さく小さく呟く。
わずかな隙間から覗き見たアキオの顔は、真っ赤に火照り熟れた果実のようになっていた。
——ガチャ
「アキオ。おかえり。早かったな。ユリッタと話はできたか?」
アキオは扉の隙間から顔を覗かせながら控えめに言う。
「ユリが……今すぐ司令官のところに戻りなさいって。お話はまたゆっくりすることにしました」
「そうか。
さあ、そんなところに居ないで入ってきなさい。体が冷えてしまう」
「はい」
アキオと思いが通じたのは今でも夢のように思う。さらに今日は彼の生まれた日でもある。
どのようにして過ごそうか、何かしてやれることは無いかなどをゆっくり考えるつもりだったが、早々にアキオは戻ってきた。
おそらくユリッタも気を利かせてくれたのだろう。
杖を引っかけながら難しそうに扉を閉める彼を抱き上げる。
「わ…ジ、ジルさん……」
転げてしまう前に救出し、彼をソファに座らせてから隣に腰を下ろす。
「アキオ、1つ聞きたい。君の世界では歳祝いには何をする?」
「なに…って?」
「風習は無いのか?
何かを贈るとか、何かを食べるとか」
「贈り物は、これを貰ったから…」
服の上から大事そうに懐中時計を握りしめるアキオ。その柔らかい微笑みを見れただけで、私の全身に喜びが駆け巡る。
「それは私がしたくてしたことだ。他には無いのか?」
「んー、風習……ケーキを食べたり…とか?」
「けぇき?」
聞き慣れない言葉に舌がもつれそうになっていると、アキオがふっと吹き出した。
「ジルさんがカタコトなの、かわい」
可愛い……。
掛けられ慣れない言葉も、彼から言われたのなら体が宙に浮くようだ。
「ケーキっていうのは甘いお菓子で、ふわふわのパン?みたいなやつに白いクリームが塗ってあっていちごっていう果物が乗ってるやつとか、チョコレートっていうお菓子の味のやつとかタルト?っていう硬いやつ……ごめんなさい。ぼくもあまり食べたことないのでうまく説明できないです」
「そうか。アキオはそれが食べたいか?」
「僕は……僕は、ジルさんが作った料理が食べたいです。木の家で生活していた時に作ってくれたようなのがいいです」
「あれは特別な料理でも何でもない。せっかくの歳祝いだが…」
「それがいいんです。それに、ジルさんの料理なら僕にとって何でもご馳走です」
アキオが自ら何かを要求することはそう多くない。貴重な彼の要望を叶えない理由はどこにもなかった。
「では、夕飯は私が作ろう」
「いいのですか? やった、」
小さな手を一生懸命に握りしめ喜びを示すアキオは、ありがとうございます、と、こんな取るに足らないことにも礼を言う。
「他には? 何かしたいことは無いか?」
「うーん、と………ジルさんは、お休みの日は何をして過ごすことが多いのですか?」
「私か? そうだな、書類の整理をしたり…」
「それは、お休みとは言わないのでは」
「そうだろうか。あとは例えば、魔術書を読むこともある」
「じゃあ僕も読んでみたいです。魔法は使えないけど、ジルさんが普段読んでるものを読んでみたい」
「では用意しておこう」
「あと、お城の庭を散歩したい。たまに1人でするけど、ジルさんと一緒ならもっと楽しいと思うから」
「雨も上がり、今日は花が綺麗に咲いている。丁度散歩日和かもしれんな」
「はい。あと……」
「?」
アキオがもごもごと口ごもり始めた。
彼がこうするときは、おおよそ言わんとしている事柄に対して不安を感じている時だ。
何を伝えてもらっても問題無いと言えば、しばらく考えた後にこう話し始めた。
「ジルさんに………キスがしたいです」
「っ!」
「けど! 僕からはできないので、ジルさんにして欲しいです。でも! あ……どうしよう。緊張してジルさんの顔が見れなくなっちゃうのでやっぱりまた今度に……いや、その、ジルさんに触れたくないわけじゃなくて…えっと」
ああでもないこうでもないと百面相しているアキオは、最初の頃に比べれば本当に表情豊かになった。
アキオの手を取り、ゆっくりと引き寄せる。
いとも簡単に私の腕におさまってしまう華奢な彼は、静かな吐息も、まつ毛の震えも、全てが美しい。美しく、艶やかで、私は無意識に吸い寄せられていた。
「では、何度でもして慣れれば良い」
「……っ!」
小さな唇からも微かな震えが伝わる。
ぎゅっと目を瞑って恥じらいに耐えながら、それでも必死に顔を上げる彼のいじらしい姿に、私の理性は今にも崩れそうだった。
このまま組み敷いて腕の中に拘束してしまいたい。
そんな邪な私欲をなんとか頭の隅に追いやり、ゆっくり唇を離す。
彼は案の定、頭を下に向けて私から顔を逸らす。そのまま小さな頭を私の胸に軽く押し付けると、「やっぱり無理です。今ジルさんの顔見れません。きっとずっと慣れません」と小さく小さく呟く。
わずかな隙間から覗き見たアキオの顔は、真っ赤に火照り熟れた果実のようになっていた。
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